人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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トネリコ『…なる程。とうとう奈落の虫の本体、ヴォーティガーンの前任者がコンタクトを取りましたか』

チルノ「かかってこい、だそうだ。どうするんだ?」

トネリコ『無論、討ち果たします。奈落の虫、ヴォーティガーン。ブリテンを害する諸悪の根源が一つ。救世主として討ち果たすことに憂いなどありません』

ホープ「と、トネリコ様!なら私達も!」

トネリコ『勿論です。ここは罪を赦されし三妖精を連れていきましょう。そして、チルノ。あなたも。ライネックはトトロットの看護を頼みます』

ライネック「う、うむ。…しかし慣れんな。他人の顔立ちをするトネリコとは」

トネリコ『ふふ、慣れてください。連絡はオーロラに託します。──それでは、また後に』

トトロット「う…」

トネリコ『行ってきます。トトロット』


小さな虫の一噛み

奈落の虫、ヴォーティガーン。その中核たる存在を討ち果たすため、突入を敢行するチルノ一行。空気を凍結し道を作り、カービィと拮抗している側面から速やかに侵入を敢行する。

 

『虚空と言えど、虫であるのならば。外皮を破る要領で』

 

モルガンの剣と化した杖、そして聖剣の一撃で穴を穿たれる奈落の虫の表皮。そして一行は突入し、次の瞬間奈落の底の底へと堕ちていく。

 

「全員離れるな。迷子になったらエライことだぞ」

 

「はい、オヤブン!」

「バーヴァンシー、平気かい?」

「当然だぜ、今の私は妖精騎士だからな!」

 

『立派に、逞しくなりました。こんな場ですが、ありがとうございます。チルノ』

 

「あたいはオヤブンとしての責務を果たしただけだ。頑張ったのはこいつらだぞ」

 

トネリコが全員に重力制御をかけ、落下を緩やかとする。ただ奈落の虫を討ち果たすだけでは足りない。落ちてしまったケルヌンノス神の救出も行わなくてはならないのだから。

 

『ふふ、新たなる世界で沢山褒めさせてください。…さて、本題の奈落の虫の本体とは…』

 

【お、来たな。骨折り損のくたびれ儲け軍団。首を長くして心待ちにしていたよ。歓迎をする気は無いけどな?】

 

トネリコの見回しに応えるように、その存在は現れる。それは腕も、羽根も、衣装も禍々しく成り果てたブリテンの生み出した終末装置。その化身。

 

『クソ虫ですか。トトロットの顛末を見る限り、死んでいたものかと思っていました』

【死ぬわけ無いだろ。こっちは仕事で国を滅ぼさなきゃいけない身柄だ。まぁ、後釜が上手くやってくれたから良かったけど】

 

トネリコ、そしてオベロン。國に対するスタンスはまるで違う。だが初対面ではない。互いに顔は知っていた。

 

『哀しいことです。お互い、ブライドの慈悲と叡智を受けていたというのに。私は楽園の妖精、あなたは終末の化身。互いに何もかもが違っていた』

【そうだな。ただ、誰彼構わず面倒を見る世話焼きのおかげで僕らは同じ世界に存在できた。…そんな彼女は、もういない】

 

『…哀しいことです。なればこそ私は解せない。何故、ブライドの国を滅ぼさんとするのです?ここは彼女が生まれた場所。それすらも無価値なのですか?あなたには』

【………。デリカシーのない女だ。だから救済の手段があんなにも力強くだったんだよな。合理的な計算を力で押し通した、とんでもない奴だよお前は】

 

チルノは押し黙っていた。トネリコの言葉も、それにオベロンが答えられない理由も、真実故に口にはしなかった。彼女は空気を読んだ…のではなく。探しものをしていたのだ。

 

(落ちている、ってなら風を、空気に宿る水を切っている筈だ。それが分かれば…)

 

【まぁいいや。いよいよクライマックスだぜ救世主ども。目に見えない悪意や汚い悪感情なんてものに振り回される必要もない。眼の前にブリテンの滅びを願う悪党がいる】

 

『………』 

 

【俺から話すことは、もう無い。救世主なんだろ?世界を救うんだろ?──倒してみろよ。お前らが向き合った滅びは眼の前だぜ?】

 

オベロンは戦闘態勢に入る。最早話し合いなど望んでいない。奈落の虫は、ブリテンの滅びの完遂を狙っている。

 

『…えぇ。ならば救世主たる私の、最後の仕事です。同じブライドに慈悲を受けた者として、あなたを倒し彼女のいた世界を未来に繋ぐ!』

【そうしろよ。──どっちみち、俺の勝ちなんだからな】

 

『皆、行きますよ!奈落の虫を──討ち果たす!』

 

その号令に応え、トネリコ一行がいよいよ以てオベロン…奈落の虫と戦闘を開始する。

 

…いや。それは戦闘というに似つかわしく、相応しいものでは無かった。

 

「銀の腕よ、力を貸して!ブリテン…ううん!世界に未来を!」

 

「新しい世界、新しい夜明けはもうすぐなんだ!」

 

「邪魔するんじゃねぇよ、薄汚え虫螻!」

 

【ぐっ──がぁっ───!!】

 

怒りと使命感に燃えた、善なる妖精達。妖精国を歪めに歪めた元凶の一つとして、オベロンは徹底的に打倒された。

 

【ククッ、そうだ。来いよ、まだまだだ…!】

 

それでもオベロンは活動を止めず、生半可な攻撃では敗北を認めようとしない。彼女らの攻撃を受け止め、向き合うように、ただ静かに、虚勢を張る。

 

『…………』

 

【今更躊躇うなよ。世界を救うんなら俺如きに、俺なんぞにかかずらう暇なんてないだろ?何でそんなに、必死になるのか解らないけどさ】

『…本当に解りませんか?』

【あぁ、解らないね。なんでそんなに一生懸命生きようとするのか。生まれた瞬間、誰も彼もが泣く癖に】

『…』

【喜びも、哀しみも、青い空も知らないままに使命に生きる。運命に殉じるそれでも後悔なんてない、しないなんて生き方。…僕にはちっとも、いいものだと思えないさ】

 

奈落の虫は悶え狂っている。オベロンが受けたダメージが奈落の虫に直接叩き込まれているのだ、自明の理である。

 

オベロンも最早立つことが奇跡の有様。身体中に傷を…否。トネリコらに挑む前に刻まれていたダメージは最早手遅れなレベルだ。それ故に、奈落の虫は風前の灯である。

 

ならばそれは、末期の譫言か、遺言か。断末魔か。

 

【もううんざりなんだよ。見たいものなんてもう無い。ブリテンは滅んだ。お前はブリテンを再建したいのか?】

 

『いいえ。私は、私の国を創ります』

 

【そうか。──なら、もう付き合う義理もない。さぁやれよ。俺は殺されなきゃ、負けを認めたりしない。どっちかの死でしか、決着はつかないぜ?】

 

オベロンは両手を開いた。トネリコはそれに応えるように聖剣を構える。

 

「待て。──ここはあたいにまかせろ」

 

トネリコのトドメを制したのは、チルノ。星の氷精となったチルノの言葉を無下にせず、トネリコは譲る。

 

【おいおい、親分さんがなんの用だ?そろそろ御役御免だろ?】

「お前は、死んじゃだめだ」

 

【……は?】

「死んでほしくないやつがいるんだろ。なら、あたいは殺さないし殺させない」

 

チルノの言葉に全員が顔を見合わせる。才覚と神の知見を得た彼女の言葉は、理解に時間を有するほどに意味を含んでいた。

 

「だけど──お前の願いは、叶えてやるぞ」

 

【何───がはぁあっ……!!?】

 

瞬間、チルノがオベロンを渾身の力で殴り付けた。それは、信念と怒りを込めた一撃。

 

「これは、皆が苦しんで苦しんで、苦しみ抜いた分だ。ヴォーティガーンなら、きちんと噛み締めていけ」

【がっ、ぐ──】

 

「それで──これが、お前の望みだぞ」

 

瞬間、チルノの右腕が狼に…フェンリルへと変わる。無双の剛力を宿した、その腕へと。

 

「深い深い奈落へと落ちていけ。──願いと望みのままに!」

 

その力はまさに筋力の限界を越えたもの。その手にてオベロンは掴まれ──

 

【──ふっ、はははっ。良くできました──】

「うぉおぉおりゃあぁあぁっ!!!」

 

親分として、渾身の力で奈落の底へと投げ込まれる。それは、奈落への永久追放。永劫の落下。

 

二度と浮上は叶わない。オベロンはひたすら、奈落を落ち続ける。それは、死よりも重い終身刑。

 

『…オベロン、あなたは…』

 

トネリコ達が見る間に、オベロンは消え去った。遥か下へ、落下していく。

 

「これが、ヴォーティガーンの望み…?」

 

「確かに二度と、上がってこれないだろうけど…」

 

「…死ぬより辛いほうが良いってか?変な奴だぜ」

 

「…………」

 

もう見えぬ奈落。深淵の果を覗き込む。チルノらはただ、それを見つめていた。

 

──その不可解な行動の意味を、汚れなき眼のチルノだけは理解していた。




奈落

オベロン「そろそろか…」

白き使徒「……………」

「よう、クソ野郎。もう奈落の虫はおしまいさ。致命傷で、あとは破れかぶれで暴れ回るしか無いだろ。それとも慌てて主導権を奪いに来たか?」
「………」

「だんまりかよ。最後まで…──」
「!!」

瞬間、オベロンが白き使徒へと抱きついた。それは、千載一遇の虫の一噛み。

「──滑稽な奴らだったよ。お前らは」
「…………!!!!」

瞬間──二人を、槍が貫いていた。

それは、北欧の至宝グングニル。



オーディン「一度手合わせた輩の魔力は逃さん」

オーディン、渾身の投擲。至高天よりの、一投。



白き使徒「!!………!!」

オベロン【お前らがこそこそしてたら、あいつらが枕を高くして寝られないだろ。お前はずっと…俺と落ちろ】

貫かれた二人がますます加速する。それは、読み取られた思惑通り。

【そして──君なら解るだろ。探しものは、あそこだぜ】

オベロンは──投げられた瞬間、チルノに渡された『スイカバー色の錫杖』を、投げる。

【頼んだよ。──ブライド】

それが刺さりしは──自分より速く落ちていた遺体。

チルノとオーディンの計らいにより、ついに追いついた遺体。

はるかな奈落にて。

──竜への願いと共に。遂に、ケルヌンノスを捉え布石は打たれたのだ

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