アダム「一体誰ダムなんだ…」
リリス【そんなアダムとそっくりなあなたが、まさか先生だなんて。しかも異聞帯だなんて。なんなの?頭がまともなアダムはだめなの?あなたはクソ野郎じゃなきゃダメなの?】
アダム「単純に、伸び代がなくなってしまった。宇宙にとって、それは不要な世界となった。それだけの話なのだろう」
リリス【それだけって…あなたはそれでいいの?】
アダム「いいも悪いもない。ただ…不要だとしても、私達の過ごした世界が消えるのだとしても。何かを残すためにこうして足掻いている。終わりはいずれ来るのだとして、終わり方は自分で選びたいのだ」
リリス【………】
「汎人類史の私は、そんなにも酷いものだったのだな」
【そうよ。最低最悪。下劣な男尊女卑の化身。やんなっちゃうわというか嫌になって楽園出たわ。人類原初の生理的に無理って奴ね】
屋台にて酒を飲むアダムと、謎の拘束具に身を包んだリリスっぽい人。正確にはひたすらつまみを食らうアダムがリリスっぽい人の愚痴を聞き続ける形となるのだが、アダムはそれに文句一つ言わない。ただ、粛々とそれを受け入れている。
【私ね、平等の世界を作ろうと思うんだけど…ちょっと嫌すぎる前例を見ちゃってね。自省したのよ。なんか思ってたのと違うって〜。なんか違う〜って。そういうことあるでしょ?打ち合わせと違うっていうの】
「そうだな。完成したものが仕様と違う。往々にしてよくあることだ。…ならば、君はどうしたい?」
【…とりあえず、自分の世界を模索するというか。愛の方向性を試すっていうか。やらなきゃいけないことをやるしかないっていうか】
「真面目だな。流石、原初の女性権利の守護者なだけはある」
【ふふ、アダムに褒められると気分がいいわね。見なさい!これが男女平等の姿よ!生追加で!】
まだ飲むのか…。アダムは水と枝豆だがリリスはビールぐいぐい飲み散らかしである。心配になるが、そういうものだとアダムは静かに注文する。
【というかあなた、何で空想樹探し中に先生なんかやってるのよ】
「私か?」
【そうそう。だってあなた、エデンを成立させるために頑張ってるんでしょ?先生なんかやったって意味なくない?所詮楽園のメンバーじゃないわけだし】
リリスの問いに、アダムは水を飲み干す。枝豆を見つめ、リリスの言葉を返す。
「私は汎人類史に敵対の意志は持たない。楽園以外の生命を見下すことは、かつて私が殺した神と同じ選民と同じ事だ。私は、嫉みし父とは別の道を行く」
【あぁ…あの唯一神ね…なんだか最近ワケが分からないけれど】
「私は楽園を…世界の一部であるべきものを全世界に広めた。楽園、エデンを世界で統一した結果、私の世界は袋小路に入ったのだと私は推論した。リリスは違うと言ってくれたが、厳然たる事実だろう」
アダムは自分こそが世界を終わらせた要因と確信していた。自身の選択は最善を尽くしたつもりでも、世界には安寧と停滞ではなく、波乱と可能性が必要だったのだと。
「楽園を出て、放浪の果でたどり着いたこの世界で、導きの末に私は先生となった。先生とは、先を生きるものだ。ここで私は、生徒から違う行き方、違うもの、違う生命というものが織りなす歴史というものを学んでいる。それは模範なきが故、数多無数に広がる世界の可能性そのものだ」
それこそが汎人類史に辿り着いたアダムが知ったもの。エデンでは終ぞ生まれなかった、誰よりも自由な生命だと語る。
「私とリリスがエデンを管理しており、生命を守護しているつもりだった。だがそれは最後まで、私とリリスを越える発想や可能性を産み出すことはなかった。全てに平等を与えた結果、特別が生まれることが無くなってしまったのだ」
【平等の世界には、特別が生まれない…それがエデンの限界だと?】
「そして、真なる平等というものはいずれ破綻する。子供は私やリリスを見て学んだ。私のように強く、リリスのように賢く。それは、強き女性と聡明な男性の生まれを阻んでしまった」
アダムのように強く。リリスのように賢く。それから外れた者は楽園には相応しくない。偉大なるアダムのように。聡明なるリリスのように。
…エデンの中ですら平等の中から区別が生まれ、それ以外の価値は疎まれた。それが、剪定の最大の要因なのだろう。一つの頂点は、他の枝葉を断ち切ってしまった。
「私の前に現れた聖霊は、その停滞を破るきっかけを与えてくれたのだと思う。ここの生徒たちは女性でありながら皆強い。先のオルガマリー教育実習生も、聡明ながらも強き決意を宿していた女性だった。私は、ああいう可能性を知りたかった」
故に先生となり、その可能性を学びつつ皆を護り導く。アダムたる強さだけでなく、皆から聡明さや賢さを学ぼうと鳩の誘いに乗ったのだとアダムは語った。彼こそ、生徒に学ぶ先生なのだと。
【…汎人類史で学んでいるのは、自分の世界を救うためということかしら】
「それが第一だが、今は先生として全力を全うしたいと考えているよ。無垢な魂を導くというのは、やりがいのある良い仕事だ。生徒達を是非、楽園に招きたいと考えている」
【楽園に?】
「つまるところ、私達の世界には多様性が足りなかったのだと感じている。生徒達…いや、正確には汎人類史の価値観を楽園に輸入したい。多様性と発展性は、エデンに新たな可能性を生み出すはずだ」
【…止めておきなさい。悪いことは言わないわ】
リリスはそれを止めた。必ず、ろくなことにはならないという事が目に見えているからだ。
【不平等と比較を楽園に持ち込めば、待っているのは崩壊よ。わざわざ平等が齎された世界に、なぜ不和を持ち込もうとするの?よくないわよ、それは】
「心配してくれているのか?」
【破滅に向かうのを見過ごしたら後味が悪いでしょう。多様性と発展性がいい方に向かうとは限らない。先生として、あなたは汚い大人とも戦ったのでしょう】
アダムは目を細める。子を騙し、法外な枷をはめ、自らのみを大切にする輩も確かに見てきた。リリスはそういう事を言っているのだろう。
【せっかく、私と素敵な楽園を築けた世界を壊すなんて…やめてほしいだけよ】
「…………」
それは、本音だったのだろう。ぽろりと溢れたそれは、アダムへの複雑な想いを感じさせた。
「それでもいい」
【は?】
だが、アダムは自分の決断を…曲げようとはしなかった。
「過ちを恐れて、踏み出すことを恐れては何も生まれはしないだろう。汎人類史の美徳に憧れ、それを招き、それが間違いだとしても」
【……】
「それでも、新たな挑戦というものは大切だ。挑むことは生命の意義だ。失敗したとしても、失敗は悪じゃない。何かを成し遂げて初めて、停滞は破れるのだから。…強いて言えば…」
汎人類史と良好な関係を築き、そして一緒に歩むことで成功させたい。だからこそ、こうして生徒達と学んでいるとアダムは告げる。
「忠告ありがとう、リリス。やはりどこの君も、聡明な女性の中の女性だ」
【!】
「はっきり言って、そちらのアダムはとんだバカ野郎だな。君のような最高の女性を、つまらないプライドで逃したのだから」
屈託ない笑顔で、彼は言ってのけた。……本当は、リリスが待ち望んでいただろう言葉を。
【…………………なんであなたが、異聞帯なのよ…】
「?何か言ったか?」
【うるさい、うるさい!うるさい!あー!あー!もーなんで!なんでよー!!】
…突如暴れ出したリリスを鎮静させるのに、アダムは5分ほど費やした。
アロナもリリスもはしゃぎ疲れ、屋台にてひとり酒をしているアダムに…
【大将、やってる?】
「…」
【お久しぶりです、先生。ブルーアーカイブを知らない皆さんにも分かるよう、改めて…ゲマトリアの【黒服】と申します。俗に言う、汚い大人ですね】
アダムの隣に座る謎の男。黒服を名乗るそれは、おでんを頬張る…
黒服【成る程、アダム先生。あなたは不要とされた世界の希望として生徒を導いているのですね】
アダム「隠す理由もない。そうだ」
黒服【成る程。では私が一つ提案を致しましょう】
アダム「提案?」
黒服【オルガマリー・アニムスフィア。彼女をこちらに引き渡していただきたい。彼女は万能の願望機…聖杯と呼ばれる存在です】
アダム「彼女が…万能の願望機」
黒服【非常に興味深く、私は彼女を研究したい。どうでしょうか?報酬は用意させていただきます】
「報酬…?」
【『あなたの世界を存続させる手段』。…空想樹と言いましたか?あれを一つ、そちらへと】
「!」
【平行世界には、カルデアと呼ばれる組織があります。大抵その世界は今大変な目にあっておりまして。そこから一つ、空想樹なる証明手段を用意致しましょう。あなたはこれを手にするため、放浪してきたのでしょう?】
アダム「……」
【オルガマリー・アニムスフィアはあなたの生徒ではない。生徒にも先生にも関係ない第三者を引き渡すだけで、全ての目的は達成できる。どうです?素晴らしい提案でしょう?】
アダム「…」
【…大切なお嫁さんが、帰りを待っているのでしょう?】
「リリス…」
【決心が付いたなら、こちらに。よい返事を期待しています。アダム・カドモン先生】
…アダムは領収書を、静かに見やる。
そこには、会計を全て受け持つ料金が共に置かれていた
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