人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ケルヌンノス『ヌン!ヌン!ヌン!!』

ウインダ『落ち着いてケルヌンノス!隠れていたわけではないのよ、積もる話はまた後で!』

ケルヌンノス『ヌーン!ヌーン!!』

ホープ「六妖精とケルヌンノス様は、そちらではお友達なんですね…!」

ライネック「あまりにも、あまりにも違いすぎて目眩がする…」

ウインダ『…あら?』

オーロラ「…」

ウインダ『あなた、風の妖精かしら?』

オーロラ「…え、えぇ。カルデアの協力者、のつもりよ」

ウインダ『ふーん…へー…』

オーロラ「…???」



トトロット【そうか。…ブリテンは終わるのか】

【■■■■】

【なら、ボクは最後の戦いの準備なんだわ。全ての妖精は滅ぶ】

【■■■■…!】

【それはもちろん…ボク自身もだからな】



終わらぬ罰

【アァアアァアアァアアァアアァアアァアーッ!!!】

 

恐怖の風貌、金切り声を上げる巫女の心に巣食う怪物。いや、怪物という、飼い慣らされたものに対する表現は正しくない。

 

アレは積み重ねられてしまった憎悪だ。善性を逃がしたが故に生まれた空白に詰め込まれた苦痛と絶望。それらが心に生み出したもの。まさに悪魔達が生み出した、心に生まれてしまった化け物である。人間のフォルムすらしていない巫女の成れの果て。心が砕かれた巫女の成れの果て。

 

【妖精!妖精、妖精、妖精、妖精ィィィィィィィィィィィィ!!!】

 

「ぐっ!!」

「ぬぅうっ…!!」

 

ルイノス、バーヴァンシーを見つけた瞬間、憎悪も顕に突撃する巫女を阻むウーサー、ビリィ。強靭な肉体、妖精達の聖剣が、苦痛と絶望を阻む。

 

【死ね!死ね、死ね、死ね、死ねェエェエェエェエェエ!!!】

 

だが、巫女の慟哭は尋常な領域に最早いない。絶えず血涙を流し満ちる心の空間にて、ビリィとウーサーを力の限りに振り払い吹き飛ばす。それは、あまりにも苛烈かつ無尽の憎悪。

 

【薄汚い妖精ども、穢らわしい悪魔ども!救われる価値のない化け物ども!死に絶えろ、滅び去れ、この世のありとあらゆる苦痛を、お前たちに!お前たちに!!】

 

「……巫女様…」

 

【お前たちにィィィィィィィィィィィィィィ!!!永劫不変の絶死あれぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえッ!!!】

 

瞬間、血涙を流す巫女の目が光り輝き、憎悪の魔力が巫女たる怪物に充足する。ルイノス、バーヴァンシーを捻り潰さんとする狂乱を以て、疾走する。

 

「やらせない!!」

 

瞬間、リッカが鎧を纏い、騎士王に託された聖剣を起動する。それは、トネリコの寛容と国へのカタチの願いを込めた力。

 

「ホープ!カリバーン!!」

 

【アァアアァアアァアッ!?】

 

巫女の化物は弾き飛ばされ、リッカは守護に成功する。それはブリテンに齎された聖剣。あらゆる憎悪と悪を祓うブリテンの宝。それがある限り、彼女らは常勝を約束される。

 

【何故!何故邪魔をするの!妖精などを何故かばうの!何故!神を殺し、救いに背を向け続けた悍ましい怪物どもに!】

 

「確かに大半はそうだったよ。悪くない、悪くない。でも赦してほしい、許してくれだなんて。言っちゃ悪いけど、反吐が出た」

 

【ならば何故護る!?ならば何故庇うの!?そんな奴等に護る価値なんてあるはずがないのに!】

 

「──ううん、ある。あるんだよ、巫女様。ケルヌンノス様とあなたが望んだ、省み、償いを求めた妖精がとうとう現れたんだよ!」

 

【え──!?】

 

巫女は動揺し、その瞬間にリッカが弾き飛ばす。バーヴァンシーが、歩み寄る。

 

「今の貴女には、苦痛と憎悪しかないのでしょう。当然です。あなたの中には今、神を、自身を愚弄された記憶しかない欠け身なのだから」

 

【ウゥ、アァア…!?おま、え…は…!?】

 

「私は、バーヴァン・シー。あなたが未来に託した、あなたの欠片を引き継いで生まれたあなたの善性。この心を、お返しに参りました」

 

巫女は動揺し、よろめく。そう、彼女と巫女は同じ魂を有する…先代と次代の関係に近い。バーヴァンシーにとって、巫女は分け身であり、近しい親子のようなものだ。

 

「私は、救世主トネリコに助けられました。偉大なる大妖精の慈悲を賜りました。黄金の旅団、救世主の一団。貴女とケルヌンノス様が望んだ、善き妖精。それらが貴女を労るために罷り越したのです」

 

【善、なる…妖精…】

 

「あなたという存在を、心から敬う妖精をお連れいたしました。どうか、その言葉と心をお受け取りください」

 

「うぉおぉおぉぉおぉおぉおっ!!!」

 

瞬間、巫女を抑え捕らえるようにガッチリと組み合う者がある。筋骨隆々のビリィが、巫女へと組み付いたのだ。

 

「ケルヌンノスの巫女よ!偉大なる人間の始祖よ!僕はビリィ!救世主に見出していただいた、貴方がたへの罪を心から悔いる者です!」

 

【!?は、離せ!離せ!妖精が、穢らわしい!!】

 

迷いながらも、その憎悪は猛り狂う。ビリィを引き剥がすため、蜘蛛のような身体を暴れ回らせる。

 

「まずは、心からの謝罪をお伝えしたい!私は、いや!私達は!慈悲と反省をもたらした神と貴女に断じて許されぬ愚行を犯した!これは最早、消え去ることはない程の大罪!」

 

【消えろ!消えろ!消えろ!触るな!私に触るな!触るなァァァァァァ!!!】

 

「それでも貴女にお伝えしたい…!本当に、本当に!心から!貴女とケルヌンノス神に謝罪をお伝えしたいのです!!」

 

【アァアアァアアァアアァアアァアアァア!!!】

 

ビリィの力すら引き剥がし、叩きつける。髪が無数に針となり、ビリィを突き刺し打ち据える。

 

「ビリィ!!」

 

「いいんだ、バーヴァンシー…!痛みなど、巫女様に比べれば…!」

【死ね、死ね!死ね!死ね!妖精は皆死に絶えろォオォオォオ!!】

 

巫女の金切り声に、無数の髪に抉られるビリィ。同時にバーヴァンシーを突き刺さんとするため、リッカらはビリィのフォローに行くことができない。

 

「最もだ…妖精とは罪深き悪魔の名前。その原罪はあまりにも、星よりも重いでしょう…」

【アァアアァアアァア!!】

 

「信じる神を殺され、自身を道具に貶められ、反省の色もなく真実を隠し、埋め立て、作り替えて。最早この世にいてはならない生き物ですらあるでしょう…歴史の真実を知った瞬間、生きている資格すら無いと思ったほどに…」

 

だが、ビリィは少しずつ立ち上がる。それでも、伝えなくてはと猛る。

 

「それでも、僕はあなたに伝えたい!私が心から愛する、あなたから生まれた…いや、あなたから作られた人間を、心から愛しています!」

 

【!!】

 

ビリィが刃を抑えた。完全に、肉体の力で巫女を押し返す。

 

「人間の持つ力、意志。賢さ、創意工夫…!それがあったから、僕は歴史の真実に立ち向かえた!人間がいてくれたから、妖精の罪を暴き、向き合えた!それを、不本意ながら…極めて不本意な形ながらももたらしてくれた貴女様に、ずっと伝えたかった想いがあるのです!」

 

【アァアアァアアァアアァアアァア……!!】

 

組み合いながら、なんと二周りは巨大な巫女をゆっくりと、ゆっくりと押し込んでいく。バーヴァンシー達の方へ、ゆっくりと。

 

「!ルイノス!ウーサー!バーヴァンシー!カリバーンを中心に集まって!」

 

「!」

 

「彼女の苦痛と絶望、妖精達の罪業の終わりを、きっとトネリコ様は伝えてくれる!六妖精が癒やしてくれる!」

「──そういう事か、良いだろう」

 

ビリィの意志を汲み取り、リッカらは聖剣を解放する。巫女を押し込む先に、聖剣を解放する。

 

【何が感謝だ!何が真実だ!私を辱め、神を殺し栄えた化物ども!今更何を許せという!!】

 

「…………その通りです」

 

【許されたいのなら死ね!滅び去れ!私がお前たちに望むもの!それは永劫終わらぬ罰と呪いと死あるのみ!!赦すものか!赦すものか!断じて、断じて、断じて!!】

 

「その通りです。だから、我々は告げるのです。想いが届くまで、赦しを捧げ続けるのです」

 

【ケルヌンノス様を…ケルヌンノス様を返せ!!お前たちの罪にて死んだ、ケルヌンノス様を返せェエ!!】

 

「どうか、思い出していただきたい!あなたやケルヌンノス様は、妖精たちを滅ぼすために現れたのではない筈です!妖精の罪に、呑まれてはなりません!」

 

突き刺さる刃、血を吐くビリィ。だが、彼は止まらない。

 

「終わり無き罰、死してなお続く呪い。そのようなものが、貴方様がたを支配していいはずがない!」

 

【!?】

 

「僕や皆は自身の赦しがもたらされたいが為にここに来たわけではありませぬ!大恩ある貴方様、大恩あるケルヌンノス様の苦痛を、終わらせたいがために来たのです!」

 

自身ではなく、他者を。その妖精ではありえぬ理論に、巫女の思考に空白が生まれる。

 

「あまりにも、辛いではありませんか。笑顔もなく、楽しみもなく。憎しみと恨みを振りまくなど、あまりにも辛いではありませんか…!僕は、あなた様がたの苦痛をこそ終わらせたい…!」

 

【……!!】

 

「どうか自らを労っていただきたい…!我等が赦されたとするならば、それはあなたがたの苦痛を終わらせるがため!もう、終わりのない罰という執行を終わらせるがためです!人間の祖たる、あなたの心をこそ癒やしたいがため!」

 

巫女は停止している。妖精が望むはただただ自分勝手な救い。故に誰も償いの価値を知らない。故に赦されない。

 

ならば、目の前の存在とは…。自らと神を労るこの存在とは。

 

「どうか、確信ください!ホープやバーヴァンシーが現れた今、最早罰には終わりが来る!それは我等が楽になるのではない…!」

 

【あなた、は…】

 

「大恩ある人の始祖!あなたの苦痛が、終わる時なのだと僕は願うのです!」

 

憎しみ、怒り続ける事はあまりにも辛い。笑顔もなく、楽しみもなく呪い続けることこそは地獄。

 

ビリィはその赦しを、救いのない妖精と叫ぶ巫女の為に示したのだ。大恩ある人間の始祖に。

 

妖精には、救われし善がある。

 

報われた妖精が確かにいる。

 

だから憎まなくていいのです。

 

もう、優しき心を壊さなくてもいいのです。

 

処刑し続ける執行者こそが辛いのだから。

 

ビリィとはそういう、赦しを伝えるために巫女に至ったのだから。

 

「ビリィ!!」

 

「おぉおおぉおおぉお!!ゲイバァアァァァァァァァァ!!」

 

バーヴァンシーの呼びかけに応え。カリバーンの領域に巫女を押し込む。そして──。

 

「六妖精よ!!」

「トネリコ様!」

 

「「彼女の心を、癒やし給え───!!」」

 

カリバーン・ホープ。六妖精の聖剣が煌めき、御祓の空間をもたらす。

 

【あ、あ──あ………】

 

その輝きに包まれ…彼女を苛んでいた苦痛が終わり、その断罪は終わりを告げる…。




バーヴァンシー「……」

巫女「……あぁ。長い長い、悪夢を見ていたようです。本当に、終わりのない悪夢を…」

ルイノス「巫女様…」

巫女「終わりのない苦痛は、とても痛くて、辛くて、怖い。…あぁ、なんてこと。私は妖精たちに、終わらない罰を強いてしまった。呪ってしまった。こんなに…」

ビリィ「……」

巫女「こんなにも。素晴らしい輝きを持てた妖精を…私は呪い続けてしまった…終わりのない苦痛を、同じ様に…」

リッカ「終わらせます」

巫女「!」

リッカ「巫女様の大切なケルヌンノス様と、あなたの悲しみと苦痛を、終わらせます。そのために、私達はここにいるのですから」

巫女「…あぁ。あなた方は、正しい歴史の…」

バーヴァンシー「もうすぐ、間違ったこのブリテンは無くなる。だからもう、慣れない恨み節なんて必要ねぇ」

ウーサー「そのために…あなたを、ケルヌンノス神の下へ返したいのだ」

巫女「……あぁ。あぁ。良かった。あんな、悪魔ではなく。本当に、妖精は。反省してくれたのですね…」

ビリィ「!か、身体が!」

バーヴァンシー「落ち着け。もう呪いや苦痛は消し飛んだ。…巫女はやっと、眠れるんだよ」

巫女「ありがとう。ケルヌンノス様と私の使命は、果たされました。──そして、どうかお願い致します」

ルイノス「はい、なんなりと」

巫女「ケルヌンノス様の下へ、私の身体を。私が、あの御方に伝えます。赦免は、成ったと」

リッカ「──救世主に誓って、成し遂げます」

巫女「ありがとう。…バーヴァンシー、だったかしら」

バーヴァンシー「…はい」

巫女「私の心を、持っていてくれて。ありがとう」

バーヴァンシー「…こちらこそ」

巫女「そして、ビリィ…」

ビリィ「巫女様…」

巫女「ありがとう。あなたがいてくれたなら。──人間を愛する妖精がいたのなら。身体を道具にされた甲斐も、あったというものですね──」

…言い残し、巫女は消え去る。肉体と精神は、正しきものへ。

ビリィ「…おぉ、おぉおおぉおおぉお……」

ビリィは、泣いた。どれほどの苦痛を受けていたというのに。

あれほどの憎悪を向けていた相手に。

『自らの苦痛は、報われた』などと。

ビリィ「うぉお、ぉぉおぉお!おぉおおぉおおぉお……!!」

──巫女からもたらされた、真なる救いの言葉に。

魂を救われたビリィは、バーヴァンシーに背中を擦られながら涙を流し続けた…。

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