全ての生命と、全ての魂に。
これよりは星の世紀。月の理、千年の旅。
全てよ。冷たい夜、遥か遠くに思うがよい。
恐れを、迷いを、孤独を。
そして暗きに行く道を。
……さぁ、共に行こう。
永遠なる、私の王よ。
〜カルデア
ラニ『というわけで、狭間の地から律と共にやって来た。月の魔女、ラニという。よろしく頼む』
ラニの王「(ぐっ)」
ラニ『そしてこちらは我が伴侶、私の王だ。狭間の地で名乗っていた名前は捨て、私が与えた名前を新たに名乗っている。真名はまぁ、その内わかる』
リッカ「わぁ…!お、お人形さんと…めっちゃ強そうな人!」
ラニ『私の律、世界の法則を置く場所が入り用でな。私の王との休息の為にも、是非楽園を堪能させてもらおうか』
ラニの王「(感謝を)」
ゴルドルフ「いきなり王族夫婦が出ちゃったよ、OK召喚…」
シオン「なんだか非常に、やんごとなき方々の雰囲気がプンプンですね!」
『私達は狭間の地と呼ばれる場所から、その世界の在り方を定めるエルデンリングと称される…お前達で言う大聖杯のようなものを、誰の手にも渡らぬように持ち去りかの地より離れた。それは、世界の在り方を裏切る暗き道であったが…私の王は私を常に支えてくれた。身振り手振りばかりだが、その強さは折り紙付きだ。一泊の恩に、必ずや報いてくれるだろう』
「(胸ドン)」
白き魔法装束に身を包んだ青髪の人形、ラニと黄金の獅子鎧に身をまとい、王冠と白き頭髪と黄金の瞳が目を引く戦士…否、ラニの伴侶たる王がカルデアへと来訪を果たす。目的は、エルデンリング並びにラニの魂の保護。見返りに、ラニの王がサーヴァントとして力を貸すという名目で召喚に応じたと二人は言う。
「つまり二人はハネムーンの新婚旅行にカルデアに来てくれたんだね!よーこそよーこそ、歓迎します〜!楽しい事だらけだよ!このカルデアは!私、リッカ!」
『その様だ。久しく忘れていた喧騒に満ちていて、私の王も探索を始めたくてたまらぬ様子だ』
「(荒ぶるジャンプ連打)」
『案内を頼もう。私の王のマスター。私の王は敵でない者には寛容かつ愉快だぞ』
「(オーオーオー)」
「よろしくね、ラニ様!あと、彼はなんて呼べば…」
『…そうだな。神々を討ち果たした王、ゴッドロードと呼ぶといい。クラス名、エクストラクラス扱いで頼もうか』
「よろしくお願いいたします!ゴッドロードさん!ラニ様!」
「(ぐっ)」
(二人共トップサーヴァントクラスの魔力を有している…一体、カルデアではどんな行動を取るつもりなんだろうか…?)
ロマニの心配を他所に、ゴッドロードはリッカの後を、ラニを姫抱きにて運びカルデアへと導かれるのであった…。
〜
ロマニが懸念していた、ラニとゴッドロードの動向であるが…それは別段、深く警戒するような事は何一つとして無かったというのがカルデア側の下した結論であった。
「なんと…ゴッドロード様はとても手先が器用なのでございますね!自らのお嫁さまに贈る衣装をこんなにも素晴らしく!」
「お、黄金の裁縫セット!?す、すみません、私も使ってみていいですか!?」
「(カーテシー、ぐっ)」
ミスクレーンや、飛鳥のアトリエに顔を出し、ラニへの衣装や装飾を見繕い作り上げ…
「(手招き)」
「えっ?カニは肉より卵?またまた〜。肉のほうがプリプリで美味しいに決まっているわ!」
「(差し出し)」
「えっ、くれるの?…うまー!?」
「(差し出し)」
「えっ、勇者の肉?マスターの私に?ありがとー!うまー!!」
「(拍手)」
自慢の料理の腕を振るい、天空海やリッカ、仲間達に気ままに振る舞ったり…
「(恍惚)」
「おや、温泉には不慣れなお客様でち、ですか?温泉は心の洗濯、思う存分浸かっていくでち!」
「(魅せられた祈り→エイエイオー→感謝を→跳ねる歓喜)」
「喜びすぎでち!?」
温泉に大歓喜する綺麗好きな一面など、極端な無口とボディランゲージを駆使する変わり者としての姿を楽園にて存分に披露していた。
『彼はかつて褪せ人と呼ばれ、神に祝福され王となる運命を歩む存在だった。エルデンリングを直し、エルデの王となる運命をな。だが…彼は私のためにその運命も、祝福も捨て、この遥かなる暗き路を行くことを選び、伴侶になってくれたのだ』
「全てが壊れた地で、運命の女性を見出す…なんというロマンチックな物語なのでしょうか…!」
『ふふ。そう言ってくれるか、マシュ。では、せっかくだ。私と彼の馴れ初めから如何にして結ばれたか、どのような運命があったのかを話してやるとしよう』
ラニもまた、人形たる自身の補修を行いながら、カルデアの人々との交流を楽しんでいる。彼女と彼は、何もかもが狂い果てた世界よりの来訪者。人の活気、交流そのものが余りにも懐かしく、眩しく映るのだ。
『よい運命に恵まれている。旅の早々、私達はよい世界に招かれたな』
(魅せられた祈り)
だが、彼女達は決して非戦闘員ではない。ラニは魔術師として、ゴッドロードは戦士として、楽園の上位に連なるに相応しい力を有している絶対強者でもあるのだ。
『微小特異点、攻略完了だ。私の王から報酬を受け取れ』
「(叡智)」
「微小特異点とはいえ、マスター抜きで攻略とミッション達成をこなしてしまうなんて…」
「余りにも戦闘慣れし過ぎています。というか討伐エネミーにドラゴンクラスが三体含まれていませんか!?」
『気にするな。その程度、私の王は難無く潜り抜けてきたものだ』
「(剣に誓って)」
月光の剣、神の遺体から作られた剣、重力を操る大剣、壊れかけの槌や星と月の魔術に弓の絶技、死を宿す剣や雷槍の祈祷を自由自在に使いこなすゴッドロードに、伝説の月の魔術を扱う神人たるラニのコンビは、単独行動(祝福)A+++も
相まって、カルデアに『微小特異点特異点一括攻略』の概念を齎すほどの活躍を見せる。カルデアを強化するリソースを、この夫婦は荒稼ぎして帰ってくるのだ。
『私達を受け入れる限り、お前達に損はさせん。これからも、良き関係でいたいものだ』
「(リングのポーズ)」
『それと、残念ながら私の王はシミュレーション、サーヴァント達とは戦えないと心得ておけ。彼が生涯、命乞いを聞き届けたのは2回だけ。神とすら殺し合い、全てを討った程の男なのだ』
「(お辞儀)」
「むしろ彼には何ができないのか、というレベルの器用万能ぶりだよ…。ヘラクレスくらいじゃないかな、こんなにやれることがあるの…」
「(命乞い)」
『誤解しないでほしい。これは千を超える死を乗り越えて掴んだ強さであり、英雄たちのように眩しいものではない血塗れの成果だ…だ、そうだ』
「謙虚だなぁ!?」
「こんなサーチ・アンド・デストロイみたいなキルスコアしてるのにアルトリアタイプの王様なのかよ!?」
「(頷き)」
『私の王も大変カルデアを気に入った様だ。これからも皆の役に立ちたい、と言っている。どうかこれからも、私の王をよろしくお願いする』
「(恭しい一礼)」
「こちらこそ!すっごく頼もしいです!」
「あ、あー、コホン。少しいいかね?ゴッドロード君はともかく、ラニ殿は何か望みはないのかな?」
『私か?ゴルドルフ』
「あ、はい。そのだね、君の口から、あぁいや、ゴッドロード君も喋らないのだが、この働きの見返りを聞いていなくてね。これほどカルデアに貢献したのだ、私達にできることなら答えたい。ま、まぁデミゴッドにして神人たる君には余計なお世話かもしれんが…」
『…あぁ。それならある。一つ、大切なものがあるぞ、ゴルドルフ』
ゴルドルフの尊大かつ誠実な質問に、ラニは少女の様に笑いながら言葉を紡ぐ。ちなみに、ラニの本体は楽園のゴッドロードの部屋にあり、ゴッドロードが有する小さいラニはその端末だ。
『私は、私の王との世継ぎ…即ち、子供が欲しい。だが私は説明の通り、肉体を喪ってしまっていてな。これでは子を身籠るなど夢のまた夢だ。なんとかしてくれるか?ゴルドルフ』
「に、肉体かね!?確かにマテリアルボディ生成は可能かもしれんが…え、えぇい!そういう王族にとって死活問題な願いはもっと早く言ってほしかったぞ、偉大なる神人!」
『…着手するつもりか?』
「正直、DNAが何一つ残らない今難しくはある。最悪君が捨てた肉体を回収しにマスター達が狭間の地に行かねばならぬかもしれんが…そうなったら是非!うちの自慢のマスター達を導いていただきたい!必ず、新たなる肉体をお約束しよう!」
『…口にして見るものだな、私の王』
「(感謝を)」
遥かなる暗き路を選んだはずの二人。しかし、辿り着いたのは星を見上げる展望台。
その地上のきらめきが集う場所にて…かつて壊れる前の、祝福に満ちていた時代の名残を噛みしめる二人であった。
ラニ『もしかしたら、本当に肉体を用意され、お前の子を授かれるかもしれんな。そうなればこの上ない喜びだが…』
ゴッドロード『?』
ラニ『…暗き路、陰謀の夜を招いた私が産んだ子に、その宿痾が宿らねばいいが。モーゴットや、モーグのように』
ゴッドロード『…』
ラニ『我が愛しい母、レナラのように…お前との素晴らしい子を授かりたいものだ』
ゴッドロード『───大丈夫だ』
ラニ『!』
ゴッドロード『君の魂の様に、美しく可愛らしい子を授かれる。オレは心から、信じている』
ラニ『…私の王…』
ゴッドロード『焦る必要はない。ずっとこれからも一緒だ。このカルデアで』
ラニ『…うん。そうだな。ずっと一緒だ』
ゴッドロード『君を護ろう。君の律と皆のカルデア、何より君の魂を。君がくれた、名前に誓って』
ラニ『よろしく頼む。私の王…』
──いや。『ラスティ』。
引き裂かれた、親の二の舞いにはならない。そう決心するかのように、カルデア展望台スペースにて南極の空を見上げ、寄り添う二人。
リッカ「あっ…………」
そんな様子を拝見し、久々に消え去るマスター、リッカであった。
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