人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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我が使徒よ、我が眷属たちよ、目覚めよ。


見出すのだ。我が支配に、我が威光に相応しき生命を。相応しき人類を。

真なる人類。それこそが我が求めし人の姿。

我が隷属の資格持つ存在に至るまで。

我が大いなる愛は、果ての果てまで満ちるであろう──。


神の如きもの

『ゼルエル…アブディエル…まさか、他の者達も…』

 

パパポポの前に立ち塞がりし、機械の身体と成り果てた二体の天使。神の下僕アブディエル。神の腕ゼルエル。どれも、主の命を遵守する天使であり、別世界においてはパパポポの善き補佐としての命を受けるもの達だ。彼等には自由を許し、尊厳を許し、意志を許し、人々を自らに代わり見守る使命を有した。

 

しかし眼前のそれらは、冷たき鉄の肉体に身をやつし、その在り方を真なる奴隷へと貶められている。天使の中核にして鋳型は羽であるが、それゆえに羽のフレームたる体の部分の形の仔細は問わない。一つ一つ神が手掛けたワンオフ品を、無理矢理量産ラインに載せた粗製品。それが、この人類史における天使の末路。ルシファーに靡かず使命を果たした者達の成れの果てである。無論、父は深く心を痛めていた。

 

『『主の 御心の ままに』』

 

構えた剣、構えた槍にてパパポポに粛清の指令を全うする二人の天使。神の遣いに意思など不要。そう定義された二人の声は合成音声のような無機質さだ。

 

『くっ…』

 

無数に飛来する光の束を、猛禽類のような速さで回避するパパポポ。あまりにも無情な天使への仕打ち、あまりに非情な天使達への仕打ちに心を軋ませながら、狂いし天国を飛翔する。

 

(かの人々は何の反応も示さない。やはり自意識など介在を許さぬか…むっ…!?)

 

空中を疾走しながら対処していたパパポポの血相が変わる。地上の人間たち、空中のパパポポ、上空の天使達という位置取りにおいて、図らずとも人間達を背にする形となった瞬間に、それは落ちた。

 

『大いなる 主の 御心の ままに』

 

『何を…正気か…!?』

 

なんとアブディエルとゼルエルは、躊躇いなく広範囲の攻撃の執行を選択したのだ。パパポポがかわせば、地上に広がる偽神の犠牲者達が消し飛んでしまう。

 

かわすことが出来ない、それよりも深く父を哀しませたのは正真正銘の天使の心の喪失。人を導き、神に代わる慈悲を有せよと願った筈の天使達。それが、人間を蔑ろにする事をなんら痛打に思っていない。

 

『───赦せ…!』

 

放たれれば、幾度もの死を人間の魂に齎してしまう。これ以上の尊厳の蹂躙をパパポポは許容できなかった。これ以上、偽神の手で弄ばれる魂など容認できる筈もない。

 

そう決めたパパポポの器たる聖霊の肉体は光り輝き、鳩の身体が何倍も大きく雄々しく、輝きに包まれる。光り輝く不死鳥とも言うべき姿となって反転、アブディエルとゼルエルへと飛翔する。

 

『『主の 御心の ままに ────』』

 

聖霊、ひいてはサーヴァントに身をやつせどそれは紛れもなく大いなる父たる神の威光。ダウンサイジングされようと、その輝きを阻める者はそうありはしない。人を護るため、自らの手足たる天使を排斥したパパポポ。末期まで神に寄り添わんとする敬虔な言葉は、事更にかの父を苛む苦痛となる。

 

『これは、北欧のワルキューレ製造技法…そこにギリシャの機神技術を掛け合わせている…』

 

しかし、パパポポは破壊の刹那天使の中核たる翅を確かに回収していた。翅は天使達の個性や魂に直結する機関。ここだけは、天使という鋳型を使用する際には弄ることのできない部分だ。

 

しかし、それ故に生体兵器として改造を施された天使達の痛ましさを痛感する。他神話体系の技術を使用し、侵略や使役に最適となるように改造されし人造兵器。それは人道を解さぬ非道そのものであり、とても容認できるような技術ではない。

 

自分しか愛するものがない、自身こそが最も尊い。そのような自己愛の果ては他者への態度や振る舞いをどこまでも残虐無比なものへと変える。人の尊厳を奪い尽くした天国の住人。アバドン、アブディエル、ゼルエル。それらへの仕打ちは、最早悪魔と呼ぶにも憚られる悪鬼無道の所業だ。せめて、中核となった翅だけは取り返さなくてはならないと…父はあえて天使をその手にかけたのだ。

 

『仇は討つ。今は…眠るのだ』

 

ゼルエルとアブディエルの翅を向け、深く心を痛めるパパポポ。しかし、悪辣な偽神の懐であるこの王国は、悪辣という点においては一切の追随を赦さなかった。

 

『何…これは…!?』

 

見れば、遥か地平線まで続いていかんとする人々、その区画にあたる一つのブロックにおいて急激に魂が消費、燃焼されていく。それは封じ込めていたであろう人間達の魂たであり、比類の無い悪辣な所業であることは明白だ。

 

『何をする気だ、偽神……!』

 

これ以上、何を愚弄するのか。怒りも顕にパパポポが魂の燃え行く先を睨む。その答えはすぐに齎される。その行動の意味するところを。

 

『あれは──まさか…!』

 

見ると、遥か彼方より二つの人が起き上がる。 遥か彼方でありながら、その姿を視認できると言うことはまさしくそれが途轍もなく大きく、巨大な存在であること。

 

内燃された魂は、そちらの大いなる巨大な人に吸い込まれていく。街一つに当たる巨大な区画の魂が、その二人に吸収されていくことを見て取る。そして、その巨大なる存在すらもパパポポには思い当たる節があった。

 

『メタトロン…サンダルフォン…!独自に創り上げたと言うのか…!』

 

エノク書において、神そのものとさえ呼ばれている大天使メタトロン。そしてその弟サンダルフォン。人が足から顔に至るまで500年はかかるであろうと言われるほどの巨体を持つ大天使。

 

この歴史において、最大なる天使はルシファー、ミカエル、後に続きウリエル、ラファエル、ガブリエルであり、かの大天使は鋳造された形跡はない(ルシファーの製造が、類を見ないほどであったためでもある)。

 

それが今、ギリシャと北欧の技術を使用として製造された。いや、されてしまったと言うべき方が正しい。洗脳し転用したものと違う、完璧な兵器としての新生。そういった末路を、かの者等は辿ったのだ。

 

『メタトロン…サンダルフォン…かの存在、英雄機神の対策として手掛けたか…』

 

パパポポはそれを、楽園カルデアへの備えとして受け取った。天へと届く可能性の存在を嫉み、或いは疎んじ排斥する。そういったある意味での矮小さがそのまま大いなる天使を魂を引き換えに動かすという恐ろしい決断へ踏み切らせたのであろう。ヤルダバオト、あるいはデミウルゴス。嫉む者たる側面より、世界の犠牲と引き換えにあれらは生み出されたのだ。

 

『『主の 命を 果たす 為に』』

 

メタトロン、サンダルフォンの威容はあまりにも巨大であった。数百キロは離れている距離だと言うに、腰から下が視認できない。あまりにも巨大なるそれは、距離感すらも無にする程の威容を齎す。その姿は、翅まで含めた完全なる機械である。オリュンポスの神々の技術が使用されているのだろう。神とも言える程にその風格は圧倒的であった。

 

『いかん───!』

 

遥か彼方より、メタトロンとサンダルフォンから光が放たれる。それはあらゆる全てを浄化する、滅殺の裁き。その顔から放たれる圧倒的で規模の光線は、軌道上全てを浄化しながらパパポポに迫りくる。

 

逃げねば。そう本能的に判断したパパポポであったが単純に範囲と威力が広く、あまりにも強すぎた。生半可な規模の離脱など許さぬ神罰の代行とも言うべき二人の人造大天使による攻撃を受け止めることも、回避する事も叶わず──。

 

大轟音、目を潰さんばかりの閃光をもたらし。──パパポポのいた空間諸共、万物は光の中へと呑まれていった。

 

『排斥を 完了』

 

『引き続き 世界規模の 探索を 続行』

 

『『支配されるべき 人類の 選定を 。大いなる 主の 御心の ままに』』

 

天国の守護者たる、二人の天使は翼を広げ天国へと侍る。

 

それらは…まるで何かを、探しているかの様であった。




パパポポ『………………………』

遥か彼方への時空と吹き飛ばされし、聖霊に宿りし大いなる主。

【 …………………】

その傍らに、まるで躯のごとき存在が静かに父を見下ろすのだった…

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