人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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チルノ覚醒より数刻前

リッカ「オーディン様、まずは様子見として私が行く、なんて…」

鳩「「ポー」」

ロマン『初見殺し対策なのは解るけど、マスターも援護も抜きだという無理ゲーだよ?いくらオーディン様だと言っても…』

オルガマリー『せめてパスを補強し、十全に戦える処置は取りましょう。リッカ、魔力を回す準備をお願いね』

リッカ「勿論だよ!本当に危なくなったら、飛んでいけばいいからね!」

マシュ「はい!マシュ、飛びます!」

騎士王(…本当に斥候のつもりで単独行動を選んだのか、大神…もしや…)

(彼にしかない、気付きでもあったというのか…?)


白夜

「能書きはいらん。可能な限り貴様を暴き立てる」

 

賢者の証たる外套を脱ぎ捨てしオーディン。その筋骨隆々の肉体は、彼自身もまた並ぶものなき勇士である事を鮮明かつ如実に表す。手にする大いなる槍、グングニルを有する右腕に力が込められ、隆起した筋肉に血管が浮き出る。

 

『…………』

 

白き外套を纏いたる存在は、全く動く様相を見せない。顔もまともに見れぬほど目深に顔を隠し、かろうじて身体をこちらに向けた事のみが意志を宿す証であるほど。だが、オーディンは神の中で最も質実剛健。ゼウスのように遊びもなく、イザナミのような溢れる人間性も戦場には持ち込まない。

 

「『大神宣言』───」

 

リッカたちカルデアから大いなる魔力供給を受けた事を確認、実感したオーディンはそのまま宝具の解放に踏み切る。ゲイボルクのオリジナルとされる、放てば敵を必ずや穿つ槍。オーディンの代名詞にて切り札。それを初手で引き放ったのだ。

 

(最大級の宝具攻撃。対処にて行動を見極める)

 

放たれ、一直線に向かう槍。白き外套の男は、それをただ眺めている。防御も、反撃も行う素振りを見せない。

 

(何のつもりだ。まさか加護か遮断魔術を頼りにするか?)

 

その思惑の答えは一瞬先に現れる事となる。彼をグングニルが貫く瞬間、甲高い音と光によって辺りが満ち溢れる。

 

『ぬぅっ…』

 

それは、防御という領域において最高峰のもの。あらゆる攻撃を拒絶しワールドエンドクラスの攻撃すら防ぐであろう対粛清防御の発動。グングニルは無双の槍だが、次元を貫きうる逸話はない。それ故、無念にもそれは阻まれる。

 

『……』

 

しかし、その防護も相手取るは神の槍。長々と保つ筈もなく壱の槍を防いだ時点で静かに消え去るのをオーディンは視認した。この事から、それは誰か外付けによる力であることを確認する。

 

(やはり噂に聞くビーストΩ、それに連なる者か)

 

オーディンは会話になど興じない。ひたすら自問自答を行い、次なる対処に努める実戦的な神である。北欧の神は殊更、そういう余計なアクションを嫌う傾向にあった。

 

自らの手に戻るグングニルを手にしたオーディンは自らが跳躍し外套の者に斬りかかる。対粛清防御は貫けねど、その展開の終劇は確認したが故の近接戦闘である。

 

(奴は武勇に優れた英霊か?さらなる検討を成す)

 

首に目掛け振るわれたグングニルの一撃。フェンリル相手でなければ間違いなく致命に至る勇士たる存在の頂点による至高の一撃

 

「!」

 

だが、それは阻まれる。白き外套の者へと届くことなく、火花を散らし防がれた。魔術ではなく、物理的なものによる干渉でだ。

 

(あの得物は…)

 

目測により計れば、それは槍。古く、そして飾り気のない槍。穂先に血が滲む、兵士が使うかのような一般的な槍。それが外套の者を護るように浮かび上がり、グングニルを阻んだのだ。

 

そのままオーディンは無数の連撃を叩き込む。必殺の一撃とばかりに戦士のルーンを乗せた攻撃は、無双の勢いを以て槍ごと相手を後退させていく。

 

(武勇には秀でていない。ならば神たる存在から力を得ているもの…か)

 

やがて、怒涛の連撃は相手の槍を打ち払う事に成功する。武勇にてはオーディンが勝ったのだ。そのままグングニルを上段に振り上げ、防御叶わぬならば串刺しにせんとする動きを見せる。

 

(詰みに入った軌道だ。手の内を晒さねば死ぬのみ。さぁ、どう出る)

 

そのまま、オーディンの槍が頭蓋を砕かんとした──その時だった。

 

「───!!」

 

突き抜けるような悪寒。絶対の死の運命。かつて体感した逃れ得ぬ死の予感に、彼は図らずも距離を取らされる事となる。

 

『…………』

 

外套の者はひたすらに立ち竦むのみであった。──正確には、周囲。その周りから、おぞましきそれが姿を表す。

 

「使い魔…か…?」

 

思わず現れたそれをそう形容するしかなかった。それ程に、その存在らは異様だった。

 

鎌を、槍を、剣を持つ人型の存在。彼を護るように現れた存在。だがそれは、白い肌に骨を貼り付けたかのような不気味極まる見た目をしており、顔にあたる部分は生気など微塵も感じさせない。歯は剥き出しとなっていて、それはまるで痩せ細った人間のようだ。赤き血の波紋から、それらは次々と現れ出る。

 

(十は越える…十二、十二使徒か…!?)

 

その存在らは、外套の者に深々と礼をし、跪き祈りを捧げる。まるで神を崇めるように、赦しと奇跡を求めるように。

 

『…………』

 

それにすら答える事もなく、外套の者は佇む。やがて祈りを終えた不気味なるものは、全員が殺戮の道具を持ち寄り、オーディンへと向き直り──そして。

 

(……!!!)

 

一斉に、オーディンへと殺到する。動きは速くない。しかし完璧に統制が整った攻撃、急所しか狙わぬ波状攻撃がオーディンを防戦一方とさせる。

 

(十二使徒…あの槍…これだけ分かれば真名など絞れると言うもの…)

 

オーディンは早くもかの存在にへと至らんとしていた。オーディンでなければ、彼は早々に処理し消えていただろう。辺りにルーンを使い、逃げ道を塞いだが故のこの二つを見出した。

 

(だが、この者等の様相はなんという事だ。これが、かの教えを広めた『使徒』だというのか?)

 

受肉に失敗したかのような、無様な骨と皮の存在。鎌に槍を虚ろに振るう者達。その真偽を問いながら、オーディンは一対十二を覆す。

 

剣戟の中でルーンを虚空に刻み、炎と雷、水に氷を呼び出し使徒達を打ち据える。原初の魔術を喰らいし使徒達は、ダメージを受けたかのように後ずさる。

 

「…!?」

 

更に不可解な行動を使徒らは見せる。直撃し、致命傷を受けたであろう使徒が蹲り、なんと自らを自らの武器で突き刺したのだ。それは自殺…否、殉教であった。

 

「……………」

 

そのあまりの不可解かつ理解の範疇にいる、戦闘とすら呼んでいいのか憚れる行為に流石のオーディンも絶句する。何故なら、使徒が次々とそれに倣い、同じ様に殉教し命を絶ったのだから。

 

『………………』

 

ただ黙し、その光景を見据えている。いや、或いは何を見ているのかすらも定かではない。白き外套の者。解るはそのひたすらな不気味さのみ。

 

否…彼はその真名を、見抜かんとしていた。

 

「貴様の真名…大凡の見当は付けさせてもらった。先の槍、あれはかつて尊き者の脇腹を刺した槍、ロンギヌスであろう」

 

オーディンは他の神話体形にも知識がある。その来歴を、静かに問う。

 

「それならば我がグングニルと撃ち合う格を有するも理解できる。そして先の使徒らは、数からかつて尊き者の弟子であった十二使徒。…であるならば、貴様の正体は解かろうもの」

 

ここまでくれば語るも愚か。それは、最も有名な救世主であり、神の子たる存在。三位一体の子。

 

「貴様の名は□□□・□□□□。唯一神により派遣され、原罪を抱え磔となった、数多の教えの始まりであろう」

 

オーディンは確信を以て看破した。その白き外套の存在は、まさに神たるものの唯一の子。人間を救う為、遣わされた聖なる者。

 

『…………………』

 

それを受けて、彼…神の子たる存在は告げた。

 

『…エリ・エリ・エマ・サバクタニ』

 

「…神よ、何故、私を見捨てたのか…だと?」

 

ただし、オーディンのそれらには不審な点ばかりであった。正体が、真に神たる存在の子であるのなら。

 

何故、神への嘆きを口にする?

 

あの十二使徒の悍ましい変容はいかなる理由か?

 

そもそも何故、妖精達を悪化させ、カースロンギヌス等を使用し汎人類史に攻撃する?

 

不明なることばかり。不明瞭なることは更に増える。

 

(ならば、識る他あるまい)

 

オーディンは更に構える。

 

『…………』

 

不気味なまでに沈黙を保つ、その存在は、果たして何を目論むのか。




オーディン「何…!?」

瞬間、外套の者はゆっくりと足許から消え出した。それは、まるで何もいなかったかのように自然に。

オーディン(真名開帳はブラフか、私はまだこの者の真理に何も触れてはいない…!)

逃さぬ、とさらなる宝具を展開しようとした、その時。



星の蝗は、誕生する。




「───!?」

どこからか伴う声に停止し、外套の者は消えてしまう。オーディンはただ、その未明を反芻する。

「……星の蝗……まさか…!?」

武勇では遅れを取らず、圧倒すらしていた。

しかし、探求という点において…

彼は、大神を完全に翻弄していた。

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