人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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(今から返信します)

キャストリア「………」

マシュ「今のが、救世主トネリコの最も辛い記憶…」

バーヴァンシー「…ブライド様も、虫の皆も。トネリコお母様を愛してた。妖精眼で見る星、その輝きの一つだって」

ホープ「トネリコ様…本当に、私達妖精のせいで…」

オーロラ「俯いては、だめよ。あなたたちは、あの涙を拭い、報いるために来たのでしょう?」

リッカ「そうだよ。トネリコの生きた意味が報われたか、無駄になるかはこれから次第だよ!」

ライネック「そうだ。我々には…黄金の旅団がついているぞ」

ホープ「…うん!」

ちょっと離れた場所

CCA「ヴォエッ!!」

モルガン『刺激が強すぎたようですね、我が妹』

CCA「だ、大丈夫です。皆を護るために、ヴォエッ!!」

マーリン「いやぁ、愉快であれアルトリアはどこでもアルトリアだねぇ!」


秋の淑女

秋の記憶。秋とは実りの季節。私にとっての秋は、多くの実りを蓄えるものでした。

 

それは私のための蓄えではありません。私のための実りではありません。未来に至るための、私が見出した希望を…大切な希望達を未来に託すための稲穂を実らせるための拵えでした。

 

「大丈夫ですか?もう安心ですよ」

 

私は妖精に隙を晒しました。無防備な背中を見せつけます。

 

(こいつ、楽園の妖精…救世主ってやつだ)

(油断してるよ、捕まえて売り渡してお金をもらおうよ!)

(そうだそうだ、それがいい!どうせ殺したって、また出てくるんだろ?)

 

妖精達は学習もせずに、救世主や優れた肩書や、単純な名誉や金銭が欲しくて私を裏切ります。全く変わらぬ、いつものように。

 

今までは、裏切られてきました。いつか解ってくれるからと願っていたから。

 

今までは背中を切られていました。いつか皆を救いたいと願っていたから。

 

でも、今は。

 

「─────」

 

妖精國に蠢く罪人など、私と。私の愛する者達の敵でしかありませんでしたので。

 

「ぎゃあぁあぁあ!?」

「ひっ!?ば、バラバラにっ!?」

「ぐげぇえぇえ!!」

 

なんの容赦もいりません。八つ裂きに、細切れに、バラバラに。死骸に変えて大地としました。

 

「ふむ、このペースで嵩増ししていけばなんとか8割くらいは賄えるでしょうか。今まで積み重なった死骸が死骸です。追加量もそれほどかかりませんね」

 

「あ、ぁ…あぁ…」

 

「まだまだやることが山積みです。一つ一つ、コツコツと重ねていかないと」

 

「ごめんなさい!許して、許してください!救世主、救世主様!」

 

「……」

 

「こんな事していいと思ってるの!?謝ったのよ、謝ったわよ!?反省した、無抵抗な相手を殺さないわよね、殺せないわよね!?私はあやま、ぎぃいぃいぃいぃい!?」

 

五月蠅かったので、頭に生きながら穴を空けて鉛を流し込んでやりました。赦しを口にするなど、穢らわしい。

 

「ホープと似て非なる穢らわしい咎人共が。私の希望が賜った救いが穢れるでしょう」

 

私にとっての妖精とは、敵であり道具です。ホープ達を異聞世界の住人…人理強度を高め、汎人類史に託すために、この道具達を大切に大切に使いました。

 

「あら、あなたは…トネリコ?救世主の?わざわざ会いに来てくれたの?」

 

「えぇ。はじめまして。風の氏族長──」

 

鬱陶しい風の氏族長の羽根をもぎ取り、標本にして。生きた死骸にした後に能力を活用し、妖精達の集落を十近くを間引きしたり。

 

「あはは、あははは!この、この!プチッ、プチッ、プチッとしてやります!どうです!どうです!どうですか!」

 

翅の氏族長の集落を牙の氏族に扮して焼き払い、復讐心に我を忘れさせ、牙の氏族を自らの手で潰し、厄災に対応出来ぬようにしたり。

 

「がっ───あ、ぅ……───?」

 

「背中からの心臓の引き抜き方。お前達が何度も教えてくれたものだ。──風の妖精だ!風の妖精が我等が氏族長を殺めたぞ!卑劣な暗殺だ!許すな、許すな!風の氏族を許すな!」

 

隙だらけだった背中から心臓と霊核を引き抜き、細工した後馬鹿な妖精どもを扇動し、妖精間の戦争を引き起こし一気に死骸を増やしたり。

 

「魔術式は…うん。ちゃんと書かれていますね。パスもきっちりできています。後は、ケルヌンノスの呪いをなんとかしなくては…エクスカリバー、は…黄金の旅団のポリシーに反するので、ロンゴミニアドを多めに…」

 

モースを餌に軍をおびき寄せ、ウェールズを焼き払った奴等を一人一人焼き殺しブリテンの一部にしたりと。

 

とにかく咎人達の基盤を崩し、穢らわしい妖精達を道具として溜め込み、未来に備えました。

 

その甲斐もあって、敵国の死骸は山と積み上がりました。これだけあれば、術式さえ発動できれば魔力量は十分です。

 

その次は、この汚らわしいブリテンそのものを終わらせる準備です。こんな悍ましいだけの世界は、まるごと消えてなくなるべきだから。

 

「エクスカリバーの部品は私の身体。魂をきちんと生かして保存しないと。死んでしまっては情報として使えないから…この」

 

この世界は悍ましい六妖精が聖剣を作らぬが故に分岐したもの。ならばこの世界に聖剣を生めば、この罪人達の世界は前提から崩れ去り消えていく。

 

妖精達を使うのではなく、世界を殺すために聖剣を作る。その準備も、私は秋の実りに使いました。

 

…この記憶が哀しいのは、ここからなのです。

 

「あ、ぁあー。うあ、あー」

 

魂を生きたまま切り分けていくのは、自分の人格や精神を切り分けるのと同じ。何度も何度も切り分けて、私は何度も何度も忘れそうになってしまった。

 

ホープ達の存在を。未来に託すべき仲間達の存在を。

 

「…切り分けて、切り分けて。私が残るのは一体どこまでなんだろう。私が私でいられるのは、どれくらいなんだろう」

 

やらなくてはならない作業。楽園の妖精としての使命のため、成すべき事。

 

「うぁあ〜。あ。ぅあ…はっ…!いけない…忘れちゃいけない、私はトネリコ、皆を救う為の救世主なんだから…!」

 

何度も自我を消しかけながら、身体にとある記憶を残して魂を可能な限りバラバラに。ブライドと学んだ、始まりの怪物たちの巫女の活用法の再現。

 

「忘れたくない、忘れたくない、忘れたくない…!皆の事を、忘れたくない…!」

 

断続的な意識の断絶が起き、記憶の欠落が起きようと。私は決して歩みを止めませんでした。

 

「ニミュエ、あなたを通じて仲間達をアヴァロンに避難させる術式を組みます。その為のこの湖、その為のこの魔術式です。いいですね」

 

「それはいいけれど…あなた、仲間達以外の全ての妖精を殺すことにしたの?」

 

「?おかしな事を聞きますね。それが何か問題ですか?」

 

「…楽園から遣わされた、救世主の言葉とも思えないわね。辛かったでしょう」

 

「まぁ、楽しい思い出ばかりではありませんでしたよ。でも…それももうすぐおしまいです」

 

ニミュエと語った、短い問答が印象に強く残っています。

 

そして、とてもとても悲しかった事は二つ。

 

「ど、どうしましたか。トネリコ様?」

 

「?ビリィ?」

 

「まるで石像のように…今日の料理はお口に合いませんでしたか?」

 

「あ、いえ…少し考え事です。ごめんなさい。おかわりを貰えますか?」

 

味が、しないのです。あんなに美味しいビリィの料理が。あんなに楽しみにしていたビリィの料理が。

 

 

「トネリコ!ウーサーとの結婚式、すっごい楽しみだなぁ!」

 

「え…?」

 

「北の妖精達が場を貸してくれるなんて話の分かる奴らだな!トネリコの長い長い旅がようやく一つの節目を迎えるんだ!ボクも頑張って織物しちゃうぜ〜!」

 

(結婚……あぁ。ウーサーとの)

 

トトロット達が進めてくれたウーサーとの婚儀。異聞世界を作るための同志ウーサーとの婚姻の儀。

 

(──どうせ、毒でも盛られて台無しにされるんだろうな)

 

私は生きていながら、既に死んでいたのでしょう。

 

私もまた、ホープ達を春に導くための農墾具。取るに足らない希望の礎。

 

それでも、仲間達に偽りの笑顔や言葉を向け続ける事は本当に辛くて、哀しくて、やるせなくて。

 

トトロットの笑顔と言葉を受け止める自分すら、希望の未来に辿り着くために質に差し出してしまっていたので。

 

その事が、とてもとても辛かった。謝りたかった。

 

ごめんなさい。私の大切な仲間達。

 

こんな不甲斐ない救世主で、ごめんなさい。

 

大好きな皆に嘘を付き続けて、ごめんなさい。

 

それでも。それでも、私は皆のことが大切です。皆こそが、私の生きる全てです。

 

いつか来る、黄金の旅団に皆を託すその日まで。

 

 

──赤き星と、虹に皆を託すまで。救世主として在り続けるのです。

 




秋の記憶は、これでおしまい。

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