アスクレピオス「何故生きている?」
アダム「!?」
アロナ『えっ!?』
「霊核は無事だが、それ以外の損傷が酷い。よくぞ自己崩壊が起きなかったものだ。その頑強さ、まさに始まりの人類といった所か」
アロナ『そ、そんなに…』
アダム「神殺しの代償だ、覚悟はしていた」
アスクレピオス「少なくとも、手を打たねばお前はいずれ砕け散る。まずは修復ポッドに入れ。手段を考案する」
ナイチンゲール「よろしいですね?」
アダム「…あぁ」
〜救命ポッド
アロナ『私がポッド管理を任されましたよ、アダム先生!』
アダム「助かる。これで寂しくないな」
アロナ『えへへ。…先生、ありがとうございました』
アダム「何がだ?」
『アダム先生の、全部を教えてくれて。私を、こんなにも信じてくれて』
アダム「その事か。…私は、先生としてはアロナがいなくては三流以下だ」
アロナ『そんなことないです!えっと、半流くらいです!』
アダム「君は私の相棒だ。全てを信じ、頼りにしている。これからも、私のそばにいてくれ」
アロナ『先生ぇ…はい!アロナ、これからも頑張ります!』
アダム「うむ。……少し、眠る」
『はい。ごゆっくり、お休みください』
アダム「久しぶりだな。…ただ、眠るなど…──」
「やはり柴崎らーめんは最高だな」
アダムは、ラーメンを啜っていた。柴崎ラーメンの、何の変哲もないシンプルなメニュー。何もこだわらず、ただそのままの味わいのラーメンがアダムは好きだった。
客はいない。周りに誰もいない。アロナのタブレットはすぐそばにあるが、アロナは寝ている。先生としての、ほんの細やかな一時。
『やぁ、お隣よろしいですか?』
そんな中、彼に語りかける声がある。アダムはちらりと会釈し、隣の座席を指差す。
『ありがとうございます。本当に美味しいですよね、このラーメン』
隣りに座ったその存在は、アダムと同じ制服を着ていた。だが、所々焼け焦げているような、色褪せているようなくたびれを感じられる年季を感じさせる。
アダムが持つタブレットと同じものをそっと置き、届いたラーメンを手を合わせ、啜る。アダムとその存在は、言葉もなくラーメンを堪能し、味わっている。
『どうですか?先生業務、楽しいですか?』
包帯まみれの手で、アダムに七味唐辛子を渡すその存在がアダムに語りかける。その顔は、よく見えない。
『…楽しい。生徒達と触れ合える事は、私の喜びだ』
唐辛子を受け取り、アダムは晴れやかに告げる。未来の可能性に溢れた命。瑞々しい、青春を過ごす命たち。
『先生になれて、良かった』
湯気と熱気にまみれながら、アダムは嘘偽りない所感を告げた。初対面の存在にそんな事を言うのは不可思議だが、彼、或いは彼女には伝えるべきだと思ったのだ。嘘偽りない気持ちを。
『ふふっ、私もです。同じですね、私達』
大好きと言っていたのに、あまり減っていないラーメンを見つめながら、その存在はポツリと呟く。
『私は…そろそろ、退職しなくちゃいけなくなってしまいました』
悲しげに、切なげに、その存在はそう告げた。その表情はよく見えないが、その感情は伝わってくる。
『行き先を迷ってしまった生徒がいてしまって。私の力量不足の責任を取りに行きます。その後、私は先生を続けられなくなってしまうでしょう』
「…アナタが寄り添ってあげないのか?」
『勿論、寄り添います。ですが、私はあなたと比べるべくもなく虚弱なもので。あはは…』
見れば、身体中に包帯が巻かれている。あらゆる場所から血が滲み、肌の色はまるで死人のようだ。動いていることが奇跡としか言えないほど、その存在は満身創痍といっていい。
『…アダム先生。一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか』
スープに、血のような赤が混ざっているその存在が、アダムに問う。
『生徒が、もし…あなたの生徒が。世界に絶望してしまったらどうしますか?』
「…」
『自分は何のために生まれたのかと。終わらない苦しみと悲しみの中で、心が砕けてしまいそうになったなら。あなたは先生として、何をしてあげようと思いますか?』
その問いに、アダム先生は迷うことなく答える。
「晴らしに行く。その絶望を、大人として」
『……』
「寄り添いに行く。その心に、先生として」
『───』
「告げに行く。その嘆きを、隣人として」
『…………もし、世界が絶望を仕向けていたとしたら?』
「その時は──世界を相手に、戦うまでだ。そして告げよう。絶望は大人が責任として背負うものだと」
『では、生徒には?』
「溢れんばかりの、希望が齎されるべきだと。それを間違いだと言うのならば、私はその理こそを討ち果たす。全人類の先を生きるもの、先生として」
それが、揺るがぬアダムの先生としての教示だ。
子供たちには輝ける未来を。
道を塞ぐ絶望には大人の力を。
この世界の存在ではない、異物であっても。キヴォトスに放浪し、神の言葉を受け、シャーレの制服に袖を通したその瞬間から。
「私はアダム。シャーレの先生、アダム・カドモンだ」
先生として、矜持を示したアダムの宣誓に、その存在は心から納得したように頷く。
『あぁ───。やっと、見つけられた』
「アナタだって、そうだろう?」
『ふふ、そうですね。私も、あなたに負けないくらい生徒を愛していますよ』
そして二人はラーメンに再びありつく。そして完食の後、席を立つ時が来た。
『ここは私が払いますよ、アダム先生。素敵な同僚に、乾杯の代わりに』
懐から取り出したのは、表面がまるで読み取れないくらいにボロボロで焦げきった大人のカード。支払いを終え、二人はラーメン屋台を出る。
『ねぇ、アダム先生。私の最後の業務を聞いてくれますか?』
「最後の業務…あぁ、君は…」
先生を、辞めるのだったな。そう言葉にせず、アダムはその存在を見守る。
『私の受け持つ生徒は、もう二人になってしまいました。クラスを維持できないので、そちらにいつか、引率させたいと考えているんです』
「引率か。確かにそれは大切だな」
『大変申し訳無いのですが、いつかその時が来たら…お願いできますか?だいぶバタバタしてしまいそうなので、ここで予め伝えておきたくて』
その存在の姿が変わっていく。恐ろしげな衣装に、制服が変わっていく。
「勿論だ。同じ先生として、必ずや君の引率した生徒を編入する」
『ありがとうございます。そして…後は、引き継ぎですね』
「…そうだな。残りの業務を、引き継がなくては」
もはや肌すら見えない。司祭服のようなものと無感情な仮面を有したその存在は、タブレットと古びた大人のカードを差し出す。
『これをいつか、受け取ってください。私にはもう、持っていてもしょうがないものなので』
「…退職金代わりに、持っていては?」
『ふふ、それはめっ、です。だって、先生としての大切なものだから。先生しか持っていちゃだめなものです。だから、アダム先生。あなたに』
差し出された、華奢な手。銃痕を刻まれたタブレットと、焼け焦げた大人のカードをそっと受け取る。
「…受理した。いつか、必ずや貰い受けるよ」
『あぁ、良かった。ずっとずっと探していました。素敵な先生を。生徒を心から愛する、先生を』
「アダム先生」
【【■■■先生】】
見れば、二人を呼ぶ声。二人がそれぞれ振り返ると、それぞれの景色が広がる。
青空と、たくさんの生徒たち。マフラーを付けた灰色の髪の少女が手を振る。
黒き空と、二人の生徒。黒きドレスと制服の二人の生徒が見つめている。
『今日は、お会いできて良かった。またきっと、会えるはずです』
「あぁ、きっと私達は出会えるはずだ。私達は、先生だからな」
『…ありがとうございます。アダム先生』
深々と頭を下げ、その存在はアダムへと告げる。心から伝えたかったであろう、その言葉を。
『■■■■■……………■■■■、■■■■■■』
「──────」
アダムはそれに、ただ静かに頷いた。
最早表情すらもわからない。何を浮かべているのかもわからない。
ただ、その振る舞いには…静かな安堵があった。
その存在は歩いていく。傍らの二人の生徒を、大切に抱き寄せながら。
「先生。私も、皆も、待ってるよ」
アダムはその背中をずっと見つめながら、それでも、自分の向かうべき道を見出す。
「──行こう、シロコ」
「ん…」
頬を包むように撫で、アダムもまた歩き出す。
「また会おう。必ず。───■■■先生」
託された、焼け焦げた大人のカードに記された名前を、ぽつりと口にして。
一瞬だけ交わったその存在との会話を噛み締め、アダムは歩き出す。
そして、光に溢れる道に一歩を踏み出した瞬間───
彼の意識は、高く高く浮上していった。
アロナ『先生?アダム先生!』
アダム「…!」
アロナ『ポッド治療、お時間ですよ!…あれ、どうかしましたか?先生?』
アダム「……いや。夢を…」
アロナ『夢?』
「夢を、見ていた。そして、会った」
『会った?誰にですか?』
「同僚に、そしてきっと…」
最後の言葉を思い返し、アダムはその存在をこう称した。
「───教師の、鑑に」
…後にアダムの身体を治すには、キヴォトス生徒の神秘の摂取が必要と聞いてアロナが倒れるのは別のお話。
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