ルフィ「……………………」
〜
シャンクス!シャンクス〜〜〜〜〜!!
…あれ?どうしたんだよシャンクス。
ウタ〜!ウ〜〜タ〜〜〜〜!
あれ…?ウタは?
………もしかして…
ウタに、なんかあったのか…?
〜
ルフィ「………………ウタ………」
?「───ルーフィ!何いつまでもうじうじしてんの?」
ルフィ「!!???」
「あんたのパンチ、ピストルより強いんでしょ?そんなんで海賊王になんてなれるわけ?」
ルフィ「ウタ─────!?」
ウタ「にしし…よっ!久しぶり!」
ルフィ「……ウタ…ウタ!!」
ウタ「あんたね〜。いつまでもこんなとこでうろうろしてるんじゃないわよ。山賊とかいるんだ」
ルフィ「ウタ〜〜〜〜〜〜!!!本物だァ゙〜〜〜〜〜!!!ウタが生きてたァ゙〜〜〜〜〜〜!!!!!」
ウタ「わっちょ、汚っ!鼻水つけるなひっつくなァ〜!!」
ルフィ「ウタ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
ウタ「分かったから落ち着け〜〜〜〜〜!!!」
物陰
ルシファー「ふふ…。良かったじゃないか。未来の旦那様は君を待ち望んでたみたいだね?」
「ほーら。男の子がいつまでもギャンギャン泣きわめくんじゃないの。落ち着いた?」
「ぐずっ、ひっぐ…泣いでねェッ!!」
「はぁ!?」
「これは潮風が目に染みたんだ!!おれは泣いてねェッ!!ウタに会えて嬉しかったからって、会えたぐらいでおれが泣くもんか!」
「……出た。負け惜しみぃ〜」
「なんだとぉ〜!!」
夕暮れの崖。ウタが少年…モンキー・D・ルフィとかつて遊んでいた場所。ウタがルシファーに望み連れてもらった場所に彼はいた。かつての思い出を思い返すように。不本意な今生の別れを悼むように。
「アンタは成長してないね〜。あたしはエレジアでバリバリ特訓してるんだよ?『新時代の歌姫』を目指して!あんたはどうなの?」
「おれだって特訓してらぁ!その内おれのパンチは、近海のヌシだって一発でやっつけられるくらい強くなるっ!」
「ふぅ〜〜〜〜ん?」
「なんだそのふぅ〜〜ん!は!ホントだぞ!絶対だ!!」
ルフィ少年は先は泣いていたが、ウタのペースに加速度的に調子を取り戻していく。彼は忘れなかったのだ。彼女との最愛の日々を。片時も。
「……ね、ルフィ。シャンクスがエレジアから帰ってきた時、どうだった?」
そんな中、ウタはシャンクスの事を尋ねる。シャンクスは果たして、自分をどの様な気持ちで置いていったのかを知りたかったのだ。
「え?シャンクス?エレジアから帰ってきた時…?」
「…うん」
「……皆、辛そうだった。いつもは賑やかに船から出てくるのに…皆誰も喋らなくて。ウタは?って聞いたら…エレジアで音楽家になるから、船を降りたって…」
(シャンクス…そっか。やっぱり、辛かったんだ。あたしを置いていったの。裏切ったんじゃなくて…何か、事情があって…
)
ウタはルフィから見たシャンクスを信じた。シャンクスは自分を進んで置いていったのではない。何か、とても大事な理由があって置いていったんだと。それを、今のウタはすんなりと受け入れる事ができた。
「〜〜〜〜ウタ!おまえ、恥ずかしくないのか!」
「はぁ!?なによ、いきなり!」
「おまえ、赤髪海賊団の音楽家になるって言ってたんだろ!それが船を降りるなんて…!わかった!やっぱり自分には無理だって船を降りたんだな!」
「なっ……そんな訳ないでしょ!あたしが音楽家を諦めるわけないっ!」
「じゃあなんで船を降りたんだ!シャンクスが悲しがってたぞ!ウタはおやふこーものだ!おやふこーもの!!」
「…あんたねぇ!!人の気も知らないで!!」
「なんだァ!やるのかァ!!」
「せっかく会いに来てあげたのに!ルフィってばいつまでたってもお馬鹿なんだからァ〜〜〜〜ッ!!」
売り言葉に買い言葉。自分の気持ちを伝えるはずがガチ目の殴り合いに発展していく二人であった…。
〜
「あっちゃ〜…アスモデウスが言ってた好きな子には意地悪したくなる現象そのものじゃないか…」
物陰から見ていたルシファーは顔を覆う。思えばまだ彼らは子供も子供。ルフィはウタの二つも下だ。情緒がめちゃくちゃになるのも無理はない。
「ここは一つ、僕のハープで落ち着かせてあげなきゃ」
ハープを取り出す。彼のハープは、今までは微妙な音色しか爪弾かなかったが…
(エアが言っていた事。まだ僕はダンテの霊基や技術で上手く奏でようと思っていた)
エアから貰ったアドバイス。それは、大切な人達を思い浮かべること。
(今の僕は、それができる。僕より美しいものがこの世にあると知った僕ならば)
エア、カルデアとそこに関わる全ての善き人々。彼女や彼らが懸命に生きる世界。自分を慕う、魔界の部下たち。バアル。ハトな父さん。
そして──この世界の、彼女とその歌声。
(なんだ…僕が思うよりずっとあるじゃないか。──僕よりも、大切なものが…)
そして奏でられたハープは、誰もが魅了されるような音色を発し──
〜
(!このハープ…!ルシファー!?うそ…!?)
絶世の音色にウタが顔を上げる。あらゆる感情を癒やすような音色は、ルシファーが出した無味乾燥なものとはまるで違う。その音色を聞くと、心が洗われるような感覚を二人は感じる。
「………ウタ……」
「!」
「……また会えて…良かった………!!」
ルフィの、照れや意地を取り払った本音がそうだったのだろう。この音色が、彼の心の本当を導いた。
「…あたしも。ルフィにずっと会いたかったよ」
手を差し出す。左手には、ルフィと共に考えた新時代のマーク。星が出始めた空を、二人で見上げる。
「…ねぇ、ルフィ。今の時代にはね。自由がないんだ。海賊や天竜人、世界貴族が好き勝手やって、誰もが苦しんでる。歌もまともに楽しめないくらいに、今の時代は酷いんだ」
「うん」
「だから…新時代を作らなきゃ。あたしとルフィで、誰もが皆で自由でいられるような。歌でみんなが幸せになれるような。そんな…素敵で自由な世界に」
「あぁ。だからおれは海賊王になるんだ。海賊王になって…おれは新時代を作る!!」
「あたしもおんなじ。新時代の歌姫になって…歌で皆を幸せにする!!」
ハープの音が波の音と重なり、二人の決意を海へと運んでいく。彼を知るものがこれを見れば驚天動地であろう。あの傲慢の大天使、ルシファーが…誰かのために何かをしているのだから。
「ルフィ…あんたなら、なれるよ。海賊王に。この海で一番自由なやつに。絶対」
「ウタ…」
「まだまだ弱っちくてチビだけどさ。あんたは未来で…誰よりも凄いヤツになる。あたしはそう思う。信じてるから」
ウタも、ルシファーの音色に乗せて静かに本心を伝える。彼女は彼を…ルフィを誰よりも、何よりも信じていた。二人なら、新時代を迎えられると。
「〜うん!任せとけ!おれ、絶対になってやるんだ!海賊王に!この世界で一番すっげぇ自由なヤツになるっ!!」
「うん。アンタなら…できるよ!」
「そうなったら!もし、おれが…海賊王になったら!」
「?」
「ウタ!お前をおれのものにするっ!!お前を海賊王の歌姫として、迎えにいくから!シャンクスにも渡さねぇッ!」
「はっ、ちょっ……──」
「ウタは!!おれのもんだァ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
「〜〜〜〜恥ずかしいこと叫ぶなバカぁ〜〜〜〜ッ!!」
まぁ、当然情緒が未熟な子供のタガを外せばこうなる訳で。ルフィの海賊王に相応しい相手としての本心に、ウタは耳まで紅くなりながらも…それを決して否定はしなかった。
「…こほん。……うん。解った。あたし…待ってるから。お互い、立派になって、また必ず会おうね」
「うん!…………あ……」
本音で話せた。これ以上いたら、離れたくなくなってしまうから。ウタはルシファーに頼み、自らを浮かび上がらせた。…お別れの時間がやってきたのだ。
「あたし…予約しておくからね。あんたの為のとびきりのチケット!絶対受け取りにきなさいよ!」
「〜〜〜〜〜〜ッ、あぁ!」
「あたし以外の女にデレデレしたりするんじゃないわよ!出来れば海賊の仲間は全員男で!」
「それは嫌だ!一人が二人は女がいなきゃむさ苦しい!」
「そ、それはそうか…でも!こういう時は嘘でもうんって言えェ!!」
「ウタ!おまえはエレジアにいるんだろ!?」
「う、うん!」
「絶対!絶対おれ、会いに行く!ウタのこと、ぜってェ忘れねェッ!!だから、だから………!」
「……わかってるよ。あたしだって忘れないから。あんたの事」
「〜〜〜ぐずっ、ひっく………!海賊王にっ!!」
「──新時代の歌姫に!」
「おれはなるっ!!!!!!」
「あたしは、なる!!」
それが、再会の最後の締めくくり。お互いの誓いを、再び立てて。
「───またな……ウタ……」
光となって飛び去ったウタを…ルフィは涙目で。
しかし──真っすぐ伸びた背筋と瞳で、見つめていた。
ルシファー「君の婿さんは随分と情熱的だね?素晴らしい!」
ウタ「やっぱり聞いてたのねバカルシファー!エッチ!バカ!スケベ!」
ルシファー「ふふふ、会えてよかったろ?」
ウタ「…うん。シャンクスもルフィも、あたしを忘れてなんてなかった。…良かった」
ルシファー「あぁ。…彼は海賊王になるよ」
ウタ「!」
ルシファー「今、この海に海賊王がいないのは…彼がまだいないからだ。とんでもない婿さんを見つけたね、ウタ」
ウタ「…………婿さんか、どうかは…まだ……ゴニョゴニョ…」
ルシファー(ニコニコ)
ウタ「ムカつく!!……ね、ルシファー。ハープ、上手くなれたね」
ルシファー「お陰様でね♪」
ウタ「…あたし、ルシファーに感謝してるよ。あたしのもやもや、全部ルシファーが晴らしてくれたから」
ルシファー「…!」
「あたしの最初のファンが、あなたで良かった。これからもずっと、あたしのファンとボディーガードでいてくれる?」
ルシファー「…君が、それを望むなら」
ウタ「ふふ…!約束!だからね!さぁ帰ろう!エレジアに!──私達の、夢の場所に!」
ルシファー「あぁ──!」
ルシファーは疾走する。夜闇を切り裂いて。
小脇に抱えるウタの、星のような笑顔を抱いて。
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