それは、彼女の力を借りてトネリコが見つめた遥かな未来。思えば、カルデアの介入を彼女に変わって見たのかもしれない。
『空は蒼く、雲は白い。トネリコはそんな空を見つけたみたい。ふふ、私のお陰だなんて言っていたけれど、あの娘が頑張ったから見れたもの、私は何もしていないわ。おかしいの』
罪を犯していないのに、バカどもから押し付けられた罪のせいで、滅ぶしかないこの妖精。ただ、空を見上げることだけが命の使い道だった。
『でも、そんな空があるのだったら…』
…一つ、ふと考えた事があった。
『あなたのような黒い色、どこにいたって見つけられそうね』
その景色は、お前がいつも見つめる澱み腐ったような空の色より、マシなものなんだろうなと。
『あなたもいつか、辿り着けるかもしれないわ。だってあなたは、ブリテンの向こう側に行ける人だもの』
クソッタレな國を飛び回る中で…それだけが、業務を続けるモチベーションだったのかもしれない。
…目障りなほど白い羽。
きっと青い空は、映えるだろうと。
「………」
オベロンはヴィマーナで、カルデアで一番偉いはずの王の奮闘を間近でただ見つめていた。各地に散らばり、隠した魂のパッケージを、傍らの魂と星の獣の三人で血眼になって探している。
「えぇい、穢らわしい。長靴でも履かねば踏みしめる気にもならぬわ!積み重なった死体の処理くらいしておけと言うに!」
(しょうがないだろ、死体になるしか使い道のないくらい空っぽのゴミカスどもなんだから)
──ふぉ、フォウがとても辛辣…!
「しかしボイコットせずに参じたのは評価しよう。後で飴をくれてやる」
(3個よこせ!ボク一個にエアの2個だ!)
「貴様!我の分はどうした!」
(くれる側だろテメー!!)
分厚い暗雲、廃墟すらない更地。それでも尚三人は懸命に、魂を集める。用途すら、誰のものがかすら解らない、出処がヴォーティガーンのソースの情報を、馬鹿正直に信じている。
(トネリコはこんなおめでたいバカどもが来るって読んでたのか。なら、希望を託すのに必死になるわけだ)
そんな馬鹿騒ぎをしながらもその選定と審美は的確そのもので、呪いに隠れてしまっていたような欠片すらも丹念に導き、探し、宝として手に入れる。それを繰り返す事で、なんと瞬く間に自身が引き継いだ魂たちの殆どを回収してしまったのだ。その根気と、あまりの入れ込みようにオベロンは肩をすくめる他なかった。
「よし。指示による座標に置かれた魂の欠片とやらはあらかた回収したな。残るはウェールズの森の地域に残された一つか」
(ブライド様…是非一目見たかったなぁ)
──まだ諦めるのは早いよ、フォウ。ブライド様に行えることはある、と信じてる!
では行くか、と踵を返し、その一つを手にせんとするギルガメッシュ達に、オベロンは自身でも意外なほどに口を開く。
「何でそこまでするんだ?お前ら」
「ん?」
誰にとってもくだらない、ゴミクズのような國。埋め尽くすガラクタの山。面白みなんてないクソどもの山。宝を探す、なんて詭弁もいいところだ。何か、さらなる打算の一つでも無ければどうしても採算が合わない。
「妖精どもなんていなくなったほうがいいやつらで、そんな奴等の歴史なんてクソそのものだ。わざわざ残す理由が、覚えておく理由なんてどこにある?」
トネリコもそうだ。何をそんなに躍起になる。散々裏切られたくせに、散々嫌なものを見たくせに。何故そこまでやろうとするのか?
『………』
それは曖昧な、疑問の為に嘘も本当もない。ブランカが黙する事が、ただただ本心である事を示す。
「なんだ、貴様は同じ事をニ度も言わせる愚昧なのか?妖精の王らしい稚拙よな」
「ケンカ売ってるのかオイ?」
「既に言ったであろうが。我の王道、我の愉しみの為だ。我は我に相応しい宝を獲得し、守護する。その愉しみの為ならば、例え死骸の積まれた異国であろうと足を運ぼう。その地に宝があるならば、我が手にせず誰が見出す?」
王様は度の過ぎた蒐集家、偏執的なコレクターだと勝手に納得することにした。そのために呪いや泥に塗れる事も厭わないなど、王に相応しい変人だ。
(ボクは大事な人の傍にいて、大事な人の安全と命を護るだけだ。自分より大事なものがある。それはお前と同じだと思うけどね)
星の獣も、獣らしいシンプルな答えだ。飼い主に忠義を尽くし、己の信念を貫き通す。実に分かりやすい畜生の美徳ってやつだ。
ただ…王様のずっと傍にいる、ブライドとよく似た雰囲気(絶対に口にしないが)の女。箱入りとして丁寧に育てられているのが一目瞭然、こんな場所に似つかわしくはないだろうに。何故か一番懸命にこんな徒労に取り組んでいる。
──罪人の地、滅びるべき、無くなるべき世界。確かにその結論を否定すること、覆す事はワタシにはできないかもしれません。
じゃあ、何故。口にしないが、促す。その答えが気になるからだ。
──ですが、ワタシはそんな風に思えません。滅びてしまった今でも、消えてしまったこの地にも、眩く輝く宝物を、ワタシももう見つけているんですから!
宝物…?そのお姫様は、目を輝かせるように言った。
──だってこの歴史は、ホープちゃんやビリィさん、バーヴァンシーちゃん、トネリコ様とその仲間たち、そして何よりブライド様を産み出した歴史です!
「!!」
───そんな素晴らしいものを産み出した歴史が、当たり前のように滅ぶべき歴史だなんてワタシにはどうしても思えません。ヴォーティガーンやオベロン様を、当たり前のように受け入れたブライド様。この昏き滅びの中でも煌めくその輝きたちが、無価値だなんてワタシは絶対に思いません!
それは、姫様に相応しい強情な意地であり、どんなものでも素晴らしいなにかがあると信じる無垢な確信であり。
──誰もいらないなら、ワタシ達がいただきます!それらが生まれてきたという事実そのものが、ワタシにとって最高の宝物に他ならないのですから!無意味に手放すことも、無価値と見捨てることも絶対にしてあげないんですからね!
ふんす、と胸を張るお姫様。自分の宝物を独り占めして、舌を出しているようななんとも愛くるしい欲望の発露。
『チチチ、チチチ、チッ』
「…………」
…その所感に対して、語ることも返すことも、返答する言葉も何もない。世界を救う使命だとか、人理だとか、そんなのはあくまで世界の都合だ。
『素晴らしいものを、尊び重んじ何が悪い』。…要するに、こんな地獄でも。彼女らにとっては欲しいものがあるようだ。
トネリコの仲間たち。そして、出逢ったことも無いくせに…白い羽のブライドを、臆面もなく、素晴らしいものだと。滅びに沈ませてはいられないと。そんな理由で、あいつらは懸命に飛び回っていたのだと。嘘偽りなく言ってのけたのだ。
「おい。これで数の合計は合っているのだな?」
「…あぁ。ウェールズの森の跡地にある桃色の塊。そいつが最後の仕掛けだよ」
『チチチ…チチチ』
その言葉も、信念も、もう否定することすらしなかった。
その無垢さには覚えがある。その懸命さには覚えがある。
だからもう…余計な事は、言わないようにしたのだ。
〜
──ここが、かつてブライド様のいらっしゃった地…
偽装を解除してみれば、その閨は綺麗に形を保ち、滅びから逃れて当時のままの様相を齎していた。桃色の塊が、静かに揺らめいている。
「フッ、どうやらこの地に在りし魂は愉快なものだったのだろうな」
ギルガメッシュが最後に手にそれを納めるのを確認し、オベロンは立ち上がる。
「虚しい努力、ご苦労さま。それで、僕の業務の一つは終わりだ。それの使い道は…」
──すみません、ちょっと待ってもらえますか!
申し訳なさげに、オベロンの言葉を遮るエア。フォウを呼び、彼が持つプレシャスパワーを引き出す。
──この地は見捨てられたのではないとワタシは思うのです。善神ケルヌンノス様は、きっと森の皆さまを赦していた。呪わず、いつかきっと罪と向き合う日が来る事を願っていた。
「……なんで、そう思うんだ?」
──ブライド様も、ウェールズのみなさんも、お互いを思いやっていたからです。遥か過去の過ちを、みなさんは引き継いだだけ。彼女たちのかつての生は、素晴らしいものだったとワタシは思います。ワタシがそう感じれたのだから、優しきケルヌンノス様がそう感じられない筈がありません!
そうして、虹色の光が生み出したのは、純潔の慰霊碑。それはウェールズの森の女王と、救世主の名。並びに森の住人達を労り慰めるモニュメント。
──どうか、その魂に赦しと安らぎがありますよう。勝手ながら、祈らせてください。彼女を看取った、妖精の王様。
「……………………………好きに、するといいさ」
その行動に、彼は何も告げることなく。手を合わせ祈るエアの隣をすり抜け。
そっと、その慰霊碑の名前の欄に『ブライド』と刻み、ブランカを指に留め、罪を赦しを願う慰霊碑を見つめ続けたのだった。
ギルガメッシュ「…我の見たところ、宝とガラクタの比率は一と九といったところか。罪に耐えれず滅びる中で、誰かを労り、弱きを有し生き抜いた点において、森は丸ごと真作であったであろうさ」
オベロン「………………」
ギルガメッシュ「む?得意の虚言はどうしたのだ?皮肉の一つも言えぬほど…」
オベロン「………その集めたものは『情報』だ。とあるものを作るため、楽園に持ち帰りくべるため、術師が自分の魂をバラバラに分割して保管したもの。とあるものに、必要不可欠なもの」
ギルガメッシュ「楽園、アヴァロンの事を指すか」
オベロン「恋は盲目、その逆さ。妖精に覚めきったそいつは、婚姻の儀においても冷淡だった。『どうせこいつらは台無しにするんだろうな』ってね。だから、死ぬ前に魂を可能な限りバラバラにし、保護し、未来に寄越した。部品のコールドスリープだな」
フォウ(なんだってそんな…)
オベロン「勿論、この妖精国を終わらせるためさ。罪人を生み出すこのクソッタレな國は、一度消えなきゃ始まらない。仲間たちが安心して暮らす国に、こんな土台はいらないってこと。この歴史は、聖剣が作られない事を前提に出来ている。それを終わらせる『とあるもの』。その材料が、今集めたそれだよ。女王に代わり、僕が隠したそれさ」
ブライド『チチチ、チチチ!チチチ!』
──まさか、この魂の持ち主は…!
「聖剣に必要なものは、楽園の妖精の集積情報。そして部品となる肉体。ここまで言えばわかるよね?」
「──救世主、トネリコ。巫女と同じように区分けし生鮮を保ち保管した『聖剣』の部品」
オベロン「そして、僕が知ってるとびきりの宝…それは婚姻の日に跡形もなくなった救世主の『遺体』。僕だけが居場所を知っている『トネリコの遺体』と『汚濁の竜骸』。そいつをご褒美に、教えてあげようって話さ」
…この土台。妖精國という、腐りきった土台。
トネリコは決意したのだ。かつての巫女のように、自身のすべてを救世の『道具』として。
愛する者達への輝かしい未来と理想郷を、結実させるのだと。そして──
その滅亡と救世の希望は今、妖精王から御機嫌王へと託されたのだ。
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