人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リッカ「私はマスターとして、最後までホープやビリィに付き合う事にするよ」

マシュ「先輩!先輩ならそういうと思いましたが、その心は!」

リッカ「私が思うに、この妖精の國にホープやビリィ、まだ会ってないけどバーヴァンシーがいる事に意味があるんじゃないかと思う。これだけ徹底した滅びの中で、ホープ達がいる事自体が…ケルヌンノス様が与えてるチャンス、なんじゃないのかなって」

モルガン『…妖精の名前は、生まれた意味であり存在意義。その性質と人生を決定付けるもの。我がマスターはそこに意味を見出したのか』

オルガマリー『彼女の名前は、希望。つまり…ケルヌンノスの呪いは、希望だけは残したのかしら』

ロマン『いやいや待ってくれ。これだけの徹底した滅びだよ?滅ぼす決意をした想いを汲み取った事で最後の機会をくれたなんてこと…』

ケルヌンノス『ヌン!』

ロマン『…ある、なぁ…本来、こんなに呪いを撒き散らす方が異常なのかぁ…』

リッカ「チルノは私達よりずっと本質を捉える力を持ってる。まずはチルノの交流の結果を待とう。彼女ならきっと解るよ。ビリィやホープの気持ちが、本当かどうか」

オーディン「…持っているぞ。彼女には素養がある」
ブリュンヒルデ「お父様?」

オーディン「妖精の眼。高き位の妖精が持つ、あらゆる虚偽を見抜く眼だ」


希望の出逢い、赦しの始まり

「へぇ〜。ホープはビリィに助けられてからずっと、助け合って生きてきたんだな!一緒に支え合って、偉いやつだ!凄いぞ!あたいが認める!」

 

「うん。ビリィは大きな身体で、いっつも私を助けてくれたんだ。いじめられてばかりで辛かった毎日は、ビリィのお陰で楽しくなったの!」

 

「僕の方こそ。歴史を紐解く度、絶望で頭が狂いそうになった。そんな僕に希望をくれたのは、ホープなんだ」

 

妖精同士の、穏やかな対話。互いの身の上を話し合い、教え合うその時間をチルノとホープ、ビリィは過ごしていた。チルノは笑い、愉快げにはしゃぎながらも二人が話しやすいように会話を促す空気の読み方を見せる。それは末っ子を持った姉の様だ。ホープ達は、汎人類史の妖精に語る。己の出自を。

 

それは、紀元前五千年前ほどの出来事。

 

 

──私の名前はホープ。ホープっていうのは、オーダイン様から教えてもらったんだけど『希望』っていう意味で、この妖精國に希望をもたらす役割をもって生まれたみたいなの。私は、誰かに尽くしたり助けたりするのが大好きだから、意味を聞いた時は嬉しかった。

 

『手伝えることは何でも言って!皆の力になりたいの!』

 

妖精達や、人間達の笑顔が見たくって、助けになりたくって色々頑張っていたんだけど、他の妖精は気まぐれで、残酷で、怠け者ばかりだったから、どんなにどんなに助けても、力を貸しても、次から次にやるべきことを私に押し付けてきたの。

 

【あれをやれ】【これをやれ】【はやくやれ】【はやくしろ】【まだなのか】【こののろま】【うすのろめ】【やくたたず】

 

私は一生懸命、お願いを聞いて、願いを叶えて。それでも叶えきれなくて、ぼろぼろになっちゃって。それでも誰も、私のことを心配したりはしなくって。

 

【ぼろぼろだ】【みっともない】【どんくさい】【じゃまくさい】【みすぼらしい】【けがらわしい】

 

翅も身体も、限界になっちゃって。名前ももう、思い出せなく

なりかけていたころ。

 

【もういらないから、ころしちゃおう】

 

そんな時に…ビリィは私を、助けてくれた。

 

『いい加減にしないか、だらしない。自分の事は、自分でやるんだ』

 

【【【【うるさいなぁ。うるさいのは、いらないよ】】】】

 

『いらないのはどちらか、教えてやる』

 

ビリィは本当に強かったの。私を護って、助けてくれた。ビリィは私を、見つけてくれて。とても素敵な言葉を言ってくれた。

 

『辛かったね。大変だったね。君を見つけられて良かったよ。ありがとう』

 

ビリィは、なんだか他の妖精とは全然違ったの。私に名前と、生き方を教えてくれて。妖精國を旅していて。

 

『自由に使える便利な妖精がいる、だなんて驚いたけれど…他の妖精は、君の生きる意味をまるでわかっていないんだ』

 

ビリィは色んな事を教えてくれた。今のままではいけないと。変わり者として妖精たちから追い出されたんだと。私が気になっていたんだって、言ってくれた。

 

『もしよかったら、僕を助けてくれないかい?何で僕達がこんなにも愚かなのか、本当の歴史を知りたいんだ』

 

この人を助けたいって、思ったの。誰よりも優しくて強い、この人を。その後からはずっとずっと、私とビリィは一緒なの。

 

『君がいてくれて嬉しいよ。本当に、ありがとう』

 

ありがとうって言われると、とってもとっても嬉しいの!ビリィはそれを教えてくれた、大切な友達!

 

チルノちゃんとも、そうなりたいな!

 

 

僕は、妖精の在り方に疑問を持っていた。

 

責任感もなく、誰かに感謝することもなく、気まぐれで、残酷で、ただひたすらに残酷な妖精という生き物を。自分以外の全てを道具としてしか見れない、生き物を。

 

人間という存在に、僕は深く興味を持った。素晴らしいものを生み出す、素敵な生き物。どういう訳か子供を産めない、不思議な生き物。

 

作られた人間、一人ひとりに色々な事を学んだ。生み出し、学び、発展する。それは妖精にとっては不要なこと。完成した妖精には無駄なこと。

 

僕はそうは思わなかった。完成しているのなら、こんなに愚かな生き物であるはずがない。僕は他の妖精との関わりを絶ち、自分達の先祖、そして呪いの事を調べ始めた。

 

そんな時、風の噂でホープを知った。何でも言うことを聞く、便利な妖精がいるのだと。僕はそれを聞いて思ったんだ。

 

『自分の事しか考えない妖精たちとその子は違う。喪ってはいけない』

 

それはもう、ビリィという名前に刻まれた本能…だったのかもしれない。慌ててホープを見つけた僕は愕然とした。

 

自分達の道具持ちをさせながら、面白半分に石を投げている光景。小さな妖精に、仕事用具を満載させながら嘲笑う妖精達の残酷さ。懸命に、それに応える小さなホープ。僕は確信した。人間たちは助け合い、何かを生み出す。妖精は違う。頑張る誰かを嘲笑う、邪悪なものだと。

 

『いい加減にしないか。お前達は、何もかもが間違っている』

 

僕は他の妖精たちより、何倍も力が強かった。そのせいで、気味悪がった妖精達に住処を追い出されもした。その強さの意味がやっとわかった。

 

『その子を離せ。その子の素晴らしさは、お前達には似合わない』

 

僕の力は、か弱い素晴らしい宝物を護るためにあったんだ。

 

…無我夢中で、僕はホープを助けることができた。ホープは今にも消えてしまいそうなのに、僕に向かってこう言った。

 

『助けてくれて、ありがとう!』

 

僕は、ホープが他の妖精とは違うんだと確信した。誰かのために、何かが出来る。誰かと一緒に、喜べる。誰かの幸せを、自分の幸せにできる。

 

『僕はビリィ。良かったら、一緒に行かないかい?君に一緒にいてほしいんだ』

『嬉しいな!私、ホープ!よろしくね、ビリィ!』

 

そして僕は…ホープに、とても素晴らしい救いと希望を貰うことになるんだ。

 

 

『なんてことだ…!あぁ、なんてことだ!こんなことって、こんなことって!』

 

ビリィは歴史を調べ上げた。妖精国をホープと流離い、人間達から賜った知識を、模倣ではなく知恵として昇華し、ブリテンの歴史を追った。

 

そして、見つけてしまった。六匹の悪魔の隠した罪。神を殺した呪いの因果。妖精達が、救われない理由に辿り着いた。

 

『こんなもの、こんなことは赦されない…!これだけのことをして、何もかもを知らんぷりをしていられることが信じられない!』

 

ビリィは、人間の持つ優しさと善意、常識を愛し、学んだ妖精だった。人間の倫理と感情を愛した妖精だった。故に事実は、彼を発狂にまで追い込むほどに残酷だった。

 

『死ぬべきだ、死ぬべきだ、死ぬべきだ。僕達は今すぐ死ぬべきだ。罪深い、耐えられない!こんなの、神様に許されるはずがない。許されていいはずがない!』

 

だからこそ、彼は悔やんだ。絶望した。妖精としての自分を憎みに憎んだ。狂い、慟哭し、戦慄いた。

 

【僕等は…生まれてはいけない生き物だったんだ!!】

 

ビリィが呪いと、絶望に染まりかけた時…彼を助けたのは、ホープだったのだ。

 

『そんな事無い!生まれなかったら、私はビリィに会えなかった!ビリィにありがとうって言ってもらえなかった!ビリィと一緒に生きれなかった!』

 

【ホープ……】

 

『言わないで、ビリィ。生まれちゃいけないなんて言わないで。私はビリィが大好きなの。私達がどんなに罪深い生き物だったとしても…私はビリィに、救われてほしいって思ってるから!』

 

ホープは、彼を助けてくれた。自身の存在を自身すら憎んだ時、ホープだけは、彼を祝福し、赦したのだ。

 

『……ホープ…僕は…いや違う、君は…』

 

その救いに、ビリィは心から思った。心から、彼は自分以外の誰かを思うことができた。

 

『神よ、ケルヌンノスよ。どうか赦してほしい。僕じゃない。一人を除いて、誰も許されなくて良い。僕も、許さなくていい』

 

それは、ホープの免罪。自分を祝福してくれたホープ自身を、どうか怒りと呪いから赦してあげて欲しいと。彼女を抱きしめ涙しながら神へと祈った。

 

『彼女だけは…赦してください。彼女の優しさと、愛をどうか赦してください。呪わないでください。助けてあげてください。お願いします。どうか、どうか、お願いします…』

『ビリィ…泣かないで。泣かないで…』

 

二人は、互いの赦しを請い続けた。自分はいい。互いの赦しを祈り、神の怒りを受け止め続けた。

 

やがて、千年に一度来る大厄災。妖精達が、文明ごと死に絶える日。それでも二人は、ひたすらに祈り続けた。

 

『赦してください。彼女をどうか、赦してください』

『ごめんなさい。ケルヌンノス様、ごめんなさい…』

 

妖精たちが呪いで死んでいく中、ビリィとホープは神へ、互いを、祈り続けた。死すら受け入れながら、最期まで互いを想い続けた。

 

そして──呪いの手が、変化を起こした。

 

『ぁ…』

『ケルヌンノス様…?』

 

呪いの手は、二人を優しく撫で消え去った。呪うことなく、消え去ったのだ。

 

大厄災で、二人だけが生き延びた。それを、神の慈悲と自惚れることなくただ呆然としていた。

 

「──まさか、この地でこんなにも善良な妖精がいるなんて。出会えて良かった。二人共」

 

『『あなたは…?』』

 

そんな二人には…神がもたらした、救いが現れる。

 

「私はトネリコ。救世主トネリコ。二人共、私のお仕事の手伝いをしてくれませんか?」

 

それが、二人とトネリコの出逢い。今も生き延びる、最後の希望の始まり。




チルノ「ビリィ!ホープ!」

ホープ「はいっ!」

ビリィ「ど、どうしたのかな?」

チルノ「お前ら、生きててよかったな!会えたのがお前らで良かったぞ!さすがあたいの、子分だな!」

ホープ「えへへ、ありがとう!」
ビリィ「嬉しいよ。…嘘みたいに聞こえるかもだけど…」

チルノ「いや、なんか解る!あたいには、嘘かホントかわかるんだ!さぁ、話の続きを教えてくれ!」

ビリィ「………チルノくん…?」

不思議に声を上げる。ビリィ。彼は見たのだ。

チルノの瞳が、氷の結晶の虹彩を宿しており、映す自身らを、まばゆく映していることに。

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