人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ブランカ『チチ、チチチ』

オベロン「なんだって?最後の一押しのチャンスをあげよう、だって?」

ブランカ『チチチ、チッ』

オベロン「まだ、何もかもが終わってしまった訳じゃない…か。この期に及んで、君は奴等を信じるわけか…」

『チチチ、チッ。チチチ』

「…わかったよ。他ならぬ君が言うことなんだ。向こうにはコケにされたし、逆張りってやつも悪くないかもな、うん。というわけで…おい、王様!」

ギルガメッシュ「む?」

「たった今、島にかけてる偽装を少しだけ解除した。馬鹿じゃなければ、反応が君達だけに解るようになっている筈だ」

──本当です、ギル!無数の微弱な反応が一気に出現しました!

「辿ってみなよ。全部集まったら、とびきりのお宝の居場所を教えてあげるかもだぜ?」

「ハッ。どのような気の変わりようかは問うまい。どのようなものであれ、宝であるなら手に取るのみだ!」

オベロン「頑張ってくれよ。精々さ」
ブランカ『チチチ、チッ』

フォウ(嘘かホントか、良くわからんやつだな全く!)


王と王の宝探し

ギルガメッシュが異聞帯における役割を持つとすれば、それは異聞帯との王の雌雄を決する事にほかならない。かつて伊邪那美命を討ち果たしたように、今回の高みの見物は、異聞帯における大一番の役割を持っていた故である。

 

しかし、そのオベロンたる者から『今しか取れない宝がある』と言われれば行動せざるを得ないのが王というもの。財を手にするは本能、呼吸のようなもの。ソレがどのようなものであれ、宝であるなら手に取らずにはいられぬのが王の定めであるのだ。ヴィマーナが暗雲を駆け抜け、黄金の軌跡を描いて疾走する。

 

──炎の厄災の領空内であるのですが、不思議な事にこちらに気付いている様子はありません。どういう事でしょうか?

 

「〜♪」

 

オベロンは言動全てが嘘となる存在。故にその言葉は厭世的かつ皮肉と怠惰に満ちていたが、ちゃっかりヴィマーナに認識無効の欺瞞をしかける等の芸当は行っていた。

 

「フッ、ヴィマーナのステルス性は完璧といったところよな?」

──なるほど!流石はヴィマーナです!

 

「(イラッ)」

 

気付いているのかそうでないのか、ギルは全てをヴィマーナのスペックと断ずる。その事に若干癪に障る器の小さめなオベロンながらも、彼の引き継いだ業務に挑む連中を妨害するつもりはないので言わずがままを選択することにしたようただ。目を閉じヴィマーナにて寝転がる。

 

(探知開始…あ、本当だ。正確に近付かないと見つからないくらいに微弱だけれど、確かにきちんと反応が見受けられるぞ!)

 

フォウはヴィマーナを管制、操縦する役割を担っているので、そういった探知や探索はお手の物だ。素早く慣れた制動で、反応のあった場所へと完璧にヴィマーナを着ける。

 

「…む?宝というのはこれがそうであるのか?」

 

ヴィマーナから飛び降り、穢らわしい妖精の死骸を踏みしめたギルが懐疑に声を上げる。それは一般的に宝とされる金貨や宝刀といったものではない、ふわふわと漂う無形の物体であったが故だ。

 

──まるで、魂かそれに準ずるものと見受けられます。ギル、手に取ることは可能でしょうか?

 

恐る恐る告げるエアの声に応え、王は物怖じせずに手を伸ばす。それは燃え揺らめく人魂のようで、ギルの手にすっぽりと収まることとなる。その揺らめく色は、黄金色をしていた。

 

「これは…鏡面概念となった情報集積体、つまり魂のようなもの。その一欠片といったところか?」

 

ギルの見立ては正解であった。ソレは魔術的処理によりバラバラにされた魂の欠片。その記憶領域に秘められた持ち主の思い出を封じ込めたもの。オベロンは寝転びながら補足する。

 

「それはこのブリテン中に設置、隠匿されたものだ。ウェールズの森の女王の力を借りて、始まりのバカどもが利用している巫女の術式を解析したトネリコが処置した分割生存魔術で切り分けられた魂の欠片だよ」

 

──確かにこれは生きている記憶、魂そのもの。ですがこれは肉片レベルにまで分割されています。復元や復活は可能なのですか…!?

 

「できるわけ無いだろ。それはあくまで分割し、破片を腐らせないよう保管保存しているってだけの話だ。パーツ単体として使えるものであって、切り分けられた魂が復活するような用途の魔術じゃない。魂の復活なんて不可能だと伝えておくよ」

 

オベロンの言葉は嘘となる、信じるか信じないかはブランカを見るしかないのだが、そのブランカは静かに佇んでいた。それはどのような意図であるのだろうか。

 

「桃色が少ない、水色は少し多い。黄金色はまあまあで鈍色は山程ある。集めれば集めるほどいいことがあるんじゃないか?何せあの救世主トネリコ様のありがたーい術式だ。徒労だったりからかいや誤魔化しなんてのはないはずだぜ?」

 

「フン、存在と言動が嘘偽りの誤魔化しである貴様が言うと説得力が違うというものよな」

 

「なんだと成金クソキング無利子無担保で金貸せ返さないけどな!」

 

オベロンの言葉を吟味するに値しないと切り捨てるギルであったが、ふむと考え込む。たしかにそれは肉体であれば肉片レベルにカッティングされた魂であり、復活や復元は最早不可能だ。ゆえに使い道は、肉片自体の有する情報の読み取りしかありえない。

 

「どうする?散らばった魂の肉片を一生懸命集めてみるかい?そのつもりなら座標は教えてあげるよ。何せウェールズの女王が、始まりのバカどもの魔法クラスの術式を解析再現した虎の子の手法で切り分けたものだからね。価値はあるんじゃない?」

 

(あいつブライド様の事になると早口になるよな)

 

──ブライド様は始まりの妖精達の技術すらも使用できたというのですか…!だとすれば間違いなく、妖精國の覇権すら握れた強大なる御方です…!

 

《だが、その性質は誰かを害するという発想すらなく、白痴寸前の無垢さにより死蔵された技術であった。妖精共の善性の上澄みの発露たるその妖精の手間がかかった魂…確かに希少さにおいては無二であろうな》

 

ギルは財宝を好み、それは有形無形関わらずに価値あるものを好むということ。ブライドは妖精の原罪以外何一つ罪を犯さなかった妖精であったのだろう。トネリコが五百年かけて虫を克服したのは、ウェールズの森の勢力がその仕掛けに必ずや必要となるためだったと洞察する。問題は、何故やったかというもの。

 

「それがどういうものかは自分で知ればいいし、なんであるかは自分で考えればいい。ただ僕は女王とトネリコの救世の策を盗み聞きできる立場にあった。彼女が出来なかった、するべきことは全部知ってる。教えてやるのは、位置だけだけどね?」

 

「フン。貴様の業務というのはこれでもあったか。大厄災のブリテンにわざわざ隠していたという事は、ブリテンの滅び去った後の事すらも見抜いていたか」

 

「だから言ったろ?ウェールズの女王は始まりのバカどもの技術を有する妖精だった。そこには未来を見通す鏡の氏族の力も含まれている。彼女は問われれば、今のお前たちカルデアの介入すら見抜けただろう。それをトネリコと擦り合わせて行っていたのが、件の準備なわけさ」

 

で、どうするんだ?とオベロンはけだるげに足を組む。探しに行くか、行かないのか。行かないならそれでいい、行くなら場所を教えてやると笑う。

 

「王様らしからぬ右往左往を見せてくれるかい?汗水垂らして働く王様なんて、喜劇やコメディとしては王道ど真ん中じゃないか」

 

「フッ、ならばとくと見るがいい。抱腹絶倒し笑い死んでも責任は持たぬぞ?珍獣!」

 

(ほいほい、次のエリアに行くか!)

 

ヴィマーナは素早く方向転換を開始し、黄金の軌跡を描き駆け抜ける。それ以上のことはない。ただ、魂の肉片を集めるだけの飛行。

 

「…マジで全部集める気かよ。本気か?」

 

──はい。トネリコ様と、何よりウェールズの女王様の遺してくださった希望をそのままにはできません!

 

「………………」

『チチチ、チチチ』

 

オベロンがエアに対し告げられる言葉は何もなかった。

 

 

「死に損ないは死に損ないらしく案内に専念するがいい。そのミニゲーム、遠慮なくこなしてやる故心しておけ、コンプリート報酬と共にな!」

 

ギルガメッシュ達の集めるものは、それ単体ではカルデアの探索を楽にするものでは決して無い。それでいて、全て集めなくてはなんの意味すら持たないものに王自らが躍起になるという、オベロンからしてみれば滑稽もいいところだ。

 

「…良くわからんやつだな。汎人類史の王様って」

 

『チチチ…』

 

「…………」

 

だが、ブランカを含めた治療、治癒、丹念な蘇生は本物だ。間違いなく、後少しでブランカは死んでいた。

 

…白き妖精の二度の死を避けた分は付き合ってやろう。静かに頷く、妖精王であったとさ。




白き翅のブライド

かつてウェールズの森を維持していた、無垢にして美麗なる女王(単に治めていたトップという意味で、モルガンのような王政は敷いていない)

誰かと触れ合うことを喜びとし、誰かの笑顔を糧とできる性質であり、その翅と言動は混じり気のない無垢なる白。銀髪と白き肌の美貌で微笑む女神が如き妖精。ウェールズの森の地に自然発生し、自らの領域で森を生み出した。

始まりの妖精達の技術を有しており、有する力は氏族すらも上回る程であるが、その精神には誰かを傷つけるような思考はなく、戦うという意思すらない。

罪など犯しようもない、本当の意味で完成された妖精達の女王であったが、始まりのろくにんの原罪を無垢ゆえに受け継いでしまい、無垢さが祟り罪を犯しもしないが、自覚できず赦しも乞えぬという詰んだ状態から抜け出せず、罪人たちにより滅びる事となった。

ただ…滅びる事は本能で理解していたのか、殺される寸前まで、誰一人として傷つけなかった。それが誠意とでもいうように。

彼女の行った悪事、それはヴォーティガーンに諭されてついたたった一度の嘘のみであった。

…白き無垢なる妖精は、ヴォーティガーンの黒に染まり滅びた。少なくとも、彼の妖精王はそうとしか語らない。

その嘘を何故ついたか。本当の事実は、彼のみが知り語る事ができるのだ。

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