カービィ「ぽよ!」
モルガン「少し休んでから?ふふ、そうですね。では、睡眠を挟みつつ…向かうとしましょうか。」
燃えていた。
焼け落ちていた。
何もかもが、そこに込められた願いと、祈りと、救いと、幸福を巻き込んで轟々と燃えていた。
幸せの門出を願うものであっただろう施設。数多の祝福を受け止める筈だった施設。それは、教会であり、婚姻の施設であり、一組の男女が結ばれる場所であった筈の施設。紅蓮の炎に焼かれ、炭と成り果てていく幸せの成れの果て。
彼女は、静かに眉を眇める。この忌まわしい光景は、夢であろうと忘れようはずがない。サーヴァントが見るはずのない夢だとしても。
(これは、ウーサーとの婚姻の日。オーロラの傘下に毒を盛られ、彼は命を落とした…救世主トネリコの命日)
輝かしき妖精の國の未来が始まるはずだった日は、救いようのない愚者共、なんの中身も詰まっていない、どうしようもなく赦されるはずもない生命のガラクタ共が自らに齎された救いを自らの手で焼き払った。この日、救世主トネリコは妖精達の救済を諦め、女王としてブリテンを手にすることを決意した日。
不愉快だ、と感じたのは無理もない。見るはずのない夢で、見たい内容である筈もない。下らぬ誤作動だ、とさっさと目覚めようとした時、だった。
「ああああ、ああああ!止めろ!やめてくれー!!」
その声を聞き間違えるはずがない。かつての自らの騎士。自らを助け続けた、無二の騎士。名をトトロットという、愚者だらけの妖精達の中の数少ない例外。
何事か、と思い夢と言えど視線を向ける。そこには、あまりに痛ましく、あまりに悲痛な嘆きをあげるかつての騎士の姿が映される。
「お願いだ、壊さないでくれ!彼女はこれから幸せになるんだ!結婚して、お嫁さんになって、きっとこの国は全部上手くいくんだ!だから、お願いだ!彼女と彼の幸せを壊さないでくれ!!」
懸命に、燃え落ちる教会に叫ぶトトロットたる妖精。だが、その叫びは虚しくも燃え盛る炎の中に消えていく。そしてそこには、亡骸となった男性の姿が一つ。口許に血を流し、虚空に向けて生気のない目を向ける。
(トトロット、ウーサー…)
「なんでなんだ…なんでお前たちはそうなんだ…!救われたいと願うくせに!救われたいと口にするくせに!何度も何度も救いの手を跳ね除けて!台無しにして!」
燃え盛る炎に負けぬほど、喉から血が出るほどの絶叫。血涙すら流し、トトロットはひたすらに慟哭を繰り返す。
「トネリコを返せ…!ウーサーと幸せになるはずだった彼女を、彼女の幸せを返してくれ…!一緒に選んだんだ…家具も、調度品も、全部全部…この日の為にって…」
(トトロット…)
見れば、トトロットには救世主の杖、トネリコだった頃の杖に帽子が備わっていた。彼女はそれで理解する。これは、自らではない彼女の記憶なのか、と。
(これは、どこかの世界のトトロットの記憶か。どんな世界でも、お前は私の味方でいてくれるのだな)
嬉しくもあり、またそれは悲しきに極まる事だ。妖精騎士として、彼女は何もかもを護れなかった事になる。主も、未来も、何もかも。トネリコだった自分は、毒で入念に殺されでもしたのか。復活すら出来なくなったのか。
「なんでだ!!なんでお前達みたいな奴等がのうのうと生きて、トネリコやウーサーが死ななくちゃいけないんだ!本当に死ぬべきなのはお前達だ!人の幸せを平気で踏み躙るお前達だ!!」
(…トトロット…)
彼女のその姿を、最早モルガンは見ていられなかった。幸福と、幸せを紡ぐ妖精たるトトロットが、憎悪と怨嗟の呪詛を吠え猛る姿は最早、自らの死などよりも悲痛にして悲惨を極めた。
「死んでしまえ…!お前達に救いなんて必要ない…!ずっとずっと昔から、遥か始まりから呪われるべき薄汚い罪人共…!」
やがて、その呪詛と怨嗟を聞き付けたかのように、炎すら呑み込まんとする無数の影が現れる。それは手のようで、辺りは一転して悲鳴と怒号に塗れた地獄と化す。
「呪われろ、呪われろ、呪われろ…!!お前達など滅びてしまえ!この世のありとあらゆる苦痛を受け、罪の重さを受け止めきれずに死んでいけ!一人たりとも残らず消えてしまえ!!」
ボロボロになった糸巻き機が、完全に崩れ去った瞬間。トトロットの呪詛はやがて炎すら呑み込む焔となり、辺り全てを覆い尽くす。その絶叫は、妖精國の全てを呪う、かの神の如くに。
【妖精共に呪いあれ!皆、皆、皆!ありったけの不幸と絶望に塗れて…!!地獄に落ちてしまえぇぇぇーーーーーーーーーっ!!!!!】
それ以上はいけない、とモルガンは口に出そうとして…その光景に、戦慄を齎すこととなる。
(呪いが…!?)
そう、妖精国を蝕む呪い。厄災たる呪いが全て、トトロットへと集まっていく。
【ああああああああああああああーーーーーーッッッ!!!うあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあーーーーッ!!!】
絶叫し続けるトトロット。無数の腕が、トトロットを包み込むように雪崩れ込む。それらは、自らの知らぬ領域にして記憶。
(いけない…あなたは、それでは…!)
自らを本気で案じてくれた妖精。自らの友。その騎士の末路を思ったモルガンは、手を伸ばし………。
〜
…冥き呪いが霧散し、目を開けてみれば。そこには、先程とは違う光景が広がる。
(ここは…アヴァロン?)
理想郷。楽園の妖精、あるいは嘗ての故郷。そこに飛ばされた、或いは視点が映った事に、動揺するモルガン。
【ごめんな、トネリコ。ホントはもう少し、ちゃんとした風に弔ってあげたかったんだけど…】
(トトロ…)
モルガンは声を聞き、見据え、その姿に絶句する。愛らしい衣装と愛嬌に満ちた妖精だったトトロットの姿が、あまりにも変わり果てていたが故だ。
呪いに浸されきった肌は黒く変色し、髪は真っ白に成り果てていた。小さかった姿は、まるで子供ではいられなくなったとばかりにモルガン自身と変わらぬ程まで成長してしまっている。何より、身体に刻み込まれた無数の手の形をした呪痕が痛ましい。目は黒と紅に染まり、血涙の痕が消えずに刻まれてしまっている。
(そんな姿に成り果てながら、アヴァロンに至ったのか。トトロット…)
楽園は、罪有る者は通れない。彼女はあの罪人たちとは違う妖精の亜種のようなもの。それ故だろうか。
眼の前には、儀礼用の剣とトネリコの杖に、帽子。嘗ての存在を悼むように、寄り添うように、重ね合わせ華を添えてある。
【じゃあ、そろそろ行くんだわ。もう、ここには来れないけど…あいつらも、ここには絶対来させないから安心して過ごすんだぜ】
(あなたは、何をする気なのですか。トトロット)
【ボクはボクのやり方で、あいつらを一人残らず消してやろうと思う。償いの為なんかじゃない。罰なんて優しいものでもない】
そう。彼女にとってはそれは免罪でも懲戒でもない。最早、そんなものをもたらすなどあり得ない。
【皆殺しだよ。あいつらはもう生きてるのが間違いなんだ。だからボクが、ひとりひとり…君たちが受けたものを何万倍にもして返していくよ。何年かかろうと、何万年かかろうと】
その口調は穏やかだったが、煮え滾るような怒りと憎しみを隠せはしない。底冷えするような冷たさを以て、楽園に背を向け歩き出す。
【殺してやるんだ。滅びるしかない生き物なんだ、あいつらは。トネリコも、■■■■■■も、そこを間違えたから殺された。巫女もまだ、死ねずにバラバラのままなのだから】
(待て、トトロット!そんなことは…!)
【はじまりからすべてにのろいあれ。おわりまでのすべてにのろいあれ。かみをころしたざいにんどもに、しよりもくるしいのろいあれ】
踏み出すたびに、花と草木が枯れていく。彼女は罪無き者であれ、宿したものはあまりにもおぞましい。
〜
そして、場面は最後の場所へと映る。
【ここだ…。ようやく、辿り着いた】
それは、妖精國に穿たれた大穴。呪いの中心。彼女が追い求めた全て。罪過の根源。
【さぁ、始めよう。ボクが力を貸すよ。今度こそ、全てを終わらせるんだ。ボクらで、一緒に】
(トトロット…!)
湧き上がる、無数の呪い。見ただけで狂死するそれは、トトロットなる者に殺到し、そして…
【すべてにのろいあれ。すべてにむくいあれ。ざいにんどもに、むいみで、むかちで、ぶざまなしを】
そして、大穴より放たれし──滅びの、大厄災。
…後にカルデアが観測する、汎人類史すら滅ぼす呪いの奔流。その根源。
そして彼女は、ありったけの呪詛を込めてこう言った。
【このよすべてに、のろいあれ】
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