エレジア似て
ウタ「ルシファー!ハープ上手くなって良かったね!」
ルシファー「お陰様でね。いつでもあれを出来るようにすれば完璧だ!『六式』と並行して頑張らなくちゃ!」
ゴードン「不思議に思っていたんだよ。弾き方を知らないわけでもない、むしろ完璧に熟知している感覚を宿しているのに、まるで音色は応えてくれないような矛盾に…見つけたんだね。音色に込める色を」
ルシファー「音色に込める色…はい。僕より美しいものを、沢山見つけたんだ」
ウタ「あなたより美しい〜〜?そんなもの沢山…」
ルシファー「?」
ウタ「…………………ない………かも…………」
「これもウタや皆のお陰だ。…ダンテにも礼を言っておかなくちゃね」
ウタ「…ダンテ?」
ゴードン「ルシファー、その方が君の音楽の師かい?」
ルシファー「師匠…まぁそうなるのかな?僕の家にわざわざやってきた、とびきりもとびきりの変なやつでね──」
地獄。或いは魔界。門に『この門を潜るもの、一切の希望を捨てよ』と記される、全ての罪人が堕ちる場所。あらゆる責め苦、神の敵、或いは堕天者が堕ちるこの世の虚。そここそがルシファーの心象風景であり、最下層の絶対零度たる永久凍土…コキュートスこそが、彼のいる領域そのものだった。
ノリで堕天し、地上に堕ちたはいいものの、格好つけてヒーロー着地などしてみれば超巨大クレーターが出来、八階層程の広さの穴が穿たれる不始末。そこに打ち捨てられた悪魔や魔王達を取り纏めながら、人間の悪行や悪辣を眺めてただ愉しむ日々だった、とルシファーは語る。
『ほう、ほうほうほう!ここが地獄!あらゆるものの行き着く地!神すら手に負えぬ者達の仄暗い楽園!実に、実にしみったれた鮮烈な場所なのか!』
そんなあくる日。そこに掛地ないただの人間が足を踏み入れたのだとルシファーは語る。身なりはきっちりと整った、銀髪に赤いマフラー、灰色のコートを纏いし狂気の笑みと光を宿す…謎の男。
『あなたがルシファー?この地獄の総支配監督で間違いなく?まぁ一番下には一番偉いロクデナシがいるというが地獄の常。つまりあなたが大魔王!お目にかかりて大光栄!空から遥々地の底へようこそ曙の子!』
その時のルシファーは興味のあるものと、無いもの。等しく無価値のゴミだったと認識していたと語る。彼はまだ自意識、自身を定義する『自身よりも美しいもの』を見つけていなかったため、神の与えた美しさのままに振る舞う水晶のような心を有していたため、別段彼には何も感じなかった。虫の蠢きなど、目を見張らせるものなどいないように。
『おっと失礼。私戯曲家ダンテと申します。初恋拗らせお前なんて好きじゃね〜しアピールを繰り返した結果、無事大失恋し先立たれた、死に愛しのあの方を寝取られた無様な男にて次第』
【寝てから言えば?】
『んー!キビシー!まぁそんなお話は結構。お初にお目にかかりまして光栄でございます、ルシファー。そしてこれより末永くよろしくお願い致しますね我らが大魔王?』
【末永く…?】
『まぁ私、出会い頭のウェルギリウスを殺しましたので。恐らくベアトリーチェを失くしたショックでカッとなってやっちまってたのでしょう。状況証拠的に。まー地獄に堕ちるなら殺人の一つはやらなきゃだめかなーと思ってましたので都合がよろしかったのですが。お陰様で親しい彼を裏切りめでたく私は最下層。順々に地獄を眺めながら堕ちてきたわけです。本来なら煉獄行ったり天国行ったりする予定だったかもですが…まーやらかしましたねー』
軽いノリで裏切りかますじゃんコイツ…何よりも不気味だったのは、あまりにも殺人と罪過への認識が他人事と言うか俯瞰的だった事だ。自身の事を、まるで何かの舞台の登場人物かと見ているかのような視座にて彼は話していたのだ。
『裏切りは最も重い罪。私はこれから氷漬けとなり、ユダやブルータスよろしくあなたに噛み砕かれるという刑罰を聞き及んだのですが…ふむふむ、ふーむふむふむ』
彼はルシファーをまじまじと見つめ、品定めするようにみさだめ、そしてポン、と手を叩く。
『あなた、美しいと言われすぎて自分の美しさを当たり前と認識しているいけすかないイケメンタイプですね?天賦の才能を得た者にありがちな、自分以外全員人間や対等な生き物に見えないタイプの曇り切った世界観をお持ちの』
【出会い頭に僕を罵倒してくるやつなんて初めて見た…】
『失礼失礼、ついつい本音が口から出てしまうもので。成る程、神はあなたに自分と同じ美貌と力をもたらしたのですねぇ。鏡に映る自分が何よりも美しくあってほしいのは誰も彼も当然の事。シワやシミがいつまでも増えない自分には誰もがなりたいでしょう。フフ、神も案外みみっちいですねぇ?しかし、ふむ、となると…』
陽気なのか陰気なのか、無礼なのか礼儀を弁えていないのかよくわからない、全く掴み所のない狂気の戯曲家はルシファーを更に見定める。
『あなたもしや、あまり感動や興奮という体験に馴染みがないのでは?自分があまりにも美しいが故に、他に価値を見出せない。そういうカテゴリの生命体?』
【…まぁ、あってるけど】
『なんとまぁ嘆かわしい。美しいものを美しいままで手元に置きたい。知れば知るほど天上の神に幻滅していくこの私ダンテ。神よ、もっと超然とあれ…実に私は嘆かわしい…』
骨の髄までガッカリした。そう態度に示しダンテは告げる。
『よろしいですか大魔王ルシファー。美しいものは素晴らしいですが不変であってはいけません。罪が清められるように、命が成長するように、価値観は常に変動するべきです。あなたは神が如くに美しいとされた御方。ならばきっとあなたはなれるのです。神よりも美しい貴方に』
それは意外にも、ルシファーという生命体へのエール。美しいままで終わることなかれ。何事も、全てはより高くより先にあるべきだ、と。
『ベアトリーチェは死んでしまいました。これより美しくも醜くもならない。永遠にそのままなのです。劣化しないのはいいですが、これ以上何もない。よいですか、停滞は死なのです。停滞こそが永遠の地獄なのです。許されぬ罪がそうであるように、死なない命が、後の全ての時間をかけて死を求めるように。あなた、死んだように毎日を生きて満足ですか?』
【…………いいや】
『素晴らしい。命は生き様に宿るもの。頭や人格までは神は造れなかったと見えます。全知全能が聞いて呆れる。とあれば…これは提案なのですが』
ルシファーにダンテは、そっと耳打ちする。
『あなた、私を喰らうとよろしい。私の音楽や感性、それらを全てあなたのものとなさるのです。外に行く際は是非、ダンテ・アリギエーリと名乗りますように』
【!】
『何、そう驚く事ではありません。美しき戯曲、素晴らしき人生。それを得られるなら私は別段自分にこだわりはしないのです。あぁ、むしろ…大魔王ルシファーの新たなる人生の礎になるならば!しみったれた私にも大いに意味がありましょう!それがいい、それでいい!』
狂ってるのかな、彼…そう思わざるを得なかったとしか彼は語れなかった。何の呵責もなく人を殺し、何の呵責なく自分を捧げてみせる彼は、まるで理解できなかったと彼は語る。
『罪を犯した魂がどこに堕ち、どう清められ、どこに向かうのか…天国を見てみたくはありましたが、なんだか神が思ってたのと違うので。私は喜んで大魔王へと肩入れしましょう!』
【…ここで魂が砕ければ、二度と生まれ変われない。罪も許されず、僕として永遠に苦しみながら生きることになるよ?いいの?】
『──えぇ、本望。あなたが見出すであろう音楽は、きっと私なんぞより何億倍も魅力的で鮮烈でありましょう。光栄極まります、明けの明星』
ダンテはそのまま、コキュートスの氷に呑まれていく。ルシファーに噛み砕かれ、取り込まれるための事前準備だ。
『神にそうあれと願われた哀れな光輝よ!どうか我が身を喰らいたまえ!そしてこの身に蓄えた幾ばくかの技能が、あなたの美しき旅路を彩らんことを!』
【………改めて名前を聞いておくよ。君、名前は?】
『ダンテ!ダンテ・アリギエーリ!これよりこの名はあなた様のもの!どうぞお忘れになることなきように!あとよろしければハープもお使いください!貴方様の心に応える、善き楽器となることでしょう───!!』
ダンテはそのまま氷漬になり、ルシファーは望むまま彼を喰らい潰した。取り込まれた彼は、英霊としてのカタチをルシファーに与え、座に刻み込まれることとなる。
『…美しいもの、かぁ…見つかるといいね、ダンテ』
こうして、プリテンダーの資格を得たルシファー。彼はこのままカルデアに出会うまで、きままな吟遊詩人としての自分を謳歌することとなるのだ──。
ウタ「…ダンテって人、変人?」
ルシファー「かなりね。彼はきっと、最高の音楽や人生を求めていた。…好きな女の子が先立たれて、『最大の伴侶と過ごす一生』が絶たれたから狂ったのかもしれないね」
ウタ「………」
ルシファー「だから君も、ルフィを離さないようにね。多分…別れはつらいよ?」
ウタ「うん…って!なんでそこでルフィ!?」
ルシファー「あはは、またまたぁ〜!」
ウタ「ムカつく〜〜〜〜!!顔はめっっちゃいいくせに〜〜〜〜!!」
ゴードン「ふふ、まぁまぁ。仲直りのパンケーキを焼くから落ち着きなさい」
ルシファー「……あの時は理由がわからなかったけど…今は感謝しているよ、ダンテ」
大切なもの…見つけたんだ。
手にしたハープを鳴らし、ルシファーは月と星を見上げていた──。
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