人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オベロン「かつて湖水地方だった場所、オークニーと呼ばれてた地方付近の沼に、汚い肉塊がある。それはかつて純潔の竜種であった『アルビオン』と呼ばれる竜の亡骸から分離した、身体の一部さ」

フォウ(アルビオン!46億年前から生きてたなんて言われ、世界の裏側に行こうと掘り進めながら力尽きたとされる伝説の竜の事か!)

ギル《確か、その洞穴が霊墓と呼ばれ時計塔発足の由来ともなる竜種の最強クラスの名であったな。ふはは、見よ!やはり我の審美眼に狂いは無かったな!》

オベロン「本当なら紀元前6000年前の大戦争で死んだ妖精共の怨嗟で近づけたものじゃなかったんだけど、とある理由で呪いはない。まぁ泥まみれになるのを我慢すれば回収できるんじゃない?」

──成る程!では早速行きましょう!

「トネリコの遺体はどうするのかな?」

ギルガメッシュ「気にはかけるが、見出すは今ではない。厄災が満ちる今、処理されし遺体など出せば腐るであろうが」

オベロン「成る程ね。つまり、別チームが厄災を皆殺しにしたら、ってこと。よく考えてるんだね」

ギルガメッシュ「当然よ。妖精どもとは違う人間の深慮を思い知れ」

オベロン「ん〜、妖精王として腹立つなぁ!」
ブランカ『チチ…』


忘れられし竜の遺骸

──それでは!純血竜アルビオン様の亡骸から分かたれた身体の一部の回収作業を行います!

 

ヴィマーナを急先行させ、あっという間に辿り着きし旧オークニー地方付近。もはや誰も近付かぬ沼地であろうその地に辿り着き、ラマッス仮面モードになったエアが点呼を取る。

 

「竜骸の回収は、お姫様にやらせたほうがいいことあるよ?そうとも、お姫様に汚れを厭わずやる気があればの話だけどね?」

『チチ、チチチチ』

 

──了解です!おまかせください!

 

「決断早っ!」

 

オベロンが指名した、アルビオンの亡骸回収業務に二つ返事で取り組むはエア。万能活動ツール『ラマッス仮面』装備を着用し、準備運動に勤しむ姿を見ながらオベロンは言う。やる気に溢れ過ぎではと。

 

《フッ、今更汚れや穢れを疎むような惰弱な箱入り精神などにエアはおらぬ。磨くうちに汚れすら弾き飛ばす程逞しくなったのだ》

(はらはら…エア、無茶だけはしないでおくれよ…)

 

後方には解呪洗浄担当の王一人と獣一匹。ありったけの解呪宝具とプレシャス風呂を用意し事を見守っている。オベロンの言う、姫が掬い取らねばならぬものを完遂するために立候補したエアを尊重する為だ。

 

「それでは私ラマッス仮面、全力で事に当たらせていただきます!作業開始!沼地に突入!ここにしか無い宝のために命をかける!一宝懸命ー!!」

 

理由の分からない言葉を叫び、躊躇うことなくザバザバと沼地に突入するラマッス仮面。獅子の仮面を被ったエアは色々アグレッシブであった。

 

「あっ!この沼!深い!!でも大丈夫!ラマッスアーマーは水の上を歩けるので!」

 

騎士王から賜りし獅子アーマーなので生存性は抜群。気合も翳らず中心の、朽木に見える遺骸へと向かうエア。その足取りに、汚れを厭う躊躇いは微塵もない。

 

「むっ。中々の大きさですね…ラマッスパワーを使っても持てるかどうか…」

 

《エアよ、天の鎖を使え。キツく縛り崩壊を防ぐ用途にも使えよう》

「なんと!よろしいのですか…!?」

 

《汚れるか否か、か?構わぬ。どこぞの時空でワカメに聖杯を埋め込み作り上げたワカメクロワッサンに比べればいくらかマシというもの。細心の注意を払うのだぞ?》

 

(ボクのとこまでおいでー!プレシャスパワーで掃除しよう!)

 

「二人共…感謝です!ちなみにライオンは群れ皆で狩りをします!」

 

豆知識をもたらし、天の鎖を慎重にアルビオンの遺骸に巻き付けていくエア。

 

「竜は気高く、誇り高い生き物です。ルゥ様を知った以上、骸であろうと汚濁に塗れていいはずがありませんからねっ」

 

「お姫様ー、あたりの泥も掬い上げたほうがいいよー。それ、アルビオンのアメーバだからさー」

 

「なんと!では細胞纏めて回収です!」

 

丁寧に丁寧に天の鎖を巻き取り、遺骸を回収する作業を進めていくラマッス仮面。手際そのものは精緻極まり、あっという間に捕縛を完了する。

 

「失礼します。どうか手厚く弔わせてくださいね」

 

そして沼地の泥にも手を突っ込み、辺りの細胞も回収作業を行う。審査宝具を使えば成る程生きた細胞があり、入念に回収を行っていくエア。

 

「回収完了!ギル!引っ張れますか!」

(無理だこいつ筋力Bだよエア!)

 

《貴様よくも本当の事を!舐めるな珍獣、我は基本斧と素手の英雄ぞ、原初に立ち返れば死骸如き…む?》

 

「HОI」

 

ギルが威光を見せるより先にバビロンの宝物庫から黄金の腕が突き出、そっと遺骸を掬い上げる。その腕が何かなど、語るまでもない。

 

「マルドゥーク神…!ありがとうございます!」

「⊂⁠(⁠・⁠▽⁠・⁠⊂⁠)ლ⁠(⁠・⁠﹏⁠・⁠ლ⁠)(⁠っ⁠.⁠❛⁠ ⁠ᴗ⁠ ⁠❛⁠.⁠)⁠っ」

 

《フッ、巫女に当たる魂に過保護な神よ…》

(全くだ。姫離れできないなんて困っちゃうね…)

 

「鏡必要かな君達?」

『チチチチ』

 

そして王と友、神の力を借り沼から引き上げられしアルビオンの遺骸。フォウの鬼気迫るプレシャスシャワーリングによりリフレッシュしたエアは、次なる作業に挑む。

 

「それでは汚れを落とし、手厚く祀った後に宝物庫に治めます!開始!」

 

マルドゥークを清掃する要領で、アルビオンの遺骸を丁寧に洗い綺麗にしていくエア。手は泥に、額は汗にまみれながらも、丁寧な作業は微塵もブレない。

 

「妖精王、このアルビオン様はだれにも見出されなかったのでしょうか?」

 

「まあ、ね。もうちょっと妖精國が続いていたら、誰かが見つけていたかもだけど…見出だせたヤツは他人を蹴落とすのに必死で、手が回らなかったのさ。女王やら希望やら、救世主とかね」

 

「そうですか…。ではこれで、アルビオン様も気持ちよく眠りについてくださればよいのですが…」

 

「竜と交流があるのかい?君等は」

 

「はい。別世界において全ての龍の祖とされる御方とよくさせていただいております。その御方は非常に愛らしく気ままな御方で、人間を深く愛してくださる御方なのです!」

 

「カルデアやばっ…身震いするよそれ…」

 

「だからこそ、竜という存在にはきちんと敬意を払わなくてはなりません。この世界における自然と神秘の極地。我々生命の大先輩なのですから!」

 

自分の事も省みず、懸命に清掃を続けながらエアはそう語る。エアにとって、龍や竜は畏怖であり敬愛の相手なのだ。カルデアにて付き合い方がそうであるように。

 

「綺麗にした後は、悪用されぬようきっちり鎮座させましょう。宝物庫にスペースを作らなくてはなりませんね…」

 

《竜の骸か。最早これのみで足を運んだ甲斐ある大本命と言うものよ。生きる細胞があるのなら尚更な》

 

(ホント、価値あるものには見向きもしないか壊すしかしない奴らだ。まぁそんなバカなお陰で、宝物を独り占めしてるわけだけど!)

 

「もう少しですよ、アルビオン様。先よりずっと安らかに眠れる筈ですからね!」

 

「…………」

 

エア達の奮闘を、オベロンは手伝うことも野次ることもなく見ていた。アルビオンは、その遺骸はみるみるうちに補修され美しさを取り戻していく。

 

そして、回収作業開始から三時間後。

 

「これで、よし!作業完遂!任務完了です!」

 

そこには白く輝くアルビオンの骸が鎮座されていた。汚れが落とされ、白く輝く冷厳さは辺りを支配する威風を醸し出す。

 

(うぉお、新作スイーツを待つルゥちゃんのようなオーラだ…!)

《比較対象が俗すぎはせぬか?》

 

「良かった…。これでもう、誰にも気づかれず汚濁にまみれた不当な扱いはおしまいです。美しく荘厳なる竜の威厳が、少しでも取り戻された事を願いましょう」

 

優しく、遺骸を撫でるエア。仮面を取り、達成感に満ちた笑みを浮かべる。

 

「無事に保護できて良かったです。竜は、星の宝なのですから!どうか穏やかな眠りがありますように!」

 

「……〜」

 

そのエアの様子を静かに見守るオベロン。

 

…計算通りと言うべきか、そうでないと言うべきか。その様子は、それを起こすには十分だった。

 

《む?》

(アルビオンの遺骸が!?)

 

そう、アルビオンの遺骸が突然輝きを放ち始めたのである。竜としては離れた部品に過ぎず、復活などあろう筈もない。

 

「な、何です!?何の光!?」

 

「安心しなよ。敵対や害意の光じゃない。竜は例え死しても、気高く誇り高いってだけの話さ」

 

オベロンがついでに、懐からとあるものを投げる。それは、罪人達から真っ先に取り返した女王の白き羽の一つ。

 

「呆れるくらい真っ直ぐな思いが、胸を打ったって事さ。持っていきなよ、汎人類史。それが妖精國の最も価値ある宝物の一つ。『竜の妖精』さ」

 

『──ありが、とう。わたしを、みつけてくれて』

 

輝き、アメーバの泥と白き羽、遺骸が融合し現れしは…獅子のような金髪に、銀色の瞳と白き肌を有した、小さき妖精。

 

《おお…!エア、やはりお前は我の至宝よ!宝を生み出す宝はお前のみであろうさ!》

(媒介に、自然発生したのか!妖精が!)

 

『わたしも、あなたのようになりたいわ。こんごとも、よろしくね』

 

「おめでとう、お姫様。君にとって最強のボディーガードが生まれたぜ?」

 

発足せし『竜の妖精』。産声を上げた妖精を…

 

「生命の…神秘!」

 

ラマッス仮面テンションと混ざり興奮気味のエアは、高々と掲げるのであった…。




竜の妖精『なまえ』

エア「はっ、名前!」

竜の妖精『なまえ、ください』

フォウ(エアもついに名付け親かぁ)
ギル《感慨深い…相手は誰か。上半身裸の我と戦い勝てば交際を認めよう》

エア「名前…そうですね!では、あなたの名前は…」

ふむ、と考え、エアは告げる。これしかない、祝福の名前を。

エア「ブライド!あなたの名前は、竜の妖精ブライドです!」

オベロン「おぶふぉっ!!」
ブランカ『チチ、チチ!』

ブライド『ブライド…うん。わたし、ブライド。よろしくね、えっと…』

「エア!ギルガシャナ・ギルガメシアであり、エア・レメゲトンでもあります!」

ブライド『うん。ガシャガシャ…よろしく。あなたを、まもるね』

エア「ガシャガシャ…」

オベロン「あっはははははははははは!」
ギル《ふふははははははははは!!》
フォウ(合体ロボかァ〜?)

「──はい!ワタシはガシャガシャ!よろしくお願いいたします!」


王二人の爆笑と、姫の腕に掲げられ。無垢なる竜の妖精『ブライド』は生誕した。

オベロン「─────」

……まるでそれは、生まれることの無かった『彼女』の次代の生誕のようでもあり。オベロンはそっと、ブランカを優しげに撫でるのであった。

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