人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アカネ「もーっ!知ってる知識があるなら皆で共有した方がいいでしょ!エル君が知ってること、判ったことを皆にも伝えて!」



エル「と、アカネさんに言われたので!スターゲイザーに記録されていた情報をみなさんと共有しようと思います!」

ルル(根っこは協調性と善性だから、アカネの言うことは聞くんだな…)

エル「まず、レイヴンさんとエアさんの活躍した舞台の名前は『ルビコン3』。この星限定のエネルギー『コーラル』を巡って色々争いがあった後に僕らと出会ったという事ですね」

オルガマリー「コーラル?それを奪い合ったの?」

エル「はい。動力に使えばロボット半世紀は稼働し、向精神薬にも使える、無尽蔵の夢のエネルギー!これを巡って、いくつかの企業が密航したようです。レイヴンさんはハンドラーという方に連れられ密航した独立傭兵といった立ち位置ですね」

オルガマリー「成る程…未採掘の未知のエネルギーなら、企業側としては是非採掘したい、か」

エル「しかしこのコーラルというエネルギー、一定環境下だと指数関数的に増えていき、それに可燃性が非常に高いエネルギーだったのです。これを宇宙に持ち出したら、宇宙中に可燃性のガソリンがばら撒かれてしまう!そういった危険性を危惧し破綻する前に焼き払うコーラル観測組織、星ごとコーラルを封鎖した惑星封鎖機構、そして企業達の激しい戦いが起きたようですね!」

エア『…レイヴンは任務中、致死量のコーラルの奔流を受け、コーラルの波長が生み出した人格たる私と交信を果たしました。私はコーラルそのものであり、コーラルを星ごと焼き尽くす観測組織と、コーラルを我が物とせんとした企業から、人とコーラルの可能性を護ってほしいと願いました。…私の、未来の見通しのない我儘に過ぎなかった思いを受け、彼は私を選んでくれた』

ロマニ「星で会えた友達の為に、全てを敵に回して君を守り抜いたのか!うわぁ…カッコいいなぁ!彼!伝説の傭兵っていうのは愛の戦士なんだね!」

オルガマリー「ロマニ。茶化さない」

エア『……本当に嬉しかった。いまでもレイヴンの事を、心から慕っています。…ですがそれにより、レイヴンは…』

アスクレピオス『こちら医療班。患者のレイヴンとやらが脳の焼きつきの手術に難色を示しているぞ。どういう事だ?』

ロマニ「えぇ!?」

エア『レイヴン…!?』

レイヴン『脳は…勘弁してくれ。交信が途絶えてしまう』
アスクレピオス『何を言っている?新世代の手術には脳の焼きつきを除去する目的もあるんだぞ?』

エア『…すみません、皆さん。レイヴンの説得に協力してください!』

オルガマリー「リッカを呼ぶわ。コミュニケーションを担当させるわよ」

エル「もしや、交信に関わりある事なのでしょうか!?」

アカネ「い、行ってみよう!」


幕間・一〜人間性の獲得〜

「…すまない。ここに来て、我儘に等しい要求をしてしまった。だが、これはどうしても…譲れないんだ…」

 

「来たかマスター。…患者の要望を纏めて説得しろ。長くは待たんぞ」

 

リッカ達が駆けつけたのと同時に、入れ替わりでアスクレピオスが堆積する。手術組は既にノウハウを把握しており、いつでも可能といった様子だ。レイヴンだけが、物憂げに腰を落としている。

 

『レイヴン、何故ですか?あなたが普通の人生を送るのは、ウォルターの望んだことでもある筈…』

 

「……エアちゃん、それはきっとね…エアちゃんとの『交信』が関係してるんじゃないかな?」

 

リッカは二人の関係性を見ただけで、レイヴンの迷いを看破した。そしてレイヴンからのエアへの想いもだ。

 

「話を聞くと、旧世代の強化手術は脳を直接コーラルに漬けて感覚を拡張するもの。レイヴンさんは旧世代だからこそエアちゃんと交信できた」

 

『!…再手術は、脳の焼付きを除去するもの…』

 

「うん。レイヴンさんは…エアちゃんの声が聞こえなくなるのが嫌なんだよ」

 

「…その通りだ。過不足なく伝えてくれて、ありがとう」

 

レイヴンは、ディーヴァの端末に映るエアと向き合う。情緒が乏しいながらも、その目には強い意志があった。

 

「もう、俺には…君しかいない。選んだ果てに、君だけは傍に残ってくれた」

『レイヴン……』

「君を置いて…普通の人生は、送れない…」

 

エアはレイヴンが普通の人生を送ってくれるのならばそれで良かったが、レイヴンはエアを失う事を何よりも忌避していた。お互いが納得するには、お互いが自分よりも大事になりすぎていたのだ。

 

『…それでも、レイヴン…私は、あなたに幸せになってほしい。私の我儘に応え、ウォルター、カーラやチャティと敵対してでも私を選んでくれたあなたには…』

「…君の願いでも…君を失う事だけは…」

 

(じーーーん………!!)

 

「え、エル君?」

 

その様子を痛ましげに見ていたリッカ達だが、端っこのほうでエルが顔をしわくちゃにしながら涙を流す様子におずおずと声をかける。彼は感動していたのだ。

 

「星の果てで出会った一人の強化人間と長い間感知されなかった波形美少女声帯!戦いを乗り越え、互いが互いよりも大事なまでに進展した関係!愛です、ここに愛があります!鋼の魂に愛はあるんです!!」

「またエル君がトリップ決めてます、リッカ先輩」

 

「お任せくださいレイヴンさんっ!!その悩み、このカルデアと高橋エルが解決してみせましょうっ!!」

 

彼はロボキチガイではあるものの、根にあるのは善性だ。ここにきて彼が張り切るのは、二人の悩みについてである。

 

「まずレイヴンさん!エアさんと交信できなくなる不安は杞憂です!確認してみたところ、第十世代にまで行けば情緒は完全に回復します!カルデアの技術力ならば、脳の焼付きを残しながら手術は成功させられるでしょう!望むのならば!」

 

「本当か…!」

 

「そしてエアさん!こちらの解決は更にシンプルです!コーラル波形たるあなたには、交信以外にレイヴンさんとコミュニケーションできる手段を手に入れればいいんです!具体的にはそう!義体です!!」

 

『義体…。…まさか…!』

 

「そうっ!エアさんだけのマテリアルボディを制作し!文字通り一つの存在としてレイヴンさんに寄り添うんです!あなたはコーラル波形、コーラルを動力源としているならば、マテリアルボディを動かせるのではないでしょうか!」

 

『それは…ACよりも小さい人間大の身体ならば、コーラルジェネレーターを心臓とすれば…きっと…!』

 

エルのロボ知識はフル回転し、二人の問題の解決策を導き出す。そこには『二人に幸せになってほしい』という極めて人間らしい感情故だ。

 

「レイヴンさん!ではまずカルデア技術開発部総出でエアさんのマテリアルボディを制作します!無事に完成したら約束してください!再手術を受けると!」

 

「……。解った。約束する。必ず…普通の人生を掴もう」

 

「エアさん!あなたが稼働に必要な条件とデータをカルデアに全て提供してください!どんな危険かつ機密な情報も!必ずやカルデアが形にします!」

 

『は、はい…!技研都市の遺産、コーラルジェネレーターの設計図をお渡しします!』

 

「さぁここからが腕の見せどころですよ…!ダ・ヴィンチちゃん!にとりさん!ロリンチちゃんにムネーモシュネーさんにシオンさん!ここからは総力戦となります!具体的にはオール徹夜ですね!!」

 

やるぞー!!とダッシュで走り去るエル。呆然とするレイヴン、エア、リッカ。

 

「あ、あはは…テンションはあんなんだけど、信じても全然大丈夫ですよ」

 

そんな中、アカネだけはさして驚く事もなく告げる。

 

「自分の趣味と誰かの幸せ…。迷いなく後者を取れるのが、エル君だから」

 

「…ハンドラー・アカネ…」

 

「誰が飼い主ですか!?」

 

『…レイヴン…もしかしたら。本当に、もしかしたら…』

「…あぁ」

『本当の意味で…あなたと共に歩める日がすぐそこに…!』

 

…そこからのエル、並びにカルデア技術開発部の躍進、技術革新の様子は凄まじいものだった。

 

エアから全面的に提供されたコーラル関連の技術、ルビコン技研の遺産の再現、マテリアルボディ制作におけるエアのリクエスト…様々な技術的問題を、人類最高峰のスタッフが不眠不休で再現、実現に動いたのだ。

 

『リッカ。うたうから、私達の身体のデータも提供したいみたいよ』

「いいの!?」

『いいのいいの。こういうのは助け合い、でしょ?』

 

『レイヴンはどのような身体つきが好みなのでしょうか…リッカさん。あなたの意見はどうでしょう』

「出るとこ出て締まるとこ締まってるのが一番だよ!」

『成る程…。人類のモデル体型を参考にします』

 

(デブじゃない、私はデブじゃない…)

「アカネさんはそのままが魅力的です!」

(こいつ心の返答に!)

 

「真空状態だと爆発的に増えるだって…?宇宙に持ち出されてたら一巻の終わりだったじゃないか…」

『相当ギリギリのタイミングだったようですね。コーラル持ち出しと、焼却の阻止は』

「そりゃあ止めた後はノープランだよ。コーラルを護る時間しかなかったわけだしねぇ…」

 

そして…時間にして二日を懸けた結果。レイヴンとエアの願いは叶うこととなる。

 

「…レイヴン。お待たせしました」

「…!」

 

「これで、やっと…あなたと共に歩んでいける」

 

白き長髪、均整の取れたボディ。紅き瞳の美少女。カルデア技術開発の結晶にして、技研の遺産を組み込んだコーラル・マテリアル・ボディ

 

「これで、ずっとあなたの傍にいられます。レイヴン。私が…あなたの人生を、サポートします」

 

「…エア……綺麗だ…」

 

レイヴンは静かにエアの頬に触れ、そして辿々しくも彼女を抱き寄せた。戦いの果て、選択の結果守り抜いたかけがえのない友人を。

 

「レイヴン…」

「解ってる。次は俺の番だ。…ウォルターの願いを、果たしに行くよ」

 

「それじゃあ!受けるんですね再手術!」

 

「あぁ。……AC乗りをしながら、普通の人生を送るために。第十世代の最新手術を…頼む」

 

レイヴンの意思を聞き、リッカは弾かれたようにアスクレピオスに申請する。彼の人生の再出発を。

 

「アスクレピオス!お願い!」

 

「随分と待たせてくれたな…。さっさと入れ。ノウハウをチームで更に詰めておいた。失敗はあり得ん。安心して麻酔を受けろ」

 

「…頼む」

 

「レイヴン。持っています。カルデアの皆様と…一緒に」

 

「…必ず戻る。待っていてくれ、エア。カルデアの皆」

 

「ぐすっ…ファインプレーだったね、エル君…エル君?」

 

「うっはー!!次はいよいよスターゲイザーです!!改修補修は勿論、カルデア技術開発部フレームに着手…!あははははははは!!眠れない夜が続きますよこれはぁ!!!」

 

「……………」

 

人の心が備わってて良かった。そうじゃなかったら悪の科学者にしか見えないもん…。

 

アカネの目がそう言っていたのをリッカは見逃さず、優しくアカネの肩を叩くのであった。




ハンドラー・ウォルター『コーラルを手に入れれば、お前の様な脳を焼かれた独立傭兵でも、人生を取り戻せるだけの大金が手に入る筈だ』



『仕事は終わりだ。帰投しろ、621』



『621、戻って休め。よくやった』



『もう一つ。駄犬呼ばわりは止めてもらおう。旧世代型にも尊厳はある』



『いいぞ、621!やはり…この仕事をこなせるのはお前だけだ…!』



『そうか……621……お前にも……』

お前にも────



レイヴン「……っ、……」

アスクレピオス「起きたか。手術は成功だ。当然だな」

レイヴン「あ、ありがとうございました…!」

アスクレピオス「仕事を果たしただけだ。身体機能のリハビリをこれからこなしていけ。…お大事に」

エア「レイヴン!」
レイヴン「エア!」

エア「あぁ、レイヴン…!こちらを!あなたの姿です!」
レイヴン「………これが、俺…」

物陰

リッカ(せっかくだからとびきりのイケメンってアスクレピオスに頼んでいたんだよね〜!)
アカネ(ナイスゥ!ナイスゥ!!)
エル(美男美女です!やはりパイロットはこうでなくちゃ!)



レイヴン「俺は…果たせたんだな。ウォルターの、願いを…」
エア「……レイヴン…」

レイヴン「解ってる。解ってるよエア。…これは贅沢だ。これは我儘だ。だけど、だけど…」

エアは何も言わず、レイヴンを抱きしめた。

レイヴン「あなたにも、あなたにも…傍にいてほしかった…!大切な友人を…あなたに紹介したかった…!」
エア「はい、レイヴン…」

レイヴン「ウォルターも…カーラも、チャティも、ラスティも…!皆、皆死んでしまった…!俺が…俺が、殺したんだ…!」
エア「……レイヴン…」

レイヴン「でも…だけど…哀しくても、後悔はしていない…。俺は、自分の意志で…君を選んだんだから…」
エア「はい、私は…あなたが選んでくれて、嬉しかった」

レイヴン「ごめんよ、エア…今は、今だけは…泣かせてくれ……」
エア「はい。哀しいときには涙する。それは…普通の人間の当たり前の反応なのですから」

レイヴン「……ウォルター………義父さん……友達が…できたんだよ…紹介したかった…あなたに、紹介したかった…うっ、ううっ………ああぁっ……うあぁァァ…っ…」

…ルビコンの解放者。独立傭兵レイヴンは、ただ泣き続けた。

取り戻した、普通の人間としての代償。それは、喪失感の去来。

だが、彼は…一人ではない。彼の選択の果てに手にした者は、確かに彼を受け入れているのだから。

それは、強化人間でありながら…けして死人には流せぬ涙と、備わらぬ心であった。

リッカ「………………」
アカネ「ぐすっ、ひっく…」

エル「………確かに、強化人間のままなら哀しむことはなかったかもしれません。でも…これでいいんです」

人間は、戦うだけの道具じゃないのですから。エルは静かに、貰い泣きするアカネの背中を優しくさするのだった。




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