人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ダマーヴァンド山

リッカ『ファイトーーーッッッ!!』

スバル「いっぱぁあぁあぁつ!!」

ティアナ「全くもう、火山の中へ突っ込むってむしろなんで無事なわけ!?」

リッカ『魔力の膜を作って、絶えず生成してマグマから身体を保護したんだ!とある究極生命体もやったお墨付きだよ!』

ティアナ「なるほど…って違うわよ!はやく時空管理局に戻るわよ!ナハトヴァールが大変なんだから!」

リッカ『………』

スバル「リッカちゃん?」

リッカ『どんな理由があれ、ナハトヴァールには心が産まれた。それは破滅や絶望が目当てとはいえ、間違いなくザッハークがもたらした…』

ティアナ「何をブツブツ言ってるの…?」

『ううん。結局…人類悪は愛を切り離せないんだな、って』

スバル「???」

イリヤ『リッカさん!』
エミヤ『聞こえるか。これより雌雄を決する。さっさと戻ってきたまえ』

リッカ『二人共!…雰囲気変わった?』

イリヤ『はい!ちょっと無敵になりました!』
エミヤ『今なら、理想を抱いてトライアスロンができる。別に、君が来るまで暴れても構わんのだろう?』

リッカ『──うん!思いっきりやっちゃって!』

『『了解!』』

リッカ『見せてあげる。私達人間が、決して醜いだけじゃないって事を!』


星に手を伸ばすかのような挑戦を

【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!】

 

ヘラクレス、メディア、シグナムらの猛攻を受けながらも、彼女…ナハトヴァールの猛攻は収まる気配がない。それどころか、傷から不浄の生物が現れさらなる困難として一行を手こずらせる。

 

「ザッハークの性質、自己再生と防衛プログラムを所持している…!あれを止めなくては、リインフォースに届かない…!」

 

『物理的な力では叶うまい。防衛プログラムとリインフォースとやらを分かつかのような一撃が必要な筈だ』

 

ユーノ、ヘラの分析からして、物理的にナハトヴァールを消し飛ばすのは最早不可能な領域にある。人の醜い感情を練り込まれたナハトヴァールのボディは、巨大に肥大化している。しかし同時に、リインフォースと名義付けられたデバイスの反応も観測できている。ナハトヴァールを倒せば、ともすればリインフォース諸共消えてしまうやもしれない。それがなのはたちエースが参加できない理由でもあった。

 

「ナハトヴァール内部からリインフォースを救出し、同時にナハトヴァールの改悪部分たるシステムを全て吹き飛ばし、コアにルールブレイカーを使いナハトヴァール、リインフォースを切り離す…」

 

「難題だな。果たしてどれほど完遂が可能か…」

 

シグナムが刀剣を持ち、覚悟と共に構える。他の雲の騎士達は、いよいよ時空管理局を侵食し始めた他部署へと急行し散り散りだ。特ロストロギアの防衛プログラムは、いよいよ時空管理局へと闇を塗り始めたのである。

 

「せめて、動きさえ止められれば!なのはやみんなの火力で、ナハトヴァールの術式を食い止められる…!」

 

「──そうか、では」

「その役割!任せてください!」

 

同時に、まるで姉弟のように響く声。全く同じタイミングでたどり着いたそれは、なのはたちの困窮を剣のように切り裂く。

 

「イリヤちゃん!」

「エミヤか。用は済んだか?」

 

「はい、なのはさん!もう、迷わないし負けません!」

「あぁ。大英雄ヘラクレス、貴方に並ぶために気合いを入れ直してきたのだからね」

 

イリヤとエミヤは頷き合い、魔力を高める。イリヤの手には、群青色の刀身に星座を散りばめたかのような…夢幻の剣。彼女の心象風景を現した剣。

 

「フィニッシュは任せよう、イリヤスフィール。わからず屋の少女に、ガツンと言ってやれ」

 

「はい!あいあむざぼーんおぶまいそーど、お願いします!」

 

「…そんなに発音おかしいかな、オレ…」

 

そんな風に笑いながらも、なんと一切の詠唱を挟まずに剣戟の極地、無限の剣製をエミヤは展開してみせる。固有結界を、最早なんの憂いもなく使ってのけるほどに彼は今、英霊の高みにいる。

 

【これは…!心象風景置換魔法か…!】

 

「ベルカにはこれすらも魔法のレパートリーだったのかね?どうやら種は割れているようだ。時間はかけられん」

 

そしてエミヤは、ソレを投影してみせる。彼が永遠に焼き付けた、永久に遥か黄金の剣。エクスカリバー・イマージュ。

 

「この剣と無数の剣戟が君を後押しする。さあ、駆け抜けろイリヤスフィール。マスターが帰参するまでに片を付ける!」

 

「はい!よーし!!行くぞーっ!!!」

 

【虚仮威しがぁぁぁっ!!】

 

イリヤスフィールとエミヤを押しつぶさんとする、無数のビーム攻撃。朝焼けの空を塗り潰す密度と量で、イリヤを叩き潰さんと迫りくる。

 

「見せてあげるよ…!私が一番近くで見てきた、ヒーローの力を!」

 

【!?】

 

そしてイリヤが握る心象風景の具現した刀、夢幻の剣製に紫電の雷が響き渡る。それは、彼女が宿した極みにして奥義。

 

「『雷位』、開帳!最短距離で、あなたに届く!!」

 

瞬間、瞬きの一瞬で展開されたナハトヴァールの弾幕を、瞬きの間に完全回避してみせるイリヤ。驚嘆したナハトヴァールが立て続けに撃ち据えるが、ただの一つもイリヤには当たらない。

 

「当たらない!リッカさんの積み上げてきた頑張りの結晶が、めちゃくちゃな癇癪に当たるもんか!」

 

【小癪なぁッ!!】

 

ならばと拡散砲撃をやめ、収束しイリヤを消し飛ばさんとエネルギーを撃ち放つ。彼女の何倍も大きい光線にも、魔法少女は微塵も揺るぐことはない。

 

「ディアナ・セレーネ・ノヴァーーーーーッ!!!」

 

剣から膨大極まる祝福を撃ち放つイリヤ。それはなんと、艦砲射撃はあろうかとするナハトヴァールの大砲撃を単独、かつ自力のみで拮抗し押し返すほどの熱量を有していた。

 

「あれは、女神アルテミスがリッカに授けた技。よもや小さき者が扱えようとは…」

 

『あの剣に、経験や技術を憑依させ振るっているのだな。よほどイリヤスフィールの中で鮮烈なものらしい』

 

ヘラクレス、ヘラの言葉通りにイリヤの扱う技はマスター、リッカのものだ。これは、リッカの有する信念や想いがナハトヴァールへの戦いの理念に合致するためである。

 

倒すのではなく、理解するために。

 

滅ぼすのではなく、辿り着く為に。

 

「むげんがそー!!てんまかんつうーッッッ!!!」

 

剣に槍のエネルギーを凝縮させ、真っ直ぐに撃ち放つ。憎悪を穿つ神雷の槍、過たずナハトヴァールの砲塔を打ち貫く。

 

イリヤにとっては、マスターとして人間として輝きを放つリッカの生き方、人生こそが憧れし女性の強さそのものであり、最新の英雄として心に刻んだ全てであった。故にこそ、倒すのではなく分かり合う為に。このとびきりの奇跡限りで、彼女の研鑽を再現しているのだ。

 

【な、なんだと…!?】

 

「ナハトヴァール!!!」

 

一瞬にも満たぬ間に、ナハトヴァールの少女部分に取り付くイリヤ。剣を振り抜ける必殺の間合いだが、彼女の戦いは殺戮や討伐ではない。

 

「あなたは人間の、ほんのちょっとしか見てない!人間全部を嫌いになるなんて早すぎる!」

【!!】

 

「悪いとこだけしか知らないなら、悪いようにしか見えないよ!私達はあなたの心に知ってほしいの!人には、素晴らしい一面もあるんだって!」

【戯けた事を抜かすなァァァッッッ!!】

 

振り落とさんと、無数の砲塔を展開する…が、それは正確極まる斬撃と射撃により無力化される。エミヤ、並びにヘラクレスらが懸命に対処しているが故の成果だ。

 

【これ以上、知る必要などない!私はナハトヴァール、闇の書の防衛プログラム!そんな私が人間などを…!】

「逃げるな!!」

 

【!!】

「知ろうとすることから逃げないで!あなたには心があって、話せる人格がある!それで人間が嫌いなら、良いところも悪いところも知ってから嫌いになって!」

 

【良いところも、悪いところも…】

 

「下ばっかり向いてたら、星空は見えないのは当たり前でしょ!例え思い切りぶつかってでも、あなたには人間のいいところをたくさん知ってもらうんだから!!」

 

それは、めちゃくちゃでがむしゃらな子供の理論なのかもしれない。笑われるような、無理筋の我儘なのかもしれない。

 

「あなただって!立派な心を持ってるでしょーーっ!!」

 

だが、それを本気で貫く理由がイリヤにはあり、それをやる力が確かにその手に握られている。こぶしや力でなく。他者を理解しようと叫ぶ。それもまた、イリヤ…そして、リッカがしてきた戦いであるのだから。

 

【ぐっ、あ、あぁあァァァァァァァァァ!!!】

 

瞬間、ナハトヴァールが激しく苦しみだす。欲望が肥大化したかのような身体の中心に、輝く光が見える!

 

「そこっ!!───マスター!私に力を貸してください!!」

 

瞬間、彼女の握る剣に鞘が展開される。それをまるで居合のような構えとなり、目前のナハトヴァールへ向ける。

 

【ァァァァァァァァァァァァ!!!】

 

意識の混濁により半狂乱となったナハトヴァールが、防衛プログラム射撃を撒き散らす。一度放たれた弾丸が、準備中のイリヤを襲う。

 

「エクスカリバー・イマージュ!!!」

 

真作に迫りぬいた、星の聖剣の贋作を振るう。同時に渾身のソードバレル・フルオープン、ヘラクレスらの援護がナハトヴァールの強大なパワーを抑え込む。

 

「リインフォースさんを、待っている人達の下へ!私はあなたへ、辿り着く!」

 

夢幻の剣製から、光の奔流が迸る。一瞬で抜き放つその間にも、星空が如き輝きが増していく。

 

それは、リッカがかつて母を救うために編み出した剣技。

 

それは、遥か彼方の宿業に辿り着く為の奥義。

 

人を殺める絶影ではなく、人を救う為の雷光として。今なおリッカが秘めしそれは、絶技の神髄としてここにイリヤにて振るわれる。あくまで借り物であるからこそ、込めた信念にて異なりを見せるのだ。

 

「龍哮一閃!うんよー、神雷───ッ!!!」

 

渾身の力で放たれし、極みの一撃。何層もの肉、装甲と化したナハトヴァールの悪性情報を貫き切り裂いていく。

 

【───────】

「いけぇえぇえぇえぇえーーーッッッ!!」

 

 

ナハトヴァールは、それを防ぐことが出来なかった。それは勿論、神速に達する速さも一因である。

 

そしてそれ以上に…イリヤが披露した一つの技を、攻撃とは受け止めなかったのだ。

 

それは、自身の中にある【何か】に手を伸ばした可能性。

 

「リインフォースさん…!!あなたを、皆が待っているんだよ!!」

 

彼女の、理由なき違和感と狂乱に幕を閉じるであろう一撃と、信じたが故の可能性。

 

自身が知らない何かを、その答えを。彼女は持っている。

 

「はぁあぁああぁあぁあぁッッッ!!」

 

そして──イリヤは見出す。魔導書と共に、静かに眠りについている少女を。

 

「あれが、リインフォースさん!お願い、マスター!リッカさん!!」

 

押し寄せる肉壁。無数の悪性情報。リッカの奥義で、一気に駆け抜け手を掴む。

 

「私に!届けさせて─────!!!」

 

遥かなる誰かへ辿り着く。もう少しで届く、その領域に彼女は手を、剣を伸ばして───

 

「──『全て遠き理想郷』」

「!!」

 

瞬間、イリヤの周囲に展開される遮断防御。迫りくる肉壁を浄化すら行い退ける、この世における最高の護り。

 

「行け、イリヤスフィール!マスターの研鑽に泥を塗らないためにも!」

「エミヤさん!」

 

瞬間、無数の兵器による反撃が行われるもイリヤには傷一つない。遮断防御は、もはや同じ次元にいないのだ。

 

「ナハトヴァールも助けたいと願うなら、まずは彼女を救え!泣き言は聞かん!」

「はいっ!!うぉおぉおぉおぉーっっっ!!」

 

渾身の手で、手を握らんとした。イリヤの手が、ついに届かんとする。

 

「まだ、人間を全部知らないのに…!」

 

【!!】

 

「嫌いになんか、ならないでーーーーーッッッッッッ!!!」

 

そして、イリヤは遂にたどり着いた。眠り続ける、ザッハークが封印した幸福の魔導書、リインフォース。

 

「確保しましたーっ!!」

『よく頑張りましたねイリヤさん!最期の最後にはルビーワープです!』

 

眠るかのように佇むリインフォースを抱え、ルビーと共に巨大な肉塊から脱出するイリヤ。

 

「───ふっ!!」

 

瞬間、エミヤもまた離脱と同時に縦薙に聖剣を振るうと同時に、手には陰陽の文様の夫婦剣。

 

「───我、欠落ヲ不ラズ」

 

最早『制作者が違うだけの真作』と言うべき領域に化した干将莫耶による瞬時の剣戟のコンビネーションが、ナハトヴァールを切り裂く。魔物に強力な特効を持つそれ、鶴翼三連のコンボは確かにイリヤの帰路を切り拓いた。

 

【■■■■■■■!!!】

 

単純な戦闘力ならば凶悪なナハトヴァールに、戦闘サーヴァント達の一斉攻撃が叩き込まれる。同時にイリヤが、リインフォースをナハトヴァール内から引き抜いた事を確認する。

 

 

「あとは任せたぞ、マスター。あの心を宿したプログラムとどう付き合うかは、君の決断次第だ」

 

マスターに、最期の決断を下しなおもエミヤはがむしゃらに戦う。

 

生み出された心とどう向き合うのか。それが、これらの奮闘の答えを出す最期のピースであることを彼は深く理解していた──。




リインフォース「う、うぅん…ここは…?」

はやて「リインフォース!ほんまに、ほんまにリインフォースなんやな!?」

リインフォース「…マスター?八神、はやて…?」

はやて「あぁ…!せや、うちや!八神はやてや!リインフォース…!また、会えたんやな…!」

リインフォース「私は……」

ナハトヴァール【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッッ!!!】

リインフォース「!ナハトヴァール…」

イリヤ「とりあえず、リインフォースさんは、なんとか…(ふらっ)」

?「おっと!」

イリヤ「………あ…」

「──すっごい頑張りだったね!」

イリヤ「リッカ…さん…」

リッカ「あとは、皆で決めるだけだよ!」

リッカの特訓がきっかけの今回の騒動が…いよいよ、幕を閉じようとしていた。

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