人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「むかーしむかし、あるところに。未来を約束された船乗りがおりました・・・」


「いきなり入室したと思ったら紙芝居か。なんのきまぐれだ?」

「何となくです!」

「・・・お前にまともな回答を期待した我が愚かであったわ」

『もんて・くりすと。がんくつおぉ』


(もじきたなっ)

「なんとなく、やらなきゃいけない気がして!是非聞いてみてください!めるせですという美しい女の人と、将来を約束した男性がおりました・・・」

――彼の名は・・・?


《この世で最も賛美された憤怒。正当なる復讐譚となった男の物語だ》

――憤怒、復讐・・・

《根は異なるがもたらす結果はそう変わらぬ。説明はいるまい。その物語に、憤怒と憎悪の総てがあるのだからな》


――はい、では・・・しっかり聞きたいと思います



「そしておとこは、シャトー・ディフなる地獄に監禁されたのです・・・」



憤怒

「そろそろね」 

 

呟くジャンヌ

 

 

「そろそろだね」

 

頷くリッカ

 

 

 

地獄の底、シャトー・ディフの塔。二人は今か今かと待っていた

 

 

「あ、あの・・・本当にやるのですか?」

 

 

「当然じゃない」

 

おずおずと訪ねるメルセデスに対し自慢げに返す

 

 

「あの上機嫌クハハハマンに、たまには先手をとってやらなくちゃ」

 

「マリーに教えてもらった道具作成でクラッカー造りました!」

 

 

二人は座り込み、クラッカーを構えている

 

 

「来たわ!」

 

ギィ、と扉が開く

 

 

「せーの!」

 

 

バサリ、とマントを翻し現れるアヴェンジャー

 

 

同時に

 

 

「「まてしかー!」」

 

パァンと、クラッカーを鳴らす二人

 

 

「どう?少しは驚いたかしら?」

 

「ずっとスタンバってました!」

 

反応を伺う二人、が・・・

 

 

「・・・それは何よりだ。行くぞ。裁きの間の準備が整った」

 

 

それだけ告げ、さっさと部屋を出ていくアヴェンジャー

 

 

「・・・不発?」

 

「何よあいつ。やけにテンション低いわね。ドブネズミでも食ったのかしら」

 

「あ、あの・・・お気をつけください。どうやら、とても機嫌が悪いようです・・・」

 

 

首をかしげながらも、二人は顔を見合わせ

 

 

「まぁ、アイツの機嫌なんてどうでもいいわ。行きましょう?マスター。アナタと私の試練の時間です」

 

「うん!じゃ、地獄に飛び込んでくるね!」

 

「どうか、お気をつけください・・・お帰りを、お待ちしております」

 

 

メルセデスの微笑みを受け、二人は地獄に飛び出していった・・・

 

 

 

 

「先に言っておく。次の裁きの間は『憤怒』の具現が配置されている」

 

ツカツカと歩みながら端的に告げる 

 

 

「憤怒!?え、ジャンヌ・・・!?」

 

「違うわ。ワタシがアナタに剣を向けるものですか。何があろうとも、魂に誓って」

 

 

「そうかな?お前という存在そのものが、次の間の主を鮮明に表しているぞ?」

 

アヴェンジャーの言葉に、眉をひそめるジャンヌ

 

 

「・・・――え、マジで?それもしかして・・・」

 

「憤怒、怒り、憤り。それは最も強き感情であるとオレが定義するもの」

 

バサリ、とマントを翻す

 

「・・・――」

 

「自らに帰因する怒りたる私憤でも、世界に対しての怒りたる公憤でも構わん。等しく、正当な憤怒こそが人を惹き付ける。時に、怒りが導く悲劇さえも人は讃えるだろう」

 

――ギラリ、と金色の眼がリッカを射抜く

 

「古今東西、老若男女の別なく。復讐譚を人間(オマエタチ)は好み、愛おしむのだ」

 

 

――――憤怒、正当なる怒り

 

 

それを聞いて、思い出すのは・・・

 

 

――おはよーリッカ!今日も朝練?おつかれおつかれ!

 

 

あ、リッカじゃん!ういっすー!

 

 

今日もリッカはリッカしてんねー!

 

 

高校時代の、優しく楽しい日々

 

 

好きだ、リッカ!・・・なーんでお前には言えて、あの子には言えないんだろうなぁ・・・

 

男子ー。リッカを練習台にすんのやめなよー。リッカに告白とかあんたには釣り合わないしさ

 

 

んなことねーよ!?や、・・・あるかもな

 

リッカの隣に立つとかハードル高すぎじゃね?

 

 

つぅかオレ、リッカをそーいうめでみれねー!マジでオレらと距離近すぎてさ!

 

 

感謝しなよー?あんたらみたいな奴等でも美少女が話してくれるんだからさー

 

おめーらみてーなタカビーと違ってな!

 

 

あはははははは!!

 

 

 

 

リッカは何になりたいの?・・・まだ解んないか。そっか、そだよね。まだ未来なんてピンと来ないか

 

 

え?夢はある?教えて教えて?・・・普通の家庭を持って、産まれた子供を幸せにしてあげたい?

 

 

――優しい子だね、アンタ。じゃ・・・自分を磨かなきゃね

 

アンタみたいないい女、世界が放っとかないからさ。あたしが保証してあげる

 

でも、ね・・・アンタはちょっと・・・足りないものが、多すぎるからね。いつか、それが埋まるといいね

 

 

――高校生の、かけがえのない記憶

 

 

・・・何故?

 

 

憤怒なんて欠片もない。ありえない

 

 

何故、この大切な記憶が思い浮かぶのだろう・・・?

 

 

「それを――!」

 

 

アヴェンジャーの憤怒が、現実に意識を引き摺り下ろす

 

 

「ヤツは認めようとはしない!怒りを、最も純粋なる想いを否定する!!」

 

 

黒き炎が燃える、燃える。燃え盛る

 

「マスター、私の傍に。火の粉が飛びます」

 

「う、うん」

 

「第四の支配者に配置されておきながら、さも当然とばかりに救いと赦しを口にし続ける!!許されぬ!許されぬ!!おぉ、偽りの救い手なぞヘドが出ようというものだ!!」

 

 

「・・・――ヤツ?」

 

アヴェンジャーは怒っている。猛っている

 

 

それは・・・誰に?

 

 

「読めた、読めました。完ッ全に解りました。私は解ってしまいました。――上等です。その手、その旗。引き裂き甲斐がありましょう。焼き尽くし甲斐がさぞありましょう!!」

 

「そうとも!!ヤツだ、人が赦し神が赦そうともオレは赦さぬ!!お前が!この先の裁きの間で殺し合う相手!あぁ、戦いでは存分にオレ達を使うがいい!!喜んでお前の力になろう!!ヤツを引き裂けるのは僥磽としか言えぬわ!!」

 

怒り猛りながらアヴェンジャーはドアを粉々に粉砕する

 

 

「誰なんだろ・・・」

 

「――マスター」

 

ぽつり、と。前にいたジャンヌ・オルタが立ち止まり呟く

 

「ん?」

 

「――私を、見てください。この先に何がいようと、何があろうとも。私を見ていてください」

 

少しだけ、こちらを振り返る

 

「誰にも靡かないで、ほだされないで。――私を、――私だけを。見て、ください・・・」

 

その目は、不安げに揺れていた

 

何時ものジャンヌ・オルタらしからぬ、弱気な雰囲気を醸し出していた

 

「――」

 

・・・そんなときに、マスターたる自分がやることは決まっている

 

「ぁ――」

 

左手を腰に回し、右手を恋人のように絡め、そっと抱き寄せる

 

 

「怖がらないで。不安にならなくても大丈夫。――安心して、ジャンヌ」

 

「マスター・・・」

 

「私だけのジャンヌ。私は、アナタを信じてる。アナタの燃え盛る想いと心を信じてる」

 

――そっと、耳許で呟く

 

「アナタは、私のものなんだから・・・でしょ?」

 

「――はい・・・私は、アナタの・・・アナタだけの、ジャンヌ、です・・・」

 

万感の想いを込めた返答を返すジャンヌ・オルタに安心し、そっと身体を離す

 

「行こう!地獄を焼いて、蹴散らそう!私と、アナタ!アヴェンジャーで!」

 

「――はい!私のマスター!」

 

「――あ、そだ」

 

「?」

 

「リッカ、でいいよ。私とアナタだもん。でしょ?名前で呼び合うのが、やっぱりいい感じじゃない?」

 

「――はい!リッカ!」

 

「うん!じゃあいこっか!」

 

 

絆を深く結び直した二人は、地獄に飛び込む――!

 

 

 

「――来ましたね。迷える魂を淀みに引き込むもの、正義の敵よ。もう一人の私は狂気と共にあったようですがこの私はジル・ド・レェ、聖なる旗に集いし騎士!正義の刃のもと、アナタ達を断罪しよう!」

 

立ち塞がりしは白き元帥。裁きの間にて吼える騎士の魂

 

「セイバーのジル・ド・レェ・・・!眼がギョロギョロしてないんだ・・・」

 

「フン、前回とは些か気配が異なるな。ほう、ヤツに引き摺られて現界したと見える」

 

「えぇ。ジルは中ボス、白かろうが黒かろうが変わりません。・・・あそこよ、リッカ。よく見て」

 

 

言われた通りに目を凝らす

 

そこには、旗を掲げ、揺るぎなき聖なる気を掲げる白き聖女――

 

「見ろ!見ろ!!あれが!聖なる旗を掲げるもの!愚かしくも主の加護なぞを口にして調停者を気取る!!」

 

「えぇ、憤怒の間にいるのも納得です。神の声を聞いたなどいう妄言に憑かれ、最後の最期まで止まらず、すべてに裏切られ炎に焼かれたサイコパス、この世で最も愚かな女――」

 

 

「「サーヴァント・ルーラー!!ジャンヌ・ダルク!!我等が道を阻まんとして、自ら望み監獄塔へと入りし女!!」」

 

 

「ジャンヌ・・・!?え、ジャンヌ!?」

 

 

まさか、本当に!?本当にジャンヌなのか!?混乱するリッカ

 

 

「・・・アヴェンジャー。はい、アナタの言葉通りです。私は、あなたを止めるために此処へと至った。かつての昔、導くものとして立った私があなたを阻む」

 

「まともな事言ってる!!あーぱーじゃない!!あ、アナタが憤怒の具現・・・?」

 

「あ、あーぱー・・・?」

 

「そうだ!今更言うまでも無かろうよ!!人間を信じ、主を信じ、それらのすべてに裏切られた無念の聖女!!ならばその魂には消えぬ炎が灯る。いいや、炎こそが核として燃え盛るが道理!!そこのエデなりしアヴェンジャーの如く!!哀しみをお前は知るだろう!!怒り、恨み、吹き上がる黒き炎こそお前だ!!お前にこそ!第四の裁きに相応しい!」

 

吹き上がるマグマの如く猛るアヴェンジャー

 

「――そんなに複雑な思考回路だったなら、私もうたかたの夢にならず、ちゃんとした英雄の側面として。何恥じることなく・・・リッカのサーヴァントを名乗れたのですが」

 

ぽつり、とジャンヌ・オルタが呟く

 

「アンタにそんな意志は無いわよね?頭に筋肉詰まってるんだもの」

 

「・・・はい。マスターの為に旗を振るう私。私には、元から憤怒など存在しないのです。私は決してリッカを裁きません。その資格も、その意志もない。この場にいる私が、正しく現界した私でなくてもかまわない」

 

「――何ィ?」

 

「はぁ――本当に、救えない女ですね・・・」

 

呻くアヴェンジャー。首を振るジャンヌ・オルタ

 

 

「まともだ・・・ジャンヌなのに、ジャンヌしてる・・・」

 

 

「あなたです。復讐者。世界と人を憎み続けよと定められた哀しく荒ぶる魂、アヴェンジャーよ。私は、あなたを救いましょう。聖旗が、シャトー・ディフに在ってもこうして輝くように」

 

 

聖女の言葉を

 

「黙れ。黙れ、黙れ!!」

 

 

黒き復讐者は焼き払う

 

 

「黙れェ!!」

 

 

「リッカ、私の後ろに。――あのバカは、言っても決して聞きません。恋した男の首を、足元に転がしでもしない限り」

 

「そんなに!?」

 

「ま、あんな脳筋が恋なんてするはず無いでしょうけど。それこそ、ルーラー失格でしょう。有象無象のために旗を振るった人生を捨てて下らないラブコメを選ぶ。そんなアイツがいたなら私は絶対に赦しません。神の名の下に生きた人生を恋慕で汚したアイツを焼き払い、アイツをたぶらかした男もまた八つ裂きにしてやります――!!」

 

チャキリと剣を抜く

 

「あぁ、あぁ、それはそれで楽しみです!恋した男を、目の前で八つ裂きにしてやれば!焔で焼き払って灰にしてやればあの女も痛感するでしょう!『私は、所詮ただの小娘だった』と――!!」

 

愉快そうに笑う。心から楽しげに笑う

 

 

「私はリッカ!アンタはどこぞの馬の骨!こんなもの、比べるまでもなく!どちらがかけがえのない人を掴んだかなんて一目瞭然なのだから――!!!」

 

「・・・有り得ざる、私。私という表に滑り込んだコインの裏・・・!」

 

「ジャンヌよ、お下がりください!神と貴女に捧げた剣、今こそ振るうときであると心得た!」

 

「ジル!いけません!彼等は私が――」

 

 

「あの黒き気配、そしてアナタの紛い物!監獄塔に在っては主の救いさえあの魂には及ばず!聖女よ、アレらは貴女の思う魂とは違う!狂い果てた魂は断罪の刃を以て当たる他にない!!」

 

弾劾を受け、アヴェンジャーは輝く

 

 

「ははははは!そうだ、このオレは恩讐の彼方より来る復讐者!!そう在れかしと誰もが言うのだ!!憎め、殺せ、敵の悉くを屠り尽くせと期待し続ける!!ならばオレはそう在ろう!!オマエタチが乞い願うままに、世界に復讐する!!」

 

バサリと、マントが炎に猛る、燃え盛る

 

「此処に愛しきエデはなく、尊きファリア神父はなく、ならば主さえも我が魂を救えはしない!!」

 

 

「つまり何よ!簡潔に!要点を纏めなさいよ!!」

 

 

「あぁ、そうだな!オマエのマスターの為に第四の支配者を殺すと言うことだ!!」

 

身体中を黒炎にたぎらせ、虎のごとく吠え猛る

 

 

「希望の輝きを鮮やかに引き裂こう!輝きも、聖なるモノも!オレにはなんの意味もない!!尊く、聖なるモノ!!総て!等しく!!無価値に過ぎぬわ――――!!!!!」

 

「マスター!力を!!私に――贋作の私に!真作にすがれる力を!!」

 

「アナタは贋作じゃない!!生まれたなら、それはアナタ!その意識はアナタのモノ!ジャンヌ・オルタは――私にとってただ一人!!」

 

 

「――ありがとう・・・!私の、ただ一人のリッカ!!」

 

「行くぞ!!エデなりしアヴェンジャー!!オレの憎悪、お前の憤怒!いまこそ希望を焼き尽くす時だ!!」

 

「命令するな!!私に指図していいのはリッカだけだ――!!」

 

二人の復讐者が、希望を掲げる旗に襲い掛かる――!

 

 

「マスター!!お前もいつまで寝惚けている!!」

 

――そして、アヴェンジャーは告発する

 

「え――」

 

「怒りが無い、怒りなど抱いていないなどといった態度をいつまで取るつもりだ!オレを前にしながら思い当たる節がないなど言わさんぞ!!」

 

「アヴェンジャー、あなたは何を・・・!!」

 

「アンタの相手は私よ!!」

 

白きジャンヌを、黒きジャンヌが阻む、かつてのように

 

「意識しろ!認識しろ!理解しろ!人が抱く、最も強き感情を理解しろ!!――凍てついた心を溶かし、炉心に入れる火がソレだ!!オマエが世界を救済するために必要な燃料がソレだ!!――さぁ、目覚めるがいい!!軛を破れ!!今こそオマエは未知の獣から訣別の咆哮をあげるのだ!!」

 

 

アヴェンジャーの炎、そして総ての怨霊が流れ込んでいく

 

 

「思い出せ!!オマエが奪われたものを!!たぎらせろ!お前の心を!!奪われたものの中に何一つ怒りを抱くものが無いなど――お前の人生が!!そんな無価値であってたまるものかァ――!!!」

 

 

 

――――

 

 

大切な人達がいた

 

 

友人、知り合い、仲間たち。部員たち

 

 

皆が笑っていた。皆が未来を望んでいた

 

 

何かを望んでいた。未来に希望があると信じてやまなかった

 

 

あらゆる夢を聞いた。あらゆる望みを聞いた

 

 

結婚したい、有名になりたい、ビッグになりたい、細やかになりたい。

 

色んな、色んな未来を聞いた

 

 

私は笑った

 

必ず、必ず叶うよと。心から祝福を願った

 

 

 

――――その未来は、奪われた

 

 

何も為すことなく奪われた

 

 

何も叶うことなく焼き払われた

 

 

皆の意思を踏みにじり、無視し、ただ。焼き払われた

 

 

未来があったのに

 

希望があったのに

 

 

皆、皆、幸せな未来があったのに――

 

 

――赦せない

 

 

奪われた事が赦せない

 

 

――赦せない、赦せない

 

 

皆が未来を迎えられなかった事が赦せない

 

赦せない、赦せない、赦せない、赦せない

 

 

一人一人が、迎えるはずだった未来を

 

 

他の誰かが奪った事が、その事実が――赦せない――!!

 

 

『リッカ殿』

 

 

ハッと顔をあげる

 

 

『――生きるでござるよ。そなたは――美しく、また・・・輝かしい『人』であるのですから。この世界で――』

 

 

――グドーシ!!

 

 

手を伸ばした先にあるグドーシは――

 

「あ――」

 

燃え尽きて――

 

「あ――、――ぁ・・・あ――あ・・・――」

 

 

――――誰だ

 

 

「ぁ・・・っっっ――」

 

 

世界を、奪ったのは誰だ

 

 

「――――っっ、ぎ――」

 

グドーシが生きた世界を、グドーシが生きたかった世界を

 

「――――――っっ・・・――――!!!」

 

 

――皆が生きたかった世界を、祈りを――

 

 

 

「――――――ぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ――――――――――――――――ッッッッッ!!!!!!」

 

 

踏みにじったのは、誰だ―――――!!!!

 

 

 

 

「人類最後のマスター!その業、解放する!!」

 

 

ジル・ド・レェの刃がリッカに迫る

 

「リッカ!!」

 

 

「――――」

 

――ベギリ、と鈍い音が響いた

 

 

「――――え?」

 

ジル・ド・レェの握っていた剣、その腕がへし折れていた

 

いや――へし折ったのだ。それを為したのは――

 

 

「――――うぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!!!!」

 

 

人類最後のマスター、藤丸リッカ

 

 

その怒りが力となりて、ジル・ド・レェの腕をへし折ったのだ――!

 

「ジル!!」

 

「ジャンヌ!此処は――!?」

 

ガシリ、と喉を掴む

 

 

「――――!!!!!」

 

 

グシャリと音を立てて喉が押し潰される

 

 

「よくも、よくも――皆が生きる世界を!!よくもぉおぉおぉおぉおぉおぉおっっ!!!」

 

左手首を握りつぶしながら、力の限りジル・ド・レェを振り回し

 

「ぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!!」

 

叫びと共に『片手』でジルを、力の限り壁に叩きつける

 

 

「――――!!!!」

 

 

「クハハハハハハハハ!!!そうだマスター!!それが『憤怒』!オマエが獣から人に成るために、最も大切な感情だ!!奪われたモノの重さだけ怒れ!!己の価値だけ猛れ!!『何かの為に怒る』事こそ!!ヒトのみに赦された感情の発露ならば!!」

 

 

「ジャ――ぬ――逃げ――」

 

 

「ジル・・・!?」

 

 

その先を、紡ぐことは叶わなかった

 

 

ガンドが飛来し、ジル・ド・レェが完全硬直する

 

 

「ぉおぉおぉおぉおぉおぉおぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!!!!」

 

 

動きが止まったジルに対し、リッカが力の総てを使い蹂躙を始める

 

 

殴る、殴る、殴る。力の限り殴り続ける。肉が裂け、骨が砕けてもなお殴る

 

潰す、潰す、潰す。肉がちぎれ関節があらぬ方向に曲がっても尚潰す

 

 

「赦さない!!赦さない!!赦さない!!理不尽に焼かれた世界を、理不尽に焼いた誰かを!!――生きたいと願った皆の未来を奪った理不尽を!私は絶対に赦しはしない――!!」

 

――その戦法は、ヘラクレスから賜りしもの

 

 

あらゆる手段を使い、相手を殺す。たとえ何度復活しようとも、復活する度に殺し続ける必殺戦法

 

 

あらゆる手段を用い、あらゆる戦法を用い、敵を鏖殺する大英雄の編み出せし流派

 

 

死ぬまで殺す。流派ヘラクレス――『射殺す百頭(ナインライブス)

 

 

本来ならサーヴァントを撲殺など叶うはずがない。しかし、リッカの魂はあらゆる怨念を吸収し、アヴェンジャーの炎を取り込み、また――拳に怒りを宿らせている

 

鍛え抜かれた拳は、容易く人体を破壊する。――そして今のリッカは、総てのリミッターが解除されていた

 

 

憤怒ゆえに。世界を焼き払われた怒りに

 

 

そこに住むものたちの、希望を、総てを奪われた怒りに

 

――世界を焼き払った元凶への怒りに

 

 

「ぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!!」

 

力の限り放った一撃が、ジル・ド・レェの霊核を砕く

 

肉体のダメージ限界を越えた事で、即座に霧散するジル・ド・レェ

 

その一撃は塔の壁に炸裂し、ビキビキとひび割れ、瞬間的に砕かれる

 

 

 

「くっ――!!」

 

 

ジャンヌが即座に消え果てる

 

 

「今は無理でも、必ず――!」

 

「一昨日来なさい、負け犬!私とリッカに敗北はないわ!」

 

「クハハハ!!クハハハハハハハハハハハハハハ!!おめでとうマスター!!今この時より!お前は人として生まれ落ちる権利を得た!!」

 

黒き祝福を送る、アヴェンジャー

 

 

「喪われた物の重み!大切なモノを奪い取った者達への怒り!!それを抱いて、初めてお前は知るのだ!『自分が何を救いたいのか』を!!怒りを抱かぬ救済などなんの意味があろうか!!あってはならぬのだ!!『その人生に意味がある限り』!俺が認める、俺が肯定する!!お前の人生は!確かに意味があったのだとな!!吠えろ!吠えろ!!虎のように!!オレは導こう!!お前を!恩讐の彼方へと!!クハハハハ!クハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 

「私は取り返す!!皆の未来を!!私は救う!!皆の生きる世界を!!そして必ず――世界を焼いたヤツに、この怒りを叩きつけてやる!!」

 

黒き祝福を受けながら、リッカは胸から沸き上がる感情を奮い立たせる

 

 

「皆と一緒に、必ず!!!焼き払われた人達の無念と怒りを乗せて!!――私は!!この拳を振るい続ける!!世界を救う、その日まで――!!」

 

地獄を焼き尽くすリッカの怒りが、空間すべてに響き渡った――




「ーそうして、男は相手を次々と地獄に落としていきました・・・はい!休憩です!」


《憤怒。これは中々扱いが難しいものでな。正当であろうが不当であろうが必ず何かを焼く。炎のようなものだ。義憤、私怨。必ず破滅する輩は排出される。――だが、あまりに鮮烈ゆえに。それは時に奇跡をも招く。――心当たりがあろう。エア》

――はい。この感情は、私が大事にしているものです

王を侮辱し、王の世界を無価値と断じる者を。フォウを傷付け、侮辱するものを・・・私は絶対に許しません

(エア・・・)

《それでよい。怒りを糧とするか、怒りに呑まれるか。それは自らの意志、在り方。そして向ける相手により決定される。憤怒は抑えるのではなく、向ける矛先を意識し、自制することのみが飼い慣らす方法だ。よく覚えておけよ、エア》


――はい!

(だからこそ、彼はアヴェンジャーなんだろうね。振り上げたナイフの先を、ちゃんと選べたからこそ、彼は神話になったんだ)


――モンテ・クリスト・・・



「はーっ、はーっ、はーっ・・・」

「リッカ・・・?」


「――・・・・・・・・・・・・あぁ――――――」

「だいじょう・・・ひゃ!?」

「スッキリしたぁぁあ――!!清々しい気分!うたいだしたいくらい!こんなに気持ちいいんだね!気持ちを出すのって!」

「そうだ。悪くなかろう?怒りのままに振る舞うというのも!それはお前の、魂の在り方そのものだ!」

「うん!私――生まれ変わった感じ!」

「生まれ変わったとも!――お前は、ようやく人のカタチを得たのだ。世界を知らぬ獣から、脱却は近い・・・!」

「ジャンヌ!この気持ちを抱いて戦ってたんだね!本当に凄い!ありがとう!私のジャンヌ!」

「――はい。次も頑張りましょうね!」

「うん!じゃあ行くよ!せーの!」


「「「待て!しかして希望せよ――!!」」」

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