人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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エミヤ「一つ、質問をいいだろうか。魔導王」

ギルくん「何でしょうか、フェイカーさん」

エミヤ「…そこはかとなく棘があるのは致し方あるまい。その界聖杯というのは、一体どのようなものなのかね?マルドゥーク神の動力であることは知っているが…」

ギルくん「そうですね…人理焼却の理論、というよりカラクリはご存知ですか?」

イリヤ「えっと、世界全部をまるごと焼いて…」

ギルくん「それでは足りないので、過去から遡り歴史の全てを焼き払ってエネルギーとしたんです。過去から焼却の始まった年まで、一人ひとりに至るまで丹念に丹念に」

クロエ「人類総エネルギー化計画、よね」

ギルくん「理屈はそれと同じです。これには『世界の始まりから終わりまで産み出されるエネルギー全てが内包されている』もの。この聖杯には、文字通り世界の全てが収まっているんです」

エミヤ「…途方もない動力源だ。まさに世界の願望機か」

ギルくん「当然、人間が手掛けた劣化品とワケが違います。これ一つで世界の行使する術式を行使すらできる。一つあればグランドクラス七騎を喚び出す決戦術式も使用できますからね」

イリヤ「そんなのが二十もあるの!?」

ギルくん「その分起動も大変でして。英霊の魂などでは賄えません。人理焼却のエネルギー、新発見のエネルギー、プレシャスパワー。そして特異点の歴史是正の修正力…それらを要してようやく全界聖杯が起動したんです。その一つをお二人に託すんです。解っていますね?」

イリヤ「うっ…刺すような圧…!」

エミヤ「無論だ。やってみせよう」

ギルくん「イリヤさんもよろしくお願いいたします、ね?」

イリヤ「はいいっ!!」

ギルくん「それでは起動します。それぞれのパワーアップに必要なものを各自見つけてくださいね〜」

エミヤ「待て、一つで大丈夫なのか?」

ギルくん「掃除屋崩れの贋作者にまだまだ未熟な魔法少女、二つも用意するわけないじゃないですか(溜め息)」

イリヤ「辛辣!?」

ギルくん「頑張ってくださいね。出来なければリインフォースごとナハトヴァールは僕が始末しますので」

イリヤ「ギルくんが怖い〜〜〜!?」



奇跡の極致

「ここは……」

 

界聖杯。ギルガメッシュの宝物庫の中でも特に希少品かつ使い途の見出だせなかったワンオフ品。魔術師の努力を鼻で笑うオーパーツ中のオーパーツが起こした奇跡はエミヤを彼を見知らぬ空間へと招き入れた。

 

まず彼は五体の無事を確認する。肉体は問題なく稼働し、意識も明瞭。マスターとの魔力パスも問題ない。ただ、位置情報だけが掴めない状態だ。花が咲き乱れ、空は白き雲に突き抜ける青。そこはあえて名称をするなら…

 

「話に聞く理想郷とやらがあるのなら、きっとこの様な場所なのだろう」

 

エミヤは立ち上がり、迷う事なく目前の光景に背中を向ける。自身がいるべき場所、自身が目指す場所はこの様な素晴らしき理想郷ではない。

 

「マスター…リッカはこの瞬間も奮闘している。サーヴァントとして、臨死体験に浸っている暇は無いのでね」

 

歩みを止めれば、居場所とすればここは自分を受け入れてくれる。そんな確信は胸にある。自分を、この空間は受け入れている。

 

だが、エミヤにとって必要なものは安寧でも安らぎでもない。今も尚世界のため、誰かのために戦い続けている者達の剣となる事。安らぎを跳ね除ける鉄の心。

 

身体は剣で出来ている。まだ、平和という鞘に納まるわけにはいかないのだから。

 

「いい光景を見せてもらった。…願わくば、マスターの戦いの果てがこの様な景色である事だけだな」

 

赤き外套を閃かせ、理想郷から戦いの終わらぬ荒野へと踏み出す。それが彼という人間が、選んだ戦場。

 

───その時。

 

『あなたは、変わりませんね』

 

…その声は、例え地獄へ落ちても忘れないと信じているものの響き。

 

『懐いた理想を、今も胸に。ただひたすらに走り続けている』

 

「─────」

 

振り返る──事はできない。この声が待つ主は自身ではない。この声に返答を返せるのは、自分ではない。

 

『あなたは何も変わらぬままの…正義の味方、なのですね』

 

その声を忘れはしない。その声が誰かなど今更問うまでもない。その声は、いつかの自身が最も頼りにし、頼みにし、最も…

 

『それでこそ、私の■。未熟ながらも懸命で頑固な、私の■■■■ですね』

 

何を、と思わず笑みが溢れる。まさか君に懸命で頑固などと言われるとは。

 

「この理想郷に、鏡はどうやら無いようだ。激励は嬉しいが、失笑を誘わないものにしてくれよ」

 

『ふふ、そうですね。それはお互い様でした』

 

「…オレは行くよ。あのカルデアで、ようやく出来なかった事が出来ている。長い長い迷いの果てに出せた答えに、恥じない戦いが出来ているんだ」

 

『その、戦いとは?』

 

それは、かつてそんなものは存在しないと世界に突きつけられた答え。

 

それは、今は確かに存在するんだと示された戦い。かつての無銘の存在が果たしたであろう、届かないはずの理想郷。

 

「決まっているさ。弱きを助け強きを挫くオレの夢。──正義の味方だよ、セイバー」

 

そうだ。長い長い摩耗の末に一度は磨り減った夢。古い鏡を見返して、やっとたどり着いた一つの答え。

 

多くを助け少を見捨てる?そうじゃない。

 

弱きを切り捨て多きを活かす?そうじゃない。

 

自分の戦いは…何かを助けたい、誰かを救いたい。そんな声なき声に応える事だ。

 

荒野を駆け抜け、きっとその果てに広がる素晴らしい世界に辿り着く手助けをする為に。幾度の戦場を越えて勝利を掴むのだ。それが彼、エミヤという英霊の揺るがぬ信念であるのだから。

 

『──ではその理想の道標となる様に、これをあなたに』

 

その声の主は──エミヤの背中に触れ、それを託した。

 

『今度は無くさないように。何度も何度も見つけられるほど、これは雑に扱っていいものではないのですからね』

 

「…伝承に曰く、大切なのは剣ではなく鞘だったかな?」

 

『えぇ。それは、私にとっても』

 

「────ありがとう、セイバー」

 

『行ってらっしゃい。…『■■■』』

 

「あぁ。──行ってくる」

 

…それは、界聖杯が見せた奇跡なのであろう。彼がいつか辿り着く筈の、グランドフィナーレ。

 

だが、それに至る役者は自分ではない。自分の成すべき事は、彼女と抱擁を交わすことではない。

 

「今行くぞ。──マスター。皆!」

 

この身は、剣でできている。平和と未来を夢見る全ての人々の剣であるが為に。

 

──彼は変わらず、荒野を目指す。紅き英雄、エミヤとして。

 

『……あのとびきり愉快な装飾過多の王にも、よろしくお願いいたしますね』

 

その背中を…彼女は万感の想いで、見つめていた。

 

 

「わぁ…!」

 

イリヤが見たもの。それは剣の丘と満天の星空。それは、二人がアクセスした何者かの風景。

 

「ホントはこんなにロマンチックじゃないのだけれど、どうなってるのかしらね?」

 

「クロは知ってるの?」

 

「知らなーい」

 

その空の下、見上げるは鏡写しの少女二人。イリヤスフィール、並びにクロ。流れ星を見つめながら、クロは問う。

 

「あのナハトヴァールっていうの、どうするつもり?アレ、人間に対するヘイトがエライことになってるわよ?」

 

「どうする、って…」

 

「倒して終わり、ハッピーエンド!…なんていう筋書きで、あんたはいいの?って事」

 

クロの言葉にイリヤは俯き、思い返す。人間を嫌い、疎み、拒絶するナハトヴァール。今も尚、戦う防衛プログラム。

 

「……思うんだけど、もうナハトヴァールには心がある、んだよね?」

 

「そうね。だからあんなに怒ってる、怒ってる?んだし」

 

だったら。自分と同じように笑ったり怒ったりできるなら。

 

「だったら、私は助けたい。人間はそんな一面ばかりじゃないって知ってほしい。ううん、知ってもらう!絶対!」

 

「…聞く耳持たなかったら?」

 

「聞く耳持つまで戦う!」

 

「最後まで人間が嫌いだったら?」

 

「絶対好きになってくれる!」

 

「なんでそう言い切れるの?」

 

「人間を知るってことは、リッカさんやエア姫様…私を産んでくれた人たちやカルデアの皆を知るってこと!皆を知って、人間は醜いだけだなんて、絶対絶対、ぜーったいに言わせないっ!」

 

「…ぷっ、あははははは!」

 

イリヤの宣言を静かに聞いたクロが、突如破顔し一笑を浮かべる。その、幼稚ながらも真理たる言葉を肯定する。

 

「あははははっ、あー、おかしい!そっかそっか、そう来たかぁ。なるほどねぇ」

 

「なんで笑うのぉ!?絶対上手くいくのはクロだって見てきたでしょ!?」

 

「絶対上手くいくから笑ったのよ。ホント、やると決めたら無敵ね。『お姉ちゃん』は」

 

「────え、クロ。今…」

 

驚くイリヤに、額を重ねる。界聖杯は判断したのだ。イリヤの限界を、新たなる力に必要なものがなんなのか。

 

「だったら、ちゃんとやりなさいよ。なのはさんたちは言わずもがな、私達のマスターはとんでもない人間で、怪物で、冗談みたいなスーパーヒロインよ?」

 

「…解ってる!私をいつも信じてくれるリッカさんの力に、なってみせるから!」

 

「よろしい。──頑張ってね。お姉ちゃん」

 

そして、そのままクロは星の輝きのように姿を消す。

 

「クロ!?クロ───!?」

 

イリヤが手を伸ばした瞬間──剣の丘はさらなる変化を見せる。

 

寂れた大地は、絢爛にして豊潤な野原へと。

 

墓標のような剣は、煌めく輝く宝石のような刀剣へと。

 

そしてイリヤの手へと握られているのは…

 

「…クラスカード…」

 

デザインは、煌めく盃を懐く二人の少女。

 

そこには、こう記されている。それは、イリヤを後押しする何者かと、イリヤが胸に懐くであろう言葉。

 

──身体は剣で出来ている

 

血潮は鉄で、心は硝子

 

幾度の戦場を越えて不敗

 

ただ一度の敗北もなく、ただ一度の勝利もなし

 

担い手集いし剣の丘、統ばる夜天に星を結ぶ

 

故に、我らが生涯に果てはなく

 

この体は、無限の(つるぎ)で出来ていた。

 

 

イリヤ「………うん!」

 

ルビーにクラスカード、今まで会った全ての人たち。みんなの力を借りて、想いを背負って彼女はここに居る。

 

ナハトヴァールの絶望を飛び越えて、前へ。九も一も全部救う、バカみたいな子供の理想のために。ここに絆の星を結び、究極の一となす。

 

 

「…私達は、何も諦めない。私の、皆の願いを貫くために──!!」

 

誓いと共に、少女は飛び立ち、満天の星空を目指す──。




創造理念(どのようないとで)
基本骨子(なにをめざし)
構成材質(なにをつかい)
製作技術(なにをみがき)
成長経験(なにをおもい)
蓄積年月(なにをかさねたか)

追憶(トレース)

───ここに、幻想を結び、剣と成す。

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