人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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(今から返信します)

汎人類史、南極上空

アスモデウス【サタン様!ベルゼブブ様、無事にカルデアへの助力に成功なされた様です!】

レヴィアタン【楽園カルデアの的に、アバドンが確認されたようです…端的に言って顔見知り…】

サタン【いくら偽神とはいえ、信仰を集めた神には変わりない。天使の形骸を振るう程度には威霊は有しているんだな】

パパポポ『ありがとう、ルシファー。楽園カルデア…皆の居場所を護ってくれて』

サタン【礼なんていらない。──悪魔は契約と、自身の望みを絶対に蔑ろにしないというだけだからね】

パパポポ『アバドンまで悪用するとは、そろそろキレそう。頭がキレそう』

サタン【キレないでよ、お父さん。大丈夫さ。楽園カルデアはいずれ、全部を偽神から取り返すさ。だからここは任せておいてよ】

(──エア。君の帰る場所は護り抜くよ!だからちゃんと返ってくるんだよ、君の大好きな皆と一緒に!)

サタン【猛れ僕の配下達!我等の矜持、見せつけるぞ!!】


【【【【【【オオオオオオオオオオオオ!!!】】】】】】


醜いもの、美しいもの

【ルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!】

 

叫び狂い、吠え猛る奈落の虫。ブリテンの滅亡を目論む本能のままに進軍する超巨大なるケルヌンノスが抑え込んでいた、ブリテンの罪を呑みこむ最悪にして災厄の奈落。それはうねり、ブリテンの大地を吸い付くさんと咆哮し、羽ばたく。

 

「………………」

 

「景気の悪そうな顔だねぇ、詐欺師?あちこちやらかしたツケを肩代わりさせられるっていうのはさぞ大変だね」

 

その様相を見つめる、白き使徒に羽ばたく羽が歩み寄る。その存在は、理想郷より羽ばたいた嘘まみれの妖精王。

 

「ヴォーティガーンも用意して、おまけにあんな気持ち悪いバッタも用意して。それでもカルデアなんて場末の組織を一飲みにもできない。それどころか喰らいつかれてすらいる。人の事は言えないけどさ、計画性が無いんじゃない?」

 

もう彼に喪うものはなにもない。大切なものも、自らの本心も。何もかもを置いてきた。此処にいるのは、ただの薄っぺらな虫の王。

 

ゆえにこそ、彼は煽り立てる。その嘘と、本心の境すら分からぬ言葉を以て救世主気取りの輩達を嘲笑う。

 

「ヴォーティガーンに弾き出された僕にこう言われるなんて相当さ。あんなに大層なものを使って、汎人類史を狙い打ちにしたってままならない。そして…」

 

指差すその先には、奈落の虫の悍ましい吸引を真っ向から同じ、かつビッグ・バンのような『吸い込み』で拮抗させるピンク色の正体不明な存在により、その本懐を遂げられずにいる。そう、星の蝗のように奈落の虫すらもその暴虐を抑え込まれているのだ。

 

「虎の子の奈落の虫、要するにヴォーティガーンもあのザマだ。一万二千年もの歴史を費やしておいて、よっぽど神様や救世主としてはグズの間抜けなんだねぇ君達ってさ」

 

「………」

 

「笑わせるよ、ホントにさ。土台を狂わせ、歴史を狂わせ、妖精を狂わせて手に入れたその成果で救世主や神を気取ってみても結果はこれだ。お前とその後ろの存在は、そんな大層な奴等じゃないって事」

 

何故なら、彼は知っているからだ。救世主として生を受け、或いは大妖精として生を受け、祝福と歓喜に包まれるはずだった命を。

 

「…あぁ、解ってる。妖精の未来なんてどうでもいい。未来なんて望む資格はない。滅んで清々したさ。…でもな」

 

どうしても、それが許せなかった。

 

「──お前たちは、歪めてはならないものを歪めた。覆してはならないものを覆した。決して、辱めてはならないものを辱めた」

 

彼にとって、真実が嘘になる事の煩わしさはよく知っている。正しいものが、素晴らしいものが、偽りでなくてはならない倦怠を知っている。

 

そうとも。眼の前の存在は、妖精國の歴史をこそ嘘にした。未来を担い、より良く進むべき明日をこそまやかしにした。

 

その果てに涙しなくてよい者が笑顔のままに血に沈み。

 

その果てに夢見る少女の眼は血に曇り続けた。

 

「僕としては、それだけが決して許せないし譲れない。お前ら汎人類史は本当に気持ち悪い。消費して、消費して、唯一無二の物語を自分達の為に使い潰し続ける。僕にとって、妖精だろうと人間だろうと同じものだ。──けどな」

 

それがどれだけの意味を持つのか。

 

積み重ねてきた罪業に、なぜ彼女が焼かれなければならなかったのか。

 

何故。──彼女が、あんな死を迎えなくてはならなかったのか。

 

「お前ら神様気取りは、とびっきり気持ち悪くて反吐が出る。──お前らクソッタレのせいで、この歴史が最悪の駄作になっちまったからな…!」

 

誰もが言う。繁栄してはならなかった。

 

誰もが思う。思い出したくもない国だ。

 

汎人類史が観測した最低最悪の国として、このブリテンは永劫に刻まれるのだろう。

 

それは当然だ。

──そんなもの、認めてたまるか。

 

それくらい、この国は悍ましかった。

──関係ない。彼女は美しかった。

 

なんの価値もない、当たり前に滅ぶべきだった。

──何をおいても、君こそは生きるべきだった。

 

それは彼が絶対に許せない一線。それは彼が絶対に重んじる矜持。

 

彼は知っていた。見てきたのだ。その宝物が踏み躙られる有り様を。

 

その宝物を、マジマジと見ることが出来たのはほんの短い間にだったと。

 

それが自滅、自業自得であるなら納得しよう。だがこの歴史は、神様気取りの為に利用され尽くした。

 

汎人類史を滅ぼすために。

──そんなもののために!

 

自らの世界を作るために。

──そんなことのために!

 

正しい歴史を手にするために。

──そんな、下らない自尊の為に!

 

 

全ての妖精は踏み躙られ、そして何よりも…!

 

「──輝くべき誰か(かのじょ)を踏み躙ったお前らを、僕は絶対に許さないさ…!輝ける星を穢した報い、骨の髄まで思い知れ!!」

 

厄災すらも当たり前のように救った、最悪のお節介(さいこうのたからもの)の全てをゴミクズにしたお前を、許しはしない──!!

 

「ムシャクシャしてるんだ。単なる八つ当たりを受けてもらうぞ白ローブ!これは徹頭徹尾、僕の僕による個人的な感傷の結果だと思い知れ!!」

 

その言葉、その言動は嘘まみれ。嘘か本当かなど、彼にしか解らない。

 

それが嘘かどうかなど、彼にとってはどうでも良かったのかもしれない。

 

「ふざけるなよクソッタレども。神の跡目争いなんぞ他所でやれ!この、吐き気のする唯一気取りのゴミクズ歴史が────!!!」

 

ただ、彼は戦うのだ。何もかもが嘘だったとしても。

 

許しも報いもない生を生まれる前から受け継いだ命を忘れないから。

 

王様は全ての人々の為に世界に挑むもの。そんな使命を馬鹿げてると扱き下ろし。

 

彼は、誰か一人の為に戦う。いや、戦ったのだ。

 

「──がっ、はぁっ───!!」

 

本体から切り離された矮小な影、頭脳体。ヴォーティガーンを引き剥がされたみすぼらしい虚飾の王。

 

「……………」

 

偽りまみれの祝福を有する白き使徒に、叶うものなど何一つ無い。剣を折られ、羽根をズタズタにされ、あらゆる苦痛を刻まれる。

 

(あぁ、もう。──君のせいだぞ、全く)

 

矮小な霊基が、砕ける寸前にまで。それでも思い浮かぶは殺意でも敵意でも、ましてや嫌悪などでもない。

 

(全く、君のおかげでこんなにズタボロだ。──初めて会った時みたいじゃないか。変わらず、ズタボロなのは僕の方ばかり。不公平だと思わない?)

 

それは誰に語るものか。誰に聞かせるものか。解らない、きっと自身ももう解るまい。

 

(君は最後まで、空の青さや自由な世界も知らずに死んでいった。そんな物語が、この世界の筋書きで本当に良かったのかい?)

 

白き使徒の聖なる一撃を受け、不可逆的な被害を受ける。それでも、彼にまやかしの神聖など目を引く筈もない。

 

(なあ、教えてくれよ。本当に──君から見たこの物語は、素晴らしいものだったのかい?)

 

最早指一本まで動かせなくなる程に痛めつけられたオベロン、首を掴まれ最早トドメをさされるばかり。

 

「──あぁ、くそ。やっぱり怒りがパワーなんて嘘っぱちじゃないか。あの魔猪の救世主め。何が友情、努力、勝利だ。適当な事言いやがって」

 

「………………」

 

だが───オベロンは、妖精王は全てを覚悟の上だった。

 

 

【ルォオオオオオオオオオオオオオ!!???】

 

「………!?」

 

突如苦しみだす奈落の虫。初めてフードが揺れし使徒、ニタリと笑う、爽やかさの欠片も無くした妖精王。

 

「好き勝手ボコボコにしてくれてありがとうよ。せっかくだから、ダメージの大半をあっちの俺に押し付けてやったのさ」

 

奈落の虫とは空虚の存在。それはオベロンという影、或いは本体。偽神らはヴォーティガーンから排除した事により盤石となったと判断した。

 

だがしかし、それは過ちだ。オベロンは大量の力をあちらに渡す代わりに、自身は何よりも大切なものを有していた。

 

「もだえ苦しみ、ブリテンを滅ぼすどころじゃない…。手落ちだな、救世主。なんの躊躇いもなく、俺が従うなんて夢を見過ぎだぜ?」

 

取り繕わず、オベロンはひたすら嘲笑った。汎人類史に巣食った、愚かなる者達を。

 

「虫なんて…踏み潰されるのが当たり前なものだろうがよ、バーカ」

 

「……」

 

「まだ使いたきゃ、俺を奈落に捨ててみな。幸いな事に、カルデアを滅ぼすのは賛成だ。腐れ縁は最後までやりきってやるさ…」

 

使徒はそれを聞き、もだえ苦しむ奈落の虫の上部より──

 

「はっ、清々する。散々に潰し合えよ、クソッタレな歴史ども」

 

蹴り落とされ、深き深き奈落へとオベロンは落ちていく。

 

 

「──あぁ、最後まで付き合ってやるからさ」

 

永劫に続く落下を受けて尚──彼は、笑っていた。




オベロン【おい、汎人類史の妖精。ケルヌンノスのお気に入り。聞こえてるだろ?】

チルノ「お前──」

オベロン【奈落の虫は止まらない。穴の中に実態なんてないからだ。伽藍堂は伽藍堂。虚しいだけの穴だからな】

チルノ「──今は違うだろ。お前がいる」

オベロン【そういう事だ。妖精どもを連れてやってこい。待っててやるさ、奈落の穴で。俺を倒せりゃ、奈落の虫もおしまいだ──】

チルノに示された、逆転の一手。

──オベロン・ヴォーティガーンたる彼は。ブリテン最期の障害として赦免の旅に立ち塞がる…。

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