人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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とある神の地

旅人「むぅ……持ち合わせがない…」

非常食「旅はモラがかかるものだからなぁ。そろそろまとまった収入というか、安心した貯蓄が欲しいぞ…」

旅人「気ままな旅であれ、持ち合わせは必要不可欠…こうなったら、いっちょ売るしかないかもしれない」

非常食「売る?売るって、何をだよ?」

旅人「尊厳」

非常食「おぃぃ!?仮にも女の子がそんなこと言っちゃダメだぞ!」

旅人「でも内臓は高く売れるかもしれないし…」

非常食「発想が怖い!あぁもう、しょうがない!オイラがうまいことなんとか稼げる場所を探してやる!」

旅人「ほんとぉ?」

非常食「オイラに任せろ!えーと、えーと…あった!衣食住、並びに資金保証の働き手募集!」

旅人「あるんだそんなの…」

非常食「オイラを見直したか?ここでしばらく雇われだな!えーと、施設の名前は…カルデア?」

旅人「天文台?」

「世界を救う、お仕事…?」




OK召喚〜迷い蛍〜

「というわけで、召喚と募集に応じて参上したぞ!オイラはパイモン!そしてこいつは旅人!名前は蛍だ!お金のついでに、ぱぱっと世界を救ってみせるからな!」

 

「蛍です。こっちは非常食のパイモン。よろしくお願い致します。旅で荒事には大分慣れてます」

 

「おい!働き先で非常食呼ばわりは止めろぉ!」

 

次なるOK召喚に導かれしは、金髪のふわりとしたショートヘアの少女、蛍。並びに非常食呼ばわりの小さな生き物、パイモン。アルバイト感覚で楽園に足を踏み入れた二人は、目的を懐き世界を流離う旅人コンビと自らを称する。

 

「パイモン!?え、もしかして君魔神柱なのかい!?パイモンってボク達の知るパイモンかな!?」

 

「うわぁ!?なんだよ急に!?オイラが魔神だなんてあるわけないだろ!オイラはパイモンだ!」

「この世界では魔神は美味しいものらしいよ。良かったねパイモン」

「嬉しくないぞ!」

 

「私はオルガマリー。そしてそちらはロマニ・アーキマン。歓迎するわ。それにしても、少女一人と…」

 

「非常食」「パイモンだ!」

 

「パイモン一人で旅をするなんて随分と豪胆ね。気ままな生き方が好きなのかしら」

 

「生き別れの兄を、探しています。広大な世界を旅していたら、離れ離れになってしまいまして」

 

蛍の旅する理由は軽く開示されたが、今の彼女を慮りスタッフは口を噤む。十代にしか見えない可憐な少女が、兄妹を探す旅を行う心労を察した為だ。

 

「…ごめんなさい。不躾だったわね」

 

「気にしないでください。それで先立つものが必要なので、どんどんこちらのパイモンを扱き使っていただけたなら」

 

「お前も頑張るんだよ!」

 

「皆さんは悪い人じゃ無さそうですし…こちらで頑張らせていただきます。ご安心ください。一通りのバイタリティは備えていますから」

 

「見ての通り、変なやつだけど腕前はオイラ保証するぞ!ドラゴンを鎮めたり、魔神と戦ったりできる凄いやつなんだ!おんなじくらい変なやつだけど!」

 

「何故二回も言ったのかな…ですので、おちんぎんをいっぱいください。多くて沢山のおちんぎんを」

 

「何で何度も言うんだよ!?」

 

「あ、あはは…こっちのパイモンも、大分苦労人なんだねぇ」

 

「魔神はあなたに付き合わされて皆苦労人ではないかしら」

 

「いつになく辛辣だねマリー!?」

 

(カルデアか…とりあえず、やれることと出来ることは、なんだってやってみよう)

 

世界からふらりと迷い込んだ旅人、蛍。歓迎と困惑と共に、一人と一匹のカルデアライフが幕を開けることとなる…。

 

 

「チャーハン作るよ」

 

カルデアに来訪してから数日が経過し、彼女、蛍はパイモンと共に全方位にマルチな才覚を発揮し、楽園カルデアにおける存在感を増し、強固なものへと自らを売り込んでいった。

 

厨房に入れば料理を自在に作り上げ、カクテルを制作。彼女の制作するソフトドリンク『テイワット』はカルデアにて反響を呼び、一躍酒場に近い賑わいを見せた事すらあった。

 

「マスターに、サーヴァント。この世界では境界記録帯を活用してるんだね」

「オイラ、時々お前の言ってる事が分からなくなるぞ…」

 

その適応力は別世界から来たものとは思えないもので、カルデアに有される魔術師やサーヴァント、聖杯の概念をあっさりと理解し、カルデア職員に混ざってコンソールを叩くことすらあった。

 

『オペレーターの蛍です。リッカちゃん、よろしくね』

「ファッ!?」

(なんかこの二人、声がそっくりだぞ…)

 

カルデア職員業務、オペレーターに志願した蛍はカルデアのマスター達のサポートを非常に高い精度でこなし貢献する。特にそのマッピング機能は驚異的で、必要物資の調達や、攻略ルートの計算や選定の精度はまさに特筆に値するものであった。

 

『戦闘終了。やったね、リッカちゃん』

「ナイス蛍ちゃん!まさかリーダー格を的確に見抜くなんてすごいね!」

 

『勿論です。プロですから』

『働いてまだ一週間くらいじゃないか!?』

 

『声がいい。特に声がいい』とリッカのオペレーターに志願した蛍のリッカの作戦遂行力は格段に上がり、どのような特異点でも効率よく物資を集められるようになった、とリッカ側からも大変に好評を得ていた。

 

『上手くやれるかどうか不安だったけど、杞憂だったみたい。無事に帰ってくるまで油断しないでね、リッカ』

 

「うん!カクテル作って待っててよ、蛍!」

『非常食も添えて待ってるね』

『ジョークでもそういう事を言うなよ!?』

『…?』

『なんで不思議そうにしてるんだ!?』

 

パイモンとの軽快な漫才めいたやり取りは『いい感じに緊張が解れる』と他のマスター達にも好評であり、グランドマスターズを支える名オペレーターの称号を得るのに、そう時間はかからないのであった。

 

 

「はい、カクテル『キャメロット』お待ちどう」

「勿論ノンアルコールだからな!」

 

「わぁ!ありがとう蛍!攻略の後の一杯はこれだよね!」

 

そして蛍の業務は、マスターに祝福のジュースを製作することも含まれていた。なんと小さな酒場を任されるほどの成果を魅せた蛍は、マスター専用の小さな空間を設立し、そこにリッカを招き特製ジュースを振る舞っていたのである。

 

「かぁ〜〜〜!!とびきりの美少女の入れるジュースは格別だなぁ〜!!」

 

「そんなに褒めてもパイモンしか出ないよ」

「おい、出すなよ!?それはともかく、リッカは毎回あんな風に指揮したり、戦ったりしてるのか?すっごく大変そうだなぁ」

 

「そう?確かに傍目には大変かもしれないけど、やりがいのある最高の仕事だし使命感もバッチリだからね!大変だなんて思ったことないんだ、実はね!」

 

凄いバイタリティだな!?驚愕するパイモンを他所にグラスを拭きながら蛍はリッカに問い掛ける。

 

「リッカは、不安になったりしない?」

「不安?何が?」

 

「道を歩いているとき、この道は正しいのかなとか、ちゃんと目的にまで辿り着けるのかな…とか。旅をしてると、ふっとそんなことが頭に過ぎったりする日もあったんだよね」

 

「あぁ…旅人、だったもんね。蛍」

 

「うん。もし、その進んでいた道が、正しくなかったりしたらどうしよう、なんて。進むべきか、戻るべきかも分からなくなるときが、ほんのちょっとだけあったりするんだ」

 

蛍のパーソナリティは公開済である。即ち、行方不明の兄を探し出すこと。その際、テイワットと呼ばれる世界を現在進行形で冒険している身の上でもあるのだ。

 

「リッカはそういう時、どうするのかな?誰も道案内してくれない道を進むとき、あなたはどうしてる?」

 

「んー、正しいか正しくないかはともかくとして、そういうのはボジティブシンキングが大切なんだと思うな」

 

リッカを蛍は支える道を選んだが、蛍もまた、立場や身の上を気にしない存在としてリッカに様々な胸中の疑問を投げかける。お互いの意見や意志の交換は、新たなる発見にも繋がる行いでもあるからだ。

 

「正しい道を選ぶんじゃなくて、今歩いてる道が正しいって考えたなら。きっと気持ちは楽になるよ。もしそれが間違いで、困難が待ってたり辛い事があったりしてもさ。『きっとこの先に、全部が報われる日が待ってる!』って考えたなら!大抵の困難を乗り越える為の勇気が心から湧いてくるよ!」

 

「『正しいを選ぶ』んじゃなくて『正しいと信じる』。…なるほど、それは盲点だったかもしれない。旅の選択や成果を自分が決めて定める…そういう事なんだね」

 

「結局、正しいか正しくないかなんて人間が見定めるのは難しいよ。だったら最後に信じられるのは、自分の心って物差しだけなんかじゃないかな?」

 

「そうだな。結局のところ、自分が納得できたならそれが一番だってオイラは思うぞ!」

「パイモン…」

 

「お前はお兄さんにしっかり近付いてる!そうお前自身が自分を信じてやるんだ!そうすれば、きっと上手くいく筈だぞ!」

 

二人の言葉に、蛍は頷く。生き別れの兄はきっと生きている。きっとまた会えると信じる。ならばそれは不安の放浪ではなく、一歩一歩の邁進となる。

 

「ありがとう、リッカ。ポジティブシンキング…私の座右の銘にしようかな」

「是非是非そうして!私達も蛍の旅、全力で応援するからね!」

 

「うん!はい、『アニムスフィア』に『キリエライト』もどうぞ」

「まだ飲むのかよ!?女の子なのに大食いだなぁ」

 

「そそ、そんな事ないよ!?蛍の料理やカクテルが美味しいからってだけなんだよね!」

 

「ふふ、今度はボーイフレンドと来てね」

「ボーイフレンド!!?」

 

(カルデアに来てよかった。これからも、皆で頑張ろう!)

 

カルデアに来訪し、お金以上の指針と奮起を授かることの出来た蛍。ずっとずっと、その経験は有意義なものになったと確信するのであった。

 

 




おまけ

蛍「おぉ…!移動がらくちん…!」
パイモン「カルデアになんで!こんな凄そうなドラゴンがいるんだよー!」

リッカ「凄そう、じゃなくてとびきり凄いんだよー!」
ミラルーツ『別世界じゃレベル1のドラゴンだもんねぇ。自由気ままに翔んじゃうよぉ〜』

蛍「ドラゴンに乗って旅…とっても素敵な見返りをもらえたね、パイモン」
パイモン「加減ってものを知らない組織なんだならカルデアって…」

蛍(カルデア、行けてよかった…)

蛍の旅に、リッカと異世界に造詣の深いルゥが時たま力を貸すようになった。いつでもカルデアに行けるワープと、自由に空を舞い飛べる移動手段を手にする蛍であった。

有限スタミナから解決された蛍の顔は、それはそれは晴れやかだったという。

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