ブランカ『チチ、チチ?』
オベロン「あぁ、これかい?実は贈り物なんだけど、たちの悪い概念があるせいでうまく出来るかどうか不安でさ。悩んでるんだよね。モルガンやトネリコに頭下げたくないし、どうしたものかなぁ…」
ブランカ『チチ!』
オベロン「あ〜……。そういえば、この概念の天敵みたいなものだよね、彼女。よし、じゃあちょっと力を借りに行くとしようか!もう争う理由も、いがみ合う理由もないわけだしね!楽園ヒャッホウ!」
ブランカ『チチ〜!』
「というわけでこんにちは!あなたの私の妖精王オベロンだ!今暇かい?ちなみに僕は全ての誘いに行けたら行くと返すタイプだ!」
「絶対に来ないやつじゃん…」
モルガンが妻用に設立した大寝室、具体的にはリッカ五人分のキングサイズベッドにて呆然としていたリッカの前に窓から侵入する妖精王オベロン。当然ながら不法侵入だが、気がついたらベッドの下に清姫やベッドの中にアルクがいたりするので最早リッカは気にしない。爽やかに挨拶するオベロンに静かに頷く。
「妖精国では色々と苦労をかけたね。そんな苦労好きな君にさらなる苦労をかけたいと思うんだけどどうかな?」
「別に好きじゃないよ!?あー、うん。まともに本当の事言えないタイプなんだね。あなた」
「…へー。話が早すぎて怖いな、君。じゃあお為ごかしは無しだ」
オベロンは流れるようにモルガンが妻に用意したジュースを吸いながら、ピッと懐より便箋と手紙を取り出す。
「真夏の夜の夢、全ては一夜の夢に過ぎない。そんなふざけた作家の書いた戯曲が紛れたせいで、僕の言葉や言動はねじまがり本当を口にできない。まぁ、この僕はブランカが和らげてくれるからマシだけどね」
『チチ』
「そんな僕のあてにならない言葉でも、伝えたい事がいる相手がいる。そんな相手にねじまがりはちょっと勘弁してもらいたくてね。君、コミュニケーションの龍なんだろ?同じ邪竜として、知恵を貸してくれないかな?」
ふむ、とリッカは頷く。言葉で駄目なら便箋を、という目論見を持ったのは悪くない着眼だと感じる。
しかし、サーヴァントの性質というものは小手先では変えられないものだ。ディルムッドの魅了然り、静謐のハサン然り、持って生まれたものは安々と消えない。
「…自分がどの程度ネジ曲がっちゃうのかのレベルは把握してる?」
「んー、心の底から違う!っていったらそうだよ!になる…とかかな?あはは、テキトーな事しか言わないからわからないかな〜!」
『チチ!チチ!』
翻訳はブランカって虫さんがやるんだ、と理解したリッカは頷き、色々とプランを提案する。彼女は頼まれたのなら死力を尽くすタイプだ。
「代筆はどう?私がやろうか?」
「ありがたいけど、僕の言葉を聞いて書いてたら大変だよ?1節目と全く言うことが違ってたりするかもしれない。そういうものなんだ、僕はね」
「音声認識とかは…」
「言っちゃあ悪いけど、僕ほど薄っぺらい言葉を吐くやつなんていないぜ?記録したってきっと無駄さ」
「適時ブランカちゃんに通訳は…」
『チチ!チチ!』
「流石に彼女が疲れちゃうから、あんまり疲れさせる事はさせたくないかなぁ。通訳いないと困っちゃうしね〜」
(疲れさせたくないはホント、通訳いないと困るは半分嘘で半分ホント。まともに大切な人の心配もできないレベルなんだ…)
複雑かつ難儀な性分だなぁ、とリッカは理解し痛感する。なるほど、これは助けを求めにくるのも納得できるというものだ。
「おそらくはじまりの妖精共に悪知恵を吹き込んだやつから概念が流出したんだろうなぁ。あ、シェイクスピアにはもう手紙が出来てるから、出会えたら後で渡しといてくれる?」
「わぁ、なんだかんだで作者だからリスペクトしてるの?流石妖精王!(カルデアにはいないけど…)」
「ううん?致死量たっぷりの毒を開く場所に塗りたくってやったから、君は触っちゃダメだよ?」
(溢れんばかりの殺意だった…カルデアにいなくてよかったかもしれない…)
にこやかな殺意を受け止めながら、リッカは思案する。せっかく頼ってきた妖精王オベロン、釣り銭なしのお手上げで返すような真似はしたくないのが本音といったところだ。うむむとリッカは熟考する。
「それは、言葉がネジ曲がっちゃうって事なんだよね?」
「そうだねぇ。自分でもどのラインからネジ曲がるのかは把握しきれてないものだから困っちゃうよ。シェイクスピアくたばって♪」
『チチ!』
「書くのも駄目、音声記録もダメ…でも、伝えたい気持ちはちゃんとある…ネジ曲がらない為にするべきことと言ったら…」
リッカは反芻しながら、手紙をじっと見つめる。文字を記し、想いを伝える。それが通じ合っているというのにうまく伝えられない、伝えにくいというのはまた複雑な問題だ。
「ちなみに、誰に渡したいのかは聞いても大丈夫?」
リッカの問いに、あぁ、そう言えば伝えてなかったっけ?と大げさに肩をすくめてみせる。
「世話になった─────。まぁ、それなりにお世話になった相手に、御礼の一つも言っておきたくてさ」
「………──」
その言葉に、その相手に。まさに万感の想いが詰まっている事をリッカは容易に想像できた。二度同じ事を言うくらい、彼にとってそれは大切で。
でも、詳しく言ったらネジ曲がってしまう。大切な想いほど、彼は言えない。口にできない。仔細な言葉を紡げない。それはなんと、残酷な事であろうか。
「彼女にとっては、まぁなんでも無いんだろうけどさ。でもまぁ…忘れるのも、不義理なわけだし」
「…うん。そうだね。そうなんだね」
これは、軽薄な態度に隠された切実な願いだ。絶対に、完遂させなくてはならない依頼だとリッカは確信し脳細胞をフル回転させる。彼の願いを果たすために。
(想いを伝える…想いを伝える…それは手紙…手紙という媒体…)
思いはネジ曲がって伝わってしまう。ネジ曲がっては伝えられない、伝えてならない想いを、手紙にて。
(手紙…手紙…手紙!?)
その時、リッカの脳裏に電流が閃いた。突如落ちたインスピレーションの雷鳴にアンリとアジーカが直撃したイメージがあるがそれはきっとイメージだろう。
「ひらめいた!オベロンが想いを伝える方法!」
「え、本当かい?それはいいや、是非とも教えておくれ!」
「白紙だよ!」
「は?」
「白紙でいいんだよ、オベロン!」
大真面目に、意味不明な言葉を発するリッカにオベロンはしきりに困惑を顕にしながら眼を丸くする。
『チチ!チチ!』
ただ…ブランカのみが、その判断と提案が間違いでないと伝えるのであった…────。
…そして、数時間後。キャメロット・オークニーにて創られた大来賓の間にて座する存在が、それを受け取る。
『ブライド母様!父オベロンよりお手紙が!』
『まぁ。本当に?それは嬉しいわ』
ブライド…否、アルビオン・ペンドラゴンに、ティターニア。二人の妖精が、オベロンよりの手紙を受け取り喜色にて手に取る。
『我が父は何を書き記したのでしょう!さぁ、開けてみましょう!』
『ええ、楽しみね……あら?』
便箋を開き、目を通したそこにあるものにティターニアは首をかしげる。アルビオンもまた同じく。
『あれ?手紙に何も…あれ?おや?』
しまわれていた手紙には、なんと何も書かれていなかったのだ。デザインはウェールズの森や虫達のイラストが書かれた手作りの、凝ったものにも関わらず…
『───あぁ、ふふっ。あぁ。そういう事ね、オベロン』
『ブライド母様?』
『言葉じゃないわ、アルビオン。ほら、見てご覧なさい。これが彼の、伝えたいことよ』
ティターニアは手紙ではなく、それを封じていた便箋を開く。一度形を崩し、そして裏返してそれを広げると…
『わぁ…!』
なんと、そこにはティターニアにアルビオン、ブランカ、ウェールズの森の妖精達とオベロンが丁寧に描かれたイラストが広がっていたのだ。イラストは手書きの力作。皆が幸福を浮かべ、楽しげに戯れている。
その中で、オベロンはティターニアの手を優しげに取って甲に口づけをしていた。それの意味を、ティターニアは理解したのだ。
『ふふ、やっぱり貴方は誠実で素敵な人だったわ。思った通りの…』
『わぁ!私です!皆も!凄い!』
言葉ばかりが、コミュニケーションに非ず。伝える手段は沢山存在している。
イラストの妖精達が皆笑顔である事から、ブライドは読み取った。何を意味するかを。
『──ふふ。本当に、良かったわ』
はしゃぐアルビオンを優しく撫で、受け取った便箋をいつまでもティターニアは楽しみ続けたのであった…。
オベロン「なるほどね。言葉はネジ曲がってしまうならイラストで、か」
リッカ「あなたの思う通りの相手なら、きっと想いを汲み取ってくれるよ!夏草とマスターの皆で描いた力作だしね!」
オベロン「───君がカルデアのトップマスターでいられる理由、解った気がするよ」
ブランカ『チチ!』
オベロン「ありが───」
モルガン「クソ虫。我が妻の部屋で何をしている?」
リッカ「あ、陛下」
モルガン「妻を抱きに来たのですが…。どうやら殺虫が必要と見えますね」
オベロン「あっははははははごめん御礼はまた今度ねー!!」
モルガン「消し飛べ───!」
リッカ「待って!部屋では駄目です!待って!!止まって!!」
ファァァーーーーーーーーー!!!!
……部屋ごとリッカが爆散したのは、また別のお話。
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