人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ニャル【その世界で金を稼ぐには、大型モンスターを倒す討伐と草むしりがある。討伐は命の危険があるが報酬が美味い。草むしりはローリスクだが報酬が少ない】

ベリル「ゆるふわなんだよなこの世界?なんでそんな血なまぐさい単語が出てくるんだよ…」

ニャル【草むしりには資格検定があってな。受かると5級、3級、1級の順にパワーアップして報酬が上手くなっていく。草むしりで食っていくなら資格を取ることだな】

ベリル「リアルだなぁおい。働かざる者食うべからずかよ…いや、食ってはいけんのか…」

ニャル【ちなみにそこのだいじょうぶちゃんはどの程度の実力を持っているのか…】

だいじょうぶちゃん「だいじょうぶ〜!」
『草むしり検定一級』

ニャル【何っ…!?】

「だいじょうぶ!」

『バックラー、ショットガン、ボウガン、日本刀』

「だいじょうぶ〜!」

ニャル【…驚いた。手練れだぞ】
ベリル「そうなのかい?」

【マイホームも持っている裕福さ…間違いない、上位ランカーの一人だ】

だいじょうぶちゃん
おおかみ型のちいかわ族

めがねすーつ
あんまり可愛くない




討伐

「だいじょうぶ!だいじょうぶ〜!」

 

とりあえず引率で、金の稼ぎ方を教わってこい。ニャルにそう促され、だいじょうぶちゃんと一緒に仕事の斡旋場へとやってきたベリル。だいじょうぶちゃんはのんびりとしているが、斡旋場には人が、正確にはちいかわ族がごった返している。

 

「お、おい。仕事取りに行かなくてもいいのかよ?」

「だいじょうぶ♪」

 

見ると、手には大きな袋を持っている。既に一仕事は終えてきたようだ。ニャルの見立て通り、だいじょうぶちゃんは相当な実力者のようだ。

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶ!」

 

今日は他人の討伐を見て慣れよう。そう伝えてくるだいじょうぶちゃん。彼女、彼はとても面倒見のいい、優しいちいかわ族だったようだ。

 

【嬉しい誤算だが惜しいな…まさかこんな上澄みに拾われるとはダイスの女神め…】

「旦那?」

 

【なんでもない。さっさとだいじょうぶちゃんの指示に従え。お前が生き残るのに必須だぞ、彼女は】

「彼女?」

【可愛いからな。ボジティブだし。お前と違って】

 

何から何まで同意しかできない所感に同意を返しながら、ヒョコヒョコとだいじょうぶちゃんについていく。

 

「だいじょうぶ〜!」

「スポーツカー!?まじかよ…」

 

自前で用意されたスポーツカーに乗り、だいじょうぶちゃんが知る討伐クエストを見渡せるスポットへと向かうのだった…

 

 

「「「「「「ヤーーーーーー!!!!」」」」」」

 

なだらかな丘、そして下の広場。そこには大量のちいかわ族と、なんかでかくて恐ろしいやつと呼ばれる大型エネミーが生死を懸けた死闘を繰り広げていた。

 

「回り込めーッ!回り込めーッ!!」

 

「「ヤーー!!」」

 

四足歩行のでかいやつを、稚拙なチームワークでなんとか討伐しようと試みているちいかわ族。その死闘を、だいじょうぶちゃんは見ている。

 

「ン〜〜〜〜……」

「お、おい?どうした?」

 

「だいじょうぶじゃない〜…」

 

哀しげに呟いた途端、下の戦況に変化が起きる。

 

「ワ、ワ、ワ…!」

 

でかいやつの前足に捉えられたちいかわ族が、武器を取り落としてしまう。だいじょうぶちゃんの所感の通り、ミシミシと押し潰されていくちいかわ族。

 

「ワァーーーー!!ヤダーーーーーッ!!!」

 

ぐしゃり、と断末魔の直後に叩き潰されてしまうちいかわ族。

 

「ワ、ワ……」

 

「「「ワァーーーー!!!!」」」

 

その光景に完全に恐慌をきたしてしまったちいかわ族たちが、武器を取り落とし、戦いを放棄して散り散りに逃げ出してしまう。そこからは、圧倒的な蹂躙であり、殺戮の饗宴となる。

 

「イヤ!イヤ、イヤーッ!!!」

 

食いちぎられ、捕食されていくちいかわ族。

 

「ヒィィ〜ッ。ワ、ワァッ!」

「エッ!?」

 

我先に逃げようともつれ合い、まとめて首を食いちぎられていくちいかわ族。

 

「ンフ ン め んめ」

 

首から上が無くなってしまったちいかわ族の体から、血をすするでかいやつ。散らばっている死体は齧られたり、食いちぎられたり、弄ばれたりして五体満足のものは見当たらない。

 

「ファ〜〜〜〜………」

 

お腹いっぱいになったでかいやつは、血みどろめいた白い液体の中心で眠りこける。それは運動と食事を行った充足感と充実感に満ち満ちた仕草だった。

 

「…………………………………」

 

ベリルは当然絶句する。ファンシーでキュートな絵柄で繰り出されたのが過酷な一部隊の壊滅現場と大型モンスターの殺戮現場だったのだ、無理もない。

 

【うむ、これ以上ない導入だったな。だいじょうぶちゃんに拾われなかったらお前もあの白い床のシミだったかもしれんな。良かった良かった】

 

けらけらと笑うニャルだが、ベリルは当然顔面蒼白である。作画で誤魔化されていても、起きていたのは凄惨極まる虐殺に変わりはないのだから。

 

「だいじょうぶ〜?」

 

だいじょうぶちゃんは特段動じた様子もない。これは本当に勉強になると思って連れてきてくれたのだろう。彼女は、相当な実力者であるのだ。

 

「あ、あぁ…アンタは平気なんだな…」

 

「?だいじょうぶ!」

 

次はあっち、と言わんばかりにスポーツカーに飛び乗るだいじょうぶちゃん。

 

【彼らを助けなかったのは、依頼でないからか。身内判定のお前には甲斐甲斐しいが、それ以外にはシビアで警戒心も高い。紛れもない強者だ、良かったなベリル】

 

「あぁ…とんでもなく頼もしく見えてきたぜ、だいじょうぶちゃんがよ…」

 

「だいじょうぶ〜♪だいじょうぶ〜♪」

 

陽気にスポーツカーをかっ飛ばすだいじょうぶちゃんの座席の隣で、ベリルは天を静かに仰ぐのであった。

 

 

「「「てやーーーっ」」」

 

次にだいじょうぶちゃんが示したのは、三人チームがでかい、しろい獣のようなモンスターに挑む風景。ポリポリとベーコンを齧りながら、だいじょうぶちゃんはベリルに示す。

 

「だいじょうぶじゃない〜…」

「えっ…」

 

強者の経験から繰り出される死刑宣告にベリルは蒼白となるが、繰り出された光景は意外なものだ。

 

『パッパ・パヤイヤ♪パッヤ・ティリティリ♪』

 

なんと、白い獣が踊りだしたのだ。その無警戒かつ無邪気な動きに、友好的な相手と認識したのか、リーダー格の角生やしとハンマー持ちが武器を捨て踊り出す。ヌンチャク持ちは警戒心が高いのか、困惑しながら見つめている。

 

【ちなみにパパやパッパはフランス語でご飯という意味だ】

「はっ………」

 

『キャァッ!!!』

 

瞬間、獣が豹変する。角とハンマー持ちを威嚇し、食べんと追い立てる。武器を投げ捨てた二人は為す術もない。ただ逃げるのみだ。

 

【お、見ろ。殿を果たすつもりだぞ】

 

するとそこに割って入ったヌンチャク持ちが、二人を逃がすために獣に立ちはだかる。当然、一人で討伐などできるはずがない。死を覚悟した殿だ。

 

「ワァッ!ワァッワァッワァッワァッ!ワァッワァッワァッ!!!」

 

涙目になりながら、最早ヤケクソ気味にヌンチャクを振り回すそのちいかわ族は次の瞬間、あっさりと獣の前足に叩き潰され死亡する。

 

『ゥ〜』

 

食らうはずだったが、潰しすぎてしまった事に後悔した獣は残り二匹を追い立てる。あっという間に追い付かれたハンマー持ち。捕らえられ、口に運ばれる。

 

「ワァーッ!!ヤダ、イヤ、ヤダーーーーッ!!」

「ワァーーッ!!ワァーーッ!!」

 

仲間が目の前で食われそうになるのを必死に阻止する角持ち。しかし、面倒がった獣にあっさり薙ぎ払われてしまう。

 

「ワァーーッ!!」

 

角がへし折れ、身体に傷を刻まれる。もりもり、むしゃり。そんな音が、角持ちの背後から聞こえてくる。

 

「ワァーーッ!!ワァーーッ!!ワァーーッ!!」

 

最早半狂乱になりながら逃げ出すしかできないリーダー。状況から見れば、リーダーの判断ミスで全滅した形だ。

 

 

『フーー……』

 

腹が満たされ、満足げに寝転がる獣。その様子を、まともよりな感性のベリルはただただ呆然と見つめる事しかできなかった。

 

【アレが噂の戦犯ちゃんか…いやはや、無能がリーダー張るチームほど恐ろしいものはないな。いやぁいいもの見た(ツヤツヤ)】

 

「だいじょうぶ?」

「ワァッ!?」

 

だいじょうぶちゃんは特段怯えた様子もない。見慣れているのだろう。あんなものは日常茶飯事であるのだと余裕が告げていた。

 

「だいじょうぶ!」

 

あなたは私が護るよ、と言いたげに微笑むだいじょうぶちゃん。

 

「は、はは…まじで、ホントまじでよろしく頼むわ…」

 

やべぇ、ナメたら死ぬ。ベリルはこの世界で生きるということを真剣に考えるのであった。




だいじょうぶ「だいじょうぶ!」
ベリル「景気づけにラーメンでも?…アンタマジでいいヤツだな…」

ニャル【くそ、ベリルなんかにはもったいなさすぎる】

ベリル「旦那ァ!」

モブかわ達の拠点に戻ってきたその時…

「ワァーーーッ!!ワァーーーッ!!」

あまりに悲壮な声を上げ、慟哭を繰り返す者がいた。

【おや、この声は戦犯ちゃんじゃないか?】
「戦犯ちゃんって…」


戦犯ちゃん「フフッ、クフゥ〜〜…ッ、ヘゥ、ハゥ、ゥ〜〜〜〜〜ッ……ゥ〜〜〜〜ッ…………」

少しでも赦されようと、少しでも罰されようと自分の頭を殴りながら慟哭を繰り返す角持ちの元リーダー。

「だいじょうぶじゃない〜」
(身内判定じゃないやつには淡白すぎるぜ…)

ニャル【(ゲラゲラゲラゲラゲラ)】

仲間を喪い絶望する慟哭を邪神は嘲笑い、だいじょうぶちゃんは特に気にすることなく、ベリルはドン引きしながら後にする。

…奢ってもらったラーメンの味を、ベリルは思い出せなかったという。

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