(…こういう時、寺子屋では大ちゃんや慧音が教えてくれたな。ブリはカルデアのものだから、控えさせてるし…)
チルノ「…ハデスとかヘルはこういうの、一人でやってたのか。トネリコも、なんでもかんでも一人で…」
(…くそぅ、あたいも出来なくちゃいけないのに…)
「…つら」
『辛い。そう思ったね?』
「うぉお!?誰だお前!?」
『誰でもいいさ。ただの──プリテンダーだからね!』
「ブリなんだ!?」
『チルノちゃん、だったね。まずは僕の縁者の力を大切にしてくれてありがとう。兄弟のルーンありきとはいえ、相応しくない相手を殺すくらいは平気でやるからね。フェルもヘルもさ』
「そ、そうなのか。まぁあたいはサイキョーだから、資格は相応しいんだと解ったんだろうな!うん!」
チルノは突如現れた妖精にえへんと胸を張る。しかしそれに答えるものは、吹雪の物悲しい風音のみ。物寂しき地獄にチルノは僅かに肩を落とす。
『今、寂しい…って思ったでしょ?』
「!?な、何を言い出す!寂しくなんかない!寂しくなんかないぞ!?」
『本当かい?来る日も来る日も罪人を裁き、喜びも哀しみも介入せずひたすらに文面と判決でにらめっこ。君をうらめしげに見上げる存在と向き合い続けるのが本当に寂しくないって?』
「うっ。うぅ…」
『エレシュキガル、ハデス、そしてヘル。皆は強い責任感と成熟した精神とでその任に就いたんだ。立派な大人としてね。チルノ、きみはどうだい?美味しいアイスも、素敵な遊びも全部捨ててこの責務に就く覚悟はお有りかな?』
フェアリーの真摯な物言いに、みるみるうちに肩が丸まりしゅんとしていくチルノ。それは彼女が挑む道筋…彼女が理解しきれていなかった道筋を、丁寧に説くものだ。
『…君の考えはとても立派だよ。
力には責任が伴う。それがフェルやヘルの霊基を取り込んだ強力なものなら尚更だね。…でもね、それで君が孤独になる必要はあるのかい?
強力なものなら尚更だね。…でもね、それで君が孤独になる必要はあるのかい?
忘れたわけじゃないよね。生前のトネリコちゃんが自分を蔑ろにしていたことが、どれだけホープちゃんやビリィ君たちを悲しませたかを。今の君は、力と抑止でモルガンちゃんとトネリコちゃんの理想に…この國を良き國にしようという想いに囚われている。僕の義兄弟は、フェルやヘルは…君を孤独にするために力を託したわけじゃないよ。君だって、大切な人たちの一部なんだ』
悲しませたかを。今の君は、力と抑止でモルガンちゃんとトネリコちゃんの理想に…この國を良き國にしようという想いに囚われている。僕の義兄弟は、フェルやヘルは…君を孤独にするために力を託したわけじゃないよ。君だって、大切な人たちの一部なんだ』
「それは…そうだ、あたいのやっていることは。トネリコと一緒じゃないか…」
そこで責任感と、悪妖精達の醜態に曇っていた自身の観点に思い至ったチルノは顔を上げる。妖精…美しい美貌と羽根を持った彼は、優しくチルノに問う。
『このままじゃ君は、皆を悲しませてしまうよ。皆が辿り着いた理想郷に、君が笑顔に出来た理想郷に…君だけしかめっ面なんて皆悲しんじゃうと思うなぁ?』
「うぅ…でも、でもだ!この理想郷や、皆の笑顔をあたいは護っていきたいんだ!もう、あいつらの俯き顔は見たくないんだ、あたいは!」
自分がした覚えがない罪。自分がやったことのない罰を受ける苦しみ。ビリィやホープの嘆きに、彼女はずっと心を痛めていたのだ。あの時は懸命に鼓舞をしていたが、振り返ればそれは鎮痛そのものだ。子分がしてほしくない顔だった。
「だからあたいは…首吊りじじいや、ブリがくれた力を皆を護るためにって…この」
『ふふ。言ったろう?心構えは間違ってないって。もう一人の星の王、キュート・キャスター・アルトリアの言葉を思い出してごらん?』
〜
誰かを幸せにしたい人は、自己犠牲なんかしません!
一つ一つは小さな星々、結んで繋いで大きな星座!煌めく明日を掴むのさ!
〜
「…そうだ…あたい、子分の悲しい顔ばかり見ていて、一緒に頑張ってた皆の事、忘れてたぞ…」
チルノは思い至る。親分たる自分だけでは、絶対にできなかった贖罪の旅。カルデアの、沢山の仲間達がいたから出来た旅の終わり。
彼女は奇しくもゲーティアと同じ轍を踏みかけた。悲しい事ばかりを見て、素晴らしきを見落としていた。トネリコの無機質な救済を、それは違うと叫んだばかりだと言うのに。
『よく考えてごらん?君のやろうとした事は、君だけで出来たかい?』
「…ううん。ヘルやフェンリル、ブリがいなかったら、始まりのバカどもに勝てなかった。子分がいなかったら、あたいも参ってた。…幻想郷でも、あたいは一人じゃなかったな…」
『そうさ!一人でなんでもできる、独りだけの悩み!なんていうのはあのご機嫌な王様に任せておけば良い。君はまだまだ氷の女王には早いよ。素養が在るからと言ってそうあれと生きる必要はないんだ。聖剣の王のように、決意と覚悟を固めて人を辞めるくらいの気合はもっと先でいいさ』
フェアリーはくるくるとチルノの周囲を周り、彼女を励ます。その物言いは軽薄なようで誠実で、道化のようで真摯なものだ。チルノ…いや、新しく出来た子を労り、慈しむように。
『どうだい?背伸びを一旦やめて、戻る気にはなれたかな?』
「…ぁ、そうだ。あたい、幻想郷には戻れないぞ…ヘルやフェンリルの力、すげぇ強いから皆カッチコチになっちゃうからな…」
『そこのところも心配ご無用!君に神性をブーストしている令呪はもうすぐ切れるし、ルーンは義兄弟がどうにかするさ。それに不可逆な力はこうして、ほーい!』
妖精が一際高く舞い、チルノの周囲を回る。それは魔術式の行使であり、まばゆい光にチルノが包まれたその時…。
『…驚いたぞ。まさかそんなにも世話焼きだったとはな』
チルノの傍に立つ『少女』の姿の女王。チルノとそう変わらない姿の彼女は、チルノには理解が至る。
「へ、ヘルか!お前!」
『そのようだ。私だけではないぞ』
『ウォンッ!』
その傍らには、氷柱が鬣のようになった狼、フェンリルが鎮座している。チルノに結び付けられた神霊と神獣、それがフェアリーの力で別個の霊基を得たのだ。
『君が付きっきりでなくとも、彼女たちが裁きの場と機会を担ってくれるさ。解るかい?もう私が、私がなんてやる必要はないのさ』
『間違えるな。こやつの一人称は、あたいだ』
『あはは、ごめんごめん!それじゃあ…もう、大丈夫かい?』
「…ん。うん。あたい…皆で考えるよ。理想郷を理想郷として護れる、サイキョーな方法を。一人じゃなくてさ」
『ん、よろしい!素直でいいね、流石はオヤブンだ!』
うんうんと頷き、フェアリーは笑顔を見せる。…同時に、足下から、少しずつ霊基が解けていきながらもだ。
「お、おい!消えてるぞお前!」
『ん?あぁ。霊基をフェルとヘルに譲渡したからね。そりゃあ消えるさ。バトンタッチ、ってやつ?』
『……意外だ。新たなるラグナロクの為に暗躍するかと思ったのに』
『なんか僕への当たり強くない!?…まぁ、ね』
「?」
『僕の子供達が認めたオヤブンだもの。それってつまり…僕の子供じゃない?』
『違う』
『ウォオォン!』
『最後まで辛辣だなぁ!?ま、いいや。これで召喚の役割は果たしたよ。僕の登場は更に大舞台がいいからね!北欧異聞帯とか!』
間もなくフェアリーは消える。楽園にも与せず、理想郷にも居付かず、ただ子供達だけしか興味が無かったと言うように。
『もう大丈夫だよね。…君の名前、教えてよ』
「チルノ。チルノだ!名乗ったら名乗り返せ!マナーだぞ!」
『ふふ、ダメダメ!僕の真名は内緒だよ!知りたかったら、そうだなぁ…知ってる人に聞いてみて!それじゃあ、バイバーイ!もう一人はだめだからねー!』
伝えるだけを伝え、告げるだけを告げ、フェアリーは消えていった。ヘルとフェンリルは黙した後、口を開く。
『話半分に聞いておけ。半刻前と思考回路が異なる輩だ。…チルノ』
「お、おう」
『お前の裁きは私が担う。お前はまだ、無邪気に駆けろ。氷の妖精として、まだまだ研ぎ澄ませられるのだから』
『グルルル…』
『フェンリルの世話も忘れるな。…出来るなら、皆でな。さぁ、行け。まずはごめんなさい、だぞ』
「お、おう!ヘル!フェンリル!ありがとうだぞ!」
『…やはり、お前は我らを宿すには無垢すぎる。オーディン、人の心を解せぬヤツめ』
皆のもとへ駆けるチルノを、ヘルとフェンリルは見やる。彼女らはチルノの分霊扱いにて、この地獄を担う。
『…いずれまた会おう、紛らわしい親よ』
そう呟き、ヘルは吹雪に消えるのだった…。
チルノ「うぅ…皆怒ってるかな…」
紫「はぁい、チルノ」
チルノ「うぉ!むらさきババァか…」
紫「悪いオクチだこと。あなたに朗報よ。ほら」
大妖精「チルノちゃん!」
チルノ「大ちゃん!?」
紫「彼女を連れて、ブライド様に会いに行きなさい。大ちゃんの真価は、きっとこの地に役立つはずよ」
チルノ「大ちゃんの」
大妖精「真価…?」
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