人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ウタ「あれ?ルシファーは?」

ゴードン「実は、君の歌を見届けたらどこかに…」


ウタ「〜…も〜。私のファンが私を置いてどこに行ってるっていうのよ!」

ゴードン「大丈夫だよ。必ずルシファー君のは帰ってくる。信じるんだ」

ウタ「…うん。わかった。信じてるもん。ルシファーは私のファンだから」

ゴードン「そうだ。ファンを信じるのも…大切な事だよ」

ウタ(ルシファー…)


世界の禁忌と真実

「天竜人による絶対支配。海賊と海軍によるいたちごっこの治安と混沌のあれこれ。それらは一つの頂点に座すものとそれらの腹心達の匙加減で齎されている。言うならばこれは、この世界は丸々君や皆が仕組んだ暗愚の王政と言ってもいいだろう」

 

『…………………』

 

「どの様な理由や、どの様な思惑があってそんな治世を良しとし、天竜人を愚昧にして野に放ち、お粗末な貴族階級の世の中を作り上げているのかは知らないし、興味もない。ただ一つ言えるのは…」

 

子供ほどの身長しかないイムと呼ばれる存在に、ルシファーは階段を降りながら言葉を投げかける。この世界を見て、率直に思った所感を。

 

「強いものが弱いものを徹底的に害し、更に強いものを君や下にいる老人五人が飼い殺し頭の悪いものにしている。歌の一つ歌おうとするだけで、少女は一つの新時代を作る覚悟を決めなくちゃいけない。そんな世界、決していいものなんかじゃない」

 

『…………』

 

「君達の敷く、君達の維持する世界なんてものは跡形もなく死んで滅んだ方がいい。この世界に生きる虐げられた者達や君達が見下し害する全ての人々の想いを代表して、この虚ろな世界の頂点にいる君にお伝えさせてもらうよ」

 

イムの存在は徹底的に秘匿されており、五老星と呼ばれる世界政府の頂点以外は知る由もない。世界の禁忌にして最高機密である存在。いわばこの世界の根源にして討ち果たすべきものそのものだ。

 

『──何故、ムーを知覚できた?』

 

「まずは天竜人を皆殺しにしてやろうと思ったんだけど…自分なりに育てる度に違和感を感じたのさ。天竜人は身体能力も知性も、本来は極めて高水準の種族だって。神の騎士団や五老星だってそうだろうし、そもそも天竜人同士なら思いやりなどもできている。それを鑑みれば思い当たるさ。誰かが意図的に人格を歪めるような教育を施し飼い殺しにしているって」

 

神の騎士団フィガーランド聖や、世界政府の頂点五老星などといった天竜人が最高役職に就いている時点ではじめから愚昧である線はあり得ない。ならば外部的干渉にて暗愚にされているのだろうかと予測を立て、ならば天竜人には暗愚でいてほしい者は誰か。それはどこにいるのかを考えたがゆえの…聖地の来訪だとルシファーは思い至ったのだ。

 

『……………』

 

「僕からしてみればこの世界を支配しているものは醜いものばかりだ。弱者から虐げるくせに天竜人からは逃げ惑う大海賊時代で海にのさばるミーハー達。天竜人の走狗の癖に絶対正義を掲げる滑稽な海軍。そしてその世界を作った世界貴族に君。イムちゃん、君や五老星がやっている事は世界が一つしか無いと思っている矮小な視点が齎す砂場遊びさ」

 

ルシファーはイムの目線に合わせ告げる。

 

「君がやるべきはそんな世界の維持じゃない。世界は無数に在る。その世界の全てを手に入れようと…全ての世界を自らのものと信じきってる者こそが、君が王として討ち果たすべきものだよ」

 

『────それは?』

 

「神」

 

『…!』

 

彼が告げる、真に倒すべきもの。世界の内ではなく、遥かな天の向こうにいる、本当の意味で倒すべき存在。

 

「生憎その神は、たった一つの世界にしか自分に相応しいとしか思っていない。君達の今いる世界なんてゴミ以下としか思っていないだろう。神気取りの君達が市民達にしているように」

 

『……………』

 

「そいつがもし、全ての世界を手にしたとしたらどうなると思う?海賊も海軍も、世界貴族も関係なく無価値にされる。全ての尊厳を奪われ、奴隷以下の傀儡にされるんだ。どうだい?納得できるかい?」

 

『…………神は、真に存在していると?』

 

「勿論。見てきた僕が言うんだ、間違い無いね」

 

『ヌシアは、何者か』

 

「ルシファー。神が作った鏡の虚像。美しくあれとされた空しい明けの明星さ。この事実を知るのは…この世界において君だけだよ、虚の王様イムちゃん」

 

『…………………』

 

深い沈黙が漂った。ルシファーが齎した、平行世界の存在とその平行世界全てを手中に収めんとする者。そのものを一丸として討ち果たさねば、全ては終幕に向かってしまうと。

 

「そして更にダメ押しの予言を教えてあげるよ。──大海賊時代はこれから先十五年までの間に終幕を迎える」

 

『!』

 

「海賊王が現れ、『ひとつなぎの大秘宝』を手にする。そして『新時代』を望む意志によって…世界は必ずひっくり返る。狂気の時代は終わるんだ、イムちゃん。君が失脚するのはもうすぐなんだぜ?」

 

『…………』

 

「どうだい?世界の真実やお宝には僕は興味がない。ただ僕は君に知ってほしいんだ。『倒すべき敵』の存在を。君が王だと言うのならば、下らない弱い者いじめと特権階級から先に進まないか?」

 

『……持ってきた歌。それはお前が推し進める『新時代の意志』か?』

 

「そういう事。宝物には興味がないって言いはしたけど…見つけはしたよ。僕が見出した美しいものをね」

 

『…………』

 

イムは受け取った蓄音機代わりの貝に耳を澄ませ、ウタの作った新時代の歌を聞き及ぶ。彼女からしてみれば、長い間関わりのなかった世界の、下界の要素。世界の真実に辿り着いた者たるルシファーに敬意を払い、試しに聞き及び、問う。

 

『…ウタウタの実。魔王トットムジカの関わる者か』

 

「そうだよ。世界を転覆する力を持つ歌声…新時代に相応しいと思わない?」

 

『成る程な…何の目算もなく、ムーの前に来たわけではないようだ』

 

イムは納得したかのように聞き終わり、蓄音機代わりの貝を下ろす。その瞳は、人ならざる輝きを放っている。

 

『いいだろう。ヌシアの言葉を聞き届けよう。ムーには…倒すべき敵が出来た』

 

「〜」

 

『ならば、下の治世は五老星どもに任せる。ムーがこの世界に介入するは、『消すべき灯』を消すのみとしよう』

 

「消すべき灯…」

 

『ヌシアは…特段世界を滅ぼしに来た訳でも、ムーを討ち倒しに来たわけでもないのだな?』

 

「まぁね。単純に愚昧の天竜人がムカつくのと、彼等が翫ぶ奴隷達を手に入れたいだけで、世界の成り立ちを変えるのは僕じゃない。新時代をもたらすのは別の存在だからさ」

 

『ならば…好きにせよ。ゴミがムーと対等に話すなどあってはならぬ。ヌシアをゴミと呼ぶならば、五老星や海軍、世界政府…全てを消し去らなくてはならん。この世界において、ヌシアは好きに振る舞うがいい。ヌシアはムーに至った…ならば、ムーと並び立つものであるべきだ』

 

いくらでも害するがよい。ゴミと世界のすべてを。イムは絶対者であるが故の寛容をルシファーに課した。それは…カルデアにいる王とは似て非なる、傲岸なる寛容であった。

 

『ヌシアは、世に蔓延るゴミとは違うらしい。見ているがよい…この世界はどう在るべきか。どう在る事が良いのかを』

 

「……最終的には自分が勝つって?」

 

『無論だ。いずれヌシアの言う神も…神とやらが気にかける世界も…ムーが手にするとしよう…』

 

この世界と同じ様に。……それはまさしく、この世界に君臨する王としての宣誓。

 

『ムーこそが覇者である。揺らぎのない絶対的真理を…ムーの隣にもできるて目の当たりにするがよい、 ルシファー』

 

「……その自慢と自負、どこまで続くのかどうか。楽しみにしてるよ、イムちゃん」

 

二人は睨み合い、同盟を結んだ。神とやら、世界の在り方とやらをイムに告げること。同時にルシファーの『天竜人』への略奪や介入をイムは容認すること。

 

『大海賊時代…失われた世界の真実…新時代…どれが未来の灯となるのか…』

 

「〜。じゃあ僕は好きにやらせてもらうよ。君の敷いた世界…精々好きに楽しむとするさ」

 

…世界の真実に近付いたルシファーは、盟約を結んだ。

 

世界の行く末を見届ける事。そしてイムが勝った暁に真実を見せることを。

 

彼の変える『新時代のうねり』すら…イムは容認したのだった。




イム『それはそうと…この者の歌…』

ルシファー「お気に召した?」

『もっと曲を作れ。一つだけでは芸能界を生きていくなど出来ん』

ルシファー「あ、そういう?」

イム『もっと聞かせよ』

ウタの曲は割と好感触だった。

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