ベルゼブブ【どうやら初戦はグランドマスターズが挑むようです。初手の全滅は避けられたかと】
サタン【うんうん!流石聡明な皆だね!ボルバルザークをよく警戒してる!】
ベルゼブブ【何故です?】
サタン【?】
ベルゼブブ【何故、彼等に世界を救えと?】
サタン【決まってるじゃないか。『それが一番、彼等が強くなるから』だよ!】
ベルゼブブ【…………なるほど】
〜
カドック『リッカ、初戦は僕らが行く。君はタイミングを見極めていてくれ。ボルバルザークの効果が、どんな形で再現されているのか未知数だ。君という切り札はすぐに出しちゃいけない』
リッカ『カドック…』
カドック『君に必ず、僕らが繋げる。──信じてくれ。僕らが君を、信じているように』
リッカ『──死なないでね!』
『おぉおおぉおぉおぉおッ!!!!』
殿堂王、ボルバルザークの咆哮が展開された固有結界を震撼させる。ボルシャックらより一回りも大きく、威風と迫力、殺気と闘志を充溢させた闘神の如き威圧と威風が、戦いに赴く全てに暴力的なまでに叩きつけられる。
「全マスターに通達だ!ボルバルザークは情報によれば、数段の作戦を行わなくてはならない!逸ってトドメをさそうだなんて考えて無茶だけはしないように!絶対にしっぺ返しを食うぞ!」
カドックらサブマスターは勿論の事総動員される。戦い、戦闘力という点では誰よりも優れるとされるボルバルザーク、まさにそれは総力戦といった風体を見せているのだ。
(僕達の手で、なんとしてでも勝利の可能性を手繰り寄せる。試煉があるというのならやるべきことはそれだ!)
ボルバルザークについて伝えられた情報…それが確かなら、確実に自分達の奮闘は不可欠となる。カドックはそれを果たすための使命感に燃えていた。誰か一人が強いだけでは絶対に倒せない。それが、ボルバルザークという殿堂王…ガーディアンドラゴンの全容なのだから。
『さぁ行くぞ好敵手達よ!!俺様の心を満たすまで、無様な屍を晒してくれるなァ!!』
遂に動き出したボルバルザーク。その戦いにおける戦闘力、戦闘規模。それは──あらゆる計算、推測、楽観的にして希望を粉々に打ち砕くほどの多様にしてスケールから齎される、言わば【絶望】そのものであった。
『上空より超高エネルギー反応が無数に発生!!』
それはボルバルザークが生成したマナの超圧縮体…即ちエネルギー隕石であり、地上に降り注ぐ竜の怒りか神罰とも称されるべき天変地異の具現。間断なく降り注ぐ破滅の嵐。カドックらを襲う殿堂王の洗礼だ。
「散開だ!皆、絶対に当たるな!」
カドックらマスターはサーヴァントの力を借り、一斉に隕石の回避に専心する。地上の疾走、天の飛行。それぞれに活路を見出す為の行動だ。
『逃げろ逃げろ!逃げることは恥ではない。勝利のための遁走ならば許容しよう!果たして貴様らはどちらかなァ!!』
その規格外の戦闘力はそんなもので収まるはずもなく、ボルバルザークはさらなる規格外な戦略を見せつける。
『逆巻け嵐よ!沸き立て大地の怒りよ!寿げ、この戦いの祭事を!先行く世界の行く末が、この一戦にて示されるのだァ!!』
右腕の得物を振り回せば竜巻と迅雷が辺りに撒き散らされ、左手の得物を叩き付ければ地面が砕け、溶岩が吹き出す。縦横無尽にもたらされる破滅と暴力の嵐が、カドックらサブマスター達の反撃や反攻の余地を赦さぬとばかりに荒れ狂い続ける。
『なんなのよ、こいつ!やることなすこと天災じゃない!生きる厄災なんて忌々しい!』
『固有結界は別段彼に何かをもたらしている訳ではないとシグルドが解析してくれたわ。この空間はただ、彼が思い切り暴れるためだけのもの…!』
『これを見れば納得ね。そもそもコレを無しに挑んだ他の文明の皆様に同情しちゃうわ。戦闘というか、戦略兵器クラスだもの』
現代兵器に準えれば、これは最早戦闘などという次元にいない。世界を砕き、文明を滅ぼす。恐らく彼が水や自然文明を滅殺したという評価は何一つ間違ってはいないだろう。目の前に広がる終末的光景を見れば、それは一目瞭然だ。
『どうする、カドック?ここは倒せるのならば一気に倒すべき相手と見た。ゼウスの雷霆、いつでも放てるからね』
『一先ず後詰めもいるんだ、試せることはなんでも試すべきだと思うがね』
『焦るな、キリシュタリア、ベリル。ボルバルザークの想定されし能力を思えば、俺達がするべきは勝利ではない』
デイビッドの言う通り、汎人類史に伝わるボルバルザークの能力がどのように作用するのかを鑑みれば、それは本命が動けるうちになんとしても消費せねばならないものだ。自分たちのなすべきことは、ボルバルザークになんとしてでもそのカードを切らせる事だ。
「各員は攻撃を掻い潜り全力を叩き込め!後の事なんて考えなくていい、僕達は全身全霊をここに込めるんだ!」
カドックの指示に従うサブマスターの全員がボルバルザークに突き刺さる。アタランテの弓を皮切りに、シグルドの絶技や項羽の疾走、アシュヴァッターマンの輪やカイニスの飛翔。巨大なフェンリルやエクスカリバーといった全てがルーンの加護を受け放たれる。霊亀でコストを踏み倒されたそれは、ボルバルザークに過たず全てが突き刺さる。
「どうだ…!」
サブマスター達の全身全霊の一撃。グランドマスターズを彩る皆の一斉攻撃は、カドックに確かな手応えを感じさせる。
だが─────。
『ぐはははははははははァ!!流石は虹の文明よ。その強さ、強靭さ!絆、覇気、闘志!!極上のものと言ってやろう!!』
ボルバルザークは健在であった。全く効いていない訳ではない。中には竜殺しという最大の効力を発揮する一撃すらあった、しかし彼はそれら全てを受けてなお笑っていた。いや、むしろそれらを全てをあえて受けたのだ。
『一方的な殺戮、蹂躙では双方に未来が無くなるのは俺様らの次元の末路を見れば一目瞭然よ。世界の道行きを決める戦い、二度も三度も道に迷っては愚昧の誹りを逃れられまい!これを貴様らの時空の言葉では…リスペクト、というのだろう?』
「宝具の一斉展開を、わざわざ受けたっていうのか…!」
『気に病むなカルデアのマスター共よ。貴様らの攻撃は素晴らしかった。俺様以外の生命ならば間違いなく死に絶えていた。そう確信できるほどにな』
確かにボルバルザークの身体の鎧は吹き飛び、ひしゃげた部分が数多く見られる。それはそのダメージを消費しきれなかった証でもあり、確かな功績の証左であった。
『受けた傷は勲章として残そう。だが倒しきれなかった時点で、貴様らに俺様と戦う資格はない』
「化け物め…!」
『ならば捧げてもらうぞ。その覇気、その闘志!!俺様を更なる戦場へと導くがいい!!異界の好敵手よ!!!』
瞬間、ボルバルザークは固有結界内の全てに向けてその力を開放する。彼を殿堂王たらしめる所以、無限の闘神たらしめる力の発揮。
「ぐっ…う…ぁ…!」
カドックの身体を襲う猛烈な虚脱感。身体中の魔術回路から、魔力や精気がみるみるうちに吸われていく。
「マスター!っ、く…おの、れ…!」
サーヴァントであるアタランテからも急激に魔力が失われ、カルデアの安全措置である強制帰還が発揮される。ボルバルザークの恐れられていた特殊能力。それは敵対者から全てを吸い上げ、己の力とする超吸収能力。如何なる強者も、覇者も、ボルバルザークという絶対者の前に膝を折る。彼が無双かつ絶対的である所以。己の覇気を瞬時に取り戻す能力であった。
『ぐははははははははは!!誇るがいい者共よ!これを使うは強者への畏敬の証明!大抵はこれを使わず消し飛ぶが大半!水も自然もこれを使うには至らなかったのだからな!流石は虹の文明よ!!見事なり!!』
「く、そ……」
マスター達が深刻な魔力不足にて倒れていく。霊亀の魔力生成すら上回る覇気の徴収。抵抗は許されない、再び彼の時間がやってくる。
『さぁどうした!ここまでか!これで終いなのか!?えぇ、虹の文明共よ!!』
「…………っ」
『その程度というのであれば…一思いに潰すまで!!さらばだァ!!』
振り上げる武装。全回復を行い叩きつけられる再びの全身全霊。しかし──
「そんなわけ、あるか…」
カドックはこの状況を見据えていた。ボルバルザークの能力を見据えて戦いの場面を組み立てていた。
「──オーダー、チェンジ…!」
たとえ生命的に限界でも、紡がれた技術と科学は無にできない。カドックは確かなる、次への布石を打つ──!
ボルシャック『うぉおぉおぉおぉおぉおッ!!』
ボルバルザーク『ぬうっ!?』
ボルメテウス『ここまでの筈がなかろう!』
バザカジール『早計に過ぎるぞ、ボルバルザーク!』
カドックにより呼び出されたのは、三体のドラゴン。共に戦うと誓った、虹の文明のドラゴン達。
カドック「第二波、だ…バトンタッチ、させてもらう…」
強制退去にて下がるカドック。焼けた固有結界に、かつての仲間達が向かい合う。
ボルバルザーク『因果なものだな同胞たちよ。こうして互いに向かい合うのは珍しくもないが、今や敵として睨み合う間柄!』
バザカジール『貴様に挑まれれば、戦う術無きものは滅びるだろう。虹の文明の弱者のため、貴様を討つ』
ボルメテウス『貴様の能力、そう何度も使えまい。カドック達の奮闘にて切り札を切らされたな』
ボルバルザーク『だから何だ?不利になったからなんだと言うのだ!俺様が戦える以上、全ての情勢など容易くひっくり返る些事に過ぎぬわ!』
ボルシャック『こうしてみると、テメェは俺の次に外に出しちゃいけねぇ野郎だ。なんとしても止めさせてもらうぜ、ボルバルザーク!!』
ボルバルザーク『いいだろう!!立ちはだかるがいい者共よ!!覇者は二人も要らぬ、勝った歴史が前に進めば良いのだァ!!』
二つの文明に分かたれたかつての仲間達。殿堂王たる破滅の化身に、三体の竜が次なる挑戦を仕掛ける!
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