ルシファー「ゴードンのパンケーキは僕より美しい…(もぐもぐ)」
ゴードン「大袈裟だよ、ルシファー君…だが、嬉しいね」
ウタ「出来た〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
ゴードン「!?」
ルシファー「出来た?…もしかして!」
ウタ「二人共!出来た!作曲あたし!作詞あたし!名付けてファーストシングル『新時代』!!」
「「おぉ〜〜〜〜〜〜〜!!」」
ウタ「新時代へ向けた想いをありったけぶちこんだ曲になったよ!これを聞いた皆が、夢とか色々、忘れないで生きてほしいなって!」
ゴードン「齢約10で曲を作り上げてしまうだなんて…!」
ルシファー「天才じゃったか…」
ウタ「じゃあ早速聞いて!二人に特別に聞かせちゃう!」
ルシファー「〜。…!待った、ウタ。君は未来の歌姫だろ?」
ウタ「新時代の歌姫、ね!」
ルシファー「だったら今のうちに…とびきりのステージに慣れておこうよ!」
ウタ「とびきりの…」
ゴードン「ステージ…?」
「ええっ!?齢10歳にしてルシファー君プロデュースの新時代の歌姫デビューシングル『新時代』の初披露ライブをカルデアで今まさに発表だって!?これはマーリンのグッズを質に入れてでも見なきゃ!!」
「自重なさい既婚者。それはともかく説明ありがとうロマニ。…まさか、彼がプロデュースする側に映るだなんてね」
「むむむ、マシュ☆コンに強力なライバル出現ですねマシュさん!」
「そうですね、コンラさん!でも今はお手並み…色々拝見と参りましょう!」
「シャンクスの娘さんなんだってさ、リッカ」
「うそ!?(現在2017年時点の知識)」
ルシファーが『とびきりのステージで君のデビューを飾ろう!』として連れてきたところ。それはもしかしなくてもカルデアの遊楽エリア巨大ライブホール。英霊職員含め座席を埋め尽くす満員御礼の舞台が、ウタの為に整えられた。
「流石はカルデアの皆。こういう派手なイベントには最高のオーディエンスで応えてくれるね!さぁウタ、準備はいいかい!?」
「こひゅ〜〜〜〜〜〜……!こひゅ〜〜〜〜〜〜…………!!」
「あれ、顔色悪くない?」
「無茶だルシファー君!?いくらなんでもこれだけのステージを今の彼女の年齢や経験では…!」
ルシファーは二人を纏めて連れてきたのだが、当然ながらウタは猛烈に緊張。お遊戯会とはレベルの違う規模のライブステージに酸欠の金魚めいた口のパクパクを披露している。ゴードンの存在でどうにか繋ぎ止めているのだ。理性を。
「いいや、君はやらなくちゃいけない。新時代の歌姫になるんだろ?それなら、この規模でも最初の一歩には小さすぎるくらいだ」
ゴードンをそっと制し、ルシファーはウタの目線に合わせ問いかける。彼女の求める夢、彼女の夢見る世界は生半可なものでは決してない。そこに行くためには、一歩を躊躇う暇などどこにもない。
「君ならできる。赤髪海賊団の音楽家として、海賊王の未来のパートナーとしての実績と称号を持つ君ならば。君は四皇と、海賊王相手に歌声を紡いだ実績を持っているんだよ?」
「ルシファー………」
「大丈夫さ。君の歌声と心は、必ず僕が愛する彼等や彼女達に届く。後は君の勇気と、夢へ懸ける想いを歌に乗せるだけさ」
彼女の最初のファンであり、彼女の夢と歌声を愛するルシファーは彼女を励まし撫でる。彼は、自身よりも美しいものにはどこまでも誠実だ。
「聞かせてあげてほしいんだ。僕の推しの歌姫の歌声を。僕の推しの皆全てに。必ず──君の夢を後押ししてくれる筈だから」
「…………うん。ルシファーが…あたしのファンが、そう言ってくれるなら。ゴードンさんも」
「ウタ…」
「見てて。……あたし、歌うよ。新時代の歌姫として!」
そしていよいよ幕が上がる時間となる。ステージを見据える、カルデアに集いし人々達。
「─────」
熱量も、活気も、今までとは比べ物にならない。本当の意味で、歌唱力や表現力を…何より歌姫としての全てを問われる大舞台。
「…………」
初めは、どうやっても無理だと思っていた。緊張や、圧倒された萎縮ばかりがウタを支配していた。
だが、彼女には夢と理想がある。自分の世界、不自由と絶望に満ちた時代を終わらせ、ルフィと新時代を作るという夢と理想。その誓いの重さと決意の硬さを思い返せば……この程度の重圧など、跳ね返せなくては始まらない。
(ムカつく。スパルタのくせに、いっつもあたしがやらなきゃならないこと、やるべきことしか持ってこない)
逃げるわけにはいかない。未来で待ってるあいつがいる。あたしが知らなきゃならない未来がある。逃げている暇も、場所もない。
「小さいな…?10歳か?」
「神童ってやつか…ルシファー肝入の超新星ってとこか」
「──────すぅっ…」
あたしの進む未来には…あいつと皆が待っている。だから、新時代に恥じないあたしになるために。
そのために────
「──皆!!お待たせ!!はじめまして!!ウタだよーーっ!!!」
「「「「「!!」」」」」
「元、赤髪海賊団の音楽家!今は新時代の歌姫を目指して頑張ってます!えっと、新曲ができたので!皆様に聞いてもらいたくて、あっ、えっと聞いてもらいたくてというか連れてこられたんだけど!」
第一声。それだけで彼女はカルデアの皆の印象を鷲掴みとした。英霊も人間も、非人間すらも一様にその目線と耳を釘付けにする。
「あたしは、絶望の大海賊時代を終わらせるために歌います!いつか、新時代を作るために!この曲は…その為の誓いの歌の一つです!」
声を張り上げ、空間を支配する。海楼石のネックレスは彼女からウタウタの実の力を封じ、彼女自身の腕前と歌唱力を正しく引き出させる。
「どうか皆さんに、届かせるように歌います!聞いてください!───『新時代』!!」
大きく息を吸い込む。ルシファーが一人で全ての楽器、証明、音響を作動させ演奏と伴走を展開する。
「──すっげぇ………」
歌い始めたウタを見て、瞬く間に感嘆と嘆息が辺りより湧き立つ。当然ながら、それは失望や落胆などでない。
「天才子役かよ…10歳そこらの声の張りじゃないぞ…」
「パフォーマンスや振り付けもすげぇ…どれだけ練習したんだ…?」
子供ならではのお遊戯、などと侮るものはいなかった。だが、幼児と言って差し支えない年齢で見誤る部分の幾ばくかは無理もない。
だが、それを差し引いてあまりある…いや、予測を遥かに越えて彼女の歌声、ダンスやパフォーマンスのレベルはあまりにもハイセンスの領域にあった。歌声には淀みなく、体さばきに翳りはない。声量は遥か二階の最後尾にまで届き、伴走やステージの広さにも全く飲み込まれない。
「…凄いな、彼女」
「アマデウス?解るの?」
「ああ、マリー。とんでもない決意と決心を歌に込めてる。彼女は本気だ。本気で…自分の歌で世界を変えようって信じてる。子供ならではの向こう見ずさも勿論あるんだろうけど…」
恐ろしい事に、歌を進めれば進めるほど…パフォーマンスを繰り返せば繰り返す程ウタは洗練されていく。彼女にとっての決意と決心が研ぎ澄まされていく度に、彼女の歌声は絶世のものとなっていく。
「あれは──とんでもない逸材だ。ルシファーなんてビッグネームが推すだけの事はある。太鼓判ってやつさ。モーツァルトたる僕のね!後はもうちょっと大きくなれば」
(ウタ………今の君に、かつての空虚さや絶望はどこにも感じられない。今の君から誰もが見出すだろう姿は、活力と希望に満ちた歌姫の姿だ…)
ゴードンは活き活きと歌い、舞い踊るウタの姿を見て一人涙ぐむ。シャンクスとの別れ、エレジアの絶望。それらを受け止めるには幼すぎたウタ。
だが彼女は…ルシファーと出会い、彼の破天荒な献身を受け今や完全に元来の才覚と天性の技術を取り戻した。会場は湧き踊り、誰もがウタにエールを送る。
(君ならば、必ずなれる。絶対になれる筈だ…新時代の歌姫に。世界を変える存在に。あの絶望の世界を、必ず変えてくれる筈だ…)
盛り上がりが最高潮になる頃には、ウタは最早その場を支配していた。誰もが信じ、誰もが確信していた。
「────皆!ありがとう!!とっても気持ちよく歌えたよ!本当に…!!ありがと〜〜〜〜〜!!」
「「「「「ウータ!!ウータ!!ウータ!!ウータ!!」」」」」
歌い終え、大歓喜の拍手喝采に包まれながら、紅潮した満面の笑みでスタンディングオベーションを浴びるウタの姿に──新時代の歌姫の姿を見ていたのだから。
(ルシファー君…全ては君のお陰だ。本当に──あれ?)
ゴードンは顔を上げ、ウタ再起の立役者に礼を言わんとした。しかし──
(…ルシファー君?)
だが…そこに天使の羽を残すのみで、ルシファーは影も形もなく消え去っていた──
聖地マリージョア 虚の玉座
天竜人の住む聖地マリージョアに存在する世界の中心であるパンゲア城の玉座。
「偉大なる航路」に浮かぶ島々と四つの海を示す十字が描かれており、この玉座が世界そのものを表している。
またそれを守るように、周囲には19本の武器が地面に突き付けられている。
本来は、各国の平等を表した「象徴」であり、実際にはこの玉座に座ることが許された王は存在しないとされる。
だが……。
???『…………………………』
ルシファー『へぇ…。これが世界の中心の玉座かぁ。悪くない座り心地だね?』
???『!』
ルシファー『──こんにちは、【イム】ちゃん。お初にお目にかかりましてだね?』
──世界の理など、彼には関係ない。
『『新時代の歌姫』がデビューシングル出したんだけど…一緒に聞かない?』
イム『……………………………』
世界の中心にて…
ルシファーは、世界を支配する存在してはならない【王】へと邂逅する。
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