ホープ「わぁ…!ビリィは大きな料理屋さんを作ってもらったんだね!」
ビリィ「あぁ。やっぱり、皆を笑顔にできるのは料理だよ。食べる時は、人も妖精も関係無いからね」
ホープ「私もそう思う!私もスタッフとして、一生懸命手伝うから!」
ビリィ「ありがとう、ホープ。では早速…という前に、少しだけ疑問を解決しようと思うんだ」
ホープ「疑問…?」
アダム「失礼する」
ビリィ「あぁ、ようこそ。カルデアにおける神殺しの王、アダム・カドモンさん」
ホープ「わ、細くてムキムキな人!」
アダム「アダムだ。よろしく頼む。では、君の疑問を聞かせてもらおうか」
ホープ「疑問?ビリィの…?」
「まず、先のキャメロット・オークニーの前身…妖精獄は異聞帯。救いようのない我等が祖先の原罪にて滅びるほか無かった世界であることは、既に周知の事実かと思われます」
レストラン・ヘリント。別け隔てなく誰かをもてなす場所。賑やかな内装も今は静まり、ビリィはカルデアに在籍する一人の存在を招いていた。
「うむ。しかしそれは決して自然な歴史の運びでは無いとの記録も閲覧している。──使徒なる存在にて、歪められたと」
アダム・カドモン。かつての楽園、異聞帯エデンにて神を殺した人類の祖にしてエデンの王。カルデアにて傷を癒やしながら、キヴォトスにて先生を行う彼はビリィの言葉を静かに聞き及ぶ。
「はい。…自主的にサボタージュするのと、唆され悪に堕ちるのはどちらがマシなのか見当が付きませんが…ともかく、発足由来に邪悪な意志が介在していたのは事実です」
「…我等が父との会合から、間違いなく私が討ち果たしたハズの創造主に由来するものと確信は経ている。確かに討ち滅ぼした筈だが、どうしてか逃げ延び…汎人類史の神を名乗り狼藉を繰り返しているようだ」
アダムは沈痛に視線を落とす。神を殺し、アダムとイヴを玩び、人類そのものの在りようを狂わせている邪悪と独善の存在。討ち果たさねば始まらぬと拳を握るアダムにビリィは続ける。
「この地発足のおり、僕は汎人類史の歴史を拝見させていただきました。人類の歴史を、妖精の観点からして見れば違う事が解るのではないかと。そうしたら、一つ気がかりな点を見出したのです」
「汎人類史においてか?」
「はい。神の子とされる救世主…我がギフトが受け継ぎし聖槍が脇腹を突き刺したとされる存在の最期について、僕はメッセージ性のようなものを感じました」
救世主。神の子たる存在。ユダに裏切られ、ゴルゴダの丘にて磔となった偉大なる者。その存在の最期に、気がかりなものがあると告げる。
「彼の最期は、『主よ、何故私を見捨てたのですか』…という言葉であったとされています。ですが自らの死をも、磔をも受け入れたかの存在が、今際の際にて遺言を恨み節になどするでしょうか?」
「…一般的に、かの救世主は人間の原罪全てを背負い磔にされ、罪を赦したとされる。そんな彼が遺す言葉としては…確かに少し違和感を覚えるかもしれん」
「はい、僕はそれに加え、リリスさんという存在とも少しお話をさせていただきました。彼女からしてみれば、人は原罪を刻まれたままであると。これはかの救世主の死が、なんの成果ももたらしていないことを意味しています」
(ぽか~ん)
水を運びながら、ビリィの言葉をなんとか整理しているホープ。アダムは少し考え、そしてその可能性を導き出す。
「…もしや、警句であるというのか?かの救世主は、既に神は死んでおり主が何者かに成り代わられていた事を把握していた?そしてそれを、人類史の遥か未来に伝えようと…?」
「真意はあくまでかの御方のものです。断定はできませんが…彼もまた、神の素晴らしさを広めるために生み出された使徒として見るのなら、合致するのです。教えを広め、堕落を示した妖精獄の使徒たる存在を」
ビリィはかつて、妖精獄の原罪を暴いた。ともすれば、これはかつての妖精獄が切り捨てた善性達が導き出した、狂った歴史への反撃であるのかもしれない。
「かの救世主が広めた経典において、かの救世主は三日の後に復活するとされました。しかし…汎人類史において、救世主が再誕したとされる事実は確認されていません。信仰とは、ある程度好意的な解釈や誇張表現が混ざるものですが…」
「…偽神は彼を復活させなかった。本来ならば復活し、正しい教えを齎す彼を文字通り『見捨てた』が故に…」
最早人類における偽神の介入は甚大なものだ。はじまりの人類を改悪し、魂を転生させ子孫たるリッカを地獄に落とし、人類の原罪をそのままにし、救世主の復活すらも無とした。人類の進化は、数千年単位で遅らされている。アダムはその事実を確信せざるを得ない。神の名を騙る獣は、人類にとっての害獣そのものだ。
「かの神を騙る存在は、はじまりの悪魔達に接触した際にも使徒を使う秘密主義。その存在はおそらく、汎人類史にはいない筈です。ですが…この救世主たる存在ならば、何かきっかけを有しているのではないのでしょうか」
「救世主は復活していなかった。ならばその躯は…未だ埋葬されし墓の中にある、という事か」
「きっと、恐らくは。…これは、汎人類史に最も普及した信仰の根幹を揺るがす俗説。かの神を深く信じている英霊の在るカルデアには、そして汎人類史の皆様には迂闊に唱えられない与太話ですらあります。ですが、僕は確信しています」
汎人類史において、狂い果てた父を救世主は憂いたと。そして後の世に、命をかけてその根源を見出したと。妖精獄の僅か1割の善性は、偽神たる獣の秘匿を穿つ聖なる槍となったのだ。
「エデンの王、かつて邪悪な神を討ち滅ぼした王よ。どうか救世主の身辺と痕跡をお求めください。我等を助けてくれた偉大なる隣人の歴史を、これ以上狂わせること無きよう。そして我等の愚かなる歴史の二の舞いを、どうか彼等に演じさせる事の無きように…」
それはビリィの切実な願いであった。彼は人間を、汎人類史を愛している。だからこそ、それを狂わせんとする存在を断固として許せぬと、レストランオープンを遅らせてまで情報を託したのだ。
「確かに受け取った。かつて殺した偽神の不始末…此度はここで完全に潰えさせねばならない。かつて討ち果たした者として、汎人類史に生きるものとして」
「アダム様は、先生でもあるのですよね?」
「あぁ。汎人類史における平行世界…キヴォトスにおいて先生をしている。透き通るような純粋な魂が織りなす学園生活の導き手をさせてもらっている」
「素晴らしい…!実は僕も、いつか誰かに何かを教えられるような存在になりたいと思っているんです。もしよろしければ、先生とはどのような存在か教えてもらえたなら!」
「良いだろう。ケイローン殿やスカサハ殿にも声をかけておく。有益な時間を過ごそう。ビリィ・ヘリント」
差し出したアダムの手を、大きな両手で掴むビリィ。ここに、偽神に迫る情報が一つ備わった。汎人類史にとって…これは値千金のものだ。
(む、難しいお話終わったかな…?)
『先生〜…レストランに来たのにお水だけなんてマナー違反です!ピザとかカルボナーラとかハンバーグとか、アロナも食べたいです〜!』
「ひゃあぁ!?は、箱が喋った!?」
『うぇえ!?あ、ごめんなさい!アロナっていいます!アダム先生のパートナーです!』
「こ、こんにちは。私はホープ!ビリィのお手伝いで…あれぇ?これ、どうなってるの…?」
『うひゃあ!持ち上げないでくださあぁいや!落っことさないでくださいね!?先生ー!ごはん!ごはん〜!』
「あぁ、すまないアロナ。…我がパートナーがお腹をすかせてしまっているのだが…」
「ふふ、はい!ではレストラン・ヘリント、貸し切り開店と行こう!ホープ!」
「!うん!お手伝いは任せて!」
『やった〜!ごはん〜!』
「……タブレットの向こうの君も食べられるのか?」
『あっ、ええっと…み、味覚を共有しますので!アダム先生、いっぱい食べてください!アロナが食べたいものを!』
「………………解った」
…後にアダムはカレー、ピザ、ハンバーグ、満漢全席、ラーメン、フルコースを平らげる羽目になった。
『ふぃ〜〜…大満足です………』
「だ、大丈夫ですか?アダム先生!?」
「…………大丈夫だ」
しばらくアダムはトイレから出てこなかったという。
オーディン「なるほど。きっかけは齎されていた…か」
パパポポ『善き妖精達よ、ありがとうッポ…早速私は、息子の墓を見に行く。オーディン、智慧の覇者。君も何か気付いた事はあるだろうか?』
オーディン「解らん」
『解らん!?』
オーディン「いや…湖で首吊りが禁止され、探求できなくてな。今から首を吊れる秘境を探しに行く。見つけたらまた連絡しよう」
パパポポ『あぁ…』
首吊りは必須なのか…パパポポは、難儀な性分にちょっと引いたという。
…そして。
パパポポ『…あぁ、我が息子よ』
汎人類史における墓にて…
『天の座への、道筋を記す』
未来へと託された、『座標』の位置を…父は見出したのだった。
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