リッカ「モースね。…大移動?私達の向かう北の方向に…?」
ルイノス「何かを求めているように見受けられます。どういう事でしょうか…?」
モルガン『誘蛾灯のように、何かがあるのでしょう。罪人を引き付ける何かが。急ぎなさい。我が妻』
リッカ「う、うん!」
〜
ゴルドルフ「モースの大群が北へ向かっている!?」
ムニエル「あぁ、とんでもない数だ!軍隊といっていい!もしかしてこれ、式場に向かっているんじゃないか?」
ゴルドルフ「つ、つまり…獣の厄災と戦うということか?」
シオン「速い…!先頭グループが戦闘を始めます!」
カドック「モニターに映像を回してくれ!」
セレシェイラ「了解。周囲情報を送るわね」
【オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!】
獣の厄災…いや、強化されたことから【牙獣の厄災】となったその存在が、北の地に至る道に陣取り咆哮を上げ、雪崩込むモースを蹴散らし蹂躙している様子がカルデアに映し出される。
その相手たるモースは大地から無限に溢れ出ており、いくら爪牙で引き裂かれ、蹴散らされても復活し、無尽蔵の軍勢として牙獣の厄災に雪崩込んでいく。それはまさに、亡者の群れと言うに相応しい。
牙獣の厄災の攻撃範囲と質量はまさに圧倒的で、炉心クラスの熱量を有した身体から放たれる深紅の斬撃と咆哮は、地平線の果てまで引き裂き大地をえぐり取るほどの大規模破壊をもたらす。ボルバルザークを彷彿とさせる排熱機関、まさに別次元において排熱大公の名を持った存在の成れの果てといった様相だ。
「う、うぅむ…なんという恐ろしき戦闘力か…果たしてグランドマスターズたちでもなんの被害もなく勝てるだろうか…?」
【オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!】
「ひいっ!」
その咆哮を染めるは、憎悪以上に憤怒。妖精達にひたすら怒り、激するその叫びに、ゴルドルフは腰を抜かしてしまう。怒られれば萎縮する、その究極形だ。
「こりゃあチャンスなんじゃねぇか?厄災と亡者どもがかち合って共倒れしてくれりゃあ、労せずノルマクリアだぜ?」
「もう、ロマンがないわねベリル。まぁでも、結果だけ見ればそうよネ…」
ペペロンチーノはリアリストな為、状況を見れば否定はしきれない。いくらその戦闘力が高かろうと、南、南西、南東全てからせまりくる勢いのモースを押し留めるは不可能だろう。今回は侵略ではなく防衛だ。必ず限界は来る。
「…ぬぅ…確かに、漁夫の利といえば漁夫の利だが…」
ゴルドルフは本来諸手を挙げて歓迎するところだが、オフェリアが言った【厄災は救世主に縁深い相手が変容したもの】という説を聞き素直に喜べないでいる。それは逆説的に、妖精と同じ罪人ではなく、救世主にまつわる何かを守護しているはずなのだから。
「しかし、ヤツは厄災だ…。討ち果たされるべき存在であって、最早このブリテンにおける呪いのはず。そんな感情を持っていい相手なのかどうかすら…」
【ガアアアアアアアアアアア!!!】
「ぬぉおっ!?」
その奮闘は孤高であり、孤独であった。誰も護るものがなくなった世界で、何も愛するものがなくなった世界で、それでも何かを護るために戦う。牙獣の厄災はそんな、矛盾極まる戦いに挑んでいた。
「ゴルドルフ副所長。これは単なるキリシュタリア的センチメンタルなんだけどね?」
「き、キリシュタリア君?」
「あの厄災…私には、誇り高き騎士に見えて仕方ないのさ。見捨てるには、勿体ないくらいにね!」
全身から血を吹き出し、呪いに侵されて尚戦うことを辞めない牙獣の厄災。怒りと憎しみに満ち充ちていたとして、これほど狂信的に侵入者を阻む理由。
「彼は殉じているのでは無いだろうか。忠義の道。忠誠の道。罪人や厄災が持てるはずのない…そう!『騎士道』にだ!」
キリシュタリアの言葉はあまりにも荒唐無稽かつ都合のいい解釈だ。ブリテンを滅ぼす厄災である存在が、かつての主人の全てを護るために厄災となった。そして罪悪のブリテンを滅ぼした後も、信義をひたすらに貫いている。
簡単な割り切りをしてしまえば楽だろう。あのまま潰し合いを容認すれば、楽をして厄災を一つ抹消できる。楽な勝利、楽な成果だ。
「ぬぬぬ、ぐぅ…!」
だが、それを我々の勝利と誇る事は果たして良いのだろうか?楽な選択肢を選んだとして、それを指摘させたとして、命令したとして。『それは完全無欠たりえるのか?』という疑問がゴルドルフを苛む。
メンバーの安全か、素晴らしき困難か。楽園にとってどちらを取るべきなのか。ゴルドルフは悩みに悩み抜く。司令官とは、責任を取る立場なのだ。
「ゴルドルフ副所長」
そこに、声をかける者がいる。カドック・ゼムルプス。自称グランドマスターズの『副』リーダー。彼は揺らがずに告げる。
「困ったら、王道を進めばいいさ」
「カドック・ゼムルプス…」
「理想ともしもの詰まった王道。グランドマスターズの皆が歩むべき道は、このカルデアが進むべき道は…そういうのがいいとずっと思っているよ。僕は」
一同も、わかっているが口には出さないと言った様相だ。ゴルドルフが下す指令がなんであるか、どうあるべきかを静かに理解し、待っている。
「そうですよ、ゴルドルフ副所長。彼等、彼女等には誉れある命令をあげちゃえばいいんです。絶対に遂行して帰って来るんですから!」
「シオン君…」
「皆さんは仲間なんですから、互いに無茶振りしてもいいんですって。フォローは私にお任せください。さぁ!カッコイイとこ見せてやってくださいよ!」
ゴルドルフに発破をかけ、立ち上がらせる。そもそも、ゴルドルフは魔術師以外は何でもできる男だ。
「よ、よーし…!ええい、そこまで言うからには最後まで付き合ってもらうぞ君たち!途中でやっぱりヤダは認めんからね!覚悟し給え!」
「勿論だ。グランドマスターズとして最善を尽くす」
「へいへい、ミソッカスでも頑張りますよ。モースサンプル山程持って来いってニャルの旦那に言われてるから丁度いいわ」
「罪人の敵なら、私達は利害の一致した存在でしょうしね」
「物好きねぇ。ま、衣食住と蘭と項羽様、後輩に免じてやってあげるわ」
一同もとうに覚悟を決めている。たとえソレが、馬鹿みたいな荒唐無稽な話だとしても。
「では、作戦内容を変更する!……大量のモースに襲われ苦戦している【牙獣の厄災】を援護し、結婚式場とそのルートを護るのだ!一段落するまで厄災を排除してはならん!三つ巴にくれぐれも注意して戦闘を行うように!総員の奮起を期待する!!」
「「「「了解!!」」」」
「言えたじゃないですか、ゴルドルフ副所長!それでこそ性善と人徳の組織、楽園カルデアです!」
「と、当然だとも!情けでここにいるわけではない、私はアニムスフィアの君主に見出されてここにいるのだ!…あとね、シオン君」
「はい?」
「何を他人行儀みたいに言っとるんだ君は!君だってその一員、仲間なんだからシャキッとしなさい!私の目の黒いうちは職場イジメなんて決して容認しないからそのつもりでいなさい、バカモン!」
「〜〜…………えぇ、その気持ちは大切に受け取らせていただきます。ネモ!聞こえましたね!転移装置を!」
『了解した。ダツのように迅速に送り届けよう』
一同は素早く準備を行い、孤軍奮闘する牙獣の厄災に向けて進撃する。
それは傍から見れば正気を疑う作戦だ。厄災を助ける、などと最早意味不明の所業である。
しかし、それはトネリコが遺した宝物であり、関係が深いものであり、救うべき一つに数えるものだ。
宝物であるのなら、楽園カルデアが挑む戦いの報酬には十分だ。そしてなにより、滅ぼすより護る方がきっと勝利の美酒の彩りは良いものとなる。
だからこそ、カルデアのメンバーとして、楽園の一員として。グランドマスターズはその無謀な戦いに挑む。
どうせ挑むならばとびきりの試練を。どうせ手にするのならとびきりの宝物を。
「ふふ、どうだい?今の観点、リッカ君を彷彿とさせただろうか?」
「…アンタも同じこと考えてたのか。そうだよ。きっと彼女ならこうするよな」
「うんうん、では!勝ちに行こう!我等の戦いにね!」
「勿論だ…!!」
一同は向かう。
厄災すら乗り越える戦いへと。
牙獣の厄災【─────グ、オォ…!!】
【【【【【】】】】】】【【【【【【【】】】】】】】【【【【【】】】】】】【【【【【【【】】】】】】】【【【【【】】】】】】【【【【【【【】】】】】】】【【【【【】】】】】】【【【【【【【】】】】】】】
【【【【【】】】】】】【【【【【【【】】】】】】】【【【【【】】】】】】【【【【【【【】】】】】】】
牙獣の厄災【グルルルルル……!!】
カドック「──そこまでだ!逆恨みの罪人ども!」
牙獣の厄災【!?】
キリシュタリア「我等グランドマスターズ!牙獣の厄災に加勢する!!もう大丈夫だ、誇り高き獣よ!」
カドック「各自陣形を組め!最大火力で蹴散らすぞ!!」
──酔狂、ここに極まる。
ギル「ふふはははははははははははは!!!」
オベロン(唖然)
カルデアは、汎人類史は…厄災すら、仲間として受け入れたのだ。
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