そりゃああれだ!さっきボコボコにして追い返した奴等の中から、反省してくれるやつが現れるかもしれないじゃん?
殺しちゃったらそこで終わりだ。僕らの仕事は掃除や殺しじゃない。
それに、アンタは自分の国がほしいんだろ?じゃああいつらも未来の国民ってわけなんだわ!
いつか、アンタの行いは必ず報われる。だったら騎士として、それを後押しするのが僕の役目さ。
いつかその日が来るまで、僕はずっとアンタの騎士でいてあげるつもりさ!
そう、いつか…
そんな日が、来たらいいよな!応援してるぜ、トネリコ!
「マスター、マシュ以外の皆を湖へ転移させるように。あの厄災は私を狙っています。マシュはマスターの防護を」
騎士王は戦闘態勢にて、恩讐、あるいは復讐の厄災に相対する。ケルヌンノスを人型に、黒く塗り潰したかのような出で立ち。呪いそのものたる有り様は間違いなくこのブリテンにおける災禍の具現。
「わかった!ロマニ、強制転移お願い!」
『良かった、リッカ君意外と冷静だった!もう準備はできてる、特にビリィ君とチルノ君はすぐに解呪を受けるようにね!』
緊急事態故に有無を言わさず、ロマニの魔術転移が作動しリッカ、マシュ、騎士王以外のメンバーが令呪使用時の要領で安全圏へ離脱する。騎士王も、ゆっくりと聖剣を抜き放つ。
【この国はトネリコのものだ。奪い取ろうとするヤツは許さない。侵略者は勿論──】
「……」
【薄汚い妖精共も含めてなあッ───!!】
呪いを爆発させたかのような加速で、恩讐の厄災が騎士王のエクスカリバーに得物を叩き付けた。受け止められたその衝撃で、ブリテンの大地が深々とクレーターを穿ち抉れる。その膂力は、まさに積み重ねられた呪いの重さと深さと同義。
(得物がよく見えない…これは、ランスロット卿の宝具と似通ったものか)
そう、聖剣の輝きに晒されていながら、その刃渡りも姿もまるで把握できない。ぶつかり合う重さから、鉄の物体であることという事しか読み取れぬ奇怪さに騎士王は目を細める。
「先輩!私の後ろに!クールダウンできましたか!」
「お陰様で!騎士王!心配かけてごめん!」
「安心しました。───では」
そして騎士王は聖剣を振るい、厄災と猛烈な剣戟を彩り始める。漆黒の鎧、白銀の鎧。黒き靄と金の聖剣が、地獄もさながらのブリテンに火花を散らし刹那の間に何撃も何撃もぶつかり合う。
「……!!」
【ぐ…!】
剣戟の情勢は、圧倒的に騎士王が優勢だ。厄災の攻撃を完璧にいなし、そして僅かな隙間に魔力放出を込めた聖剣の一撃をねじり込むように叩き込む。騎士達の誉れたる王は、数多の王の中にて最も白兵戦に優れた者であるが故に。
「『
騎士王は左手を聖剣から放し、魔力を風圧として薙ぎ払い叩きつける。潤沢極まる魔力から撃ち放つ。それは、台風が巻き起こす突風に同義の威力を以て厄災に叩きつけられる。
【ぐぅああっ!!】
風に煽られ、強かに宙に舞う厄災。空中制動が出来ない今、決定的な攻撃チャンスを生み出したと決議する騎士王。
「『勝利すべき』──」
左手に小回りの利く選定の剣を召喚し、逆手にて振るわんとする。邪悪たるものに突き刺さるかと思われし、刹那。
だが───厄災の行った行動に、騎士王は目を見開く事となる。
【がああああっ!!!】
「!」
なんと、厄災の背中の部分から【手】が伸び、大地をがっしりと掴み姿勢を強固にし制御、同時に騎士王に向けて、呪いそのものたる塊を打ち放ったのだ。騎士王の冴え渡る直感が、カリバーンにおける弾き返しの選択を執り行わせる。その呪いには、覚えがある。
(ブリテンを呪う呪厄…これは、ヴォーティガーン…!)
騎士王は三つの姿を見る。一つは、呪いを統率するあの鎧を纏う存在。そして背中から見られる大量の【腕】。そして武器と、恐らく武器の隠蔽を担う【ヴォーティガーン】。それは目を背けたくなるような呪いの統合体。
(これがブリテンを呪う厄災の根源…厄災を取り纏めている元締めに間違い無い)
【おぉおおぉおおぉおおぉお!!!】
幾度も迫りくる厄災と剣を交えながら、そのさらなる正体を探らんと交戦を続ける。
『………おかしい』
そんな激闘を、通信で垣間見ていたモルガンがぽつりと呟く。モルガンには、その厄災の立ち回りがどうしても初見には思えない、既視感のようなものを覚えずにはいられなかった。
『…ですが、身長も戦法も、得物も、何もかもが違う。そんな筈は…』
呪いに染まり果てた存在から、そんな既視感がある筈もない。そう呟くモルガンの言葉を聞き及んだリッカは深く思案を巡らせる。
(そもそも厄災がわざわざどうして騎士王を狙うの?何か、彼女にしか解らない何かがあった…?モルガンと騎士王の間で…?)
───あなたの国は厄災ばかりですね、モルガン。
──黙れ。ブリテンの風土がそうさせるのだ。
(……!)
──一匹の妖精によって、この惨状は──
(……まさか…!)
今に至る厄災は、全て救世主トネリコに関する者だった。別働隊から聞いた炎の厄災、牙獣の厄災、そして、この恩讐の厄災をその法則に当てはめるとするならば。
「先輩!騎士王に加勢するべきでしょうか!」
マシュの逸りを同じくして、加速度的に恩讐の厄災の攻撃が激しくなっていく。それをカリバーンとエクスカリバーで捌く騎士王だが、呪いと得物の怒涛のコンビネーションでは、半歩ながらも後退させるほどの勢い。
(でも…)
予想が当たってしまっていたのなら。それはモルガンにとってあまりにも重い事実となるやもしれない。だが、マスターとして、戦力の中核として、迅速に判断を下さなくてはならない。
…そして、リッカは決断した。
「騎士王!」
「!」
「──相手に向かって、名乗りを上げて!!」
距離を取り、向かい合う騎士王の背中に向けて、リッカは指示を下す。一見すると要領を得ない指令に、騎士王は振り向くことなく、聖剣を振り払い毅然と告げる。
「…我が名、ウーサー・ペンドラゴンの嫡子。アルトリア・ペンドラゴン。騎士王たる概念を受け、藤丸龍華のサーヴァントとしてその命を全うする者」
『騎士王、我が妻。何を…』
…騎士王は、マスターの。リッカの真意を理解していた。
「貴様に未だ誇りが残っているのなら、我が真名に応えその来歴を明かすがいい。得物、そして名を隠し襲い掛かるは騙し討ちにも等しいぞ」
【…………騎士、か】
瞬間、恩讐の厄災が震える。それは、彼女の言葉に応えたか。或いは思い当たる節があったのか。
【いいさ、名乗ってやるよ。ボクなんかの騎士崩れの名乗りで良ければだけどさ】
瞬間、恩讐の厄災の呪いが霧散し弾け飛ぶ。何重にも染まりきっていた隠蔽を果たしていた呪層をかき消し、現れる姿。
『───そんな』
手にせしは、血に染まったハサミ、裁縫針。本来ならば、衣装を紡ぐであろう裁縫道具。数多の妖精を屠ってきた厄災の得物。
【ボクも騎士だ。主を、護りきれず。救いようのないクズ共を看過し続けた愚か者。全ての妖精を、滅ぼす事で償いとする者】
肌に刻まれた、無数の腕型のアザ。黒き眼に朱き瞳。ズタボロになり、マントのように羽織り、片耳が千切れたゴーグル付きの帽子。
『あなたは…あなたは…』
【応えてやるよ、騎士王とかいうの。ボクは騎士。妖精騎士。もういないトネリコ…護りきれなかった最低最悪の騎士…】
煮え滾る憎悪、煮え滾る憤怒。怒り、憎しみ、厄災の中核。最早遥かなる追憶の中の称号。それでも名乗り続けるは、霧散してしまった残滓であれ、それが、彼女の中の絆であるからか。
【トトロット。妖精騎士トトロット。トネリコに仕えていた…ブリテンを呪い、滅ぼすもの。ヴォーティガーン、ケルヌンノスの意志を受け継ぐ者だよ】
その名乗りに呼応するように、呪いと怨嗟が蔓延する。それは、辺り一帯を覆い尽くす程の重圧となってマシュの防護ごと踏み潰さんとするほどに。
「マシュ、リッカ。撤退を。ここで討ち果たす相手ではありません。整理の時間が必要です」
「…うん。撤退しよう!マシュ、プリドゥエン展開!」
マシュ「は、はい!!」
この場では討ち果たせる筈もない相手に、戦術的撤退を選ぶ一行。騎士王は殿を務め、睨み合う。
【……よく考えたら、そんな戯言一つでこんなにムキになるのも大人気ないんだわ。もう行っていいよ】
「そうですか。…理性はあるようですね」
【ボクの敵は妖精だけだ。妖精以外は問答無用ってわけでもないよ。でも…】
騎士と問われた事で、理性を維持しているのか。純粋な配慮の上で、トトロットは問う。
【妖精どもに肩入れするなら容赦はしない。償いだなんてもっての他だ。…何もかもが徒労になる前に、さっさとこのブリテンから出ていくんだわ】
かつての自身と、重ね合わせるように。恩讐の騎士トトロットは、去り行く一行を案じるのだった…。
騎士王「…あなたの目は、曇っている。あなたこそ、何もかもが間に合わなくなる前に、目覚めるべきだ」
モルガン『トトロット!トトロット…!』
【ん…?】
モルガン『解らないのですか…!私です!何度も、あなたに助けられた!モルガン…いえ、私は…!』
トトロット【…………誰だ、お前?】
『…トトロット……』
騎士王「彼女は…モルガン。モルガン・ル・フェ。ここではない別の世界では呼ばれていました。『トネリコ』と」
【!!!】
騎士王「目を曇らせきる前に、気付くべきだ。何を討ち、何を護るべきなのか…。その手で希望を、打ち壊す前に」
告げる言葉を告げ、騎士王もまた離脱する。残され、その軌跡を見つめるトトロット。
【………トネリコ?そんな…トネリコ…】
モルガン『………トトロット………』
…この、地獄たるブリテンにて。
幸福に至った者は、未だいない。
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