人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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スバル「くっ、ううっ…」

ティアナ「無理しないで、休んでなさい。戦術的撤退よ」

スバル「あ、ありがとう!ティア!」

ティアナ「全くもう。足手まといはいつになったら治るのかしら」

リッカ『照れ隠しや悪癖の邪険なツンケン言動は早いうちに改めるべきだとリッカ思うよ』

ティアナ「あ、あんたには関係ないでしょ!」

(弓…?あれがあいつのデバイスなの?見かけもラスボスみたいなドラゴン趣味全開…まるで読めないわね…)

リッカ(オルガマリーを想定しちゃうのは許してね、ティアナちゃん。私にとって最高のガンスリンガーは彼女だから…!)

ティアナ「さぁ、行くわよ!」

リッカ「どんと来いッ!!」

なのは(互いが互いの課題をこなしきった時、きっと一皮剥けられる。頑張れ、三人共!)


対決!なのはの弟子対弟子!〜ティアナ編〜

「はぁあぁあぁっ!!」

 

ティアナ・ランスターが手にした銃を使い、飛翔しながら手のインテリジェントデバイス、クロスミラージュから無数の弾幕を撃ち放つ。それらはオレンジ色の魔力が放たれる関係上、橙の軌跡を描きリッカへと猛追し降り注ぐ。

 

『!』

 

だが、一度バレットシュートを晒したリッカの前にその弾幕は全くの無意味と化す。弓矢モードからフルオートのボウガンモードにシームレスフォームチェンジを行ったオルテギュアーが、それらを難なく撃ち放ち叩き落とす。

 

「ヴァリアブルシュートッ!!」

 

更に立て続けに撃ち放つ弾幕を、ボウガンにて迎撃するリッカ…だが、ティアナの放った銃弾の種類を冷静に見極めた後、僅かに身体を捻る。すると、『迎撃に放たれた矢を蹴散らした』弾は、リッカを掠め外れ飛ぶ。

 

「…!」

 

ヴァリアブルシュートは弾幕に魔力を有し、貫通力や威力を高めた弾だ。ティアナはバレットシュートを立て続けに見せ、警戒を緩めた際に本命を叩き込む算段だったのだが、リッカはそれを難無くかわしてみせた。

 

(目はいいみたいね…でもそれだけでSランク想定の実力持ちと思わないことね!)

 

だがティアナの引き出しはまだ多彩に残っている。静かに出方を見るリッカに対し、クロスミラージュの銃口は火を吹き続ける。

 

「クロスファイヤーシュート!!」

 

先程の弾幕とは比べ物にならないくらいの超濃密な弾量と制圧射撃。回避も防御も困難なレベルの大火力と弾幕が、リッカ一人に一斉に叩きつけられる。

 

 

「今更にすぎるが、危なくなったら止める手立ては用意しているのでしょうななのは教官」

 

「それはもちろん!でも大丈夫、危ないことになるくらい一方的にはならない筈だから。ほら!」

 

なのはが指摘するように、空を覆い尽くすかのような弾幕の嵐にも、リッカは対応する手腕を見せつける。

 

「────!?」

 

ティアナの圧倒的な射撃は、容易いガードを貫く強さと回避ルートを潰す量を兼ね備えていた。避ければ当たり、防げば貫かれる珠玉の弾幕。事実リッカも、一度でも防げばそのまま丸め込まれ蜂の巣になるほどの危険な攻撃と判断を下す。

 

故にリッカは『前』へと回避を行った。クロスミラージュから放たれる弾丸魔力は膨大なれど無限ではない。必ずや引き金を引いてからのタイムラグとチャージタイムが発生し、針の穴程の間隙は生み出される。いや、生み出されざるを得ない。

 

『───!!』

 

自らの直感と、アンリマユやアジーカ、人のこの世すべての情念が形となった龍鎧を信じ、弾幕に突っ込む形の回避行動を選択したリッカ。そしてその回避行動は、容易く身を結ぶでたらめな戦闘戦術となる。

 

(最低限掠らせながら真正面に避けて突っ込む!?スバルだってしないようなバカみたいな戦術をコイツ、躊躇いもなく!?)

 

ガードして突っ込む、ならばまだ理解の範疇にあった。しかし目の前の存在は直進と回避を完璧としか言えないレベルでこなしながらクロスレンジに至るための距離を詰めてくる。

 

そこにあるのは実力差ではなく、なのはの教えを忠実に護っているかどうかの意識の違いが現れている。リッカは極限状態による自身の戦いの想定をされている為、どんな手段を使おうと、絶対に生きて戻らねばならないという決意を本番の事態に備え行っている。

 

それに対し、スバルは即座に負傷させられ、ティアナ自身もどうしても教え子としてのプライドが正着を撃つ思考を阻む。教え子同士の戦いを分かつものは、この場に限って言えばよりどちらが弟子を全うできるかどうかの戦いであった。

 

『貰った!!』

「ッ!!」

 

そしてそれはリッカに軍配が上がる。クロスレンジにて弓矢をティアナの鼻先に突き付け、エネルギーをチャージし矢を放ち、穿つ。

 

『…!!』

 

しかし、撃ち放ったはずの弓矢は軽々と宙を切り、遥か彼方へと飛んでいく。外した?とリッカは一瞬考えたが即座に否定する。アルテミスの祝福に、過ちはない。

 

(最初からいなかった…なら、これは幻覚!)

 

弾かれるように顔を上げれば、リッカの周囲を無数のティアナが包囲し銃口を向けている。そう、接近された時点でティアナは幻影を作り出し、リッカの追撃から逃れる準備をしていたのである。

 

「残念だったわね。これでアンタは袋のネズミよ!」

 

シューティングバレットを設置し、実体と幻影を織り交ぜた事による何重もの幻惑。ティアナ・ランスターは使用者の少ない『幻影魔法』の使い手であり、搦手と幻惑による三次元の戦闘を得意とするタイプの魔導師であるのだ。

 

『……!』

 

「アンタには特別に、ありったけをくれてやるわ!逃げ場なんてどこにもないわよ!」

 

設置型のシューティングバレットが、リッカの四方八方から襲いかかる。ティアナの言葉通り、そこから離脱はできない程の濃密な弾幕量をぶつけられ動きが完全停止する。そのスキを、ティアナは決して見逃さない。

 

「シューティングシルエットからの必殺技…!受け止められるものなら受け止めてみせるのね!」

 

最大限にまで魔力をチャージするティアナ。牽制やダメージ狙いではなく、確実に仕留めにかかる必殺の大口径砲撃火力の用意を整える。

 

「決めに行ったね、ティアナ。その当て方は上手だよ!」

 

「ふむ…」

「当たればただでは済むまいな…」

 

なのはが褒め、ヘラクレスと愛生が静かに見守る。オレンジ色の魔力が、十分以上にチャージされる事となる。

 

「身の程を知りなさい!シューティング……!ブレイザーッ!!!」

 

ターゲットリングを展開し、本人は距離を取り釘付けにしたリッカに向けて自身の最高クラスの火力を叩きつけるティアナ。その一撃は完全決着を狙った必殺のものであり、低ランクや中ランクの魔術師や魔導師では容易く戦闘不能となる一撃に他ならない。

 

「二度と一番弟子なんて名乗らないことね。これが、魔力を扱うプロとアマチュアの差よ…ッ!?」

 

勝利を確信したティアナがリッカに言葉を投げかける…が、その勝利の余韻は、すぐに過ちであることを認めざるを得なくなるティアナ。

 

『──久々に使ったなぁ、これ』

 

そこに在ったのは一つの『世界』。展開された世界そのものが、シューティングブレイザーからリッカを完璧に守り抜いていたのだ。当然、リッカへのダメージはゼロである。

 

『ネメアの外套、蒼天囲いし小世界。無傷で切り抜けるのはこれしかなかった…!』

 

人類が生み出した文明すべてを否定する神獣の獅子の皮から作られたマント。世界を内包する盾。それぞれヘラクレスとアキレウスから託された宝具を、アンリマユの泥で使用可能にしたリッカの護りの奥の手。マシュがいるため使うつもりも機会もなかったそれを、リッカは切ることで窮地を脱することができたのだ。

 

「何よ、それ…次から次へとどういう事…!?」

 

『あはは、現地に行って解決する調査員だからね。備えはあればあるほどいいということで常備しているのですとも!』

 

リッカは自身が誰よりも強いなどとは考えていない。自分より凄い存在はいくらでもいる。自分より素晴らしい存在は数多いる。それは卑屈ではなく、リッカ自身を挑戦者としてどこまでも強くする原動力となっている。

 

『マシュもオルガマリーも、グランドマスターズの皆もどんどん凄くなってく。天狗になってる暇なんて私にはないからね…!』

 

故にこそ、魔導師の中の上澄みの二人相手にも互角に彼女は渡り合う。彼女は未だ、挑戦者であり成長の只中であるのだ。

 

そして──いよいよ次は、リッカの反撃が始まらんとしていた。




スバル「ティア!ごめん、復帰するね!」

ティアナ「気を引き締めなさい、スバル…今、やっと解ったわ…」

リッカ『高町一家の奥義…皆の教え、お借りします…!』

全身から、黒と赤の雷を放つリッカ。

その手には──金色の脇差しと小太刀が、握られていた。

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