人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

2153 / 2547
道場

黒神「解ったぞリッカ。神速とは即ち、身体と脳のリミッターを完全開放し超高速の戦闘を可能とする技術にして技法!雷位をレールガンとするなら、神速はソニック・ザ・ヘッジホッグだ!」

リッカ「うん、うん…?」

愛生「幸いな事に、私は普通の生まれではない。こういう、肉体の機微における技術ならばいくらでも再現可能な頑強さを有している。というわけで実践しよう!」

リッカ「できるの!?」

愛生「よう(跳躍)する(跳躍)に。こういう──事だ!!」

リッカ「わぁあぁあぁあぁあぁあぁーーーーーっ!?」



なのは「お昼ごはんできたよー!…って」

『ぐちゃぐちゃとなった道場外庭』

なのは「どうしてこうなっちゃったの!?」

愛生「知り得たか、リッカ!これが黒神流神速!『あいなまライトニング』だ!!」

リッカ「しょ、衝撃波は仕様なの…?」←吹っ飛ばされた

愛生「む…『あいなまシャイニング』の方がいいか?それとも、『あいなまタキオン』?まぁなんでもいい!ではリッカ!理論の構築と行くぞ!」

リッカ「ふぁ〜い…!」←引き摺られていく

なのは「……………」

(夏草の生徒さんって、みんなこんな感じなのかな…?)


愛なき技術、愛ゆえの逡巡

「という訳で、これが目の当たりにした御神流の技法と奥義をまとめたレポートだ。目を通してくれ、リッカ」

 

「うわっ、レシートみたいなレポート!」

 

組手とアップを終え、リッカと黒神は御神流をものにする為のあらゆる事を行った。戦闘記録の拝聴、演舞の把握、理念の諜報、伝聞の把握。奥義を手にするためのあらゆる事をだ。

 

それらは本来難航を極めるものであるのだが、リッカの友人の一人、黒神愛生はそのルートを大幅にショートカットさせてくれる心強い存在である。なにせ彼女は人の上に立つため、人を幸福とするために生き、リッカに教えられた心のままに邁進する者。その才能と気風は、リッカすらも上回るのだ。

 

どう身体を動かすべきか、どの様な動きや余韻、理屈や理念が介在しているのか。どう目指し、会得するために何をするべきか。それらを解りやすくレポートとし、終いには自身が身に付け、なんと実践してみせる。そう、信じ難いことに彼女は把握し会得したのだ。『神速』という奥義を、リッカよりも早く。

 

「今日ばかりは異常な生まれに感謝しよう。友の役に立つなら万事良し!」

 

彼女はデザインベビーであり万物を統べるよう望まれた存在だ。その狂気の成功例たる彼女は『人の技術を自分のものとできる』異能を有している。

人間ができるものならば、できることならば限界はあれどマスターし自分のものにできる。神速は奥義故に困難な領域に近かったが、本質が『火事場の馬鹿力に精神を追随する』という肉体アプローチだった為、何よりリッカの助けになるためと無理矢理会得したのだ(筋肉断裂は起きたが本人曰く寝れば治るとのこと)。伝聞と実感ではリアリティがまるで違う。ダイレクトな感覚を含め、リッカに全てを伝えたのだ。

 

「相変わらず凄い分かりやすいレポート…!ホントにありがとね、愛生!」

 

実はリッカは、特異点や異聞帯のレポートは愛生と共に作っている。彼女は生徒会長であり、立案や分かりやすい文面の書紀はお手の物であるため、難解なレポートまとめの制作において一役も二役も役に立つ存在であるのだ。ちなみに手直しや古風極まる文などの添削は縷々の担当となっている。

 

必要なものは肉体強化。アルテミスの祝福、リッカが習得している日の呼吸、令呪行使による魔力ブースト重ねがけ。

 

魔術における武器のオーダーチェンジ使用。リッカが有する武器に細工かつ紐付けの必要あり。

 

雷位と違い、高速戦闘モードとして差別化を測るべきと推測。雷位の奥義に合わせ強制解除処置を取らなくては甚大な反動、魔力の枯渇の危惧あり。

 

アジ・ダハーカの鎧との併用が可能かは未知数。併用できるに越したことはないが、超高速戦闘モードと割り切れば軽装を取るのも有効と具申。

 

「ほわぁ…何度見てもスマートに書き記されてるぅ…私が書いてもこうならないんだよねぇ…なんというか、文才って才能なんだね!」

 

「何を言う。私の再現するものに心は伴い難い。読みやすくともそれは所詮報告レポート。人の心を湧かせる文には程遠い」

 

そう、それが愛生の能力の限界でもある。彼女は本質的に人の心を感じることはできても、『知識として知っている』或いは『他人がそれを有しているのが解る』というレベルのものだ。技術は再現できるが、そこに理念や心胆、感情というものを乗せることは不得手極まるのだ。現に技術たる神速をマスターできても、母を救う雷位はまるで習得できないのがその証拠。感じることはできても再現はできないのだ。今はまだ。

 

「この他人の努力や人生を踏みにじるばかりの力を、こうして役に立てられるのはお前がいるからだ、リッカ。その恩に報いるのならば、私はいくらでも奥義を身に付け会得してみせよう」

 

それを、彼女は人のために…リッカの為に使うことを選択している。今回同行を願ったのはその為だ。難儀な困難を、少しでも打開できたならと。

 

「愛生…ホントに、ありがとね!…」

 

「?どうした?」

 

「あ、ううん。今回の奥義習得の件で、改めて自分の持ってる武器とか色々確認したんだけどね。思ったんだ。…私、すっごく愛されてるなって」

 

リッカの武器にただの一つもなまくらは有り得ない。どれもカルデアの英霊が、スタッフが、仲間達が一つ一つ願いと共に作り上げた至高の逸品だ。

 

「一つ一つ、大切なものを手に取るたび…託してくれた人達の事を思い浮かべたり、思い起こしたりしちゃって。本当に、私って幸せだなぁって…」

 

「…幸せ、か。うん、そうだな」

 

リッカも愛生も、共に普通の幸せや普通の生誕とは異なる生を受けてきた。片や、彼女は預かり知らぬ天の供物、人類悪として。片や、エゴにより目指された人類を支配する無二の到達者…上位種として。

 

「試しに武器を持ち替え持ち替えしながら戦ってみたらさ、この武器はあの人が、この御守はあの人が、礼装はカルデアの皆が…って、いつもよりずっと動きが鈍くなっちゃった」

 

申し訳なさげにリッカは笑う。皆の意見は、今まで手にした武具と戦術を奥義、神速にて瞬時に切り替えるという戦法だ。

 

しかし、リッカは一つ一つの武具に思いを馳せ、逆に動きに精彩を欠いてしまったのだという。これを克服するには、武具を武具、神器を神器としてただ扱うべきなのだが…

 

「できないんだ…。こんな大切な想い出が詰まった宝物を、割り切って使うなんて」

 

例え技術の粋を集め、極みに至ろうと。彼女の心は剣でも武人でも、ましてや救世主でも怪物でもない。ただ、愛してくれた人達に感謝を捧げる事を忘れたくない少女のままだ。

 

「あはは、ごめんね!なのは教官やヘラクレスに怒られちゃうね、せっかく愛生にも付き合ってもらってるのに!」

 

なんとかしなくちゃ、と意気込み直すリッカに、愛生は首を振る。

 

「なんとかする必要がどこにある?」

 

「へっ?」

 

「それはお前の強さだ。誰よりも痛みを知り、誰よりも平和を願い、誰よりも感謝を忘れない。如何なる戦場を経験しても穢れず、磨り減らず、揺らがないその心があるからこそ。その珠玉の宝物は託されたのだろう」

 

心を不要とされ、今なお学ぶ最中の愛生からしてみれば、そんなものはまさに愚問に過ぎなかった。彼女の強さの原泉、数多の縁を紡ぎ人を惹き付けるもの。それは彼女が、自身を取り巻く全てに感謝できる人間であるからの奇跡なのだと愛生は説く。

 

「想いを切り捨てる必要などない。背負い、一つ一つを力とすればいいのだ。生徒会長という役職が、生徒会のメンバー無くては活動出来ないように。お前を支える全てを一つ一つ背負い立てば良かろう」

 

「愛生…」

 

「お前にこれらを託した者達は、お前に心なき殺戮者となることを命じたのではない。お前が無事に生きて帰れるよう、祈りを込めた筈だ。それは、お前が敗北し死してしまえば全て無に帰す。水泡となり消えてしまうものだ」

 

だからこそ、その祈りを受け取る心を無くしてはならない。祈り無くして力はなく、力なくして祈りは叶わない。愛生は、心を理解しているに過ぎない超越者はリッカに問うた。

 

「その願いに報いたければ、勝て。勝って、愛する者達の元へ必ず帰ると戦場で謳え。それを可能とするのがお前を護るこの武具達だ。そしてそれを束ねるのが、この小太刀の真髄だ」

 

金色の脇差しと小太刀が煌めく。リッカが常に感じていた、新戦術の境地。しかし武具への愛着から届かなかった最後の一手。

 

「…確か、こういう時。色んなものを背負って戦う時に、ギルが言ってた言葉があったような…」

 

愛生の言葉、そして、メインサーヴァントであるギルガメッシュの言葉。それが最後の境地へリッカを導かんとした時──。

 

「あんた?私達を差し置いて『なのはさんの一番弟子』なんて名乗る礼儀知らずは」

 

「ふぁ?」

 

鋭く、気の強げな女性に声をかけられる事となる。




愛生「何者だ?」

ティアナ「ティアナ。ティアナ・ランスター。なのはさんの生徒よ。あんたらより先のね」

スバル「スバル・ナカジマと言います!なのはさんよりお話は兼ね兼ねきいております!」

愛生「ほう。例の頭冷やそうか事件の」

ティアナ「なにその名称!?…まぁいいわ。藤丸リッカってどっち?」

リッカ「藤丸リッカです!」
スバル「スバル・ナカジマです!」

ティアナ「何を仲良くなってるのよ!?…私達はなのはさんに呼ばれたの!藤丸リッカ!」

リッカ「リッカです!」
スバル「スバルです!」

ティアナ「一番弟子を名乗る不届き者のあんたと、勝負するためにね!あとスバルは離れなさい!」

愛生「………」

なのは(お互いに得るものがあるよね!絶対!)

愛生(本意を伝えていない?……もしや…)

なのは教官は指導能力にやや難があるのではないか…?思わずにいられない愛生であった。

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。