人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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嫌いなものは、自分自身だ


時々、余は自分を絞め殺したくなる


――シータを追放するよりなかった、無力な自分を。だからこそ、余は少年の姿にて召喚されるのだ

シータを思うだけで満たされていた、あの頃の姿で――


ラーマーヤナ――新たなる神話の、結末を目指して――

「さて、時間が惜しい。的確に処置を施し、さっさと貴様の格に相応しい働きをしてもらわねば我等の旅路に支障が出るのでな」

 

 

民家の一室、インドの大英雄ラーマを一室のベッドに横たわらせ、波紋を展開する

 

 

「あぁ・・・!もちろんだ。最古なりし英雄の中の英雄王、ギルガメッシュだけでも、ヴィシュヌの助力に匹敵するという援軍に加え、そこにアルスターサイクルの大英雄がいるならば憂いはない・・・!というかクー・フーリンがいたのは心底肝が冷えたが・・・味方というならこれほど心強い者はない。彼の恐ろしさを、この身をもって理解しているからな・・・」

 

――英雄王、ラーマとはどのような英雄なのでしょう?

 

これから肩を並べる英雄を知りたいという疑問、最大級の評価を送る王に、持ち前の好奇心が顔を出し訪ねるエア

 

 

《コサラの王、ラーマ。苦行と修行の常習者たる魔王ラーヴァナにあらゆる神々に殺されぬという祝福を与え墓穴を掘った神々が魔王に蹂躙され、無様かつ哀れにも最高神ヴィシュヌに泣きつき、人間として転生した存在がこのラーマと呼ばれる英雄だ。シータと呼ばれる伴侶を巡り、猿を率いて10年もの間魔王と戦いを繰り広げた『武芸』という点においては並ぶものなき逸材よ》

 

――さ、最高神の転生体!?す、すさまじい来歴の英雄です・・・!すごい!

 

(エア並感)

 

部屋のすぐ外にいるフォウが念話を送る

 

《こやつの国でも無論最大級の知名度と人気を誇る。こやつの評価されし点は何よりも徳だ。善政を敷き、民を重んじる理想かつ最高の王と賛美を受け、シータとの熱く、哀しい恋愛劇は心を打ち、インドでは武芸に長けた者を『ラーマが如し』と讃える程の無双の武勇を持つのだぞ》

 

 

――そんな素晴らしい方が、こんな、惨い有り様になるなんて・・・

 

 

包帯で隠されてはいるが、彼の胸は無慈悲に抉り開かれ、皮膚の下の人体内部が余さず露出しているむごたらしい有り様だ。特に心臓はその九割が吹き飛ばされ、苦痛と呪いを全身に送り込む呪詛の器官になってしまっている

 

「底の抜けたバケツというほど酷くはありませんが、常に治療していなければ直ぐに心臓の崩壊が始まります」

 

『クー・フーリンの槍、死棘の魔槍の呪いだよ。本来なら彼はとっくに死んでいなきゃおかしい』

 

ソロモンが言うが早いか、モニターに銃弾が放たれる

 

「ドクター・ロマン。不用意な発言は控えてください。彼は生きようとしている。死ぬなどという言葉は不適切です」

 

次言ったら殺すと言わんばかりに怒気を含めた眼差しで睨み付けるナイチンゲール

 

 

「貴様は他人を激昂させる天才よな。何のために人の情緒を願ったのだ」

 

呆れながら哀れみを向ける王

 

『ごめんなさい!で、でもそうなんだよ本当に!彼は死の運命を気合いと意志で逆転している!その気迫だけで致死の傷を堪え、呪詛を飲み干しているんだ!』

 

――人の意志はそれほどの力を持つんだ・・・!本当に凄い!まさに彼は、大英雄に相応しい心を持っているんだね!

 

胸の昂りを抑えられない。これが英雄、これが人間の遥か上を行く、歴史に名を刻みし者の気概・・・!

 

(殺しても死なない、の世界だよもう。インド本当に頭おかしい)

 

「ふふっ、そうだろう?余は、凄いのだ・・・ぐうっ!!」

 

僅かに身動ぎするだけで苦痛と呪詛がラーマを襲う。顔は死人の白に染まり、胴体に巻かれた包帯を余すことなく鮮血に染め上げる

 

「ラーマ君。安静に。君は本来面会謝絶、絶対安静なのですから」

 

ゆっくりと身体を横たえさせ、呼吸器を付けさせる。

 

「情けない・・・だが、妥当でもある・・・クー・フーリンの前に、討ち果たす意志無く立てばこうなるのは必定だった・・・」

 

 

「やはり狂犬か。・・・さっさとはぐれを回収していたのは正解だったな」

 

パチリ、と黄金の波紋から解呪、転写宝具を取り出し、辺りにならべる

 

《財の選別、まこと御苦労であった、エア》

 

――王のお役に立てたなら、幸いです!やったよフォウ!誉められ・・・あ、今は、・・・外かぁ・・・

 

(あぁ、エア!ごめんよぉ!)

 

虹色のカードに封印されるフォウ。しかし エアには みえない

 

 

「ナイチンゲール。これよりこやつの施術に入る。席を外せ」

 

ナイチンゲールに短く指示を出す。頷き、医療器具を一式を整え規律正しく立ち上がるナイチンゲール

 

「お願いいたします、英雄王。『生きたい』と願う彼の想いを、無に還す事の無いように」

 

「案ずるな。天下泰平御機嫌王に任せておくがいい」

 

ぺこりと一礼し部屋を出る

 

「これはアナタの持ち物ですか?落ちていましたよ」

 

ヒュン、とトランプになっていたフォウをナイチンゲールが投げ渡す。それを指二本で掴みとるギルガメッシュ

 

《考えたな、獣》

 

(流石にナイチンゲールに殺されるからね。この無菌室トランプにいるよ)

 

――お帰り!フォウ!

 

(ただいま、エア!)

 

 

「さて、では取りかかるとするか」

 

「・・・助かる。これで余も、戦えるようになるのだな・・・」

 

「その前に、お前に一つ問わねばならぬ事がある」

 

宝具を手に取る前に、王の眼差しがラーマを射抜く

 

「問い・・・?」

 

息も絶え絶えに、首だけを傾けるラーマ

 

《エア、暫し王として語る。少し下がれ》

 

――はいっ、王。その言霊、存分に

 

《うむ。すまんな》

 

即座に王に全権を渡し、半休眠に入る

 

 

「――お前の求める伴侶、シータの位置は掴んでいる」

 

「本当か!?」

 

「海に囲まれし監獄所、アルカトラズとやらの牢に囚われていたぞ。案ずるな、真実だ。我の眼で垣間見たのだからな」

 

その報告を聞いたラーマの顔が、安堵と歓喜に充たされる

 

「あぁ、シータ・・・!ようやく君に・・・!」

 

「逢う事が叶わぬ因果は貴様が一番理解していよう。――その身を蝕む呪い、安くはあるまい」

 

王の指摘に、沈痛な様子で下を向くラーマ

 

 

「・・・そうだ。余とシータを引き裂く離別の呪い。それがある限り、余とシータは巡り逢えない」

 

――離別の呪い・・・?

 

 

(ラーマが生前受けた呪いさ。ハヌマーンっていう神格を持った猿との戦いで背負った呪いでね)

 

《こやつは自軍の猿を救うために敵を後ろから斬った。それを赦せぬとした敵の猿の妻が言い放ったのだ。『お前は妻を救えど、喜びを分かつことはない』と負け惜しみをな》

 

(そのせいで彼等は決して同じ場所に召喚されることはないのさ。『ラーマ』という英雄に、ラーマもシータも含まれてしまう故に、どちらかが召喚されればラーマが召喚された事になる。クラスが違うという言い訳も許されない。――本来なら何をしようと、けして巡り会えない定めなのさ)

 

 

――そう、なんだ・・・十年も追い求めるくらいに想い合っていても、けして

 

 

・・・自業自得、といえばそうなのだろう

 

仕方無い、といえばそうなのだろう

 

それでも・・・胸に沸き立つ切なさを止める理由には、けしてなり得なかった

 

「では――お前は何故闘う?悲恋を詠う自分に酔うためか?それとも、世界を救う大義に逃避し、あわよくば巡り合うのを期待するためか?」

 

「な、にを――!ぐうっ・・・!」

 

掴みかからんと牙を剥くラーマを怪我が制止する。呻きながらベッドから転がり落ちながらも、ラーマは視線をそらさない

 

「そのようなつまらぬ理由なら貴様など不要。財を使う価値もない。今すぐ死んで失せよ」

 

――・・・・・・

 

王の言葉に、けして自分は口を挟まない

 

彼が王の語らいとワタシに伝えたのだ。感傷で邪魔をすることは許されない

 

・・・でも、ベッドに横たわらせてはあげたい・・・っ

 

(我慢だよ、我慢)

 

 

「我が財を振るうに納得させる動機を我に告げよ。さもなくば貴様はここで、野垂れ死ぬのみだぞ」

 

「――死ぬ・・・」

 

ギルガメッシュの言葉に、呆然と呟くラーマ

 

「死ぬ、死ぬ・・・なんの為に戦う?決まっている。余は民のために、世界のために、未来のために、人理の為にこの命を捧げ・・・」

 

「――愛する者を見捨てて、か。英雄としては合格だが、なんの面白味のない凡百の悲恋にしかならぬ選択よ」

 

「!!!」

 

ラーマが愕然と突っ伏す

 

「そうではあるまい。・・・告げよ。貴様の本当の望みを。王たる我が聞き届ける。王たる我が赦す」

 

膝を折り、目線をラーマに合わせる英雄王

 

「貴様の、真なる願いを告げよ。『我欲』に基づく願いこそ、我は尊び、聞き届け、叶えよう」

 

「――――余は、・・・僕は・・・――」

 

その言葉に涙を流し、拳を握り、叩きつける

 

「――逢いたい、逢いたい!シータに、シータに逢いたいんだ!ただ一度でいい、もう一度だけ、手を繋いで歩きたい!僕は、それだけでいいんだ!」

 

大粒の涙を流し、ラーマは拳を何度も叩きつける

 

「彼女に逢えるなら、僕はそれだけで良いんだ!助けたい、逢いたい!もう一度、彼女を抱きしめたい!話をしたい、それだけが僕の望みなんだ!――この世界に、この世界にシータがいるのに!やっと、やっと!僕は彼女に巡り逢えると確信したのに!」

 

少年の如く、彼は魂の慟哭を放つ

 

「僕の過ちを謝れないで・・・!また、ずっとずっと離れ離れだなんて――!そんなの嫌だぁあぁあっ――!!あぁ、あぁあぁあぁあ・・・!うわぁぁあぁあぁあぁあ――っ・・・!!」

 

――

 

 

『10年も敵に浚われたシータは、純潔を失っているのではないか』

 

ラーヴァナを倒し、凱旋した二人を待っていたのは、民達のシータの貞節を疑う声であった

 

彼女は無論貞節を護っていた。純潔だと主張した

 

ラーマもそれを知っていた。彼女は清らかだと、身を以て解っていた

 

・・・だが、二人の相互理解を、しがらみが切り裂く。

 

 

民の堪えない疑惑を収めるには、シータを国から追放するより他なかった

 

そうしなければ、国も民も、納得させることが出来なかったからだ

 

 

『ゆるせ、ゆるしてくれ、シータ。私は無力だ、愚かな王だ』

 

ラーマは玉座にて嘆き悲しみ、泣き続けた

 

『いいの、いいのよ、ラーマ』

 

シータはそんなラーマを優しく抱きしめた

 

『だいすきよ。ほんとうに、ほんとうに。だいすきなの――』

 

・・・それが、最期の別れ

 

 

シータは純潔を示し、大地に抱かれこの世を去った

 

ラーマは深く深く嘆き悲しみ、後世でただの一度も妻を取ることなくこの世を去った

 

 

互いを深く、深く愛しながらも。その予言の通りに。待ち受けていたのは・・・哀しき別離であったのだ

 

 

「――その叫びだ。その慟哭を待っていたぞ」

 

ニヤリと笑いながら、王がラーマの頭に油を注ぐ

 

「え・・・?」

 

 

「貴様の願い、我が叶える。貴様の終生の悔恨、清算してやろうではないか」

 

救世主の油を注がれたラーマの体から、槍の呪詛が一瞬で消え去り治癒可能となる

 

「英雄王・・・?」

 

「我は浅ましく、それでいて強欲を好む。何よりもそれを産み出す『我欲』が好ましい。世界を脇に置き、なお伴侶を抱きたいと欲する浅ましさ、生き汚さ。――総て、叶えるに足る我欲と願いだ。――今の我は、多少なりとも貴様の心情を汲めるつもりだぞ?」

 

「――そなたにも、愛するものが出来たのか?」

 

「行く末を見護り、見届けてやるに足る魂を手にしたのでな」

 

照れ隠しに俯きながら笑う英雄王

 

(ふふ、良かったね、エア)

 

――えぐっ、えぐっ・・・ラーマくん・・・・よかったねぇ・・・シータぁ・・・まっててねぇ・・・!いま、ラーマくんが会いに行くからねぇ・・・!

 

(あっ――)

 

感極まり泣きじゃくるエアを見て、七色の木の葉に爆散するフォウ

 

「き、気持ちは嬉しい・・・!だ、だが余とシータには、離別の呪いが・・・」

 

「猿の負け惜しみなんぞ知ったことか。我は王。シヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマーより遥か高みにいる、黄金なりし英雄王である。――貴様らの呪い、我が引き受けよう」

 

「――!?」

 

「貴様らの呪い、我(が嫌うイシュタル)が背負う。我(が疎ましく感じるイシュタル)に離別の呪い(我には祝福でしか無い)を転写し、永遠に肩代わりしてやろうではないか」

 

肩を愉悦と歓喜で震わせながら、王が笑いをこらえつつ宣う英雄王

 

(笑うなよ!台無しになるからな!)

 

「恐らく我は永遠に想い人(殺意的な意味で)とは出逢えるまい。具体的にはカルデアに永久召喚拒否と、ヤツの本体に財との離別(永遠にスカンピン)がかかろう。――だが我はお前達の相思相愛に心打たれた!そのためならば、呪いの一つや二つ気前よく背負ってやろう!(離別の呪いを背負うとは言ってない)我はこの世総ての悪を飲み干した男!我を染めたくばその三倍は持ってこい!!ふはははははは!歯噛みせよバーリの妻よ!此処に貴様の呪いは覆されるのだからな!!」

 

「――英雄王!!ありがとう!・・・ありがとう!!」

 

王の手を掴み、何度も頭を下げるラーマ

 

「忘れない・・・!忘れるものか、この恩を!・・・いつか、そなたをコサラに招き、未来永劫語り継ごう・・・!」

 

「礼にはまだ早いぞ。出逢う算段が整ったまでの話だ。障害を砕き、伴侶を救い出せるかは貴様の武芸にかかっているのだからな」

 

「安心してくれ、英雄王!シータに逢えると分かったならば!僕が負けるものか!絶対に、絶対に――!!」

 

「その誓い、忘れるなよ――」

 

――こうして、ラーマの治療、解呪、転写は滞りなく進んだ

 

 

救世主の油にて、心臓を穿つ呪いは解かれ、治癒の琴で心臓は完全に修復される

 

《本当ならこれもイシュタルめにくれてやりたかったが》

 

(止めとけ止めとけ。あんなんでも使い道はあるだろ。グガランナとかグガランナとか)

 

《うむ。心臓を潰されのたうち回られるも目障りであるからな》

 

離別の呪いは、ギルガメッシュが負うべき呪いを救世主の十字架にて打ち消し、イシュタル人形には総ての呪いを集約された

 

(立川のジョニー・デップありがとう!)

 

具体的に言えば、『イシュタル』と『宝石は』永遠に巡り会えない。貯めても貯めても、財が即座に懐から去っていく呪いが『座にいる本体』に永遠にかかる

 

更に強力な呪いはカルデアにもかかる。このイシュタル人形が有る限り、けしてイシュタルはカルデアに呼ばれることはない

 

 

永遠の離別(のぞむところ)』――辛く悲しい(友もにっこりな)恐ろしい呪いが、これよりギルガメッシュとイシュタルを永遠に引き裂き続けるのだ・・・

 

《あぁ、実に、おそろし、っ――――――っっっ~~~~》

 

(笑いこらえるの止めろよwwww)

 

 

そうして、生前の宿業から解放された大英雄は立ち上がる

 

「――ありがとう。・・・すまない。その・・・こんな言葉しか、思い付かないのだが・・・」

 

「よい。働きと・・・貴様と伴侶との笑顔にて、感謝を示すがよい」

 

「――あぁ!コサラの王!ラーマ!!大丈夫だ!余に総て任せるがいい!!」

 

晴れやかに笑う、ラーマーヤナのヒーローの冒険譚が幕を開けた――!




――ぐすっ、えぐっ、ひっく・・・フォウ・・・英雄王・・・ずっと一緒にいましょうね・・・っ。ずっと、ずっと・・・

《お前の気持ちは存分に伝わっている。だから泣き止まぬか、お前の涙で酒は美味くならぬのだ、泣き止め、エア》

――すみまっ、すみませんっ・・・でも、でも・・・っ

(・・・別れたくないと言ってくれるだけで十分だよ、エア。誰欠ける事なく旅をしようね)

――うん!・・・うわぁーん!シータちゃん、待っててね!いま、ラーマくんが行くからね――!


《まったく。落ち着かねば、エアめに次なる方針を訪ねることもできんではないか・・・よい。暫く、エアめが泣き止むのを待つとするか・・・》

(いやぁ、離別の呪いは強敵でしたね・・・)



【汝は永遠に此処を通ることは叶わぬ】

「え、ちょ、・・・ど、どうして――!!?」

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