ウタ「…………………」
ゴードン「ウタ…ルシファー君は帰ってくる。夜の潮風は喉に悪い。そろそろ…」
ウタ「うん。だけど…ルシファーを出迎えなきゃ」
ゴードン「ウタ…」
ウタ「あいつ…帰ってくるから。絶対。放って帰ったり、しないから…」
ゴードン「…そうだね。ではせめて…」
ウタ「!」
ゴードン「…空の向こうが…光っている…?」
ウタ「帰ってきた!」
ゴードン「…あぁ…」
ウタ「お〜〜〜〜〜〜い!ルシファー〜〜〜〜〜〜!!ここだよ〜〜〜〜〜〜!」
ルシファー「?あれ…?ウタ?」
ゴードン「ルシファー君。戻ったか…良かった…」
ルシファー「ウタ?大分遅い時間だよ?ちゃんと寝なきゃ…」
ウタ「勝手にどっか行くなァ!!」
ルシファー「あたっ!?」
ウタ「カルデアの皆から教えてもらったよ!ルシファーはマネージャーでプロデューサーで、ボディーガードでファンでしょ!一言かけてどっかいきなってば!いなくなるな、バカ!」
ルシファー「…あぁ。ごめんよ、ウタ。君には…」
ウタ「うん!許す!」
ルシファー(トラウマだったね…置いていくのは…)
「で、どこに行ってたの?」
「マリージョア。ちょっと調べたい事があってね。お陰でこっちの方針も上手く取り付けたよ。僕がやるべきことが見えたんだ」
ルシファーは戻り、エレジアでウタを寝かしつけながら答える。自分がこの世界で、何を行い何をするべきかをウタに話す。寝付かせの物語を話すように。
「この十年で、君には歌姫の実力を完璧に習得してもらう。それと並行して、エレジアを『歌で皆を幸せにする街』にするよ」
「歌で皆を幸せにする街…?」
「勉強したから知ってるだろう?世界政府への加盟国と、そうでない国。非加盟国は常に支配と掠奪の恐怖に怯えながら、人権のない日々を生きていかなくちゃいけない。まぁ加入したからといって、国が餓死する天上金を納めなきゃいけないわけだけど…」
「控えめに言ってクソだよね、天竜人。流石世界の嫌われものっ」
「間違ってもそれ、外で言っちゃだめだよ。…僕はこの十年間を使って、非加盟国を縄張りにエレジアへの同盟を持ちかけに行こうと思う」
「どゆこと?」
「非加盟国といったって、国は国だ。そこにはその国にしか無い音楽や芸能、文化がある。それをエレジアに持ち帰る代わりに…僕が海賊や海軍、天竜人から護るのさ。エレジアの仲間としてね」
虐げる全てから、文化を生み出す人々を護る。金銀財宝、形のあるものしか興味のない海賊の大半は、人が生み出す宝物の価値に気付かない。故にこそ、懸命に護らなくてはならないのだ。
「それが全ての非加盟国に伝われば、エレジアは全ての世界の音楽を集めた偉大な音楽都市になる。君と、ゴードンさんが復興させるエレジアは、新時代の大音楽国家として生まれ変わるんだ」
「わぁ…!」
「どんな身分も、どんな種族も、どんな立場でも。自由に歌ったり踊ったりできる国。エレジアをそんな国にまた、復活させるんだ。この十年を使ってね。幸い、僕には時間が山程あるからね」
「海賊として…皆を護るの?」
「それじゃあ君も犯罪者扱いされちゃうだろ?そうだな…『エレジアの使者』辺りでも名乗るとしようかな」
ウタはその話のスケールがイマイチピンときていなかったが、少なくとも向こう十年はルシファーが共にいる事実に安堵し枕を高くした。
「じゃあ、あたしの歌が…天竜人や海賊に苦しめられてる皆を助けられるかもしれないんだ」
「あぁ。君がエレジアと一旗揚げれば、ルフィやシャンクスも必ず何か行動を起こすはずだ。三人で海に幅を利かせれば、海軍も安々と手は出せなくなるはずだよ」
「天竜人は、ルシファーがぶっ飛ばすんでしょ?ちゃーんと、あたしとゴードンさんを護ってね?」
「勿論さ。僕は神よりも偉い大魔王でもあるからね。神様気取りの愚昧なんかに下げる頭は持ってないよ」
「頼もしい!……この十年が、勝負だね」
ウタは天井を眺める。かつては呆然と、今は未来を見据えて。
「……ねぇ、ルシファー。約束、覚えてる?」
「ルフィとシャンクスに会わせるって話かい?」
「うん。ルフィとは会わせてくれたから…後は、シャンクス。いつくらいに会えるかな?」
「そうだね……十年後かな」
「そんなに時間、必要なんだ」
「君の精神的な問題だよ。会った瞬間ウタワールド、なんてされたら僕も困るし?」
「……それと…エレジアが滅んだことに関係があるから?」
「…………」
ルシファーは即座に答えなかった。教育を行い知性を手にすれば、遅かれ早かれ辿り着く結論。
「あたしと、エレジアに関係する何か。それを受け止める為に…時間がいるんだね」
「…そうだよ。シャンクスに会うにはそれが絶対に必要なんだ。歌の技術としても、身体の成長としても、何よりも心が」
「…………うん。解った。あたし、毎日を無駄にしないようにする。その日を信じて、一生懸命生きていく」
ウタはそれを問い詰めはしなかった。約束は必ず果たされる。だから…今は自分の出来ることを一生懸命やるしか無いのだと納得したのだ。
「…いい子だ、ウタ。その代わり約束は必ず…」
「もう一つ!」
「?」
「その時は…ちゃんと傍にいてよね。あたしのファンで、ボディーガードで、マネージャーで、プロデューサーなんだから!」
「…多くない?」
「しょうがないでしょ!そうなんだもん!とにかく絶対約束して!今日みたいにいなくなるのは……まぁ、自由人だから仕方なくても!絶対に帰ってくるって!エレジアに、あたしたちのところに!」
「…。帰ってきてもいいのかい?僕だよ?」
「今更何言ってるの!もう……家族じゃん!ゴードンさん先生!ルシファー、色々!」
「…!」
…どうやら、ウタの中では自分はずっと大きな存在になっていたらしい。ウタの大切なものに、自分がなろうと考えたことはなく、ただ彼女が歌の才能を開花すれば良かったが…
「……あぁ。約束するよ。君が立派になるまで、君の傍でやるべきことをやるって」
「ホントだよ?シャンクスみたいにいなくならないでよ?シャンクスみたいに!」
(愛憎だなぁ…)
解った、と二人は指切りをする。どちらにせよ、トットムジカはルシファーとカルデアの力を合わせて対処するつもりだったのだ。亡国を二回も味わわせるつもりはない。
「立派にエレジアを再興させたら、ルフィ君も呼ぼうじゃないか。海賊王と四皇がいれば安泰だね?エレジアもさ」
「ルフィ……あいつ、来れるかな。ちゃんと航海できるかな」
「大丈夫さ。素敵な仲間に助けてもらいながら、きっと君を迎えに来る。君はルフィの宝物、新時代の海賊王のお嫁さん…だろ?」
「お、お嫁さんかどうかは今はまだ決まってないでしょ!ルフィだって素敵な女の子、仲間にしたりする……かも……うぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「!?」
「ルフィに近付くな〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「あぁ、ダメだよウタ。喉だけで叫んだら喉を痛める。もっとお腹を使わなきゃ」
「心配するとこ違う〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
ジタバタしたウタを宥めると、ウタは眠気に負けうとうとし始め、そして夢の世界へと歩み始める。御眠の時間だ。
「うぅ……」
「次はこんな夜更かしをしないように。成長期なんだから、立派なレディになれないよ。いいね?」
「うん…お休み、ルシファー……」
「あぁ、お休み。…これからも頑張ろう、ウタ」
ルシファーに見守られ、ウタはすやすやと寝息を立てる。その様子を、枕元で静かに見守るルシファー。
(……トットムジカ。イムちゃんすら気にかけるこの世界を滅ぼす力。野放しにはきっとできない。エアへの誕生プレゼントとしてきっちり回収しないと)
「すぅ……」
(………何回も、国を滅ぼす想いなんてゴメンだろう?決着をつけるためにも、大きくなるんだよ。ウタ)
ルシファーの変化、それはウタ自身の事も案じ始めた事だ。歌は喉から出る声ではない。その人間の魂の声だ。
大切な宝物、美しいものとは…海のような、空のような心から生まれ出る。ならばそれを、雑に扱ってはいけない。
(地獄の連中も、今度労ってあげようかなぁ)
思えば、地獄の魔王たちも…自分だけの宝、とも言えるかもねと思っていた、その時。
「…ルシファー…」
「?もう、まだ寝れないのかい?トイレなら一緒に…」
「ルシファー…お兄さん…」
「……!」
…彼がウタを大切にする想いは、ちゃんと届いていたのだ。
「…いつもは、バカルシファー…なのにさ。参ったな、これは」
彼女の中で…ルシファーは大切な家族となっていたのだ。そしてそれは…
「…宝物が増えてしまったね。持ち帰れないのが残念だけどさ」
ルシファーがこれから先、果たす目的の報酬に相応しい…素敵な宝物となったのであった。
「…新時代、楽しみにしてるよ。ウタ」
「むにゃ………」
エールの意味で、ハープを鳴らす。
その音は…明けの明星のように、輝くような音だった。
To Be Continued……
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