人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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トトロット「う、ぅ…」

ライネック「む、トトロット!」

トトロット「ボクは…トネリコは…?」

ライネック「今は喋るな。トネリコは無事だとも。今は総力戦の只中だ!」

トトロット「!そうだ、奈落の虫!星の蝗は!」

ライネック「彼女らが退治に向かっている。しかし、ケルヌンノス神の遺体をどう回収すべきかだが…!」

トトロット「…いや、待て」
ライネック「む…?」

トトロット「なんか、すごい速さで…光が、向かってくるんだわ…!?」


二天の竜

──それは、雲の代わりに全てを覆い尽くした虫達を引き裂き、吹き飛ばし、吹き晴らしながら天を疾走し現れた。

 

二匹の虫、それ以外の生命全てがその瞬間、天を見上げた。カルデアも、その仲間達も、虹色の光と白き翅を輝かせ疾走するその影を、ただただ圧倒されながら見つめていた。

 

『奈落の虫、ヴォーティガーン。そして星の蝗、アバドン。共に滅び行く世界より現れし最後の厄災』

 

それは、罪業のブリテンが生み出した最後の宝。ウーサー、そしてトネリコが望み、生み出し、王が見出した竜の妖精。

 

『ここで全てに決着を。至る未来に、貴方達の存在を許すわけにはいかない!』

 

クリーム色の長髪に白い肌、宝石を思わせる紅と銀のオッドアイ。鎧を装着するに相応しい肉体年齢に進化し、頭には雄々しき四本角。身体には赤竜ペンドラゴンの因子たる赤き王鎧を纏う。背部のブースターは、オベロンが託したマナ放出翼と魔力ブースターの合計六つの大出力。放つ魔力は、まるで白き翅の如くに排出される。

 

見るものが見れば、そこに確かな面影を感じるであろう。罪業のブリテンに生まれし唯一無二の大妖精。自らの罪の痛みを本能的に理解し、他者の苦しみを癒やすためにその全てを費やした、ウェールズの大妖精ブライド。その確かな繋がりと力を。

 

彼女こそ、その力を翅より受け継いだ白き竜アルビオン。ペンドラゴンの意志と共に、ブリテンの三つの至宝を結集させた、王が手にせし至高にして無二である、聖剣と匹敵する財宝そのものである!

 

【■■■■■■!!!】

 

自らの領空を犯したと、まず猛り狂いしはアバドンだった。怒れるまま、自らの眷属たる蝗どもを一斉に差し向け、貪り尽くさんと吠え猛る。

 

『おぉおおぉおおぉおおぉおッ!!!』

 

だが、ブライドは退かずまたその迎撃は本懐ではない。故に、後続の助けとなるアシストにそれを留めた。しかし、その威力と規模はあまりにも凄まじく規格外たるものである。

 

『だあァァァァァァァァァーーーッ!!!』

 

自らを中心にして、ペンドラゴンの有していた大火力、炎の厄災たるその力をブリテン全域に大放出する。それは、直撃した相手の骨すら蒸発する超絶の大業火。当然、それに晒された虫が無事であろうはずもない。

 

【■■■■■■■■ーーーーー!!!????】

 

星の蝗の眷属は、空を覆い尽くしていた眷属を全て焼き払われる憂き目にあい、本体に当たる部分も焼き尽くされ身悶える。ソレは太陽表面に巻き起こる大熱波が如くの規模であり、たった一撃でブライドに対する攻撃の意志を圧し折られる事となる。

 

同時にこの攻撃で、星の蝗への攻撃準備は整った。それにより、カルデア軍は本丸を攻めることが可能となったのだ。

 

『オベロン…ケルヌンノス…!』

 

瞬間ブライドは反転し、狙いを奈落の虫ヴォーティガーンへと定める。彼女の託された意味と、その約束を全うするために。

 

【ルォオオ…オ…】

『今、行きます!』

 

ブライドは直ぐ様反転し、奈落の虫の口へと飛び立ち内部へと侵入する。その制動力と飛行力はまさに赤き竜ペンドラゴンの力であり、単純な出力と魔力にて、その機動性は人智の越えた超加速と超速度を実現していた。

 

『ケルヌンノスの遺体はどこに…!』

 

ブライドの飛行速度は光速の一歩手前、物理法則にギリギリ従う程度の速さを有する。それ程の距離を有しても、奈落の虫の奈落たる所以を即座に零には出来なかった。万が一、軌道上にケルヌンノスがいれば木っ端微塵にしてしまう。それもまた、彼女が恐れる最悪のシナリオであった故だ。速く見つけなければと焦燥が交じるブライドであったが──

 

『──!!魔力を、感じる…!』

 

遥か下方、穴における1200km付近にて、『何かに刺さった』かのような棒状の魔力を感じるブライド。その遥か下にあるものは、一つしかあり得ない。

 

『ケルヌンノス神の遺体!座標さえ解れば…!』

 

ブライドの飛行は、赤き竜の疾走から白き竜の飛翔へと変わる。高速や音速で追いつくことが叶わぬならば、『入口と出口をつなげる』という破格の飛行手段でケルヌンノス神へと追い付くまで。

 

『空間跳躍、位相転移──起動!アルビオン・クォンタムワープ!』

 

自らの身体を、輝ける粒子にして瞬間移動を行う。かつて世界の裏側に辿り着けなかったアルビオンが、次があれば、次こそはと願い続けた飛行能力の昇華。己をあらゆる場所に運びうる、飛行を越えた疾走跳躍。

 

『いた!亡骸を発見、速やかに地表へと奪還させます!』

 

ブライドは転移し遂に発見した。落ち、ひたすらに奈落の底へ向かうケルヌンノス神の遺体。赦免の旅の、本当の終着点そのもの。

 

しかし、その肉体は縮小したとはいえ数百メートルは維持している。それに加え落下しているエネルギーがかかり、本来ならば回収するなど不可能な存在だ。ワープも破格な移動の制約として、彼女自身しかワープできない縛りがある。

 

ならばどうするか?とうに決めたその瞬間、彼女は更にその存在を見つけ出す。

 

『オベロン!──あなたが自らの身を挺して、ここに座標を…!?』

 

槍に串刺しにされた、白き使徒と妖精王。白き使徒は微塵も動かず、オベロンは血反吐を吐きながら彼女を迎える。

 

【肉壁分、命を拾ったってところか。やぁ、ブライド。──見れば見るほど、ビックリするぐらい似ちゃってまぁ…】

 

『オベロン!貴方とケルヌンノス神を回収し、地表へと戻ります!』

 

【僕は良いよ。ここでこいつを抑えつけなきゃ、っておい!?】

 

瞬間ブライドは槍を引き抜き、オベロンを回収し白き使徒を渾身の力で蹴り飛ばす。使徒は更に更に下の下へ。最早誰の目にも届きはしないだろう。

 

【人の話を聞けよオイ!僕はいい、この穴の中でくたばるのが望みなんだ。なんだってブライドの名前はお節介が遺伝するんだ!】

 

『あなたを助ける。それが望みだからです!』

 

【はぁ?一体誰の…】

 

『私の先代、大妖精ブライド。並びに、あなたを知る人達の全員。そして何より、私自身の願いです!』

【───】

 

何を馬鹿な、とも言うことなく、オベロンは押し黙る。それはあまりにも、理解に苦しむからだ。

 

死にかけの状態を拾われて、ただただ野次を飛ばしていた俺を助けたい?

 

ただ水を差して、いてもいなかった俺を救いたい?

 

ただそこにいるだけで、旅になんの意味も齎さなかった俺を、わざわざ?

 

【……なんだよ、それ】

 

きっと、あの金ぴかと、姫様と、変なペットの総意なんだろう。そんな不思議な確信が、胸にある。

 

無駄の極みだ。汎人類史ってやつは、滅びそのものまで助ける度量と懐を持つっていうのか?

 

呆れる。呆れてものも言えない。そんなのは、まるで。

 

『回収完了!しっかり掴まっていてくださいね!』

 

そんなのはまるで。

 

 

──あの日の、彼女そのものじゃないか。

 

【いや、そんな浸ってる暇はない!ワープ無しでどうやってケルヌンノスを運び込むんだお前!】

 

『決まってます!フルパワーで押し上げるんです!』

 

【頭トネリコなのかお前!いつからそんなになった!最初からか!最初からだな!だってお前、最強種だもんな!】

 

『そういう事です!アルビオン、そしてペンドラゴン!二天の竜は伊達ではありません──!!!』

 

ケルヌンノスにがっちりと腕を食い込ませ、ブーストから魔力を全放出。165付近の肉体からは考えられないようなフルパワーで、地表へとケルヌンノスを押し上げる。

 

『はぁあぁあぁあぁあぁあーーーーーッ!!!!』

【おいおい、マジかよ…】

 

オベロンが呆然と呟く。その無理は道理を蹴り飛ばすように可能となっているのだ。

 

ケルヌンノスが浮き上がる。それどころか、落下と加速の重力すらも振り切って、みるみるうちに加速していく。

 

『ぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおッ!!!』

 

ブライドの咆哮、必死な形相を、おぶられしオベロンは背より見やる。

 

ブライドの翅を託したのは、なんのためか。力を有するためだろうか。ただ、処理する場所を有したかっただけであろうか。

 

【………ブライド、か】

 

あのお姫様が、生まれた妖精にブライドと名付けた。

 

──彼女の事を、大切に物語として重んじてくれた事実に、思うところのある自分がいたのか。

 

【なんだよ。最後の最後まで…僕は君におんぶにだっこじゃないか…】

 

彼は、本当の意味で敗北を認めたのは今この瞬間であったのだろう。

 

汎人類史は、彼女…ブライドの物語をも『よいもの』とした。

 

『そちらのウーサーの鎧を纏う妖精、聞こえますか!?』

『救世主!?』

『ルート上に水鏡を設置します!そこをくぐり抜ければ、奈落をショートカット出来る筈です!』

 

『助かります!ケルヌンノス神もいるので、思いっきり広げてください!』

 

そりゃあ、負けないさ。だって、負けるのは二度目なんだから。

 

『チチ、チチ!』

【…ブランカ、君まで…】

 

厄災なんて誰が愛する。終末なんて誰が好き好む。嫌うことこそ本当だ。蔑むことこそ通常だ。

 

『見えました!一気に行きますよ、皆さん!』

 

でも、ブライドと名の付く輩はどうしたって、滅びそのものも愛して止まなきゃいられないらしい。

 

笑っちゃう。本当にお笑い草だ。偏愛や破綻も極まれりだ。

 

『届けえぇぇえぇぇーーーーーーッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────全く。

 

 

本当に、世間知らずな。困りに困った王妃様(ティターニア)だよ。君はさ。




地表

【ルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?】

ブランカ『チチー!!』

ロマニ『ケルヌンノス神が出てきたー!?』

リッカ「ギルの言ってたドラゴンフェアリーだー!!」

騎士王「これで奈落の虫への憂いは消えました」

キャストリア「残るは、星の蝗…!!」

オベロン【…なぁ、ブライド】

ブライド『はい、何でしょう?』

オベロン【一度くらい、僕に勝たせろよ。…バーカ】
ブランカ『チチ、チチ!』

ブライド『〜。挑戦、お待ちしていますよ。いつか、お空を一緒に飛びましょう!』


…あぁ、本当にもう。

ブライドの名前に振り回されてばっかだな、僕は。

でも、悪くない。

君の物語が続くなら…

それはそれで、僕にとってはね。

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