人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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闘争の果てを垣間見たが、何かがおかしいと薄々は気付いていた。

仲間達に覇気がなく、世界は緩やかに朽ちていく。

誰も前を向かぬ。誰も天を睨まぬ。

覇気や、意志が、失われていく。

何故だ?戦いの果て、何を悔やむ?勝利の栄冠の何が不満だ?

勝利の美酒を口にすれど、募るは疑問ばかり。

これはオレの望んだものか?これがオレの手にしたものか?

誰も、その美酒を口にしない。美味かどうかも解らぬ。

分かちあわねば、味は知れぬ。己のみでは己の所感しか解らぬのだ。


最早誰も預かり知るまい。ならば永遠にこの問いは秘め置こう。迷ってはならぬ、悔いてはならぬ。

ただ、もうどうしようもないのだから。











【オレは、何か間違っていたのか?】


王、勝利に酔うことはなく

『おぉお…その威容!その風貌!それが貴様らの見出した新たなる姿!虹の文明の恩恵か!』

 

リッカと共に現れ、新生を果たした朋友の姿に心からの賛辞を贈るボルバルザーク。彼は祝福していた。新たなる戦化粧、彼等が新たなる生きるべき道を見出した事に。

 

『最早言葉は要らぬ!見せてくれ、滅びの果てに見出した強さ!終わりの果てに新生したその生き様を!ガーディアン・ドラゴンとして、この俺様が受け止めてやるッ!!さぁ行くぞォ!!!』

 

再び巻き起こされる天変地異。隕石、竜巻、雷鳴、地震により固有結界の内部が完膚無き迄にかき回され、破滅の坩堝と化す。だが先程と違い、彼等にそれに抗う全てが備わっていた。

 

『!!』

 

伊吹童子、いや八岐大蛇の力の一旦を受け取りしバザガジール・ドラゴン。その巨大極まる威容から、天空を覆う巨体を擡げ両の魔剣を打ち鳴らす。すると、世界そのものに変化が起こる。

 

『何ィ…!?』

 

ボルバルザークが破壊し、粉砕し、等滅させた環境と天変地異が、まるで浄化されるかのように穏やかな姿を取り戻していく。嵐も雷鳴も地震も緩やかに収まっていき、暗雲は晴れ、そして厄災は鎮められていく。

 

「パパ…八岐大蛇の力の和御魂に共鳴したみたいね、あの竜。魔剣を打ち鳴らせば、世界の災いを鎮める。とても穏やかで静かな、優しい力に」

 

『バザガジール、貴様!そうか、争いではなくその後、嵐の後の恵みに意義を見出したのだな!』

 

『そうだ、ボルバルザーク。私は二度と繰り返させん。失われたものは取り戻せぬが、失わせぬ、死には至らしめぬ。それが虹の文明における、私の戦いなのだ』

 

『ぐははははははははは!!思慮深く、慈悲深い貴様らしい!だが俺様の前でいつまでそれが果たせるかな!?破壊と破滅において!俺様の右に出るものはいないのだから!』

 

彼の見出した世界の在り方すら粉砕する。闘争の結末と己の力をなおも滾らせる。そこには、友の世界に自らの居場所を見い出せぬ郷愁もあったのであろうか。

 

『いいや、お前にもう何も壊させはせぬ。そして破壊と破滅から先に行ってもらうぞ』

 

瞬間、超高速の質量に横から叩きつけられる。それはバザガジール・ドラゴンに追従する程の迅速にして、超高機動を手にし生まれ変わった更なる同胞。

 

『ぬぅ!ボルメテウス、貴様…!!』

 

『戦いを愛するのはいい。闘争に身を委ねるはいい。だが、次代に向かう意志を絶やしては、摘んではならない。これはそのための力なのだ』

『行けーっ!!ボルメテウス・イカルガ・ドラゴン!!』

 

瞬間、ボルバルザークは天空に跳ね上げられる。地上から雲海見下ろす空。流石の殿堂王も理解に数瞬かかるほどの。

 

『なんという推力かッ……!!』

 

『────!!』

 

主砲と副砲に依存していたボルメテウスに、高機動ユニットと近接格闘多目的アームの装着により高速殲滅型要塞という変態的なコンセプトを付与する狂人の発想。あらゆるメカフレームが耐えきれぬプランのためお蔵入り寸前だったこの企画は、ボルメテウスの強靱な肉体という変数にて解を出す。

 

『ぐぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!』

 

高機動で縦横無尽に動き回るボルメテウスから全方位の砲撃に晒されるボルバルザーク。どっしりと構えねば主砲も副砲も反動で吹き飛ぶところを、通常ならバラバラになる程のバーニア、スラスター、ブースターの推力にて強引に相殺。彼の火力を無反動、かつ連射かつクリアリングを容易化させる。

 

『主砲用意!!ボルバルザークさん、これが僕の夢とあなたの友の力です!!』

 

『私もすこぶる、驚いているがな!』

 

ボルメテウスの白熱主砲。カルデアの炉心とほぼ同等のエンジン規格を全て注ぎ込んだ狂気の沙汰により、ボルメテウスの主砲チャージは5秒に満たなくなった。ボルバルザークは天より地面に叩き落される。

 

『夢と、力──!虹の文明の在り方か!!ぬぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!』

 

かの主砲を受け切り、なおかつ原型を留め行くのは彼のみにしか出来ぬことだが、それでもダメージはかつてないほどに甚大だ。最早生物が生きていてはならない程の傷を受けながらも、彼は止まらない。

 

『ぐははははははははははァ!!素晴らしい、素晴らしいぞ虹の文明よ!よくぞ我が朋友に新たな力を!新たな未来を見出したァ!!』

『ボルバルザークゥゥウウッ!!』

 

鈴鹿とアテルイを背に乗せ、伊吹童子の援護を受け、一斉攻撃を受けながらもボルバルザークはボルシャックの黒き刀と打ち合う。そこには最早、礼賛と歓喜に打ち震える一つの闘争の化身があった。

 

『生き生きとしているなァボルシャック!そうだとも、闘争とはこういったものでなくてはならん!認め合い、高め合い、己を磨き研ぎ澄ます!そういった果ての勝利にこそ意味がある!』

 

ボルバルザークの拳が、ボルシャックの鎧を砕く。

 

『ぐあっ!!──らぁっ!!』

 

ボルシャックの刃が、ボルバルザークの翼を叩き切る。

 

『闘争の果てに見出したもの、それは虚無であり悔恨であり滅亡であった!それを俺様は良しとしたが!貴様らは違ったなァ!!』

 

ボルバルザークの刃が、ボルシャックの身体を抉る。

 

『当たり前だ…!今なら解る!根絶し、絶滅!いくら憎かろうが、他人を排斥しちゃならねぇんだ!』

 

『そうか、貴様らは繋がりを求めていたのだな!闘争の果てに求めたものは凱歌!平穏!繁栄!そういったものか!ぐははははははははは解ったぞ!得心したぞ!!』

 

ボルシャックの拳が、ボルバルザークの頬にねじ込まれる。マウントのまま殴られるボルバルザーク。彼は限界だった。彼の闘志と魂には誰も付いてこられない。自身の肉体すらも。

 

『どうやら自身を王と自称したのは間違いではなかったらしい!貴様らは滅びを疎み、停滞を悔やんだのだな!!あぁ──友の機微に目を背けていた愚昧であったわ!ぐははははははははは!』

『ボルバルザーク、お前…!!』

 

『なぁに、薄々気付いてはいたのさ!滅亡で熟成させた勝利の美酒!思いの外美味では無かったのだからなァ!!』

 

ボルバルザークがボルシャックの首筋に噛み付く。闘志と覇気は微塵も翳りを見せない。

 

『があぁぁあっ!!』

『素晴らしいぞ、もっとだ!俺はこうしたかった!闘争の果て、俺は次なる戦いに身を投じたかった!!永劫の戦いこそ俺の望み!!』

 

『て、めぇ…!』

『ならばこそ!俺は理解するべきだったのだ!滅亡を是としてはならぬ──平穏なる世を招き!貴様らと高め合う未来こそが俺様の真の願いであったのだと!!』

 

『ぬぅうぉおぉおぉお……!!』

 

ボルバルザークの気迫は凄まじく、ボルシャックの首を噛みちぎらんばかりに食らいつく。それを離そうとして──

 

『虹の文明よ!!まだだ、まだ俺様は戦えるぞ!いや、戦わせてくれ!!これこそが俺様の求めたもの!未来のために、明日のために戦うことこそが──!』

 

──ボルバルザークの身体が、地に伏せる。まるで、全ての魔法が切れたかのように。

 

『ボルバルザーク、お前……』

 

ボルシャックが歩み寄る。ボルバルザークの能力──それは最大の力を発揮させる時間の終わりに、全てをゼロにしてしまう反動があったのだ。

 

『…ぐはははは…我が肉体、なんと脆弱な事か。この程度のダメージで、最早身体が動かぬとは…』

 

カドックたちの攻撃、三体の攻撃、伊吹童子や鈴鹿、アテルイの援護。それら全てを間断なく叩き込まれ、ダメージを全て残していた。だが、微塵も彼はそれらを回復しなかった。全てを戦いに費やし、歓喜し、そしてそれらを刻みつけた。

 

『オレはあの戦いにおいて、傷一つ負わなかった。ただ力を振るい、叩き潰すアレは…ただの弱者の蹂躙だ。今の闘争を味わった今ならばわかる。アレは、闘争などではなかったのだ』

 

彼は、闘争を求めた。力と戦闘を求めながら、かの世界でただの一度も闘争が出来なかったが故に。

 

『その蹂躙で、行き着くところまで行ってしまった。オレはそれを納得したが…お前たちの望むものは理解していなかったな』

 

彼は、ようやく手にしたのだ。純粋かつ対等な戦い。闘争…その真髄を。

 

『ボルバルザーク…』

 

『見事だ、ボルシャック。ボルメテウス、バザガジール。虹の文明の力、しかと見たぞ!』

 

ボルバルザークは立ち上がる。彼が望むは、介錯だ。

 

『満足だ!さぁ、やれ!!オレの首、成果として捧げろ!!さすれば試煉は終わりだ、貴様らの勝ちだ!』

 

『はぁ!?』

 

『オレは戦いしかできん。発展には邪魔なものだ!さぁ、また滅びを齎すものは消すがいい!!』

 

ボルバルザークは望む。虹の文明に自身の苛烈さは不要と考えたのだ。

 

「──それは違うよ、ボルバルザーク」

 

それに異を唱えるは…彼等が虹の文明と呼ぶ文明が生んだ、漆黒を司る色の少女だった。

 

 




ボルバルザーク『貴様、バロム!?しかし、そのマナは確かに…』

リッカ「ボルバルザーク。あなたをカルデアで受け入れたい。四人で一緒に、未来のために戦ってほしい」

ボルバルザーク『貴様…』

「この世界に、受け入れられないものなんてない。それは私が保証するよ」

ボルバルザーク(こやつの覇気、邪気、そして闘気…バロムにアルカディアスを感じさせるもの。何故このような混沌に…)

伊吹童子『そうそう。天や地が許さなくてもお姉さんが許しちゃう!アタシ達がその欲求不満、受け止めちゃうわよ?』

リッカ「それにあなたはカムイの黄金を使わなかった。もう一度使ったら、きっと私達は負けていた。カムイの黄金ならそれができた」

ボルバルザーク『…!』

リッカ「それは手加減でも、負けの言い訳でもない。あなたは…ボルシャックや皆を喪うのが嫌だったんじゃないのかな?」

ボルバルザーク『…ぬぅ…』

リッカ「ボルバル、大好きでしょ!皆のこと!」

ボルシャック『なんだかんだで全肯定しかしてねぇもんなぁ』
ボルメテウス『裏切り者と詰らず、惰弱と嘲らず。求めたのは虹の文明を守る強さを示すことであったからな』
バザガジール『コミュ障だな貴様』

ボルバルザーク『ぐ、ぐぐぐぐ…』

リッカ「もし良かったら、データを振り返ってボルバルザークの本心を振り返って皆に聞い」

ボルバルザーク『オレの負けだーーーーー!!!』

武力や戦いでは挫けぬ。ならば本心を暴く。世界に誰より仇なす悪を宿す少女の前に、ボルバルザークは敗北を認めるのであった…──

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