リッカ「これ…」
ジークフリート「彼女に、どうか渡してほしい。俺なりに選んだ、リラックスグッズだ」
リッカ「私で、大丈夫?」
ジークフリート「あぁ。…今はまだ、互いに時間が必要だ」
リッカ「ジークフリート…」
ジークフリート「頼む、我がマスター。きっと、これは力を貸してくれる」
リッカ「…うん!でも、約束して。必ずあの人といつか真っすぐ向き合うって」
ジークフリート「もちろんだ。…ありがとう、リッカ」
リッカ「ん!じゃ、行ってきます!」
(メッセージと感想返信は今から明日にかけて行います)
【……………】
カルデアのオニキュアショー…ドラランドを丸々と貸し切って行った壮大かつ子供向けのショーは、子供向けに似つかわぬ大迫力の中で終わりを告げた。周りには自分以外の顧客はいないからこそ、ベンチに佇みながらクリームヒルトはそれを見上げていた。
【解りやすいわね】
感想を一言告げろ…などとは言われてはいないが、物語の内容としてそれがまっさきに頭に浮かんだのを、クリームヒルトは否定することは無かった。真っすぐ直球な王道の展開。協力し、困難に挑み、やがて大きい大志を成し遂げる。子供にもよく解る、いい意味で捻りのない鬼達と龍の英雄譚。
【感染りそう。英雄が】
英雄が感染る。アヴェンジャーとしての自分が決して口にしなかった、思うことも考えることもなかったかつての夫…ジークフリートに懐いていた、自分には存在しない概念であるものを。
自分のもたらしたものは徹頭徹尾、血と憎悪に彩られた復讐劇だ。夫を奪ったものを、夫を殺めたもの全てを害し、殺し、報いを与えさせるもの。そこには破滅に向いゆく一種の美しさはあっても胸を躍らせるようなものなどがある筈がない。
復讐する。自分の大切なものを奪った全てを。自分から全てを奪った何かを。殺し、報いを受けさせ、血の海に沈める。
その時はもう眼の前に来ている。世界に向けた復讐劇の幕はもうすぐ上がる。
それこそが奪われた者の義務。奪われた者の使命。奪われたままで寝床を濡らしたまま眠るなどあり得ない。あってはならない。
【──────】
少しでも心を揺らがせば浮かび上がる、世界を燃やし焼き尽くさんばかりの焔。自身の大切なものを奪ったものがこの世界に存在している事実が許せない。容認できない。許容できない。決して相容れない。
草木も、星も、空も、命も、人も、全てが憎い。世界がそういうものに見えるのは、歪みきった霊基でここにいるせいなのだろうか。
違う。自分の復讐は自分で選んだものだ。自分から奪った何者かを、自分から奪った誰かを、自分から奪った全てをこの手で惨殺し、完膚無きまでに踏み躙ると。そう誓った。その為にあんな、顔がいいだけの吐き気を催す下種野郎と契約を結びもした。
どんな屈辱も耐えられる。どんな恥辱も受け入れる。いつかそれら全てを黒い炎を焼き尽くす瞬間を夢見て。ドラランドにわざわざいたのは、自分にはない幸せを享受する世界の全てを刻みつける為だ。
幸せな家族。甘ったるいカップル。夢と希望に溢れた園児たち。世界が薔薇色に見えている連中を、射抜くような冷徹の目でずっと見ていた。
【待っていなさい。すぐに私と同じにしてあげるわ】
だって不公平だもの。私はくすりともしない日々に楽しみを見出すことが出来る人達が溢れるこの世界の理そのものが。私はずっと一人でいるのに、眼の前にいる連中は皆皆幸せそう。不公平、そう。不公平だもの。
【支え合ってみせなさい。例えそこが地獄の底でも。幸せだというのなら、私がそれを試してあげる…】
そうだとも。復讐とはそういうものだ。奪われたのだ。だから自分も奪い返す。間違ってはいない。何も間違ってはいないのだ。
【…でもそう考えたら、カルデアの連中は酔狂な事をしているものね】
わざわざ時間をかけて、見ている人を笑顔にしたいのか幸せにしたいのかは…正直解らないけど。少なくとも、さっきのショーは自分達の為にしているようには思えなかった。
間違っても自分は違う、選び様のない結末。信念。『誰か』の為に。『何か』の為に。そういった事の為に、何かをすることに躊躇いのない連中の集まり。それが、カルデアなのだろう。
【…変なの】
愚か、とか滑稽、とかでは表す気にもならない、この世界を懸命に護ろうとする者達。加入条件に躊躇いなくボランティアをすることといったものでもあって、それを忠実に守ってでもいるのだろうか?自分に何か得があるのだろうか?はたしてそれは、一体どのようなものが?
【解らないわね。きっと一生解らないでしょう】
自分は徹頭徹尾の反英雄なので。殺して殺し返されて、人理に刻まれた伝説であるので。そういった甘い思い出は皆無なので。根暗女であるので。
判らない、きっと永遠に解らないのだ。世のため人のため、正義や平和だとか愛だと友情だとか。それはきっともう解らないものなのだと自分は納得するものとして。
でも、それはそれとして。
【まぁまぁ…面白かったわね】
情け容赦ないゴア描写とか、子供にも解りやすいテーマだとか、今どきの娘はあんなの見るのね…とか、ドラゴンのトップはあんなアホの子でいいの?と。信じられない、信じられないが…
復讐以外の事で、何か感慨を懐けたのはとても衝撃的だった。もしかしたら、アヴェンジャーとは見つけられるのかもしれない。憎悪に補填される何かを。匹敵する何かを。残念ながら、自分はそれを見つけられてはいないが…
【努力が徒労にならないといいわね、カルデアの皆様】
…我ながら、それは意地悪な問いだと思う。何故なら今から殺すからだ。今から滅ぼすからだ。それを告げに、今から向かうからだ。
雌伏の時は終わり。復讐の始まり。カルデアの大切にしているもの、皆が生きてるこの世界の全てを破滅させる。その準備はもう、ほぼ出来ている。
【…………───】
重い腰を上げる。正直なところ動くのも億劫だ。一度頭を働かせたら、後はもう憎悪と殺意しか無くなる。ぼんやりしているのは、何も考えなくていいからだ。ドラランドでは何もしなくて良かったのだ。だが、その安穏ももう終わり。
「クリームヒルトさーん!クリームヒルトさーん!」
自分を呼ぶ声がする。たしか昨日会った…人類最悪のマスター。どういう訳か向こうの味方をしているこっち側。
ちょうどいい。招待状を渡すとしよう。身体を裂いて、死体を彩りカルデアに見せてあげよう。彼女は可愛らしく、愛くるしく、とても皆に好かれている娘だろう。
奪ってしまえば、きっと話が早い。全面戦争に容易く持っていける。あぁそう。それがいい。それが一番。そう確信し、自分は手に魔剣を呼び…
「あ!いたいた!クリームヒルトさん、これをどうぞ!」
【へ?】
…奪うつもりが、なんだか妙なものを渡されてしまった。白髪の、見ていると絶妙に力の抜けるゆるいデザインのぬいぐるみ。絶妙に腹を叩きたくなるやわらか素材。
「謎のドラゴンスレイヤーさんからのプレゼントです!是非受け取ってください!」
【…あ、ありがとう…】
謎のドラゴンスレイヤー…全く心当たりがない。心当たりがないのだが…こんな脱力するプレゼントを贈ってくるのだ。絶対に変な人だ。間違いない。
「まだ閉園にはかかるみたいなんで、ゆっくりしていってくださいね!それでは!」
気を遣ったのか、いつまでも話を長引かせずに去っていくリッカという少女。絶妙に調子が外され、殺気のやりどころに困ってしまう。え、何この…何?なんなの?
【……………】
手元に何か来てしまったぬいぐるみ。見ればそれは、先程の龍の頭領にそっくりだ。キャラクターグッズ、というやつだろうか。気の抜ける顔をしている。お腹いっぱいで寝そべるアザラシのような絶妙な笑顔を浮かべたデザインをした人形…
【………………】
あぁ、えぇと…その…
…何の話をしようとしていたのかしら?
とりあえず全部頭から抜け落ちた彼女は、なんとはなしに腹の部分をむぎゅりと押す。
『ヒィン』
これまた絶妙に気が抜ける、情けのないボイスが響き。
【………くすっ】
何これ。あまりの緩さに、考えていた事が全てどうでもよくなるクリームヒルトであった。
サタン【クリームヒルト、特異点と宣戦布告はいいの?】
クリームヒルト【あぁ…あなた、知っていて?】
サタン【?】
クリームヒルト【お家に帰るまでが、遠足よ】
『ヒィン』
サタン【…えーと、つまり?】
クリームヒルト【必ずやるのだから、別にそれは今すぐで無くてもいいのよ】
『ヒィン』
サタン【ま、まぁもうすぐお祝いが近いからいいんだけど…じゃあ、バアルに何かあったら伝えてね】
クリームヒルト【えぇ】
『ヒィン』
サタン(はまったのかな、オニキュア…)
クリームヒルト【あなたはいいわね、何も考えていなさそうで…】
『ヒィン』
もう少しアホでいよう。色々気風が削がれたクリームヒルトであった。
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