人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リッカ「これで何度目なの、ザッハーク。何度も出てきて、その度にやられて恥ずかしくなったりしないの?」

ザッハーク【通算で三度目だな、藤丸龍華。アジ・ダハーカでありながら、人間等という下等な種にオレという本能と精神は二度も敗北した訳だ。人間では穴があったら入りたい…とでも言うんだろうが】

リッカ「…」

ザッハーク【生憎、オレには恥や反省等というものは皆無でな。お前達人間という愉快な存在を嗤う為なら、何度でも、何度でも蘇り、戦い、負けてやるとも。何せ──】


リッカ「【下等な人間に無様に負ける自分が一番嗤えるな】とでも言いたいんでしょ?典型的な無敵の人の理屈…」

ザッハーク【──あぁ、流石はオレの魂を受け入れた器。お前とオレは同じだな、天の供物】

リッカ「【【一緒にするな、クソ野郎】】」


胎動する悪、吠え猛る愛

「ザッハーク…!?ザッハークが、なんで夜天の魔導書を持ってサーヴァントとして…!?」

 

イリヤの困惑が場の緊張を代弁する。リインフォース、祝福の風を招こうとしていた時空管理局の召喚術式を丸ごと悪用した形で現れしは、カルデアに二度立ち塞がったゾロアスターの反英雄にしてアジ・ダハーカの精神と本能、ザッハークであった。

 

『この邪気、悪意…リッカめが有する決意と輝きとは対照的な底知れぬ汚濁。これが噂に聞く悪意の化身とやらか』

 

【お初にお目にかかる。オレはカルデアに2連敗の身でな、恥を忍んで正面から挨拶を──】

 

瞬間、なのはの魔力弾がザッハークへと叩き込まれる。なのはは防がれた程度で物怖じする程迂闊ではない。死ぬまで撃ち込んで初めて攻撃。それがなのはの教えなのだから。

 

【御挨拶だな。あまり歓迎はされていないらしい】

 

だが、ザッハークの有する夜天の魔導書…否、穢れきった【闇の書】が魔法を行使し、あっさりとなのはの魔法を打ち消してみせる。エースオブエースのなのはの攻撃を、魔導書の行使だけで無力化する。その事実は、闇の書が真に本物であることを残酷に裏付ける。

 

そしてどこまでも悪辣な点として、ザッハークは何一つ魔術を、術式を行使していていない。ザッハークは生前世界全ての祝福を受けておきながらそれらを全て踏み躙った者。愛される課程で、千の魔術を学んでいながら闇の書に全ての負担を任せている。さながら、魔術師や魔導師の在り方を嘲笑うように。

 

「なのは!ちょっと落ち着いて…!」

「リインフォースまで消し飛ばすつもりかいな!?」

 

フェイトとはやてが止める。睨み見上げるなのはを、ザッハークは静かに見下ろしている。言葉に出さずとも、その様を嗤っているのは明白だ。

 

【まぁ、といっても今回はオレがどうこうしようとして来たわけではない。そっちが闇の書を望んだ事により、全盛期の姿たるオレとのタッグで喚び出されたというだけ。お互いにとって事故みたいな出会いだ】

 

「それなら…リインフォースを置いて早く消えてほしいな」

 

【連れないことを言うなよ、高町なのは。せっかくだ。キャスターとして知りたいことを教えてやるぞ?こう見えて、ソロモンの次くらいには魔術師として優秀だしな】

 

どこまでも余裕と下卑た嘲りを隠さないザッハークだが、攻撃の様子はない。ただ、本当に愉快犯な立場を崩さぬようだ。

 

「あなたは、リッカさんたち…カルデアの世界の存在の筈。それが何故、古代ベルカの遺産である夜天の魔導書のマスターとして認められているのですか!」

 

ユーノの理論には、明確な答えが用意されている。アジ・ダハーカ、未知の獣の有する権能そのもの。

 

【簡単な話だ。ザッハーク、その本体たるアジ・ダハーカは未知の獣でな。自身が知りたい、手を貸してやりたいと望んだ世界に、時間も時空も超えて顕現できるのさ。単独顕現というやつだ。そこのリッカは助けを求める声に。そしてオレは、無様な末路を遂げるであろう悪意の坩堝に。単独顕現と覚えておけ】

 

「…夜天の書が、闇の書となる可能性と未来を読み取って…古代ベルカに顕現していた…?」

 

【名乗った名前も、成り済ましの形も違うがな。愛する人間の為になら、何処だろうと駆け付けてやるさ】

 

ザッハークとは、あくまで英霊の座に刻ませた名。なのはの時空にいた頃はもっと違う存在であったと告げる。悪辣な性根は変わらぬままだったのだろう。

 

「あんたが!あんたがリインフォースを闇の書に変えたっちゅうんか!」

 

はやてからしてみれば、全ての歯車を狂わせた相手。切実な叫びに、ザッハークは残酷なまでの真摯さで応じる。

 

【誤解するな。オレは夜天の魔導書のプロテクトを外し、簡略化し、後世が使いやすいように調整してやっただけだ。本来の夜天の魔導書は、神の御業と祝福を書き記す最高峰の福音書であったのだからな。つまり…】

 

「…リインフォースを闇の書にしたのは…うちら人類って事なんか…?」

 

拍手を送るザッハーク。神の書物を、至高の宝物を人の手に編纂し託した。ならば、闇の書を変質させたのは。

 

【書かれた全てを自身のものに。記された力を自分『だけ』のものに。素晴らしい成果は巳『のみ』が手にすればいい。リインフォース、だったか?祝福の風を澱ませ、腐らせたのは徹頭徹尾お前達人間だよ。浅ましい欲得、素晴らしく醜い欲望。夜天の魔導書を長い時間をかけ絶望させたのは、紛れもなくお前達人間なのさ】

 

「よく言うよ。そうなることを期待して狡い小細工しておきながら。絶対悪の癖に、やることなす事みみっちくてしょうがない」

 

リッカもまた、ザッハークと和解するつもりなどない。もう、リッカにとってのアジ・ダハーカはアジーカなのだから。

 

【やはりお互い腹の底が見えていてはやりにくいな。人類最悪のマスターとしてますます磨きがかかってきたようで何よりだ】

 

「じゃあ私の質問にも答えてよ。ビーストIFと本来のビーストの違いは何?」

 

リッカはそう問いながら、イリヤに指示を出す。それは、カルデアへの緊急通信回線のコード。イリヤは頷き、ルビーにそれを転送するよう操作する。

 

【ビーストは本来ⅠからⅦまでいる。憐憫、回帰、愛欲、比較、堕落…まぁⅤとⅦは知らんが、端的に言えば人類愛の末路だ。死を乗り越えたい。ただ愛したい。それらの善性が獣性に堕ちきった末路が、薄汚いケダモノという訳だ】

 

「じゃあ、ビーストIFは?」

 

【本来のビースト共が癌細胞ならば、ビーストIFの本質は『未知』だ。人類愛を宿し、人類愛のままそれが人類愛と知らずに人類に牙を剥く獣。内側から滅ぼすがビースト、外側から噛み殺すがIFと把握すれば合っているだろうさ】

 

ビーストが人類が滅ぼす悪なら、ビーストIFは悪を知らぬ、愛も知らぬ獣。触れ合い方も愛し方も知らぬが故に、他者である人類を食い殺してしまう外敵。不倶戴天である人類の宿敵。

 

【ビーストIFの資格は『人類愛を宿しながらそれを知らぬ事』。知らぬが故に孤独であるが、知らぬが故に堕ちる事はない。愛を悪として人類を貪るケダモノどもと違い、アジ・ダハーカを筆頭とするIFの獣は『人と寄り添える』事こそが絶対条件だ。人間が犬をパートナーにしたように、人間が美徳と善性を示してやれば、未知の獣は人間を愛する理解者となる。──全く以て不本意だが、アジ・ダハーカの魂が救世主と触れ合ってしまったが故に定義された概念だ】

 

憎々しげに呻くザッハーク。アジーカは人類が積み重ねてきた善性、人類愛により未知の獣の幼体となった。そしてリッカの生き様が、アジ・ダハーカを完全なる人類の守護龍と変容させた。絶対悪たるアジ・ダハーカの本能と精神からしてみればさぞ面白くない結果であった。

 

【あらゆる全ての未知を知る歓喜、アジ・ダハーカ。産みの親への当たり前の親愛。アマノザコ、誰一人除けない平等をもたらすリリス。幻想と理想、想像が彩る虚構…。人類の善性を教わることで、逆説的に人類が素晴らしいものと証明する者。それが、ビーストIFだ。これに数の区切りは無く、人類の善性だけ現れるだろうし、定義されるだろう。熊や狐を狩り殺す猟犬のように、人類悪への番犬としても優秀だ。まぁ…手懐けられなければ食い殺されるだけだがな】

 

加減を知らず全力で食い殺さんとしてくるが、辛抱強く愛情を示せば比類なき相棒となる。人を素晴らしい者と思える、感じる事ができる者のみがビーストIFとなる資格を有するとザッハークは告げた。

 

【人類愛を高らかに吼える獣。それがビーストIFの全てだ。成体になれば、冠位のサーヴァントもその背に乗せる事すら可能だろう。その点で言えば…もうオレとお前は別の獣だな】

 

「私は人類が大好き。だから護る」

 

【オレは人類の無様さと滑稽さが何よりの愉しみだ。そんな愉快な人間を愛しているから、最高で、愉快で、とびきり美しい末路を迎えてほしい。だから滅ぼす。…どうせお互い殺し合う身だ。オレの本体のクラスを教えてやるよ】

 

本体。ザッハークでも、アジーカでもない。絶対悪たるアジ・ダハーカの身体に、ザッハークにて培った愛を有した…そして、あり得ざる獣。

 

【ビーストα・アジ・ダハーカ。この世界において、ビーストⅠと共に目覚めた獣。いずれ終極のΩと共に、お前達人類を喰らい尽くす者の名前だ。よぅく覚えておくんだな】

 

キャスターとして、正しくザッハークは質問に応えた。それは、彼にとってなんでもない常識でしかなかったのだろう。

 

だが──それは楽園が最後に討ち果たす者の存在を、明瞭に示唆するものだ。時空管理局は、値千金の情報を引き出したのであった。




ザッハーク【さて、喋り疲れた。お前達の望みを叶えてやる。目覚めろ、闇の書。ナハトヴァール】

ザッハークがあくび混じりに、闇の書を起動させる。それは、闇の書の防衛プログラム。

はやて「リインフォース…!!」

ナハトヴァール【マスター、指示を】

ザッハーク【人だ。殺せ。いずれお前を狂わせるバグ共だ】

ナハトヴァール【了解】

彼なりの誠意は幕を閉じ…

ザッハーク【魅せてくれ。通じ合った者達の殺し合いの再演を】

隠しきれぬ、醜悪な悪意が噴き出した。

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