人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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モルガン「私の依頼をよくぞ果たしました、我が妻。あなたに報奨を与えます。どうぞ受け取りますように」

『十億QP』

リッカ「ファッ!?」

ギル『我等がマスターよ。一般的な金銭感覚の貴様が大盤振る舞いなどしおって。案の定破産寸前ではないか!次からは宴会費などは我に回しておけ!』

リッカ「ギル!?う、うん!」

『まあそれはともかく。戦勝会を開くのは良い。我がマスターなら国家予算程度は懐に忍ばせておけ。貴様の口座にボーナスを振り込んでおいた故、確認しておけ』

『十億QP』

リッカ「ファッ!?」

モルガン「むぅ。噂に違わぬ太いスポンサーです。ですが我が施しと被せるのはいただけませんね…」

リッカ「き、金銭感覚が…」

モルガン「?我が妻?」

リッカ「金銭感覚がマダムになってしまう〜〜〜〜〜!!」

モルガン「我が妻!?どういう事です我が妻──!?」


アフターエピソード・ブライド〜妖精への救い〜

「危なかった…破産寸前までお金を使ったのに使う前よりお金が増えるだなんて因果律破綻に私の正気が消えてなくなるところだった…」

 

モルガンの依頼を真摯に受け、そして報奨を受け取ったリッカ。王族特有の圧倒的財力の生涯賃金ボーナスによるプラスの暴力に脳処理を追いつかせきれず走り出し、気がつけば森…ウェールズの森に辿り着いて寝転がる我等がマスター。彼女はせめて感性は一般的視点でありたいと願っていた。願っているだけとも言う。

 

「後で二人には御礼を言っておかなくちゃ…私の周りには規格外な人しかいないんだから…当たり前だけど…」

 

思えば、キャメロット・オークニーに至ってからはパーティーや人の頼みに取り組み続け休めていた時間は少ないように思える。妖精獄を思えば精神的には不眠不休。いつもながら反応がアグレッシブになってしまったのはそういうところから来てしまったのかもしれない。人の厚意を受け止めきれないなど、らしくない落ち度だ。疲労や諸々が、溜まっていたのだろうか。

 

「…森林浴って心の平静に効くだろうし、ちょっとやっていこう…メンタルはとても大事なファクターだから、ケアしておかなくちゃ…」

 

カルデアには必ず周りに誰かがおり、孤独や疎外とは無縁だ。だが、時には独りでのんびりするのも休みの形だろう。木漏れ日と葉のさざめきが心の安寧を招くのか、うとうとと安らぎにゆらぎ始めるリッカ。

 

「しばし休憩しよう…敵なんていないよ、たぶん…」

 

そう、安心と木々に身を委ねているリッカ。しかし彼女は縁結びに特化しきった宿業を持つもの。真に孤独なる瞬間は訪れない。

 

『まぁ。あなたはモルガンの妻の人間さん。ウェールズの森に来てくださったの?歓迎させていただくわね』

 

リッカの視界に広がる、輝く七色の翅。麗しき足取りに、気品そのものたる振る舞いの彼女。妖精女王ティターニアが、なんとあちらから遊びにやってきたのであった。

 

「!?あ、そのティターニア様ですね!?こんにちは!私は…」

 

『いいのよ、楽にしていただいて。見れば解るわ。あなたの全てに必要なもの、それは安らぎよ。何も気にせずゆっくりなさって?ここは、そういう場所なの』

 

そう促す彼女の言葉は、柔らかな言霊に満ちていた。彼女がそれを二つ返事で受け、極度のリラックスに戻るほどに。彼女は本当に散歩をしていただけの為、大の字に寝転がるリッカの隣に座る。

 

「あなたのお話は、聞いています。大妖精ブライド…妖精獄の善性を導いた、オベロンのお嫁さん…」

 

『まぁ、そうなの?私の事なんて語る方がいたのね。酔狂でも、嬉しいわ。私はただ、見捨てられた妖精達のための居場所を作っただけよ?凄いと言うなら…』

 

ブライドは座り、リッカの額に手を当てた。すると、それにて全てを理解したのか、静かに頷く。

 

『それはあなたや、カルデアの皆様に与えられる称賛よ。人理焼却に、御家庭の死闘。妖精達を救う前から、あなたがたは本当に色々頑張ってきたのね…』

 

 

「え、解るんですか!?」

 

『あなたの記憶、大まかな部分だけを少しだけ見せてもらったわ。やろうと思えば色んな事が解るし伝わるわ。そういう妖精なの、私は』

 

彼女はあらゆる妖精を隔絶する妖精であり、始祖の先祖返りである。善性という性質故に他者に力を使うが、言質の通り、自身の成したい事を必ず実現させられる力を有しているのだ。

 

『私は、このウェールズの森のみんなしか助けられなかった。でもあなたや皆は…数え切れないたくさんの人や皆を助けて、救ってきたのね。本当に…本当に素晴らしいわ』

 

「───。そう言ってもらえて嬉しいです。妖精っていう、純粋無垢な存在に言ってもらえて」

 

『…妖精は、お嫌い?あなたには、私達は嫌なところしか見せられていないから…』

 

ブライドの懸念は最もだろう。妖精獄の妖精達を、達だけを見て妖精を好ましく思えるはずもない。ブライドという、善なる妖精の統治者をおいてもその評価と結論は覆るまい。

 

「あぁ、そんなの決まってるじゃないですか。好きですよ!ホープやモルガン陛下、トトロットにビリィやバーヴァンシー、皆みんな!」

 

だがリッカにとって、あんな悪意に満ちた…いや、悪意に歪められた妖精達などを本質と断じる程狭量な精神性はもう無かった。身体を起こしブライドに問い返す。

 

「どうか気にしすぎないでください、ブライド様。アレは歪められた結果の世界ですし、良い方がいたら悪いやつもいるだなんて当たり前なんです。妖精はそれが、極端に寄っちゃっただけなんですから」

 

『リッカさん…』

 

当然というべきか、達観していると言うべきか。彼女にとって妖精は憎しむべきでも恨むべき相手では無かった。何故なら彼女からしてみれば、その在り方を誰かに歪められた『被害者』だ。自ら悪意に染まった六人の魔物、並びに唆した存在は討ち果たした。ならば妖精全てを憎しむ理由などない。

 

 

「妖精獄を作ったのが妖精なら、ウェールズの森にキャメロット・オークニーを作ったのも妖精でしょ?だからどうか塞ぎ込まないでください。良いも悪いもあるのは当たり前。大事なのは、どっちが数多く心の中を占めているかなんですから。まぁ私の心には悪神と邪龍がシェアしているんですが!」

 

今吸っている空気も、臨んでいる世界を作り上げたのもまた妖精。すべては善と悪であり、どちらのみという存在は神の他にいない。リッカにとって、それは真っ当な結論だったのだ。

 

『…ありがとう。あなたの意見が、結論が人間の皆様全ての答えでないのは解っているけれど…』

 

それでも、救われたとブライドは頷く。彼女は静かに憂いていた。モルガン、トネリコが作り上げた理想郷…それが、妖精の罪を引き継いで新たなる不和へと至るのではないかと。

 

『それでも、嬉しいわ。私達を…罪深き私達を受け入れてくれて、ありがとう』

 

「えへへ、人間の方こそ偉そうに誰かを許すなんて立場でいられるのか問い続けなくちゃいけないんですけどね!」

 

屈託なく笑うリッカに、ブライドは決心する。ならばその輝く意志に報いる体験を、と。

 

『ねぇ、リッカさん。お空の旅行はお好き?』

 

「へっ?…作戦遂行中に飛び回ったり、アルクとミサイル航行したりアーラシュフライトしたり戦略としては好きだけど…」

 

『ふふ、ちょうど今お約束していたの。あなたも…連れて行っちゃうわ。是非、一緒にいらして?』

 

くすくすと微笑み、リッカにそっと触れるブライド。──彼女の力とは、繰り返すようだが全ての妖精を隔絶するものだ。

 

「え───わ、わ、わ!?えぇぇ!?」

 

触れた瞬間、リッカの身体が物理法則を無視して浮き上がる。それは浮遊、反重力式の飛行とも言える現象だ。

 

彼女の力、領域内では全ての現象を実現可能とする。つまるところそれは『重力』『身体構成』『物理法則』すらも無視した願望成就すら可能とする。

 

『さぁ、リッカさん。あなたも果たしにいきましょう?私達が交わした約束、どうぞ立ち会ってくださいな』

 

「あ、えっ、浮かぶ!?高い!高いよ!?わぁぁぁーー!?」

 

ブライドはリッカを連れて空へと飛ぶ。飛び立ち、雲を臨んだそこに──。

 

「おや、リッカじゃないか。そうかそうか、ブライドは君を連れてきたかったわけね」

 

『ブラックドラゴンせんぱい。こんにちは』

『チチチ!』

 

「オベロン!?ブランカに、アルペンちゃんも!?」

 

『約束していたの。いつか青い空を飛びましょうって。あなたも是非、一緒にね?』

 

「まぁ君ならいいか。とってもお世話になったしね。ティターニアの親切にいっぱい感謝しておくれ?」

 

「約束…。そっか。ティターニアって、そういう意味なんだね。オベロン」

 

「──皆まで言うなって。さぁテイクオフだ!ブランカ、僕を乗せて飛んでおくれ!」

 

『せんぱい。つかまってください』

 

「あ、アルペンちゃんが引率してくれるの!?」

 

『ふふ──さぁ、待ちに待った瞬間を始めましょうか』

 

…こうして、妖精王一家は誰も見知らぬ空を飛ぶ。約束のまま、願いのままに。

 

「どうせ片時も気の休まらない旅だろ?たまには羽根を休めなよ。僕みたいにテキトーでいいのさ、旅なんてね」

 

「…うん。もうちょっと、肩の力の抜き方…上手くなるよ。この青い空、眺めながらね」

 

「ふふ、上出来だ!君になにかあったら、いの一番に駆けつけて応援してあげるからね!」

 

「助力は!?」

 

「…………応援してあげるからね!!」

 

「助力はぁ!?」

 

『ふふ…大丈夫よ、リッカさん』

 

ちゃんと、解っているから。あなたが困っていたら、ここにいる皆があなたの味方その言葉は…

 

彼のために、全ては言わないブライドであった。




ブライド『うーん。せっかくだから妖精皆で飛びたいわ』


リッカ「!?」

ブライド『皆に反重力飛行能力を与えて、皆で飛びましょう?』

アルペン『なにをいいだしてますかおかあさま』

オベロン「よしリッカ、君を同行させた理由はわかるね?誠心誠意彼女のストッパーとなっておくれ!頼んだよ!」

リッカ「(納得)お待ちくださいブライド様!そうですね、正式なイベントとして──!」

オベロンの軽口に込められた切実な想いを汲み取り、必死こいてブレーキになるリッカであった。

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