人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リッカ「あれ、そう言えばチルノがいない…」

モルガン『教会の上に行く、と言っていました。会いに行きなさい』

リッカ「うん!」

〜教会

リッカ「チルノやーい」

チルノ「……………」

リッカ「親分〜?」

チルノ「なぁリッカ。あたいは親分として見ていられないぞ」

リッカ「えっ…?」

チルノ「ホープやビリィ、バーヴァンシーはな、泣いてるんだ。心の中でずっとだ。悪いこと、なんにもしてないのにだ」

リッカ「…うん」

チルノ「トネリコってやつは、皆を大切にしていたんだな。でも、自分をぜんぜん大切にしてなかったな!」

リッカ「!!」
モルガン『…真実を見抜く目。やはりあなたは…』

チルノ「だから、親分として、マスターとして!あいつらを笑顔にしてやらなくちゃいけないな!気合い入れろ、リッカ!」

リッカ「〜うん!やってやろうよ、チルノ親分!」

チルノ「おー!!ライネックとやらも子分にしてやらなきゃな!それで…」

リッカ「?」

チルノ「【アイツ】も自分のこと、許すことができたらいいな」

モルガン『…チルノ。あなたの目は一体、何を映していると言うのです…?』

氷の妖精が見据えている先、それは妖精達の罪の根源。

──深淵の大穴。そこに潜む存在であった。


牙の赦免

「さぁて!コメディリリーフは仮の姿!ブリテンの聖剣魔術使いたるアルトリアの力を見せてやりましょうかねー!」

 

話し合いは一旦切り上げられ、いよいよ贖罪の始まりを告げる儀式が開始される。それは妖精達の身体を使った『鐘』を鳴らし、ケルヌンノスに謝罪を告げる為のもの。その『鐘』を、CCAことキャスターアルトリアが担当するのだ。

 

「あの汚物を使うと音が穢れそうなんで、1から手作業で組み上げます!多少時間かかっても質を優先してやりましょう!」

 

『案ずるな。このオレ、ファングが中身となり良き鐘を鳴らしてやる』

 

『ヌン!?』

「ファング様、よろしいのですか!?」

 

祈りを控えていたルイノス、見守るケルヌンノスが驚きを見せる。無理もないだろう。自らが姿を変えるということは、喪失の危険も過るのだ。

 

『いい加減、ここらで妖精の株を上げねば肩身が狭くてたまらんからな。雄々しく、それでいて勇気が湧く償いの音をこの地に響き轟かせてやる!』

「牙の勇者、ファング。我等罪人の為にそこまでしてくださるというのか…」

 

『無論だ。罪には裁きと、赦しが必ず必要なのだ。悔やむものには免罪を。省みるものには赦免を。他者を赦せる者こそ真の強者。汎人類史の妖精として、オレはその手本となるに過ぎぬ』

 

「…ぐうっ…くっ、なんと、なんと誇り高き在り方か…汎人類史の始まりの妖精たちは、紛れもなく至高の勇者であったのだな…」

 

涙するライネックに、半霊のファングが現れ肩を叩く。世界は違えど、反省を出来た善き子孫に。

 

『贖罪の旅の助けとして、オレの体躯をお前に托そう。この広きブリテンを、皆を乗せて駆け抜けろ。お前は、皆の誇り高き瑞獣となるのだ』

 

「はっ!確かにその任、承った!必ずや黄金の旅団の旅路を護り抜くと誓う!」

 

『うむ。頼んだぞ。──キャスターアルトリアよ!やれ!』

 

「これはヘマできませんね!聖剣魔術始動、建築魔術モード!ビルディング、開始!!」

 

瞬間、トネリコが遺した魔術式を起動したキャスターアルトリアが、汎人類史ファングの魂を核としてソレを組み上げる。はじまりの妖精の深き罪の償いを報せる、大いなる鐘。贖罪の鐘。

 

そのビルディング魔術の精度は凄まじく、鐘と同時に周囲の環境も自然と作り替えていく。聖剣に込められた星の内海の願いを使い、教会周辺を破壊される前の状態に戻さんとしているのだ。

 

『聖剣に込められたエネルギーと神秘を、陣地作成の領域で空間に作用させ現象を始動させているのか…!』

 

「本当にロマニさんは魔術関連は何でも知ってますね!流石は姉さんを下位互換にしてしまう魔術王です!」

『おい』

 

『あはは、まぁ自由意識がある魔術師は皆ソロモンより上だよ?まぁそれはともかく!鐘どころか、周辺環境まで直ってしまったのはこれ呆れるところかい?』

 

ロマニの言う通り、キャスターアルトリアは作り上げた。ファングが変化した牙の鐘と、トネリコが婚儀を挙げた教会のあるべき姿。入念な殺菌消毒を加えたため、呪いはけして介在しない。

 

「ふっ、見ましたか。これがアヴァロンでねえさんと鍛え上げた建築技術。私は最もビルディングに長けたアルトリアなんですよ。マイクラとか大得意ですからね!」

『そうですね。アヴァロンでは善きものを沢山建築してくれました。ありがとう、アルトリア』

 

「ファッ…あ、えへへ。だって姉さんと住む場所ですからね!ホープ達の国も同じくらいキレイにしましょうね!」

(扱い方を心得ましたか、モルガン)

(本音だ。…2割は建築争いの記憶だがな)

 

「ウーサー様。鐘の起動はその聖剣を!はじまりの勇者達の聖剣を以て!」

 

「あぁ。──我等は巡礼の旅を往く。異なる世界の赦しを請う妖精の友となり、知己となり、彼等の魂の安寧を望むもの」

 

ウーサー、はじまりの勇者達が見出した聖剣の担い手が、ルイノスの祈りと共に妖精の聖剣を鐘へと差し込む。

 

「彼等の罪を赦し給え。我等の罪を赦し給え。偉大にして慈悲深きケルヌンノスよ。その裁きと呪いを、彼等善き妖精より取り払い給え───」

 

「ケルヌンノス様…その怒りを、今終わらせに参ります──」

 

ルイノス、ウーサーの真摯なる祈りを受け──ファングたる鐘は、その勇壮なる音色をブリテンへと響かせる。

 

「わぁ…!」

 

キャストリアが感嘆の声を漏らす。彼女が知る音色は、償いと謝罪の暗く哀しげな音色だった。だが、ファングの鐘は違う。

 

「聞いていると…勇気が、湧いてきます!」

「牙の妖精の在るべき姿。雄々しく、力強い音色だ…ナイスでーす…!」

「うん…とても、パワフル…」

 

それは、聞くもの全てを奮い立たせる勇気の音色。心に活力をもたらす、雄々しきマーチのような弾む音色。

 

 

【■■■■■■■■■…………】

 

炎の厄災は、その音色をただ聞き入り。

 

 

【……ん〜…?なんか、久しぶりにこんないい寝起きなんだわ〜…】

 

かの復讐の厄災は、音色は聞こえずとも魂でその意味を理解した。

 

 

「……牙の勇者、ファングが言っている。贖罪に挑む妖精達に告げている」

 

ルイノスとウーサーには、鐘の音色に乗ったファングの意志が読み取れた。ルイノスは、それを伝える託宣を担う。

 

「子孫達よ。異なる世界とはいえ、我等が悍ましき罪のため長きに渡る災禍の蝕みに晒してしまい面目次第もない。この音色は、我等一同の心よりの謝罪であり、お前達への心からの激励だ」

 

「ファング、様…」

 

「お前達の巡礼は必ずや実る。お前達を罰しているケルヌンノスは、本来とても優しく慈悲深い神なのだ。お前達の真摯なる謝罪と贖罪を無下にするような邪神などでは決して無い」

 

『ヌン〜〜///』

 

「故にオレが保証する。お前達の巡礼の果てに、ケルヌンノスは待っているのだ。お前達をいたわる瞬間を。お前達を抱き寄せる瞬間を。お前達の許しは、そのままケルヌンノスの期待でもあり希望でもある」

 

鐘から、白き柱が放たれる。それはトネリコのいた教会の暗雲を穿つ牙となり、黄昏の空を導き出す。

 

 

「揺るがずに進め。お前達は一人ではない。黄金の旅団、我々の勇者。何よりも…ケルヌンノスの巫女の導きが共に在る」

 

「ぐうっ…うううっ…ぐおおぉぉ…!!」

 

その暖かく、力強い肯定はライネック達の心を強く揺さぶった。感極まりライネックは泣き伏せ、ホープ達もまた、涙を流し身を寄せ合い耳を傾けている。

 

「救世主の目指した未来へ、揺るがずに進め。我等の犯した罪を跳ね除け、真なる理想郷に導かれん事を───」

 

そして、鐘は鳴り止む。牙の妖精の贖罪の意志は示された。ホープらの善性を信じた勇者ファングによって。

 

「…ケルヌンノス様は待っています。罪を乗り越え、自らのもとにその潔白を見せてくれるその瞬間を。ですから、共に参りましょう。手を取り合って、はるかなる贖罪の終わりへ」

 

「はい…はい…!私達、やってみせます…!」

 

「トネリコ様の期待、皆様の助け…絶対に無駄にはしない…!」

 

 

「うん。お母様との、約束だから」

 

三人は、改めて。贖罪の完遂を深く誓う。

 

『…ライネック。お前たち騎士も、トネリコはアヴァロンに招いたであろう筈だが?』

 

「他の騎士は分からんが、少なくともオレはそれを跳ね除けた。厄災となり、生き恥を晒したが…トネリコの尊厳と人権を護りたかったからな」

 

『…貴方は本当に、素晴らしい騎士です。ありがとう、ライネック』

 

「フン、今更かしこまる必要など…はっ、オレは何故、貴女のような麗しくも恐ろしい女性にこのような気安い態度を…」

 

知ってか、知らずか。全く、抜けていますね。

 

モルガンはそう思いながら、重苦しかったブリテンで垣間見た清涼を見つめるのであった──。

 

 






オーディン「成る程、これがサルベーション・アヴァロンの術式と図形か。ふむ…」

オルガマリー『大神オーディンから見て、この術式は成功しうるものでしょうか』

オーディン「完遂すれば効果は齎されるだろう。しかし、二つほど必ず失敗させる障害がある」

ロマニ『なんだって!?』

「一つは、ケルヌンノス神の遺体。これがブリテンの魔力循環を阻んでしまっている。聖剣を使い、浄め取り除かなくてはならない。後は───(ブスッ)」

オルガマリー『!?』
ロマニ『何してるんですか貴方は──!?』

「首吊りに加え槍刺しでさらなるインスピレーションを得た。二つ目は『奈落』だ。サルベーション・アヴァロンを作動させたシミュレーションで、ケルヌンノス神の遺体でせき止められた魔力が皆、下に落ちてしまっていた」

ロマニ『下に…?』

オーディン「その深さ、1440kmの奈落たるもの。これを取り去らなくては、トネリコの術式は成功しない」

オルガマリー「これは一体…?」

オーディン「断定にはさらなる首吊りが必要だが、仮説は立てる。これは、ケルヌンノスが抑えしもの。ヴォーティガーンそのもの」

ロマニ『ヴォーティガーンそのもの!?』

オーディン「アビス・ヴォーティガーン。奈落に潜む卑王を倒さねば、贖罪の完了はあり得ない」

主神は告げる。

神と邪悪なる王こそ、巡礼にて果たすべき試練であると。



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