人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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チルノ「ブリ!」

ブリュンヒルデ「はい、マスター」

ウィンダ「なっ…!?」

チルノ「お前はこっちだ。あたいとこい!!」

プルム「ウィンダ!この…誰が私を護るのです!?」

バーヴァンシー「安心しろよ。どっちもいずれブチのめされんだ。早いか遅いかの差だっつーの」

プルム「…随分と粋がりますね。巫女の思念と結ばれただけの使い捨て道具如きが!」

バーヴァンシー「……あぁ。やっぱ、そういう事か」

(今から返信します!)


弱者の明暗

「汎人類史に与し、妖精でありながら世界の滅びに加担する愚者共…!報いを受けるのはあなた達の方です!私を倒そうだなどと、思い上がるな──!」

 

「!!」

 

ホープ、ビリィ、バーヴァンシー。赦しを得た善なる妖精は数多の力を借りてとうとう断罪の機会を得る。しかしそこにいるのは始まりの悪魔。弱体化したといえ、その力自体は厄介極まる性質を持つ。

 

「ならば招待してあげましょう。我が妖精領域!強き者は弱く!弱きものはより弱くの管理空間へとね!!」

 

瞬間、辺りの光景ごと世界が歪められる。それは妖精が持つとされる神秘にして、世界を自らの存在で塗り替える力。プルム、翅の妖精はこの術を特化し所有する妖精だ。その始祖ともなれば、逃げることは至難の業であろう。

 

「これが、始まりの六人の秘術…!」

 

ビリィ、バーヴァンシー、そしてホープらは自らの力が、まるで芥子粒になってしまったかのような感覚に陥る。彼女らもまた妖精、力や魔力で大抵の事は出来るような実力はある。それが、レベル1に立ち戻ったかのように弱体化しているのだ。

 

「言ったでしょう?私が管理する空間だと。この中にいるものはどれだけ強かろうが関係ない。全てが弱く、醜く落ちる。あなた達は態々、殺されに来たということ!」

 

「きゃあっ!?」

 

上から覗き込む形のプルムが、指を伸ばし押し潰さんと迫りくる。虫かごの中を覗き込むかのような絶対優位を保ち、一方的に嬲り潰す手段にて三人を圧殺する腹積もりだ。それは最早、戦いとは言えない。

 

「くうっ、身体に力が入らない…!避けるので、精一杯だ…!」

「せっかく、皆様から成し遂げる力をいただけたのに…!」

 

ホープとビリィは懸命に抗うも、ルールの強制力においてプルムは圧倒的だ。レベル一状態のまま、嬲られるばかりの善なる妖精達。

 

「あははははは!なんてみっともない!力が在ると思い上がり、ケルヌンノスや巫女に許されたと思い上がり所詮はこのザマ!醜く潰されにきただけの恥を晒すまでの事なんですよねぇ!」

 

嗤い、攻撃を繰り返す。さながら虫を上から潰すかのように。巻き込まれれば即死は免れない。それほど一方的な攻撃であるのだ。戦いとも言えぬソレを、懸命に捌いていく。

 

「──ここだ!!」

 

しかしビリィは決して逃げ惑うばかりの醜態を晒しているのではなかった。優越感に浸りながら伸ばされた指を、その生来の頑強さでがっしりと受け止める。

 

「なっ!?」

 

驚嘆するプルム。それは当然だ。強きものは弱く。弱きものはより弱く。プルム自身の肉体的な力は変わっていない。ビリィ自身の全身全霊は落ちようと、プルムの指を一つの力は有する。

 

「この、穢らわしい!離しなさい、粗暴で野蛮な土の末裔の分際で…!」

 

「よし、ナイスだビリィ。やっぱ鍛えた時間と筋肉は裏切らねぇよな。コイツには聞きたいことがある。爪と肉の間に釘刺されたくなけりゃちゃんと答えろよ?」

 

「くっ…!!」

 

バーヴァンシーはビリィの肩に飛び乗り、プルムを見上げ問う。用意した釘に糸は弱くとも、糸で爪を飛ばすことも肉の間に釘を刺す事も可能であり、その苦痛はなんら弱体化しない。

 

「まず一つ。私は何のための妖精だ?解るだろ。今の口ぶりなら」

 

「はぁ!?知らなかったんですか?バーヴァンシーは泣き虫の鳴き女。皆に虐められ、ただメソメソと泣くことで誰かの嗜虐心を満たすもの。それ以外の何だと言うんです!?」

 

「…それは間違いないが。なんか他にあるだろ。『巫女の思念』の混ざりよう、とかさ。さもなきゃ私が、私自身の頭の回転の速さに説明がつかねぇよ」

 

バーヴァンシーは予想がついていた。元々妖精達のストレス発散の使命のための妖精に、何らかの意志が混じったもの。それが、自分という妖精のファクター。

 

「予想でいやぁ、テメェらにバラされた巫女様が咄嗟に切り離した善性、人間性ってとこか?心と意志が死ぬ前に、世界に溶け込ませた。何者かが、それを受け継いでくれることを願って。…大したもんだぜ。神の巫女はよ」

 

「だから、凄く色々察しが良かったり落ち着いてたの?バーヴァンシーは…」

 

「ま、それも巫女に聞けば解ることさ。今はこいつらの反応で確かめたかっただけ。本題はこっちだ。『ウェールズの森』…」

 

「!」

 

「そこにおわしたブライド様に、優しい虫たち。トネリコお母様が見出すはずだった、二人に続くお母様の『民』。そいつらを害したのはテメェか、ウィンダの末裔か。どっちだ?」

 

バーヴァンシーは気掛かりだったのだ。とある理由で、アヴァロンにいながらブライドに大恩を得ていたから。

 

「それは…ぐぅうっ!!」

 

「ビリィ、もっと締め付けろよ。そのうちちぎれるかもな?」

 

「ッ、そんなの風の氏族に決まっているでしょう!アレの存在理由から、自分を差し置いた大妖精だなんて認めるはずもない!」

 

「本当か?自分にしか興味のねぇ奴が態々外に目を向けるわけねぇだろ。エゴサ、なんて文化はこっちにはねぇ。常に嘯き、囁いた奴がいると考えりゃ自然だ。鬱陶しい羽の音みたいにな」

 

「そ、それは…!そんなの、末裔が勝手にやった事でしょう!?」

 

「テメェは悪くないってんだな?」

 

「そうです!子供の罪は子供の愚かさ、私達になんて全く関わりの無いものです!あなた達が滅びた理由は、ただ愚かなバカたちだったというだけ!私達は関係ありません!」

 

その言葉を聞き、はあと深い溜め息をバーヴァンシーは吐いた。目眩すら覚えたのだろう。頭を抑えながら告げる。

 

「『知ってる』んだよ、バァカ。翅の氏族と風の氏族が手を組んで、自分らの立場を脅かす奴等を迫害してウェールズの森に捨ててた事はな。ぜーんぶブライド様から聞いてたんだ」

 

「はぁ!?」

 

「テメェらの力を全て受け継いだ奇跡の大妖精。その風はアヴァロンにも届いてた。私の話し相手になってくれてさ。妖精国の実情は、全部あの御方には解ってたのさ。それで教えてくれた。風と翅は森を嫌っている。いずれ私達は滅ぼされる、ってな…!」

 

バーヴァンシーは巫女の感受性を受け継ぎ、アヴァロンに静養中の彼女をブライドは知っていた。話し相手になってあげたい、それだけの理由でバーヴァンシーと対話していたのだ。

 

「妖精眼だって持ってたぜ、ブライド様はよ。全員の本心や思惑なんて筒抜けだった。何もしない、起こさない事が償いと心で決め、捨てられた妖精達の家と決めてたあの方と仲間たちをお前らの末裔はぶち壊した…!」

 

トネリコはウェールズの森にてブライドより、より詳しいビジョンを学び魔術を極め、またウェールズの仲間たちを自らの国に招くと決めていた。いつか共に、罪を背負い許せる国を目指して。

 

「ソイツを当時のテメェらの末裔が台無しにしてくれて、トネリコお母様は一人で泣いてたんだ。覚悟を決めて鉄面皮だったお母様が、子供みたいに泣いてたんだよ…!私の目の前でな…!!」

 

トネリコの哀しみと、妖精達への敵意はそこから生まれたのだ。ウェールズの森はもうトネリコの国だった。ブライドは自らの国を良くする指導者や象徴に相応しかった。それを焼き払われたのだ。自身らを信じ、逃がした彼女らは全滅した。トネリコはひたすらに理想郷にて慟哭したのだという。

 

「その時の悲しい声と泣き顔を見て私は決めたのさ。仇は取る。奴等が死んだなら、必ず報いを受けさせる。いつか来る黄金の旅団の力を借りて、断罪するために立ち上がってなぁ!」

 

「ま、待ちなさい!」

 

「テメェらは絶対許さねぇ…!ホープ、宝具だ!妖精騎士として、宝具を使え!宝具は弱くならねぇ、変わらない奇跡だ!」

 

「宝具…!う、うん!」

 

「こいつの指、ぶった斬ってやれ!!」

 

 

ホープは頷き、右腕に装着された銀色の腕を起動する。それは、空想聖剣を装填したベディヴィエールの銀の腕。

 

「我等が願いを抱いて走れ、銀の流星!」

 

「や、やめ───」

 

「『幸へと向かえ、銀の腕(ハッピーエンド・アガートラム)』───!!」

 

ビリィが抑えていたプルムの指の関節に、アガートラムの斬撃が直撃し…。

 

「あぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁっ!!指が!私の指があぁぁっ!!」

 

渾身の切れ味で指先を斬られ、絶叫しながらもんどり打つ。あまりの動揺に、領域すら保てなくなり法則は元に戻る。

 

「ナイス、ビリィ、ホープ。…後は任せな。ケジメつけてやる」

 

「ブライドさんと、巫女さんの為、だね!」

 

「あぁ。そっちが私の一番だ」

 

釘と鎚を出し、バーヴァンシーが悶えるプルムに歩み寄る…




バーヴァンシー「指の先で偉い騒ぎ様だな、翅のクソヤロー。巫女の苦しみは文字通りソレの数万倍だぜ?」

プルム「あっ、ぐぅ、うぅ…!なにが、何が悪いんです!私は弱いんですよ!?」

バーヴァンシー「あ?」

プルム「翅の妖精は身体も弱くて、力も弱い!皆に比べて私は何もかもが劣っている!だから私のやることは、皆より弱い私のやることは許されて当たり前なんです!」

「……………」

プルム「末裔だって同じ考えだったのでしょう!なんですか、ちょっと告げ口したくらい!私より綺麗で輝いているから、それだけ恵まれてるからいいじゃないですか!」

バーヴァンシー「……その口ぶりからするに、毒殺計画を風と組んで進めたのもテメェだろ」

プルム「そうですよ!偉そうで、私より強いやつは皆死ねばいい!誰も彼も、どいつもこいつも私より下になれば私は見下されない!穢らわしい牙も、土も、馬鹿な鏡も雨も!精神破綻者の風も!馬鹿みたいに死ねばいいんです!」

バーヴァンシー「…よーく解ったよ、プルム」

プルム「分かってくれましたか!じゃあさっさと治療してください!弱い私がこんなに苦しんでいるのに──」

バーヴァンシー「まず、テメェが真っ先に死ね」

プルム「かっ───」

眉間に釘を打ち込み、糸でプルムを細切れにし、羽をズタズタに切り刻む

バーヴァンシー「弱けりゃ何してもいいわけねぇだろ、カス。ウェールズの皆は、弱さを痛みとして互いに手を取り合ってたんだ」

プルム「たす、けて…──」
「くたばれ、害虫」

首のプルムをヒールで踏みつけ、魔力を流し込んで爆散させる。翅の氏族は、これで滅びた。

「…ウェールズの皆。ブライド様。仇は一人、討ちました。ゆっくり、睡ってください」

ホープ「…バーヴァンシー…」
ビリィ「…君はずっと、ブライド様とウェールズの森の敵討ちを…」

自分のような存在に、目をかけてくれた二人目。

顔合わせも出来なかった大恩人に、祈りを捧げるバーヴァンシーであった。

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