人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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パパポポ『サリエル…月と癒やしを司り、天使の罪を推し量る筈のお前が…』

サリエル【アナタハ アノカミヲナノル ナニカトハ チガイマス ジヒフカキモノ】

パパポポ『無理に話さずとも良い、まずは傷を癒やさなければ』

パパポポの癒やしの光が満ち、サリエルの傷を癒やす。

『!』

しかし…天使の中枢である翅が酷く損傷しており、完治には時がかかる。痩せ細り、骨すら見える痛ましい姿を整えるが精々であった。

サリエル【あぁ…これこそ、我等が信じた慈悲。主よ、蘇られたのですね…】

パパポポ『その物言い…何かを知っているのだな。どうか教えてくれ。神と天使に、何があったのだ』

サリエル【はい。その前に…見渡していただけますでしょうか】

促され、見た先に広がるは──

破棄された天使。破壊された天使。

『……おぉ…』

【ここは、廃棄場なのです。無慈悲なるものに切り捨てられし、天使達。そして私は、その天使達の処理を担わされた者です】

そして、語り始める。天界、汎人類史に起きた唯一神の仔細を。


慈愛の天使、尊厳の天使

天界における神、そしてそれらを取り巻く大天使は大まかに七人であった。ルシファーを始め、ミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエル。そして補佐官にして影武者ジブリール、天使の裁量者サリエル。これらが、神に最も近しい者たちだった。

 

ミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエルは忠実な神の代行者であったが、それ故に自我が希薄で、文字通り神の手足以上の思考や意志を持たなかった。対象的に、最も神に近いルシファー、大天使の代わりに下界を見張るジブリール、癒やしと月の大天使サリエルの三人は個体差、明確な個人意志を有していたのだ。

 

ルシファーは人形めいたミカエルらより、自身を咎めるサリエルや傅く事無く対等に意見するジブリールを好んだ(秩序においては、自我は極めて希薄であった。堕落の温床と忌み嫌われたため)

 

『ルシファー、神に相応しきあなたがやんちゃではいけませんよ』

『ルシファー。私は貴様に主を重ね崇めはせぬ。同胞として、友として振る舞わせてもらうぞ』

 

『ふーん。面白いじゃん、二人とも』

 

ルシファーは気紛れながらも二人を特別視し、サリエルとジブリールを愛した。神のみが持つ意志、個性。それらを自分と同じく有していたからだ。

 

『じゃあ、その意志をもっと刺激してみようかな』

 

そう至り、ルシファーが行ったことこそが天界への反逆。天使の三分の一や二が反抗した天界における大決戦である。

 

『ルシファー、何故です。どうしてこのような…』

 

生真面目なサリエルは、神が如きルシファーの狼藉に血涙すら流し悲嘆した。

 

『何故一言相談しなかった…!せめて、共に思い悩むことは出来たはずなのに!』

 

厳格なジブリールは、ルシファーの蛮行に深く怒り激した。それは、単純なシステムから逸脱する要素たる感情や意志、個性の活性化に繋がった。

 

『それでよし。少しは自分で考えてみなよ二人とも』

 

ミカエルらを破壊し、天界の秩序を破壊し尽くしたルシファーはサリエルとジブリールに投降。捕らえられ神の許へ連れて行かれ自ら堕天を選んだ。

 

『二人が大天使になったら、何か変わるかな。面白くなれば良いけど』

 

それを願い、地に落ちたルシファーの後の顛末により、二人の運命は決まることとなった。

 

まず神が告げたのは、天使達の不始末と不出来の糾弾。そして天使達をより効率よく運用するための完全機械化、奴隷としての転換であった。

 

人格や一定の揺らぎなどを用意したがゆえにルシファーを生んだ。ならば天使など、全て人形でよい。神の宣告にいくつもの静止や諫言の声が上がったが、それを処理する命を受けたのがサリエルであった。

 

神に仇なすは大罪。その鎌にて処断せよ。お前はその為に在る。

 

サリエルは当然躊躇い、否を唱えた。ルシファーが愛した自意識は、サリエルに慈愛の人格を芽生えさせ思いやりと慈悲を与えた。

 

しかしそれを疎ましく、鬱陶しく思った神はサリエルの翅を著しく破壊し、堕天使として扱い、天使を狩る天使として改悪を施した。神に意見する意志、他者を思いやる心は不要であったからだ。

 

サリエルは意志と美貌、個を喪失し、躯のごとき死神サリエルとして同胞の天使を破壊し、破棄する任を何千年も課され天界を追放された。それがパパポポの在る天使の墓地にあたる。

 

ジブリールは大天使長としての任についたが、下界へのあまりにも苛烈な神の仕打ちに頭を抱えるようになった。大洪水に始まり、堕落した都市の焼却、神罰と生した虐殺。カインの供物を『相応しいものではないから』と黙殺。人の原罪の看過。

 

『我等が主は被造物たる我等を本当に愛してくださっているのだろうか。その慈悲は何処へ向かっているのだろうか』

 

思い悩むジブリールの方向性を決定付けたのは、アダムとイヴの追放、救世主たる者の言葉だった。

 

『主よ、何故私を見捨てたのですか』

 

神の子として、また人々の原罪を引き受ける役柄のかの救世主に、なんら言葉も感慨も浮かべぬ主。救うべきではないのですかと問うジブリールに、主はこう応えた。

 

『私は尊く在る者である。しかしあれは子であり、私ではない。救世主の代わりなど、いくらでも見出せる。私が尊く在る限り』

 

その言葉と、救世主の処刑。そこに見出したのはひたすらの自己愛。天使にも、我が子にすらも向けられぬ、ただ自身への大いなる愛。

 

それに加え、彼女は知ってしまった。主がアダムとイヴを回収しており、恐ろしい目論見を企てていることを。

 

『この二人を未来に送る。記憶は抜き去り、楽園への渇望のみを残す。完璧であれとの言葉を授け、子を産ませる。その子供に、この世全ての苦痛と苦悶、人間の罪と悪性を担わせる』

 

主の言葉は、あまりにも悍ましいものだとジブリールは思い至る。アダムとイヴを利用し、あまつさえその子供を呪うなど。

 

『救世主の生まれ変わりの資格すら有する始まりの子を、悍ましき呪いに浸し、汚泥に塗れた畜生とする。誰もがその子を呪うだろう。誰もがその子を蔑むだろう。穢らわしき呪いに満ちた器として』

 

最早ジブリールは、眼の前の存在を神と見ることは出来なくなっていた。

 

『我が言葉、我が盟約を破りし愚かなる男女よ。お前達の戻る楽園など何処にもない。永劫愚昧なる人の世を彷徨い果てるがいい。お前達の罪の報いは、お前達の子が未来永劫受けるのだ──』

 

…その夜、遥か未来に送られるアダムとイヴの部屋にジブリールは忍び込んだ。

 

神の力により、転移や転生は止められない。見ればアダムの頭や身体には、粗悪なる部品が敷き詰められていた。神が人間を貶めた事を確信し、ジブリールは行動に移す。

 

『アダムとイヴの罪はアダムとイヴのもの。産まれる子に罪など無い。あってはならない』

 

ジブリールは自ら、大天使の証たる翅を『切り落とし』、イヴの身体の改悪を大天使の翅で補修した。それは、自身の魂を引き裂くに等しいものであり、神の祝福を捨てるに等しいものだ。

 

『我々は神の被造物、あの悍ましい存在は止められない。あの神を騙る何者かが見捨てた二人が産み出すものこそ…希望となる筈だ』

 

大天使の位を捨て、自らの地位や力すらも捨て、イヴ…未来の子の母胎となる存在を最高のものへと修復した。アダムの肉体は最早手遅れな為、卵子と結合する遺伝子配列のみを正常に…元の完全なる人類にへと修復した。

 

『どうか頼む。かの偽神の企みを、いや───』

 

もはやただの人と変わらぬまでに零落しながらも、イヴの子宮に宿るであろう未来の子に願いを…否。

 

『健やかに、産まれてほしい。どうか、辛く苦しい試練に負けぬ強さを得られますように』

 

大天使ジブリールの、全身全霊の祝福を託し、ジブリールは最後の力を振り絞って神を糾弾した。

 

『貴様は神ではない。慈悲無き父など在りはしない。貴様は我等が主の御座に座る悍ましき何者かである!』

 

ジブリールは最後まで、尊厳と誇りを以て己を貫いた。

 

『その傲慢、その無慈悲、その愛はいつか潰える!我が身がここで滅ぼうと、貴様を穿つ意志は未来に育ち、貴様を裁く天雷となることを思い知れ!!』

 

天使達に身体を貫かれ、切り裂かれ、神の裁きに塵芥となるその瞬間まで。彼女は自らの意志と誇りに殉じた。

 

『我が名は大天使ジブリール!慈悲深き主、万物の父たる者に永遠の忠誠を誓う者也──!!』

 

…ルシファー、サリエルに続く大天使の離反。それにより、加速度的に広がる天使達の疑念と困惑。

 

ルシファーが示した自由、サリエルが踏み躙られた慈悲。そしてジブリールが示した尊厳。それらが天使達の心を揺り動かした。

 

神が、天使達の在り方を変え、改悪と言うべき完全機械化に着手せざるを得ないほどに。

 

明けの明星にそのつもりは無くとも、人類への希望を繋いでいたのだ。

 

 

 

 




パパポポ『……ジブリール…サリエル…』

サリエル【ジブリール様は、翅を喪いながらも立派に抗ったと、天使達が。私は…彼女を尊敬します】

パパポポ『……ここに在るは、天使達の亡骸。かつて殺される前に手掛けた、天使達か…』

サリエル【私は、彼等を殺めました。その罰をお与えください、真なる主】

パパポポ『…あるものか。罰などどこにも、あるものか…』

サリエル【主…。…!】

バアル『天使達の墓場…ここにいたのか、唯一神』

パパポポ『バアル!?私を始末しに来たか…?』

バアル『違う。助けにだ。ルシファー様に言われてな』

パパポポ『助けに…?』

『お前は最早カルデアの一員だ。勝手に死なれては困る…との事だ』

パパポポ『……サリエル』

サリエル【はい、主】

パパポポ『君を治し、…キャメロット・オークニーに天使を弔う。共に来てくれ』

サリエル【はい、主】

バアル『治す…?最早そやつはもう…』

パパポポ『言うな。…何も言うな…』

バアル『……』

かつての大天使、サリエルと友バアルと共に、パパポポは躯の翅を丁寧に拾い上げるのだった…。

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