人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『翅』

パパポポ『ポ!!』

(アバドンの翅…やはりか。天使の鋳型を悪用するとは…)

『…御苦労だった、アバドン。また、新たなる姿と使命を託す。共に帰ろう、天の御座へ…』

ギルガメッシュ「さて…我等は最後の後始末に向かわねばな」

──はい。『歪められたものを、元に戻す』ですね。

フォウ『これをやれば、まとめて罪人になった事実そのものを消せる。まるごと妖精を助けることになるのかな?』

「さてな。どうあれ、改悪を加えた粗悪品は叩き直すが道理。ある意味で、偽神の介入は救いであろうよ。『歪められた』という言い訳が立つのだからな」

──ならば、我々が介入し阻むのもまた道理!

『そういう事だ。では参るか。──異聞世界の生誕を見届けて、な』


全ての理想の目覚める刻

戦いは───終わった。

 

厄災は祓われ、鎮められ、また、その真なる姿を取り戻された。

 

悪辣な妖精達はその末路にて正しく滅び去り、世界を喰らうアバドン・セファールは救世主が産み出した聖剣により打ち払われた。

 

奈落の虫は、善なる妖精達により砕かれ、またヴォーティガーンはブリテンの滅亡により役目を全うし消え去った。

 

厄災の呪い、それによる嘆きが消え去った妖精國。ただ、遠くに波の音が聴こえる最中、カルデア…そして、救世主達の最後の成すべき大仕事が残っている。

 

それは、ケルヌンノス神の遺体の浄化。並びに道具に貶められた巫女の遺体と尊厳の返還。それを成し遂げなくては、術式──異聞世界創造は成し遂げられない。

 

いよいよ、長くもあり短くもあった妖精國の贖罪の巡礼が終わりを告げる。妖精達への、免罪を以て───。

 

 

『皆様、まずは御礼を言わせてください。私…いえ。私達に力を貸してくださり、ありがとうございました。ブライドが見出してくれた黄金の旅団、汎人類史におけるカルデアの皆様のお力添えがなければ、これほど上手く事は運ばなかったでしょう』

 

モルガンの霊基を借り受けたトネリコが、恭しく頭を下げる。宝物、善なる妖精を護り抜く為に数千年奮闘し、冥き道を行き続けた救世主。彼女無くして、この結末は有り得なかった。

 

「ううん、気にしないで!私達だって、沢山の経験や宝物、素敵な妖精の皆と旅ができて嬉しかったから!」

 

「はい!皆様と滅びに立ち向かい、世界を救う!これこそ、王道の物語と言わずしてなんと言いましょう!」

 

『グランドマスターズも含めたカルデアスタッフ一同の所感は『もう厄災は懲り懲りだ』だよ。とにかく精神的に参った人が多かったからね…』

 

『よくもまぁ、我々もこんな綱渡りの戦いを殉職無しで乗り越えられるものだねェ…』

 

『日頃の奮闘の賜物ですよ、副所長。──積もる話をするのは、また後で。成すべき事はまだあるでしょう?』

 

オルガマリーの言葉に、トネリコは頷く。眼前には、へたり込むケルヌンノスの遺体。遺体に巣食う呪いは、最早ほぼ意味を為さない。罰するべき妖精は、もういないのだから。

 

「ケルヌンノス…。あたいのパワーを引き出してくれたお前に、礼を言うぞ。しっかり、とむらいをしてやるからな」

 

チルノが見上げ、語りかける。ケルヌンノスの遺体は善性分活動できるのか、ゆっくりと頷いた。

 

『大神オーディン。共に術式の仕上げをよろしくお願いします。あなたは全知の神。任せるに何ら不安はありません』

 

『うむ。アビス・ヴォーティガーンは滅び、星の蝗も聖剣に打ち払われた。最早我々を阻むものはない』

『もうおしまいなのね…。まぁ、マーリンを存分に摂取できたから良しとしましょうか。また会いましょう?また、ね』

 

妖精國にて、確かなる頭脳であったオーディン。アヴァロンへの交通を快適としたニミュエ。彼ら無くして、この結末は容易では無かっただろう。

 

『じゃあ、私達も御祝に鐘を鳴らすとしましょうか?』

 

『賛成です!』

 

『『『『以下同文!』』』』

 

「ここまで来たんだ。最後まで我々も見届けよう」

「はい!どこの世界であろうと、どんな世界であろうと!ケルヌンノス様はケルヌンノス様ですから!」

『ヌン!ヌン、ヌン、ヌーン!』

 

汎人類史の六妖精は、妖精の赦免──祝福の鐘を鳴らすためそれぞれに散っていく。ルイノスにウーサー、ケルヌンノスは寄り添い顛末を見届ける。

 

「はー、頑張りました頑張りました!アヴァロンの妖精達には鬼詰めされるでしょうが、まぁ結果オーライです!」

 

『すみません、キュート・キャスター・アルトリアさん。貴女の姉の身体を好き勝手に…』

「あぁ、全然気にしないでください!むしろ虫が平気な姉さんとかレアーなものを見られましたから!最後の仕上げ、見届けさせてもらいますよ!」

 

「キャスター・アルトリア。平気ですか?」

「…あ、ううん…私…はっ!アバドンは!?」

「無事に討ち果たしました。貴女と、私が決め手を担ったのです。素晴らしき奮闘に、王から言伝が」

 

「王様…ギルガメッシュさん!?」

「『見事だ、我が財よ』……あなたは確かに、カルデアの一員なのですよ」

「〜〜〜う、うぅ…!うわ〜〜〜ん!お墨付き貰えた〜〜!頑張って、頑張って良かった〜〜!!」

 

騎士王に縋りついて泣くキャストリア。トネリコと笑い合うCCA。楽園の妖精、騎士王、星の王、救世主。妖精獄の悪性と罪を晴らすには、これ程の光り輝く星が必要だったのだ。

 

「全く。無理ゲーも良いところだったのに良くやったよ、あいつら。ゲームには縛りプレイしなくちゃ気がすまないタイプなのか?御苦労な事だね、全く」

『いいえ。どの様な困難や、苦難があっても。それを乗り越えるに足る素晴らしい物語だと皆様は感じてくれたのです、オベロン。先代ブライド様が生まれた、この妖精国の物語を』

 

「………………………………………ふん。そうかい」

 

『『『『『□□□□□□□!(ぼーてがん!ぼーてがん!ひさしぶり!ブライドもいっしょなの?よかったね!)』』』』』

 

「君等…!トネリコにくっついてたのかよ、しぶといな!」

『チチ、チチ!チチ!』

 

『ふふっ…。嬉しいサプライズ、ですね。オベロン!』

 

オベロン、ブライド。ブランカ、ウェールズの妖精達。悪に塗れた咎のブリテン、妖精達の赦免への想いが産み出した善なる妖精達。

 

「トネリコ…」

『トトロット。…私の罪は、必ずや償います。今は…』

 

「いいんだ。野暮はいいっこなし。今は…」

 

「ビリィ、繊細に持ってやれよ。聖体なんだからな?」

「勿論さ。卵や割れ物を持つかのように…」

「お前達、よくぞ奮闘したな。ケルヌンノス神も確かに目の当たりにした事だろう。その資格有りと」

「皆がいてくれたからです。私達を信じてくれた皆と…素敵なオヤブンがいてくれたから!」

「こんな素敵な瞬間に立ち会えるなんて。…本当に、ありがとう」

「フ、その通りだ。──さぁ、我等が親分!我等が妖精の総仕上げ、共に行おう!」

「あぁ。最後まで、あたいに付いてこい!」

 

「…皆で最後の、やるべき事をやろうじゃないか」

『ふふ、はい。──皆を、あり得たもしもから。確かな宝物にするために』

 

黄金の旅団が命を懸けるに値する、救世主一行達。その誰もが見守る中、とうとう最後の大儀式が行われる。

 

『祭神よ。我等が穢し、貶めた巫女を御身へとお返しします。我等が咎、永遠の原罪。それらの過ちの清算を、此処に』

 

トネリコの魔術により、妖精達が整えた死化粧を施され、ルイノスが監修した意匠を持つ死装束を纏いし巫女が、ケルヌンノスの遺体の核へと納められていく。

 

『この日をもって、罰の終わりを。善なる妖精の証を以て、罪の終わりを。どうか新たなる妖精達の未来を言祝ぎたまえ。どうか永遠の安寧に身を委ねたまえ。我等が祭神、ケルヌンノスよ』

 

同時に、妖精國に鐘の音が鳴り響く。ウィンダ達始まりの六人がその身を使い、ケルヌンノスと巫女を宥め、妖精達の行く末を祝福する鐘の音を打ち鳴らしているのだ。

 

『そして、この積み重ねられし妖精の死骸に再誕の祝福を!彼等が魂の底に懐きし、赦免の訴えを以て新生する世界への礎と為し給え!我が大恩ある大妖精ブライドを始めとした、妖精達の声無き声を聞き届け給え!』

 

瞬間、妖精國の大地…即ち妖精達の死骸が魔力に変換され光り輝く。術式が発動し、始まりの魔物が無に積み重ねた罪業の大地が今、1万2000年分の魔力の奔流へと変わる。

 

「わわ、足元が!足元が消える!?」

『心配ないよ、沈んだりしない。全ては──在るべき姿に戻るのさ』

 

ロマンの言う通り、それは消失ではない。救世主、大神の手により更に精度を増した大儀式が今、起動する。

 

「よーし!ならそこに、より良い世界をビルドする聖剣魔術も付けちゃうぞー!異聞世界が更により良くなるよう、世界の内海の鏡となれ!聖剣よ!」

 

『──アルトリア・キャスター。あなたもぼうっとせず、力になりなさい』

(あっ──未来の私…!?)

『楽園カルデアの一員ならば、悲観的な感傷は捨てなさい。完全無欠のハッピーエンド、手伝うのです』

(う、うん!あと、はっぴぃえんどね!ひらがな!)

『…妙なところでガチなのですから』

 

其処に、聖王の聖剣魔術。キャスター・アルトリア…並びに『聖剣の管理者』の後押しも含め星の揺籃はさらなる輪郭を帯びる。

 

『騎士王。貴様の奮闘しかと見届けた。騎士王たる概念ゆえ、非の打ち所無き地上の星であったな』

『ギル。プリンセスとキャスパリーグは無事ですか?』

 

『無論だ。その二人のたっての希望でな。褒美をくれてやる。好きに使え』

 

そして、騎士王に託されしは『界聖杯』。世界そのものたる、ギルガメッシュ最大の秘宝が一つ。

 

『──感謝を。プリンセスの宝具は使用なさるのですか?』

『あぁ。贋作にガラクタばかりの死骸地であったが…それを補って余りある財宝の名産地故な』

 

聖剣の二振り、善き妖精達。ブリテンの二大竜、並びに大妖精の力を引いた竜の妖精。一割のかけがえのない至宝達は、王を大いに満足させた。

 

故に──裁定は下ったのだ。この歴史は、この土地は。『善きもの』であると。

 

『祭神よ───!新たなる世を、言祝ぎたまえ──!!』

 

トネリコの手による聖剣、ホープ・カリバーンが輝く。ケルヌンノスの遺体が、その光により静かに消滅していく。最愛の巫女の遺体と共に。

 

無数の光が立ち上り、蛍のように黄金の光が煌めく。妖精の鐘からは虹色の風が巻き起こる。

 

空には虹がかかり、煌めく風は、優しき嵐となりブリテンを包む。

 

そして上空にて──

 

『皆様、本当にお疲れ様でした。どうか新たなる世界のその先で、沢山の笑顔と幸福が待っておりますように…』

 

黄金の帆船、ヴィマーナにて。白金の姫がそれら全ての祈りを尊重し、宝具を放つ。

 

『『人理を照らす、開闢の星(エヌマ・エリシュ)』───』

 

白金の乖離剣より放たれる、虹色の嵐は地上の黄金の輝きと混ざり合い、そして──

 

 

────誰もが望んだ、希望に満ちた世界を到来させる。




リッカ「う、うぅん………ね、ねはん……ねはんがみえる…」

騎士王「リッカ。我がマスター。お目覚めを」

リッカ「ふぁっ!?妖精国は!?」

騎士王「大丈夫です。──どうか、御覧下さい」

騎士王に促され、リッカはそれを見やる。

リッカ「───おぉぉ………!!」

遥かなる青空。軽やかに流れていく白き雲。

実り豊かな森。流れ行く川、大いなる海。

聳え立つ霊峰。踏みしめる事の出来る、どこまでも広がる大地。

騎士王「そして──こちらを」

丘に立つ騎士王が、リッカを振り向かせる。

リッカ「わぁ…!!」

その眼前に在りしは、輝ける白亜の城。全ての傷と怨恨を癒やす故郷。

その門には、『遍く全てよ、通るが良い』と書かれし、誰もを受け入れる理想の城。

騎士王「これこそが、救世主トネリコが描いていた心象風景。聖剣の内海に記憶された、幻想であるが故に麗しき理想郷」

そう。此処は異聞世界。

確かなる強度を以て、存在する楽園の妖精領域。

その正しき名こそが──

トネリコ『黄金の旅団の皆様、ようこそ──!我々の国へ!』














妖精円卓理想郷


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