讃美歌は謳われ、唯一たる神を崇める天国は築かれる。
唯一神が求めしは、自らが支配するに足る人類。それを今、巡り探している。
誰もが知覚できぬ高位の視座にて、それは行われる。
──しかし。唯一神、終末の獣の直近の誤算があるとすれば。【彼】の機嫌を害した事だ。
【あれ?父さん、いないのかな。先に行ったって話なのに】
六翼の翅、雄々しく禍々しい黒き翅。黒と赤のコートに、血染めのような眼差し。
【出遅れたかなぁ。…まぁいいや】
彼は、父の軌跡を辿りやってきた。同盟者たるものたちの、安寧を守護するために。
【唯一神…ビーストなんとかだっけ。今さぁ、カルデアは楽しい休暇中なんだよね。ちょっかい出されると困るんだよ】
地獄の魔王。傲慢の大罪者。神よりも傲りしもの。
【はっきり言ってさぁ…】
そして──
サタン【目障りなんだよ、お前ら】
憤怒の大罪者、サタンが。天国に来たる。
【カース・ロンギヌスを止めるため、僕の配下の四割が呪いに侵されダウン中だ。情けないけど、あれでもいないと困る奴らなんだ。そいつらの礼も含めて、この塩の純白に返してやるよ──!!】
ルシファー…サタンはたった独りで天国へと殴り込みを果たした。それはかつての気紛れの反逆ではない。明確な敵意と殺意をもってこの天国…否。『汎人類史を観測する天国』の座を突き止め、侵攻しにやってきたのだ。
カース・ロンギヌスによる汎人類史への攻撃。それは阻める事を想定せぬ必殺の一撃。旧人類を一掃する神罰であるが同時に偽神の痕跡に他ならない。それを伝い、サタンはこの地、言うなれば汎人類史支部の天国を突き止めたのだ。
その介入は、『カルデアの奮闘や旅路を壊す無粋極まる愚行』たる偽神の横槍、並びに数多の暗躍への制裁が目的だ。まだ情報が乏しいカルデアは、常に後手に回ってしまう。やりたい放題の野放しに近い状態では、まともに休息や娯楽もままならない。
何より──神の存在にて、カルデアの旅路を邪魔される事実そのものが、サタンに天国を破壊する決断をさせるには十分であったのだ。
【呪いあれ。神の名を騙る愚昧にその眷属。それらを讃える蒙昧共──!!】
サタンの覇気、憤怒の念。黒と赤に染まりし波動が天国を瞬く間に満たし、憤激により加速度的に破壊、崩壊していく。安全や加減を省みないその鏖殺と殺戮は、白き天国を無慈悲に粉砕していく。当然、肉体に囚われし魂はその枷を壊されていくが…。
【どうせ神への賛美しか言えない憐れな魂だ。僕が有用に使ってやろう…!】
輪廻から外れた魂を、大魔王が従える。破壊し、殺戮し開放された魂を片端から取り込み、汎人類史を害する前線基地たる天国を破壊する力へと変えていく。彼は慈悲深き救世主ではなく、大魔王サタンである。囚われたもの…異世界の魂など歯牙にもかけない。
【やりたい放題ばかりしてお咎め無しなんて鬱陶しい事この上ない。せめて彼等の休みが終わるまで消え失せてもらう…!!】
彼にとって大切なものはカルデアと、カルデアが護らんとする世界。後々の決戦のあと、カルデアかサタンが生きていく世界のみ。唯一神が滅ぼした世界、隷属した魂になど一顧だにせず、当然のように踏み躙る様はまさに無慈悲なる大魔王。秩序と平穏を崩壊させる混沌の覇者そのものだ。
彼にとって大切なものは──カルデアと交わした盟約のみなのだ。
『『ルシファー 最大限の脅威を観測』』
【?】
『『神に抗いし 大罪人 最大戦力にて 排除』』
その瞬間の侵攻に対抗し起動せしは、機械大天使サンダルフォン、メタトロン。彼の存在する時代には製造されなかった、言うなればヤルダバオト謹製の大天使、側近に当たる存在。
【…サリエルやジブリールはどうしたんだ…?】
サタンの、嘗ての同志にして位を近しくするもの。生真面目なサリエル、厳格なジブリール。ミカエルら大天使と比肩する二体の天使ではなく、あの様な特注品を用意する魂胆を訝しむサタン。
【まぁいい。来いよエノクの機械達。お前達にも寝てもらう】
『『排除 執行 大魔王サタンを 浄化する』』
大いなる巨体より、サンダルフォンとメタトロンは莫大なエネルギーを叩きつける。パパポポすら吹き飛ばせし、英雄機神を仮想した神罰攻撃。神の代行と威光を示す光輝の奔流。それは大魔王たるサタンとの相性は最悪であり、直撃すれば浄化は必至。
【馬鹿だな。対策せずに来るわけ無いだろう】
サタンは飛び上がり、眼前に八枚の翼を展開する。サタンの禍々しき六枚でも、エアに託した光輝の六枚でもないそれは、かつてサタンが引きちぎりし大天使の翅。
【感動の再会だ。精々涙を流して歓び合え!】
それは、ミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエルの翅。反逆の際、一対四で返り討ちにしたかつての大天使達の戦利品を、彼はメタトロン達の対策に持ち出したのだ。
皮肉極まる事に、大魔王サタンを大天使四体の力が護り、メタトロンとサンダルフォンを殺し合わせる構図を描き出す。彼を捕らえ、神に差し出したのはジブリールとサリエルである。最も、後者二人の後々の立場の躍進を考え、彼はわざと討たれたのだが。
【ついでだ。神に弄ばれた人間に慈悲をくれてやれ!】
畳み掛けるように、サタンは眼下の別世界の人間の魂を捕らえる肉体を全て破壊していき、魂を囚えミカエル達の翅に注ぎ込む。ビーストΩの信仰の仕組みを、悪用した形だ。
人間達の魂を存分に注ぎ込まれた大天使の翅は輝きを増し、メタトロンとサンダルフォンが撃ち込んだ対界神罰を完全に防ぎきる。大天使を相手取るならば大天使。サタンは神の不在による加護の喪失までを完全に読み取り、メタトロンとサンダルフォンの脅威を退けたのだ。
【完全に破壊するのは惜しい。長らく待機しているマルドゥーク神の全力を出せる相手なら、今は生かしておいてやるよ】
製造理念を汲み、サタンは自らの波動にて空間ごとメタトロンとサンダルフォンを圧壊、半壊にまで追いやる。あれらは英雄機神マルドゥークを想定した天界最強の戦力。さぞ、楽園カルデアの箔となるであろう。
【…こんなところか】
そしてサタンは徹底的に天国を破壊し尽くした。神が用意した汎人類史を観測する為の神の御座。これにより、新たなる手段による汎人類史への攻撃は阻まれるであろう。既に差し向けられたものはどうしようもない。カルデアが乗り越えてくれる事をサタンは願うばかりだ。
(思った通りだ。偽神はここにいない。メタトロンとサンダルフォンを半殺しにされても声すらあげない)
哀しい事に、汎人類史の神は殺されている。自分等を鋳造したのもかの偽神。故に、正しき歴史と呼ばれる汎人類史において最も有名なる神はもういない。聖霊が懸命に痕跡を遺したのみだ。
しかし、不在であるが故に大魔王の単独の反逆を許してしまう結果となった。メタトロン、サンダルフォンの半壊。自身の力を支える魂の喪失。立て直しには相当の時間をかけざるを得ないだろう。これで楽園は、獣を野放しに遊び呆ける組織の誹りを免れる。
何より──暗躍を極めているが故に無礼千万の狼藉を極める偽神の段取りを破壊し尽くした事は、カルデアにおける最大の益となるだろう。彼は決して、カルデアに恩を着せぬが故に口にはしないが…
これは、彼なりの同盟者への契約の履行。大魔王として、大天使として対等に扱った、愛するカルデアの者達の自由の守護に他ならなかった。
【楽園カルデアはいずれ神にも挑む。これはその来たるべき審判への序章に過ぎない。いつまでも思い通りにいくと思わないことだ、神を騙る獣】
天国が、崩壊を始めていく。サタンによる徹底的な破壊は、再びこの天国に目を向けるまで、完璧に修復を果たすまで汎人類史におけるビーストΩの介入の不可能を約束するだろう。
【そう──大魔王すらも討ち果たすであろう人の輝きを侮らない事だ。何を探しているのかは知らないが、お前を討つのは今を生きる彼等だと言うことを精々忘れないようにするんだな】
完膚無きまでの崩落を後に、サタンは翼を広げ飛び立つ。そして、ここには無きかつての盟友を思う。
(サリエル、ジブリール…君たちは神の走狗に成り果ててしまったのか?大天使に押し上げられたが故に…)
大天使の影武者としてあったジブリール。ラファエルの右腕であったサリエル。
楽園カルデアと、汎人類史の為に神にすら牙を剥いたルシファー。
しかし、かつての知己の不在…自らの首級をもたらしたが故の躍進の末路を思えば、流石の大魔王も案せずにはいられなかった。
…同時に、神が蓄えし魂を喰らい来たるべき決戦に、カルデアに相応しい力を有するように強化を果たし、
楽園の破壊者は、天国より飛翔するのであった。
パパポポ『………ここで、終わるわけには、いかん』
(待って、いるのだ。我が子達が。見守らなくては、ならぬのだ。我が子達を)
『今を生きる彼等を…見守らなくては、ならぬのだ…』
?【……ドウカ ムリヲ ナサラズ】
パパポポ『!…君は…、…!』
?【ワレラガ シュヨ。 ドウカ ムリヲナサラズ】
傷まみれに、折れ穢れた翅、朽ち果てた肉体。だが、その月のような慈愛をパパポポは知っていた。
?【アナタニ ミステラレテモ ワガミハ シュトトモニ】
パパポポ『…サリエル。サリエルなのか…!』
御前天使。ラファエルの右腕。
ビーストΩに破棄された、神に侍る天使と再会したパパポポであった…。
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