人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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(注 ヨルエカ君周りは若干時系列を変えています。ルシファー時空ではウタにとってとても大切なヨルエカ君の年齢はウタと同い年にしました)

ルシファー「というわけで…御機嫌王。貴方にこの海楼石をお納め致します。ご精査ください」

ギル「うむ。敵ながら敬意に満ちた対応、褒めてやろう。特産品は土産物として鉄板ゆえな」

──ルシファー、ハープが思うように上手く奏でられないと聞いたけれど…

ルシファー「あ、うん…実はね。ダンテの霊基がある以上、下手になるはずは無いんだけれど、おかしいなぁ…?」

──ワタシが思うのは、ルシファー自身の想いを込めるのが大事なんだと思うよ!

「僕自身…」

──弾いてみるとき、思い浮かべてみたらどうかな?仲間の皆や、あなた自身が美しいと思えるものを!

「美しいと…思えるもの…」


当たり前の楽しさと失くせない苦しさ

「はい、というわけで。今日はウタにエレジアを出て日々を頑張る羊飼いの皆さんに応援コンサートをしてもらいます。地道な地方巡業もアイドルの務め!頑張っていこう!」

「ヘェッ!!ウェッ、ヘェッ!!」

 

ルシファーとウタは今、最も平和な海イーストブルーの片田舎にやってきていた。ここは海軍の伝説とされる『モンキー・D・ガープ』の故郷であり、滅多な事では凶悪な海賊など現れない。うってつけということでやってきたのだが……

 

「あ、あの。そっちの女の子…大丈夫ですか?」

 

「えっ?あぁうん、大丈夫!駆け出しだから緊張してるんだよ多分!」

(違うわ!!空はをいきなりカッ飛んだもんだから色々偉いことになっただけだから!もっと私のファンとしてもボディーガードとしても自覚持っ、ウエッ!!)

 

女の子として大分アウトなえずきをしながら非難するウタ。そう、大海賊時代の昨今にてルシファーはなんと雲の上、空の上をジェットもかくやの速さで飛翔し移動してきたのである。当然抱えられたウタがこうなるのは想像に難くない。というかなってる。

 

「まぁ御心配なく。彼女は存分に皆様を癒やしてくれるでしょう。さぁウタ!準備準備!」

「バカルシファー…!あんたほんっと自由すぎていや!」

 

体調が治ったら蹴りの一つでも入れてやる。そんな恨みがましい目を涼しい顔で交わし、出張地方巡業は幕を開けるのだった。

 

 

「レヴィアタン。エレジア周辺海域をお前に任せたい。出てこれるか」

 

【私、私ですかルシファー様。バアルやアスモデウスじゃなく私、私なんですね?】

 

「あぁ、君だ。レヴィアタン…【リヴァイアサン】の君なら、海の警護に相応しいだろう」

 

【……ふ、ふふっ】

 

「?」

 

【ふふ、ふふふふ……頼られたのは私、ルシファー様に頼られたのはこの私…ありがとうございますありがとうございますルシファー様。皆が羨む栄光と栄誉を賜りくださり感謝感激でございます。自慢しよう誇っちゃおうあなたの為に全てを捧げて使命を果たしましょうふふふふふふふふ】

 

「…準備はしておく。任せたよ、レヴィアタン」

 

【はい。あ、その…海底までの距離を計算する時間をください。『もしかしたら、尻尾がこするかもしれないので』】

 

「…任せよう」

 

【海…ゲッター3とは違うことをお見せしましょう。ふふふふ、やられ千葉……ふふふふふふふふふふふふ…】

 

 

「──はい!ありがとうございました!」

 

ルシファーが羊飼いの作業に勤しむ中、ウタは羊飼いの少年、ヨルエカに向けて慰安の歌を歌い終えていた。ぺこり、と頭を下げ、木の株のステージから降りる。

 

「どうだった?少しは聞ける歌だったでしょ?」

 

「…とんでもない…!まさに天使だよ!最高の歌だったよ!こんな素晴らしい歌がこの世にあるだなんて!僕、感動だよ!ウタさん!」

 

ヨルエカ…みすぼらしい服装の貧しい羊飼いは感動のままにウタの手を掴みブンブンと手を振る。あまりの感激に、興奮冷めやらぬといった様子だ。

 

「ありがとう!いつかコンサート開いたら、聞きに来てね!」

 

「うん!推すよ僕!君のこと、ずっとずっと応援する!」

 

ヨルエカはまさに涙を流さんばかりの感動を吐露する。それはウタの歌唱に心を動かされた証であり、ウタにとっても喜ばしい反応だった。

 

(……天竜人や世界貴族は、富や奴隷を余るくらいに持ってるのに、ヨルエカは羊飼いの仕事を一生懸命やってるのに毎日がちっとも良くならないなんて)

 

ウタは英才教育にて、情緒が相応に発達し知性を獲得していた。それにより、貧富の差に目が行くようになった彼女は告げる。

 

「ねぇ、毎日が…もし毎日が楽しいことばっかりになったら、ヨルエカは嬉しい?」

 

「え?」

 

「毎日美味しいものを食べて、好きなだけ遊んで、海賊もてんりゅ…おっと。こわいやつが誰もいない世界が来たら、ヨルエカは嬉しい?」

 

それは彼女が与えられた命題、『誰もを幸せにする歌』のテーマの形の雛形でもあった。辛いことがない、悲しいことがない世界が作れたなら、ヨルエカは嬉しいのかと。

 

「うーん…楽しい事が沢山あるのは素敵なことだよ。海賊なんていない方がいい…っていうのも、ちょっとは考えたことあるしね」

 

「だよね?皆がずっと幸せなら、それは素敵なことだよね?」

 

「でも…ずっと幸せなのは、良くないと思うんだ、僕」

 

「…えっ?」

 

帰ってきた答えは意外なもの。ヨルエカは意外にも、ウタの考える理想の世界をやんわりと否定してみせる。

 

「今、ウタさんの歌が素晴らしいって思えたのは、羊飼いの仕事を終えて疲れた時に聞けたのもあるんだ。羊飼いの仕事は大変だけど、でも、だからウタさんの歌が染み渡ったんだ」

 

「だから、ずっと私の歌を聞いている世界になれば…」

 

「そうなったら、ウタさんの歌が当たり前になっちゃう。いつもそこにあるものって、有り難くなくなってしまうと思うんだ。ほら…お金持ちとかって、お金持ちなのが当たり前だから、使うのに躊躇いなんてないでしょ?」

 

ウタからしてみればソレは新しきに過ぎる価値観だった。ただ幸せなだけ、ただずっと幸せなだけでもダメなのだと。

 

「これは、あくまで僕のお願いでしかないんだけど…ウタさんの歌は『ずっとそこにある』んじゃなくて、『辛い時にそばにいる』歌であってほしいんだ。辛いときや哀しいときにウタさんの歌を聞ける。そうすれば、また辛い事を乗り越えられると思うから!」

 

「…辛い事を消しちゃうんじゃなくて、辛い事を乗り越えるための歌を…」

 

「あ、あぁごめんよ!羊飼いの僕なんかが偉そうな事言って!今日は本当にありがとう、ウタさん!今日の事、ウタさんの歌…絶対忘れないから!」

 

夕暮れの中、ヨルエカは礼をし羊を導き戻っていく。その後ろ姿を、ウタはぼんやりと眺め続ける。すぐには、動けなかったのだ。

 

「この辛い世界の中で、彼は懸命に自分と羊を生かすために生きている。世界貴族や海賊なんかよりずっと立派な少年だよ」

 

ルシファーも羊の毛まみれになりながらウタに声をかける。ハープの練習を羊相手に試みていたのだ。成果は、先よりはずっとマシになったといったところか。

 

「その様子じゃあ、ファン交流会は上手くいったみたいだね。何か掴めたかな?」

 

「…辛い事を失くしちゃいけない。あたしの歌は、辛いときにそばにあってほしいんだって…言われた」

 

「…流石は羊飼いの少年。羊飼いはいつだって真理を説くものだ。…ごらん、ウタ」

 

ルシファーが指さしたのは、水平線に沈んでいく太陽。それにて、太陽はゆっくりと沈んでいく。

 

「君の歌は人を幸せにできる。だが世界貴族が幅を利かせる今、君が本当に助けたい人間にはきっと君の歌を聞かせられない。奴隷や玩具には歌を楽しめないからだ」

 

「…じゃあ、歌を聞いて貰える人だけを幸せにするのはだめなの?」

 

「少なくとも、ウタウタの実に任せた新時代到来…という手段は良くないね。それは辛い事からの逃げだ。この世界から逃げたいと思うのは無理もない。だが君がそれを用意しちゃいけないんだよ」

 

「…辛い事がないと、楽しい事もないから…歌やパンケーキも、当たり前になったら嬉しくない…」

 

「そういう事さ。世界を変える、新時代を迎えることは難しいんだ。今日は…ファンにその事を教えてもらうための、巡業だったんだよ」

 

「……生意気。へたくそハープのボディーガードのくせに」

 

「それを言われると弱いなぁ…さぁ、帰ろう。ヨルエカ君にいつか、立派な舞台で歌を聞かせてあげようぜ」

 

ウタは頷き、そしてふと海を見やる。

 

「…難しいんだ。新時代って」

 

また一つ…知性を手にした未来の歌姫。輝き出した星を、静かに見上げる。

 

遠く輝く、未来の光を。




ルシファー「そういえば…東の海にはフーシャ村があったね?」

ウタ「!ルフィ…」

ルシファー「どうする?寄っていこうか?」

ウタ「……………あたし…」

ルシファー「シャンクスにはまだ会わせられないけど、ルフィ君にならいいんじゃない?」

ウタ「あたしは……」

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