人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

2182 / 2547
ザッハーク【どれ、では器たるお前の成長ぶりを見てやるか】

リッカ「!」

瞬間、リッカとザッハーク、その他の人員を分かつように黒き渦が巻き起こる。無限書庫からも隔絶した空間。そこに二人のアジ・ダハーカは迷い込む

なのは「リッカちゃん!」

ザッハーク【おっと。噂に名高き魔王殿への対策はしておこう。古代ベルカ魔術を見せてやる】

レイジングハート『…!』
バルディッシュ【機能、鈍化…】

フェイト「バルディッシュ…!?」

ザッハーク【リンカーコアに対する初歩的な干渉だ。Eランク以下の魔力でエースオブエースには丁度いいハンデだろう?】

イリヤ「皆!」

ナハトヴァール【殲滅、開始】

ザッハーク【せいぜい頑張れ、人形。管理局側が役立たずの今から、お前が最後の希望だぞ?】

ユーノ「単なる阻害魔法で、管理局所属のエースを…!」

ザッハーク【藤丸リッカ。お前にいいものを見せ、良いことを教えてやる】

リッカ「……」

〜古代ベルカ終焉跡地

ザッハーク【見ろ。あれは隆盛を極めた古代ベルカがまさに今滅びゆく様だ。オレがナハトヴァールと共に見つめた世界最後の日だ】

リッカ「……」

ザッハーク【別に、人類が滅ぶことや亡くなる事は悪ではない。人類の精一杯の結末がそれならば、見る者の胸にそれなりの郷愁や感動を呼ぶだろう。何であれ、走り抜けた、辿り着いた奮闘は素晴らしいものだ。敢闘賞や努力賞があるだろう?】

カレイジャスハート『それが悪じゃないなら、なんで人類を滅ぼすわけ!?』

ザッハーク【うん?何故デバイスが…あぁ、カルデアはもう古代ベルカの技術を完全解析したのか。流石の発展性だ。…教えてやる。滅びる事は悪ではない。ならば、本当の悪とはなんなのか】

リッカ「───」

ザッハーク【それはな。他者の奮闘、他者の人生、他者の結末を嘲笑い、蔑み、何よりも愉しむ事だ。他者の手にした価値をくだらぬと、他者の成果を愚かだと楽しむ者こそが本当の悪なのだ。人類の結末が、このベルカと同じだとして。それを【馬鹿で無様で愚かな人類は、2000年の繁栄になんの意味も持たせず無価値にくたばりました】と、人類の巻物に勝手に書き記す輩こそ、真なる悪なんだよ】

カレイジャスハート『それがアンタって事!?』

ザッハーク【そういう事だ。人が人の顛末を愉しむ【愉悦】。それがオレの、ビーストαの獣性なのさ】

カレイジャスハート『心底腐ってるわね…!マスター、あなたとアイツはもう全然違うわ、気にしないで!』

リッカ「勿論。──まだ話があるなら、話しておいた方がいいよ」

ザッハーク【?】

リッカ「あと数分もしないうちに、貴方は死ぬから」

ザッハーク【ほう…、!?】

リッカ「─────!!」
ザッハーク【ぐぉおっ──!!】

瞬間。ザッハークの顔面を…カレイジャスハートのガングニールモードが貫く。

リッカ「いつまでベラベラ喋ってられるかな?」

ザッハーク【…………素晴らしいぞ、ふじま】

瞬間、たて続けにリッカの膝がザッハークを捉え衝撃を突き抜けさせた──。






天の供物は誰が為に

【嬉しいぞ、藤丸リッカ…!オレの、アジ・ダハーカの力をオレ以上に使いこなせているじゃあないか!キャスターのオレでは最早触れることすら出来ぬかもな!】

 

ザッハーク、そしてリッカの交戦が開始される。ナハトヴァールと闇の書はイリヤ達の方へ差し向けたため、自身の魔術を使いリッカを追い立てる。無数の毒蛇、爛れた毒素。当たれば術式ごと溶かす黒魔術の行使。

 

「カレイジャスハート、力を貸して!」

『無利子無担保でいくらでもいいわよ!』

 

ガングニールモードを展開、同時に金狼の小太刀を使い、身体にブーストをかけたリッカは最短距離を真っ直ぐ、一直線にザッハークの魔術を真正面から押し返す形で肉薄する。カルデア調整で古代ベルカ術式を組み込まれたカレイジャスハートは、幸いにも古代ベルカの王権魔術たるザッハークの術に対抗が叶った。五重魔法陣と、カレイジャスハートの魔力が激突し火花を散らす。

 

【素晴らしいぞ藤丸リッカ!お前程アジ・ダハーカの、アンリマユの力を使いこなせる人間は他にいない!精神と本能たるオレが断げ、ぶぐぁっ!!】

 

魔法陣を突き破り、拳がザッハークを捉える。同時に肩から生えた蛇がリッカに喰らい尽く。

 

【それはなぜか教えてやろう。お前の魂の業、積み重ねた宿痾が神に捧げられるに相応しいからだ!】

『はぁ!?』

 

【お前は世界を救う崇高な戦いの下、人類が最も忌避する大罪をいくつも犯してきた。生みの親を殺し、心の通じた第二の親を殺し、並行世界の自身すらもその手にかけた。数多無数の命を奪い、護るために滅ぼす戦いを繰り返してきた!】

 

蛇が毒液を吹きかけるが、カレイジャスハートは素早く防護壁を展開し防ぐ。

 

【現代において、お前ほど手を血に汚した人間はいまい。誰もがスイッチ一つで人を殺せる世で、お前は尊き血と、愛する者の屍を堪能し尽くした!まさに悪鬼外道、悪逆無道の大罪人だ…地獄ですら、罪を贖う事など出来ぬほどの!】

 

「…………」

 

ザッハークが距離を取り、魔法陣から山羊の頭を召喚し瘴気を吐き出す。素早く反転しリッカは回避し回り込む。

 

【サーヴァントという便利な道具を使えばいいものを、お前はその手を汚し続けた。直接手を下すこと無く、指を指し教唆した事実から目を背け善人ぶっていれば良かったものを。お前は自ら極めたのだ、人を殺める業を!】

 

『それがなんだって言うのよ!』

 

【解らんか、古代ベルカの遺産。アジ・ダハーカ、アンリマユを宿せるような魂が本当に善なるアライメントを懐けるものだと?アジ・ダハーカ、並びにアンリマユを宿せし藤丸立香。その資格はただ一つ。『あらゆる次元の藤丸立香の中で、最も魂が罪深き者』という事だ!】

 

ザッハークはさらなる魔術を展開する。不浄の蝿が、辺に満ちる。

 

【お前は最早藤丸立香等ではない。とうの昔にお前は汎人類史の、物語の異物と成り果てている。人理がお前を見限るのも時間の問題だろう。いずれお前は護ろうとした全てに拒絶され、救いたいと願った全てに殺される。それが絶対悪を濫用したお前の末路だ。ビーストIF】

 

ハエを焼き尽くし、手甲デバイスから排熱するリッカ。ザッハークは更に魔力を練る。

 

【そしてお前は、【滅ぼされる事】で『世界を救う者』と成り果て、お前を討ち果たした者は至高なる栄光と福音を手にするだろう。オレの対、ビーストΩの狙いはそれだ。お前という供物を戴き、唯一無二の神となる事。お前はその為に育ち、生まれ、育まれた生贄なのだ】

 

「だから、天の供物…」

 

【そうだ。お前の人生は、徹頭徹尾ビーストΩに捧げられるためのもの。そして汎人類史が正しくあるための舞台装置。お前に救いなどない。何故なら、お前は人でも獣でもない。世界に捧げられる生贄でしかないのだから】

 

『こいつ…!』

 

【汎人類史に使い潰されるがいい。ビーストΩの正しさを証明する生贄となるがいい。淀みに淀み、穢れに汚れた『藤丸立香』の面汚しよ。愉しむに足る末路をオレに魅せてくれ。それこそが、お前が供物たる所以。お前の奮闘と手にした輝きが台無しになる結末を見るために、我等αとΩは顕現しているのだから──!!】

 

ビーストαは嘲笑う。世界の正しさを証明する異物。汎人類史を護る殺処分の決まった獣。それがリッカに刻まれたΩの洗礼『天の供物』。彼女の人生は、神に捧げられ獣に貪られるものでしかないと。

 

「…………」

『マスター!どうして言われっぱなしなの!?私、悔しいわよ!そんなことないのに!そんな事あっていいわけないのに!』

 

カレイジャスハートの言葉通り、リッカは特段言い返すこともしない。ザッハークの侮蔑を、静かに受け取っていた。

 

「ごめんね。でも──」

 

いや。言い返す必要がどこにもないからだ。

 

「そんな事、別にどうでもいいからさ」

 

【………何?】

 

リッカの心と身体は、そんな侮蔑や刻印などに揺らぐ余地など微塵も残していないだけの話だ。

 

「勘違いしているかもしれないけど、私は別に愛されたいから愛してるわけでも世界を救ってるわけじゃない。ただ、世界と皆が大好きだから戦ってるんだ。みんなの生きる世界が好きだから護ってるんだよ」

 

【お前…】

 

「悪意の、人間を構成する大切な感情の権化の癖して『無償の愛』を理解できない。しようともしない。だから貴方は、人間に何度も何度も負けるんだよ。ザッハーク」

 

そう。リッカは既にたどり着いている。生きていてよかったという答えに。ただ、何を対価にしなくても愛してもらえるという真理に。ザッハークには、永劫理解できない答えを既に持っている。

 

「私の人生が、私の戦いが報われる必要なんてどこにもない。駆け抜けて、駆け抜けて、前のめりにくたばった眼の前に、みんなの生きる世界があればそれでいいんだから。その為なら、どんな罪もどんな業も、例え絶対悪になったって生きていくよ。──私が、今を生きる皆に示すんだ」

 

こんな私を受け入れてくれてありがとう。

 

あなたたち人類は、こんな私も愛してくれました。

 

あなた達はなんの見返りもいらずに、誰かを愛し手を差し伸べられる素晴らしい生命です。

 

「私が供物だとするなら、捧げられるのは貴方みたいな薄汚いケダモノなんかじゃない。今を生きている、私を愛してくれた世界とそこに生きる全ての人達にだよ。その為なら、私はこの世すべての悪であろうと構わない」

 

【藤丸、龍華…貴様は…】

 

「お前みたいにコソコソ逃げ回るちんけな小悪党とは違う。私はずっと正々堂々と悪で在り続けるんだ。皆が受け入れたとき、乗り越えてくれた時、誰もそうしてくれた皆を馬鹿にすることが出来ないように!」

 

──ザッハークは勘違いしている。いや、理解が及ばないのだ。リッカがアジ・ダハーカ…アジーカという、アジ・ダハーカが宿した善なる魂を宿せた理由を。

 

「今更くだらないおべんちゃらで私が揺らぐと思うな、ザッハーク!私は私であることから逃げない!生贄だろうと、いつか皆から切り捨てられるのだとしても!!」

 

『皆が素晴らしい善であることを証明したい』。そういった、アジーカが形なく愛した、グドーシが形にした『無償の愛』。それこそが、アジ・ダハーカが存在する理由。精神や本能より先に、リッカはアジ・ダハーカの真理を掴んでいたのだ。

 

「私は人間で、アジ・ダハーカで!──『藤丸立香』だ!!覚えておけ、ちんけでみみっちい小悪党!!!」

 

瞬間、ザッハークの魔力が減衰する。

 

【藤丸…龍華…!アジ・ダハーカの真髄をオレより深く体現したか…!!】

 

ザッハークの讒言は、蓋を開けてみれば滑稽な的外れだ。

 

だが、絶対悪というものは得てして薄っぺらいものである。

 

何故なら、悪意など。あまりにも多種多様な人心の紋様の、ほんの一つでしか無いのだから。




カレイジャスハート『やだ…私のマスター、カッコ良すぎ… 』

リッカ「行くよカレイジャスハート!あいつを倒す!バリアジャケット展開、リミッター解除!」

カレイジャスハート『えぇ!変身バンク解禁ね!』

同時にリッカが目を閉じ、腕を交差し──


リッカ「───うぅうぉおぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあーーーーーーッ!!!!!」

天空にカルデアのマークが、大地に獣のマークが現れ、ザッハークの展開した魔術空間を粉々に破壊し──

ザッハーク【!!!】

地中からアジ・ダハーカ・アンリマユが、天空からキラナがもたらせし光輪より、アフラ・マズダの幻影が現れる──!

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。