『人はただ弱く、神は人が描いた強さであるが故にその強さは人の認識を超えられない。しかしお前は妖精、自然の生み出した神秘。その強さの意味するところはあまりにも偉大にして雄大』
『故にこそ、力と向き合いなさい。あなた自身の居場所や幸せを、あなた自身が壊さぬように』
『力に伴う責任を知る。それが、あなたの積める善行です。解りましたね、氷の妖精───』
(今から返信します)
【何をしようと無駄なこと!私を愛さぬ奴は死ねぇッ!!】
ブリュンヒルデにルーンを刻まれ、目を見開くチルノ。ブリュンヒルデは令呪を受け、遂にそのルーン…オーディンから託されし、原初の氷のルーンをチルノの魂へと刻んだ。それは、チルノに適合しその力を全開させる為のもの。当然ながら、ウィンダはそれを阻む。
『ブリ、ちょっとどけ』
「マスター…!」
【穢らわしい木端妖精がぁあっ!!】
チルノは…避けなかった。牙と土、王の力を凝縮した拳を、敢えてその身で受ける。醜悪とはいえ、その一撃は強力だ。直撃を受けたチルノは、陶器が割れるように粉々に砕ける。
【あははははははは!思い知ったかこのガキめ!私を愛さぬ者などこの世界に必要ない!!】
高らかに勝利宣言するウィンダ。──しかし。その余韻も、長くは続かなかった。
【これで──かっ──く──え──】
身体が動かない。開いた口が塞がらない。身体の動きが加速度的に鈍くなっていく。それは最早、停止の強制と言うべきもの。瞬きの間に、自身の全てが【凍結】していく。
『終わったか?ならば次はあたいの番だ』
瞬間、砕けたはずのチルノのいた場所から、なんと世界の『塗り替え』が展開されていく。妖精国を護るためか、ブリュンヒルデとウィンダのみをその領域へと招き、強制的に閉ざす。余談だが、この時妖精国にいた全てが猛烈な極寒を感じたとされる。
「こ、ここは──」
そこには、遥か遠くに見える屋敷に突き立つ無数の氷柱。そして前も見えぬ勢いの猛吹雪、光の差し込まぬ暗雲。ブリュンヒルデが知る、寿命や病気で死んだものが落ちる北欧の最深部。
「ニブルヘイム…!」
『あたいのパートナーが北欧出身だからな。その気になればどこにも出来るぞ。星に刻まれた記憶のまんまにな』
ブリュンヒルデが声に振り返る。そこにいたのはチルノ…いや、チルノを構成していた『水』が姿を変えた姿。
『感謝するぞ。親分っぽいこと、これで出来そうだ』
そこにいたのは、少女たるチルノではない。髪を腰まで伸ばし、黒と青の荘厳な鎧にマントを纏い、スイカバー色の錫杖を有する者。鋭い瞳には、雪結晶の輝き。
『アイツはアイツの言う通り、身体は最高だ。魂だけを砕いて、身体を部品に回収する』
それは、オーディンが見たとされるロキの娘、ヘル。ニブルヘイムの女王の装いに酷似していた。体型もしなやかな美しさを誇る肢体となり、地獄に咲く華を思わせる。それは、チルノが有した四大、あるいは五大元素の一つ『水』の力を完全開放した姿。
『すぐ終わる。回収は任せるぞ』
アルテミット・ワン・コールド。或いはグランド・ウォーター。水の有する一面、氷の凝固がチルノとヘルという殻を纏った、神格化される前の自然現象そのものであったのだ。
【──────】
ウィンダは最早何もすることが出来ず完全凍結している。顕現したした時点で、彼女の元素や分子運動、時、命に至るまで全てが零になり、速やかに停止したのだ。それはチルノとなった星の現象が、彼女を拒絶し留めた結果の発露。
『───』
だが、必要なのは聖剣の素材であり魂は不要だ。魂をチルノは抜き取り、摘出する。
【はっ、かかっ、か、かか──か──】
だが、それは最早戦いになどなろう筈もない。時すら、万象すら停止させる星の凝結現象に、生き物たる存在は耐えられない。活動許可を出した瞬間、その魂は無様に寒さに震え、ガチガチと打ち鳴らした歯の間から音を出す事しか出来ない。
『氷獄『無間大紅蓮地獄』』
日本の寒き地獄の底、あまりの寒さに肉が引き裂け、罪人達の血が噴き出しまた凝固し、辺りを紅蓮の花で染めるとされる最も恐ろしき地獄の一つ。
チルノの背後から九つの氷の刃が現れ、万象をバラバラに寸断しながらウィンダへと向かう。当然ながら、自身は氷の影響を受けず相手には完全な停滞を強いるが故、回避など不可能な必中必殺。
瞬く間にウィンダの魂は何十にも分割される。再起や復活を取らせぬ為の処置にして処理だ。勢いあまり吹き飛んだ斬撃が遥か彼方の暗雲を叩き割り、大轟音の末に天を切り裂く。そこからまた、無数の氷氣が漏れ出しニブルヘイムを凍結させていく。
『氷獄『コキュートス』』
チルノが目を深く閉じ、ウィンダへとむけてピントを合わせた。それは、妖精眼で見るという、視認するという行為。
だが、それは星そのものの魔力と事象を視線に凝縮したもの。飽和する雪崩を一気に視線に詰め込み、ピントを合わせ爆発させたもの。ならば視点を合わせられた場所がどうなるかなど語るまでもない。ウィンダの魂が、胴体を残してバリン、バリンと砕けていく。痛みも断末魔もない。完全に凍結しているそれは、ただのオブジェが如くだ。
『氷獄『ニブルヘイム・フェンリル』』
チルノが錫杖を上げ、大地を叩く。すると背後から、巨大な…そう形容することすら出来ぬ巨大極まる狼のビジョンが現れる。
「氷狼、フェンリル…」
ラグナロクに大神を飲み込んだ氷狼、フェンリル。その魂を呼び寄せ、この固有結界、或いは変化させた領域へと顕現させることを可能にする。その巨大さにおいて、叶うものは最早北欧地方にはおらぬ程の星の魔狼。
チルノの指示にて、フェンリルはその顎を使い狙いの地点の全てを大地毎喰らい、抉り取った。顎を噛み合わせ、開いた先には星の内郭にまで届かんとする程の虚。フェンリルに切り取られたテクスチャの穴。対粛清防御でなければ絶死は免れぬ、太陽喰らいの対界攻撃。
『お前はここでずっと氷漬けだ。救いも許しも、何もない氷の地獄でな』
頭部部分だけとなったウィンダに、チルノは静かに語りかける。最早聞こえてすらいないだろう。彼女から溢れた氷気、冷気に触れた時点で決着はついていた。
それは、原初のルーンで彼女…突然変異にして現代に先祖返りした原初の水の擬人化状態解き放ち、本来の力を解き放ち、星の側へと立ち返らせるもの。媒体として、ニブルヘイムを下に様々な星に宿る星の記憶をルーンを通じて引き出したもの。
もはやそれは戦うという次元にいない。神とは人間の低次元な認識で自然現象を型に当てはめたもの。今のチルノは人がただ畏れた自然現象の側へと到達し、人と星の記憶をルーンを通じ、自らの属性を使用して統括せし星の水にして星の氷。
ブリュンヒルデの懸念はここにあった。チルノがもし、これを解いたとして、その力は紛れもなく万象を凍結させうる原初の氷。まかり間違っても顕現させればそれはこの世に地獄を生む。
加えて、博麗大結界という仕切りの内で解き放たれれば、一瞬で全てが凍り付き幻想郷は気付くことすらなく滅ぶ。抵抗など許されない。物理、時空、概念の三重凍結からは神であろうと逃れられない。妖精眼により、あらゆる欺瞞も彼女に意味は成さない。彼女は最早、戦うという次元にいる存在ではなくなった。
人が原初にただ祈るしか出来なかった自然現象の発露。その力を、妖精達の未来を護るために彼女は受け入れ発動したのだ。それが例え、自身の居場所を無くす決断としても。
『終わりにするぞ。──氷獄』
それが彼女の決意にして本懐。今度こそ、絶対に凍らせるべきは過たない。
『『絶対零度』』
チルノの全てを懸けた、始まりの魔物たちへの断罪にして子分達の守護。それは確かに今果たされ、ウィンダはガラス細工のように魂をチルノの錫杖に寸断され、塵へと帰った。
『燃えるゴミにも燃えないゴミにもならないのなら、カチコチになって砕け散れ』
氷獄の中の宣誓。最早話すことも命乞いをする事もなく、消え去ったウィンダだったもの。
オヤブンとして、彼女は静かにその魂の末路を見つめていた──。
チルノ『さてと…帰るか、ブリュンヒルデ』
ブリュンヒルデ「はい。お見事でした、マスター」
チルノ『サンキューな。これであたいらの世界は守られた。…でも、流石にこの氷は外には出せないな』
ブリュンヒルデ「……」
『カルデアはともかく、幻想郷なんて一発でカチコチだぞ。…弾幕ごっこなんてもっての外だ』
ブリュンヒルデ「マスター…」
チルノ『一足先に…大人になってしまったな』
ブリュンヒルデ「……」
チルノ『行こう。子分が待ってるからな』
ブリュンヒルデ「…はい。肉体は、回収します」
ブリュンヒルデを連れ、自らの領域を閉じるチルノ。間違いなく彼女は、幻想郷のパワーバランスを変える側となった。
しかしそれは無邪気に遊び、疲れたら寝るという幸せに背を向け、罪を力とした選択の果て。
──彼女は、力の責任を担うもの。即ち『大人』として。本当の意味で『親分』となったのであった。
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