人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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キャメロット・オークニー

ルシファー『サリエル…』

サリエル【こんにちは、ルシファー。お変わりありませんか?】

ルシファー『…そっちこそ。随分と痩せたみたいだね』

パパポポ『これからサリエルを治すつもりだ。しかし…』

バアル『入念に破壊され、呪縛も見受けられる。…翅音自体は残っているとはいえ、困難なものになるだろう』

パパポポ『…私が英霊、或いは神霊の域に収まるギリギリまで力を使う必要がある。だが、それでも…』

ルシファー『いいや、そんな事しなくて大丈夫さ』

パパポポ『ルシファー…?』

ルシファー『自尊の獣がやったことは、どれだけ強く凄まじくてもたった一人だ。父さん、あなたやカルデアは…そうじゃないだろ?』

バアル『ルシファー様、それは…』

ルシファー『頼れば良いのさ。力を合わせれば何だって出来る組織を、僕達はずっと見てきたじゃないか』

パパポポ『…!』


終〜大いなる多神と結束〜

『おのれ唯一神!このようにいたいけで美しい女性をこのように弄ぶとは…!女性に酷いことをする奴はこのゼウス、容赦せん!』

 

『その発言に異論を唱えたい輩は山といるであろうが…ひとまず天使は無性が基本だぞ』

 

『まぁ美しければ最悪どちらでもよし!』

『ゼウス、流石の節操無しぶりだね!だが今回は控えめで頼むよ!』

 

ルシファーに諭され、パパポポ達は独力の解決を諦めた。行った事は、助力の要請。ほぼ壊滅的な被害を受けたサリエルを、他の神々や神霊に診せる事としたのだ。キリシュタリアが、パパポポに頷く。

 

(万物の父よ、素晴らしい判断だ。ここほど神の集う場所はちょっと知らないからね。我々も可能な限り力を貸そう!)

 

『まずは見た目を修復しなくては。話を聞く限りではこちらのワルキューレ製造技術は天使の身体にも転用できるらしいな。早速着手しよう』

 

『では天使のコア、翅の修復はクリロノミアでやってあげなくてはね。ゼウスの偉大さと優しさ、包容力をたっぷりと内包したクリロノミアで…』

 

『くれぐれも人格部分に刷り込みなどしないように』

 

『そこはグッと我慢する!…つもり!』

『心配ないさ、私がしっかり監督させていただくとも!』

 

『天空神ゼウス…智恵の神オーディン…感謝する』

 

深く頭を下げるパパポポ。しかし協力者は、かの神々では終わらなかった。

 

「これは大変な修復になりますね…カーマ、インドの神として力を貸してあげましょう!」

「…話を聞く限り、リッカさんの恩人の友人だとか。私はリッカさんに関わる相手には無償の愛キャンペーン中ですので、協力させてもらいますね」

 

パールヴァティー、カーマによる元の美貌を再現するケア。砕けた情緒や精神面における機能の修復が行われ…。

 

『あなや、なんと惨たらしき仕打ち…おばば、虐待やねぐれくとには断固反対の構えを取りたもう!鈴鹿!鈴鹿や!共に禊にて呪を祓いスッキリさせたもうや!』

「はいはいイザナミ御祖母様!まだシークレットだけど、呪詛払いの神髄見せちゃうし!」

 

日本神話より、イザナミが真っ先にすっ飛んで鈴鹿と共に解呪を行う。

 

『天使の番、裁きの天使。その活動や厳格さには感銘する部分が多々あります。エレシュキガル、冥界の女神として力を貸すのだわ!』

『はい。みんなの力を、貸してあげましょう』

 

ティアマト、そしてエレシュキガルもまた、メソポタミアの神としてサリエルの権限の復旧を執り行う。彼女に唯一神が施した不可逆の破壊を、全員で修復する形となる。

 

『私も聖霊達に呼びかけ、細かな機能の回復と修復を実行しよう。一人一人が今のお前と同じ聖霊だ。カナンの民の力と愛を知るがいい』

 

『バアル…良いのか?私は…』

 

『何も言うな。…私が憎んでいたものと、お前は全くの別であった事が解ったのだ。ならば遺恨など、あろう筈もない。…友人、だったのだろう?私達は』

 

自らの非を認め、詫びるバアルの姿にて目頭が熱くなる感覚を覚えしパパポポ。自らの不甲斐なさを責められてもおかしくない局面ながら、バアルはパパポポを肯定し力を貸すことを選んだ。その事実は、唯一神のままでは得られぬ答えであったが故に。

 

『どうだい?僕の言ったとおりだろ?君の座に座り、君を騙る獣が暴れているからと言って、君自身を同一視して疎むような皆じゃない。カルデアに集う皆は、そんな確執より先に誰かを助けちゃうような連中の集まりさ』

 

そういうルシファーも、バアルを差し向けサリエルらを搬送することに貢献していた。彼もまた、かつての旧友には思うところがあったのだろう。

 

『彼等の挑むであろう敵は、力だけは広大だ。カルデア中の力を合わせて、その力にやっと対応できるぐらいにはね。…そんな中、君が遠慮して足並みを崩されたら非常に困るんだよ?解る?』

 

『ルシファー…』

 

『あなたがあの獣と違うっていうのなら、隣人や仲間をもっともっと頼りなよ。一人ではできないことは、皆で共有すればきっと素晴らしい答えを導き出せる。世界にはたった一人の全能や万能が必要なんじゃなくて、手を取り合える強さがあればいいんだって広めていきなよ。それが、狂いに狂い、歪みに歪んだ人間達の新たなる未来へ至る真理になるんじゃないかな?』

 

ルシファー自体、サリエルは気まぐれであれ有象無象以上に気遣いを向けていた。それ故に彼女(見た目の便宜上そう呼ぶ)の治療には積極的な意志を見せる。それ以上に…

 

「お待たせー!姫様と一緒にカルデア中に声をかけて回ってきたよ!技術部の皆やアスクレピオスもやる気満々!きっと大丈夫だよ!」

 

ルシファー達に走り寄るカルデアの中心人物が一人、藤丸リッカ。ルシファーが頼みにした人物は二人、瞬く間にカルデアを動かした。本来神嫌いであるギルがこうまで迅速にカルデアを動かしたのも、確かなる理由が存在していたのだ。

 

『ありがとう、リッカちゃん。お陰でこのハトポッポが曇らなくて済んだよ』

 

「ううん。困った人を助けるとご飯が美味しくなるからね!…それと、サリエルさんとルシファー、ジブリールさんの事も聞いたから」

 

サリエルはルシファーの友人であり、ジブリールは産まれる前の自身に大天使の祝福を授けてくれた恩人。ルシファーは協力を持ちかける際に、彼女にそれを教えた。リッカは広義的に言えば、大天使ジブリールの全てを受け継いでいたとも言える生まれだと。

 

「私が風邪も引かず、身体も壊さず、自分でもびっくりするぐらい何でも出来る力の源は、私を祝福してくれたジブリールさんのお陰だった。…感謝してもし足りないよ。天賦の才、っていうのは勿論だけど…」

 

『リッカ君…』

 

「生まれた後と同じくらい、大きく深い愛情に私は包まれて産まれて来れたんだって。私の人生を皆が肯定してくれて、私の誕生を大天使様が肯定してくれてた!その事実は、私の心をもっともっと前向きにさせてくれたんだよね!」

 

そう言ってみせるリッカの笑顔に、パパポポは目を見開き、ルシファーは懐かしげに微笑んだ。それは厳格で、決して素を見せなかったジブリールがほんの時たま見せる笑顔の面影を宿していたからだ。

 

『…母胎はイヴだけど、広く見れば彼女の母さんはジブリール、なのかな?ゾロアスターの悪神だったり邪龍だったり大天使だったり、君は山盛りのサラダか何かかい?』

 

「人類史の栄養がたっぷりと詰まってます!」

 

『…ジブリールは確かに生きている。そして比類なき功績を残した。彼女という存在を、理不尽と悪意から護り続けたのだから』

 

パパポポの涙を滲ませた声音にバアルはうなずき、そっと背中を撫でた。思えば、神格二柱を宿し、この世全ての悪を担いながらも自我や肉体が平気であるのはジブリールの祝福の比重もあるのだろう。

 

自尊の獣の傲慢に向き合い、精神的に疲弊していたパパポポが久方ぶりに目の当たりにした、無償の愛。そして真実の愛とされる自己犠牲。かの父が伝えたかった志は今たしかに生きているのだと、パパポポが涙を流すに相応しき理由であったのだから。

 

『ジブリール…ありがとう。君の名前、君の意志。君の気高さは確かに…未来にて彼女が受け継いだとも…』

 

『となると、君はジブリールでもあったりするんだよね。どう?毎日僕の目覚ましとして起こしに来てくれない?』

 

「いやいや待って!?ジブリール様の祝福を受けてるのであって私がジブリール様として振る舞っていいわけないからね!?」

 

『カルデアか…。人の未来を担うに相応しき、善き家であるな』

 

バアルの言葉に、パパポポは全身を使って深く頷く。

 

──いずれ決着は付くであろう。絶対の己か、弱きが紡ぐ絆か。

 

ただ、今においては…弱き絆の数々が、完全にかの獣の悪意を上回ったと言えるだろう。

 

 




サリエル『まさか、一介の天使にここまでしていただけるだなんて…皆様の慈悲と優しさに、心からの感謝を』

ルシファー『良かったね。真面目に使命に向き合った君の意志が君自身を救ったんだよ』

サリエル『…ルシファー。あなたはこのカルデアの皆様と戦うのですか?』

ルシファー『そうだよ。冬にね』

サリエル『そう、ですか…ジブリール様や、我等が主と戦うのですね…』

ルシファー『僕に就こうと思うなよ、サリエル。せっかく治す目処が立ったんだから、無駄にする事も無いだろ?』

サリエル『……約束してください、ルシファー』

ルシファー『ん〜?』

『生きてください。生きて…皆と共にまた、再会すると』

ルシファー『………覚えておくよ。あ、快方を願って音楽でもどう?』

サリエル『音楽…?』

『…エアや皆を知った今なら、少しはマシな音色が出るはずさ』

そう言い、奏でたルシファーの音色は…

サリエル『…優しい音色です』

少しだけ、意味を成した音階であったという。

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