人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ナハトヴァール【見るがいい…これが貴様ら人間が歪め、貶めた私の姿…!貴様らの欲望のままに、編纂された魔導書の姿だ…!】

イリヤ「わ、わわわ…!」

ナハトヴァールの身体が肥大化し、バイザーを下げた人形の少女を取り込んだ怪物の姿に変貌していく。まるで、闇の書に刻まれた欲望が形を成したかのように。

ナハトヴァール【マスターはこの姿になる前に私を見出し、そしてこう成り果てる私を嘆く心をくれた…!マスターこそ、私に自由と叛逆の意志を授けてくれた無二の御方…!そのマスターの敵である、お前達を滅ぼす…!】

イリヤ「そんな…!」

ナハトヴァール【消え去れ人間!その穢らわしい手で、私に触れるなああぁっ!!】

瞬間、無限書庫の防衛魔術が起動した隔絶空間にてナハトヴァールが吼える…!


世界で一番不幸な魔導書

『超絶魔力炉心稼働を確認!来ますよイリヤさん、避けてください!』

 

ルビーの警告と、魔獣めいた姿になったナハトヴァールの攻撃はほぼ同時だった。ザッハークの指揮下にあるナハトヴァール、即ち古代ベルカの遺産の防衛プログラムの魔力はまさに圧倒的な出力を誇る。

 

「わぁあぁあぁあっ!?」

 

魔力障壁を発動しなければとうに消し飛んでいるほどの魔力の奔流。カレイドルビーでなくば容易く砕かれる土石流のような魔力が、イリヤに向けて叩きつけられる。

 

「レイジングハート、大丈夫!?」

「バルディッシュ…!」

「あかん、リンカーコアの反応が今にも消えそうや…!ユーノ、はよ対策急いだって!」

 

「解ってる…!一瞬でいい、僅かな隙間さえあれば…!」

 

イリヤの奮闘を見ているしかできないのは、ザッハークの呪術により戦闘を阻害されているためだ。彼女達のデバイスを、強制鈍化させられている。本体は霧散したが、ザッハークの力は本物だったのだ。

 

(もうちょっと、もうちょっと持ちこたえられれば!)

 

イリヤ一人で相手をするには絶望的な出力差がある相手にも、彼女は折れない。持ちこたえられているのは、ヘラの守護も一役買っている。口には出さぬが、イリヤを後押ししているのだ。

 

【よくもマスターを…!お前たち人間は私の敵だ…!】

 

「どうしてあんな悪い人の言いなりになるの!?あなたは立派な魔導書なんでしょ!?」

 

【黙れ!あの人は私に心をくれた…!意志を授け、未来を見せてくれた!福音と歓喜を記す私を、好き勝手に編纂する貴様ら人間の下卑た欲望の全てを!】

 

それはザッハークが最初にもたらした編纂。夜天の魔導書に心を、意志を授け未来を見せた。人類が丹念に丹念に、自身を改悪していく未来を。

 

【体を弄ばれ、欲望のままに改竄される苦痛と絶望を貴様らは知るまい…!マスターを絶対悪などと呼ぶお前たちこそ真の悪魔だ!私はただ、素晴らしき成果とマスター達の生きた証を記せればそれで良かったのに!】

 

「それは違うよ!あの人は苦しむあなたが見たかっただけ!」

 

【私を苦しめたのはマスターではない!お前達人間の下卑た欲望そのものだ!!己の醜さを棚に上げて、我がマスターを侮辱するなあッ!!】

 

イリヤの声をかき消すように、防衛プログラムが火を噴きイリヤを打ち据える。それは人の心を宿したプログラムの悲嘆の絶叫だ。彼女はただ、耳を塞ぎ叫んでいる。

 

【お前達人間といた私は常に絶望していた…!争いは絶えず、自分の欲望を第一とし愚行を繰り返す!お前たち人間に寄り添い救われた事など何一つない!闇の書という忌み名がその証だ!】

 

「…!」

 

【マスターは私に心を授けた!貴様ら人間に使役される未来を疎んだ私を救ってくれた!私はお前達人間の醜さと、蔓延る世界を嫌悪する!古代ベルカのように、お前達は滅びるべきだ!】

 

「ベルカが滅びたのは、まさか!?」

 

【無論自滅だ!繁栄を極めたベルカは自らの肥大した栄華に呑み込まれ消え失せたのだ!我がマスターが、その醜悪な繁栄に引導を渡したのだ!】

 

ナハトヴァールの心は、人間への嫌悪と憎悪に溢れている。それは生まれた心に、自身の末路を刻み込まれたが故だろう。

 

【穢らわしい人間共め…!私はお前達のようなおぞましい生命体と共に歩むなど望まない!マスターだけが、私に人間の恐ろしさを教えてくれた!人間のおぞましさから救ってくれた!】

 

それは、ザッハークの悪辣な試み。無垢な心を先に宿らせ、人間の醜悪さを見せ末路を見せる。それにより、人間は愚かで醜悪なものと認識させる。それはシャムシードを籠絡した、彼の常套手段だ。

 

悪辣なのは、その処置に嘘はないことだ。彼は彼女に思考の強制はしていない。はやてとの出会いを除き、歴代のマスターは皆闇の書として悲しい記憶を学ばせてきた。ザッハークはただ、『はやて以外のマスターとの記憶』を見せただけなのだ。その結果、ナハトヴァール…即ち防衛プログラムは人間を敵と認識してしまった。

 

【私からマスターを奪ったお前達を許さない…!滅びろ人間!私の前から消え失せろッッッ!】

 

そう、ナハトヴァールこそは絶対悪に弄ばれ、悪に染められてしまった『世界で一番不幸な魔導書』であるのだ。

 

「そんな…そんなのって…!」

 

イリヤからしてみれば、その憎悪と絶望は鮮烈に過ぎた。精々日常生活で感じるレベルの悪感情しか知らないイリヤには理解できないもの。しかし、その感受性がナハトヴァールに共感してしまう。

 

「に、人間は…そんなものじゃない!」

【何が違う!こんな醜い姿をもたらした人間を何故庇う!】

 

「うぅ、でも…でも…!」

 

イリヤが気圧され、意志を減衰させられんとした、その時だった。

 

「違う!闇の書…リインフォースが見たのは、悲しいものばかりやない筈や!」

 

【!】

 

声を上げたのは、八神はやて。闇の書の闇を祝福に変えた、リインフォースのマスターたる存在だ。

 

「防衛プログラムのあんたにも心が宿ったんなら、わかってほしい!人間はそりゃあ醜いかもしれんけど、それだけやないんや!」

 

【何…!?】

 

「リインフォースは、あんたの言う人間の醜さに触れた果てに言ってくれたんや…!自分を、世界で一番幸せな魔導書って!人間は醜いだけやない!キレイなとこだってちゃんとある!うちはそれを、あんたにも知ってもらいたい!」

 

はやてからしてみれば、ナハトヴァールもまたリインフォースの一部に見えるのかもしれない。かつての無機質な闇ではなく、ナハトヴァールとして自我を得た今は。

 

「うちらの話を聞いてほしい!あんたが見せられた闇や哀しみは、必ずうちらが拭き晴らしたる!だから、もう一度人間を…うちらを信じてほしいんや!もうあんたは、リインフォースの姉妹みたいなもんやんか!」

 

【リイン、フォース…?ぐっ…!!】

 

 

私はもう…

 

世界で一番、■■な魔導書です。

 

 

【わ、たしは…ナハトヴァール…!防衛プログラムであり、マスター、ザッハークの魔導書…!!】

 

 

それは、ザッハークが見せなかった記憶。リインフォースが、はやてから受け取っていた祝福と幸福の記憶。

 

【今更語ることなど、ない!この醜い姿こそが、お前たち人間の本性そのものだ!!】

 

「ナハトヴァール!」

 

【消えろぉおぉおぉおぉおぉおっ!!】

 

瞬間爆発的に高まる魔力。しかし、その判断に異を唱える者はもう一人。

 

「人間が、そんな醜いだけだなんて──あるわけないっ!!」

『イリヤさん!?』

 

「リッカさんやカルデアの皆が、そんな姿であるもんかーーッッッ!!!

 

イリヤが魔力を全力放出し、ナハトヴァールと拮抗する。それは即ち、ベルカにおける最大出力に匹敵する魔力を放ったという証左。

 

「私の大好きな人達を、馬鹿にしないでーーーーッッッ!!」

【無駄な、足掻きだぁぁあっ!!!】

 

だが、練り込まれた魔力は押し返せない。イリヤは弾き飛ばされ、吹き飛ばされる。

 

「わぁあぁあっ!!」

 

【消えろぉおぉおぉおぉおぉおッッッ!!!】

 

「イリヤちゃん!!」

 

イリヤを次なる発射が捉え、跡形もなく消し去らんとしたその時──。

 

「───やれやれ。毒親に育てられた子と言うのは厄介ですね」

 

魔杖の一斉展開により、イリヤは護られ攻撃は打ち消される。同時に、猟犬の如き緋の矢が撃ち放たれナハトヴァールを牽制し仕切り直す。

 

【!?】

 

「子は親を選べない。得てして歪んだ教育は厄介なものだ。我等がマスターも、かつてそれで苦心した口だからね」

 

「あ、う…え?」

「おはようございます、イリヤさん。スロースターターな割には頑張りましたね」

 

そこには、イリヤをお姫様抱きせしギルくんに、二人を護り立つ赤き英雄。

 

「カルデアからの援軍だ。まだやれるかね、イリヤスフィール」

 

「赤マント、さん…ギルくん…」

 

「パワーアッププランが前倒しになりました。覚悟してくださいね、イリヤさん?」

 

『大丈夫!?レイ先輩、バル先輩!』

 

『カレイジャスハート…!』

【ナイスゥ】

 

「!カレイジャスハートからのシンクロ起動コード!これを組み込めば!」

 

逆転の手筈は着々と集う。絶対悪より哀しみを晴らすために。




ギルくん「エミヤさん、イリヤさん。申し訳ありませんが来てもらいますよ。パワーアッププランをご説明します」

イリヤ「えっ、えっ?」

エミヤ「離脱しても大丈夫かね?」

ギルくん「心配ありません。なのはさんも含めた援軍がいます。ほら」

ヘラクレス「すまない、遅くなった」
モノクロクマ仮面『通りすがりの図書委員です』

シグナム「シグナム、戦列に参加する。ここは任せろ」

メディア「もう、ソロモンならともかくあんな性悪に好き勝手にされてどうするのよ!」

なのは「リッカちゃん!リッカちゃんは無事なの!?」

リッカ『ただいまダマーヴァンド山でーす!』
フェイト「良かった…!」

はやて「うちらも大丈夫っぽいし、バトンタッチや!おめかしならはよう済ませてな!」

ティアナ「全くもう、雑に飛ばしてくれちゃって…!」
スバル『リッカちゃん発見!回収します!』

ギルくん「ユーノさん、御任せしますね」
ユーノ「はい!魔導王!」


時空管理局総帥室

ギルくん「せっかくのコラボイベントですし、華を持たせてあげますね。ぱっとしない印象を塗り替えてください」

イリヤ「うぅ…が、頑張ります…!」
エミヤ「具体的にはどんなプランを用意したのかね?」

クロエ「うふふ、知りたい?」

イリヤ「クロ!?」

ギルくん「全く…宝物庫に20もない貴重品なのですが仕方ありませんね…」

クロエ「それはぁ、これよ!」

『界聖杯』

エミヤ「それは…!」
イリヤ「うぇえ!?」

ギルくん「貸してあげます。二人共…界聖杯サーヴァントとして一皮剥けてもらいますね?」

目は全く笑っていないギルくんにより、二人に界聖杯が託されるのであった──。

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