リッカ「はいっ!なのは教官!」
なのは「いいお返事!じゃ、早速シミュレーターに行こっか!」
リッカ「はいっ!なのは教官!」
はやて「なのは、随分とリッカにお熱やなぁ〜。ティアナやスバルくらい…いや、それ以上なんちゃう?」
フェイト「基礎訓練を文句一つ言わずにやってくれるし、疑わずに練習メニューをこなしてくれるし、一を聞いたら百になるから楽しくて楽しくて仕方ないんだって」
はやて「あぁ〜。努力する天才って一番手のつけられんやつやん…ウチらはすっかりオペレーター業務にかまけて鈍っとるかもしれんし、差がついてしまうかもなぁフェイト?」
フェイト「私はヴィヴィオの為にママ教室に通ってるよ」
はやて「嘘やん!?」
フェイト「はやては職員さんと飲みニケーションし過ぎ」
はやて「しゃーないやーん。うち職員さんのアイドルポジションやもん。華があるー!なんて言われとるんやで?」
フェイト「外見は確かに」
はやて「ん〜〜〜?含みがあるな自分?」
フェイト「…リッカちゃんとなのはには共通点がある」
はやて「なんやそれ」
フェイト「孤高すぎて行き遅れそう…」
はやて「あかんでフェイト、本人に聞かれたらあかん!」
フェイト「…リッカちゃんはともかく、なのはは誰と結ばれるのか気になるね」
はやて「まぁ、相手候補には事欠かない見た目ではあるけどなぁ〜…」
(なのはの悪いとこ、真似しちゃあかんで。リッカちゃん…)
「っくしゅ!」
「大丈夫ですかなのは教官!」
カルデアにおけるリッカには数多の師匠がいる。武術全般の師匠、ヘラクレス。教導のケイローンを始めとした英雄達のマンツーマンにより今のリッカの強さは形成されていると断言してもいい。そんな中、彼女に宿る女神の祝福…アルテミスの力の制御の担当、教官は彼女、高町なのはが特例で行っている。
何故かというと、アルテミスが人に教えるような繊細さと忍耐をまるで持っていないため
『リッカの敵でしょ?なら死んで大丈夫!』
とオルテギュアーに一切のリミッターとギアを搭載していない為、力加減がまるで身に付かない為である。知らないことは教えられない。神においても当然の帰結だ。
オルテギュアーに限らずアルテミスの力全般がそんな感じなので、時空管理局本局戦技教導隊に所属し、新人を担当する空戦S+の一等空尉たる高町なのはをカルデアに招き、リッカの射撃、魔力放射、月女神の祝福の制御の専属教導として任命。マンツーマンで彼女の魔力射撃戦闘技術を鍛えているのだ。
「ぎ、技術で私が教えられるような事は特に…」
彼女は最初、神に愛されている為必殺必中のリッカに教えが必要か(具体的には飛行中の戦闘機のパイロットを一射で絶命させた記録あり)甚だ疑問視していたのだが、
眼前の全てを消滅させるディアナ・セレーネ・ノヴァ。
サテライトレーザークラスの軌道衛星射撃のシューティングスター・オルテギュアー。
それらの超絶大火力の行使による『魔力生成を上回る消費による魔力枯渇による戦闘不能』の危険性を見出した為、自身が空戦や魔力戦のノウハウを教え込む事を決意。ヘラクレスが唯一所持していない『キャスター資格』の適任者としてなのはがリッカの教官となったのである。
「リッカちゃん。大技を活かすのは基本と基礎、そして視野の広さだよ!」
その際、なのはは徹底的にリッカに基本中の基本『のみ』を叩き込んだ。無闇に魔力を放出しすぎないこと。視野を広げること。無尽蔵の魔力を過信しない事。派手な技ではなく、基礎と集団戦闘の心構えを説き続けた。
(フェイトちゃんから見た私ってこんな感じだったのかなぁ…)
それはなのはがリッカに自身と同じ危うさ『諦めず何でもやろうとしてしまうから、誰かの為に何でもしてしまう』という信念を見たからであった。困っている人のためなら、限界に挑みいくらでも越えてしまう。それは素晴らしき事だが、それは仲間や隣人を頼らなくなる危険性を孕んでいると彼女は見た。
故にこそ、器用さではなく徹底的な基本を。仲間の大切さを。座学、実践、トレーニングは誰がどう見ても世界を救ったマスターには今更すぎる、誰でもやっているような当たり前のものばかり。論理は学生が学ぶ団体行動の心得レベルばかり。
「はい!なのは教官!私、全力で取り組みます!」
しかしリッカはそれらを文句一つ言わずに取り組んだ。誰もがやって当たり前、知っていて当然、アスリートに今更自転車の乗り方を教えるようなレベルのトレーニングメニューを、ひたすら真摯に取り組んだ。グランドマスターズがそれぞれの持ち味を英霊達と磨き上げる中、彼女はなのはの基礎練習をひたすらに行い続けたのだ。
「ごめんね、リッカちゃん。私の訓練、地味だから…」
かつての教え子の一人、ティアナ・ランスターという生徒は成長の実感が薄い練習に苛立ち、無茶をした経験があった。それはなのはにとっても思うところがあった為、ぽつりとそんな言葉をリッカに告げたことがある。
「いいんです、なのは教官!私の為に考えてくれたメニューと、教官の期待を信じます!」
リッカがかつての教え子と違うこと、それは『もうすでに自分は凄くて強い!』という自己肯定感に満ちていたことだ。
自分はたくさんの凄い人達に支えられている。そんな私が凄くないはずがない!
自分の為に考えてくれた師匠のメニューが、無駄に終わるはずがない!
自身の肯定と、他者への信頼。それらを強く兼ね備えた今のリッカにとって、実りが遅い訓練などなんの焦燥も産み出さない。彼女にとって、自身を気にかけてくれた全てが喜ばしいものなのだから。それは結果的に、なのはを教官として徹底的に信頼する事に繋がった。
「リッカちゃん…ありがとう…!」
そのひたむきさは、かつての自分の想いが届かなかった時の自身への無力感とやるせなさをも救ってもらった思いだった。師としての心が弟子に伝わる。この喜びを、彼女は再び思い起こさせてくれたのだ。
「えっ、何故教官が御礼を?私の方が面倒を見てもらってるのに?」
「ふふっ、いいの。弟子は師匠を育てるものなのです!」
「???逆ではないでしょうか?」
「いいの!…ところでどうして、そんな軍隊みたいな言動なのかな?」
「はい!はやてさんから『なのはは聞き分けのない教え子を抵抗できないようにして頭が冷えるまで血祭りに上げた』という情報を聞きまして!フェイトさんからも『なのはを怒らせたら死ぬ。死にかけた』という実体験を耳にしたため、なのは教官の指示は絶対服従という誓いを立てた次第であります!」
「……………………リッカちゃん?高町なのはは優しくて頼りになるお姉さんだよね?」
「はい?あっ、はい!!」
「だからそんなに怖がるのは……め、だよ?」
(ヒエッ…………)
「あの二人もちょっとお話しなくちゃね〜。お口が軽いね〜」
そんな風に、リッカの射撃担当の教官として過ごして数ヶ月。冒頭のくしゃみに時間は巻き戻る。
「多分フェイトちゃんやはやてちゃんがまた私の噂してるんだろうな〜。懲りないな〜あの二人…」
(ガタガタガタガタガタガタガタガタ)
「まぁそれは後でいいの!ところでリッカちゃん、武装増えたよね〜。太刀二本、弓矢、槍にアーマー、勾玉他多数…!」
教官として武装確認していたところ、なのははリッカの所有する武装の多さに舌を巻く。ここに悪神と悪龍の魔術や英霊召喚まで入ってくるのだから、そのスペックには改めて感嘆を隠せないのだ。
「色んな事をやらなくちゃいけない中、何をやるべきか悩んだとき私は考えました。全部やればいいと!真・脳筋ビルドですよなのは教官!」
「本当は中途半端な器用貧乏になりがちな選択なんだけど…器用万能なんだよね、リッカちゃん…」
体術、剣術、射撃術、槍術、魔術、召喚術、人心掌握術。どれらをとっても超一流な才覚の化身と言わざるを得ない現状のリッカの有様に苦笑するしかないなのは。憐憫の断頭台、雷位、女神の祝福、国造、悪神の龍鎧、カルデア式召喚術、コミュニケーション力。もう褒めるくらいしか弱点のないバグり散らかした愛弟子には驚かされてばかりだ。
「そこにいつかなのは教官のスターライトブレイカーを加えるのが夢です!星も軽くブッ壊すなのは教官の必殺技、いつかマスターしてみたいなぁ…!」
「ち、違うよ!?収束魔力が星の燐光に見えるからスターライトであって、そんな物騒な技じゃないから!」
「えっ…?砕けますよね?」
「もう!やったことないからわかりませーんっ!」
弟子のえらい誤解にぷんすか怒りながらも、なのははリッカの武器を見て、とある事を思いつく。
(…リッカちゃんなら、もしかしたら。雷位っていう奥義も持ってるし、多分…)
「?なのは教官?」
「…ねぇねぇ、リッカちゃん。『小太刀二刀術』って…興味ある?」
なのはの表情を見て、リッカは静かに悟る。
『あっ、これ私のために凄いメニュー思いついた顔だ』と。
そしてその思いつきは…
『高町家』にリッカが招かれるという形で、実現する事となる。
ヘラクレス「受け取れ。金狼寺の住職から受け取った小太刀に脇差だ」
リッカ「ヘラクレス会ってたの!?あー!私も挨拶したかったのにー!」
ヘラクレス「ははは、次は一緒に行こうな」
ケイローン「すみません、なのはさんダガーの本格的な運用は失念していましたね…」
なのは「いえいえ。日本独自の技だと思いますから。リッカちゃんにきっと、ぴったりだと思います。そう──小太刀二刀・御神流は」
ヘラクレス(また高町が凄い事考えてるぞ)
リッカ(次はどんな凄い特訓だろう)
なのはの確信に満ちた眼差しに、肩を寄せ合って震えるリッカとヘラクレスであった。
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